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文献名1大地の母
文献名2第10巻「九尾の狐」
文献名3国祖御隠退
著者出口和明
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
OBC B138910c08
本文の文字数14121
本文のヒット件数全 7 件/稚姫君命=7
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本文 「さてと……乱れに乱れた三界をどうかして持ち直そうと、国祖大神は肝胆を砕かれた末、妻神・豊雲野尊と天道別命に相談され、『天地の律法』を制定しやはった。律法は、内面的には『省みよ』・『恥じよ』・『悔いよ』・『畏れよ』・『覚れよ』の五戒律や。
 けどこれだけでは、人の良心を呼びさますことはでけなんだ。そこでさらに、細密に具体化され厳格化された外面的律法が制定された。それは、当時の混沌たる情勢上やむをえなんだのや。
 つまり、第一に夫婦の道を厳守し、一夫一婦たるべきこと、第二に神を敬い、長上を尊み、広く万物を愛すること、第三に互いに妬み、誹り、偽り、盗み、殺しなどの悪行を厳禁すること……この三つや」
「それにしても、今日の法律に比べて簡単なもんですなあ」と、湯浅が言えば、梅田は、「なんぼ簡単かて、わてにはとうてい守れそうにはおへんわ」と苦笑する。
「この律法をまず地の高天原から型として実行し、天下万神に伝示し、固く遵奉させることになってのう。龍宮城に入って暴威をほしいままにしていた常世姫一派もさすがにこの律法の前には歯が立たず、エルサレムを去っていった。金毛九尾・八頭八尾ら邪神一派は鳴りをひそめ、ようやく地の高天原は規律を取り戻すに至った。
 国祖の息吹によって生まれた神聖の司の稚姫君命は愁眉を開いて荘重なる神楽を奏上、天地の祭りごとを盛んにして、諸神は太平の夢に酔った」
「……」
稚姫君命には、夫神・天稚彦との間に三男五女の御子があった。おりしも、天稚彦は常世姫一派の奸策に欺かれて、ある女神の色香に迷い、城を出たまま長く戻られなんだ。その留守中、稚姫君命は、舞曲にあわせて美しく舞い踊る若い男神に、はしなくも魂を奪われなさる。まさに魔風恋風じゃ」
「わてかて芸者の舞いに魂を奪われたもんどすが、まさか稚姫君命さまが……」と、梅田は撫然として呟く。
「そやから遊芸は恐ろしい。貞淑高潔、地上の神政のみか天上の司ともなろう方、やがては天より高く咲く花と謳われた稚姫君命はここに夫婦の道を誤られ、自ら厳正なる天地の律法の犠牲になられ、ご夫婦の二神ともども幽界に落ちて行かれたのや。
 これより稚姫君命は三千年の長きにわたって地獄の釜の焦げ起こし、生き代わり死に代わりして律法を犯した罪を償わんと、あらゆる苦しみをなめられることになる」
「それがお筆先にある教祖さまの御因縁……」
 問い詰める二人の目に、王仁三郎は深くうなずいた。
「天の御三体の大神さまのお許しをいただいて、国祖は律法を天上地上に公布された。それを伝える管掌の神として、十六神将を天使に任ぜられた。邪神たちは、手を変え品を変え、あらゆる策を講じて正神たちを挑発した。けど正神たちは愛の心を持って忍耐に忍耐を重ね、抵抗を続ける。
 図に乗った常世彦命らの魔軍は天をおおって攻め寄せ、龍宮城を目がけて火弾毒弾を投下した。国祖は厳として武力の使用を許し給わず、『忍耐を胸に、至誠一貫敵を言向けやわせ』と命じられるのみや。進退極まった天使・神将はついに破邪顕正の剣を抜き放った。
 戦い終わり魔軍は壊滅したが、邪神たちは己の悪行は省みず、『殺すなかれ』の律法を大八洲彦命が無視したと、国祖に命の処罰を強要したのや。国祖は涙をのまれて、律法を破った天使長・大八洲彦命らの追放を命じられた」
「そらなんぼなんでも大八洲彦命がお気の毒でっせ」と、梅田が慨嘆する。
「けど、処分しなはった国祖のお気持ちの方がもっとお辛かったやろ。そうまでしても、国祖は律法を守ろうとされたんや。
 邪神系の暴動は続いて、ついに天使長及び天使を更迭すること数回に及んだ。
 神々は会議を開いて、律法の精神にのっとり、言霊の力によって身にまとうすべての武器を撤廃した……わかるか」
「神々の身にまとうた武器いうたら……剣や矛どっしゃろ」と梅田が言う。
「そんなもん捨てたらよいだけじゃ。神代における武装撤廃いうたら、凄じいもんやった。生まれながらに付着しとる武装を、ばりばりとはがしていったんやからのう。龍神は自らの鋭い牙を抜き取り、角を折り、太刀膚の鱗をはがして、今の蛇に近い姿になった。眷属神といえども、翼を除り、鋭い爪・針毛を抜き、無防備のからだとなってまで暴力を否定したんやぞ。
 さすがの常世彦命も、一時は国祖の至仁至愛の御心に打たれて悔悟し、地上霊界は平和に治まったのや。しかし神々人々の体主霊従・力主体霊の邪気は時とともにひろがり、またしても悪狐・悪龍・悪鬼どものほしいままに荒れていった。彼らには律法の厳しさが我慢ならん。その律法を守って毫も屈せぬ国祖が邪魔でならんのや。
 彼らは一致して天上の大神に国祖の非を鳴らし、直訴した。確かに国祖はあまりに厳格剛直に過ぎたため、混沌時代の主宰神としては少しばかり不適任であったかもしれんのう」
「……」
「悪霊の容器となった八百万の神々の激しい不平不満は、天の御三体の大神といえども、制止しきれなくなった。ついに御三体の大神は、地上神界の情勢やむをえずとして、万神の請願を聴許され、国祖に向かって、少しく緩和的神政を行なうよう説得された。妻神・豊雲野尊も『時代の趨勢に順応する神政を』と、涙ながらに諌言し尽くされた。
 それでも至誠・至直・至厳・至高なる国祖は、律法は重大だから軽々に改変すべきやないとして、お聞き入れにならなんだ。万神はこぞって国祖御隠退を唱え、温和な盤古大神を奉ぜんことを直訴し続けた」
「……」
「天の大神はついに神策尽き給い、国祖に『聖地を退去して根の国に下れ』と以心伝心的に伝えられた。
 国祖・国常立大神は、元はといえば天地未分陰陽未剖の太初より、数十億年の愛と耐苦を経て一切を生成化育され、この宇宙を顕現された親神さまじゃ。今は大地霊界の総守護神として地に下られたとはいえ、日月の天の大神を生まれたのも、このお方をおいて他にはないのや。
 国祖は御三体の大神の御心情を深く察せられ、千座の置戸を負うて根底の国へ落ちて行く決意をなされた。そこで、妻神の身に類を及ぼさぬよう、きっぱりと夫婦の道を絶たれる。
『われは元来頑冥不霊にして時勢を解さず、ために地上の神界をしてこのように常闇の世と化せしめたのは、全く我が罪』と天界に詫びごとを奏上なさる。天の大神は、千万無量の悲嘆を隠してそれを聞き入れられ、『一陽来復の時を待って、元の地上神界の主権神に任ずる時が来よう。その時は我もまた天より下って、貴神の神業を補佐しよう』と、暗黙のうちに約束しなはった」
「……」
「悪盛んにして天に勝つとは、このことじゃ。ここに国祖は神議りに議られ、暴悪なる邪神どもに髪を抜かれ、手足を切られ、骨を断たれ、筋を千切られ、よってたかって残酷なる処刑も甘んじて受けられた。
 しかしいかに悪逆なる邪念を凝らしてみても、国祖の威霊まで滅ぼし去ることはできん。元の霊身に立ち返られた国祖は、ひとりエルサレムを立ち去って行かれる。その背に、神々は煎豆をぶつけて叫んだ。『煎豆に花が咲くまで、この世に入るべからず』とのう……」
「煎豆に花が咲くまで……」
 梅田は絶句した。王仁三郎は思わずしゃくりあげ、
「そうや。『煎豆にも花が咲く時節が参りて……』と筆先にもあるやろ。分かるか、分かるか」
 梅田は大きくうなずき、見張った目からぽろりと涙をこぼした。
 気をとり直して、王仁三郎は続ける。
「国祖御隠退が節分の日や。天の大神は、大地の火球の世界へ落ちて行かれる国祖の精霊の一部を聖地エルサレムの東北・七五三垣の秀妻国(日本列島)に止めさせ給うた。神々は、国祖の威霊の再び出現されることを恐れて、七五三縄を張り巡らした。
 豊雲野尊は、離縁されし身とはいえ、夫神の悲惨なる境遇を座視するに忍びず、自ら聖地の西南なる島に隠れて夫神に殉じなはった。
 天地の律法を国祖とともに守った正しい天使たちは、神々に弾劾されてそれぞれ世に落ち、長い星霜を放浪う身となられる。
 邪神たちは艮の金神・坤の金神、つまりは鬼門・裏鬼門の悪神、祟り神と広く喧伝して、今の世に至るまでこの世の親神さまを忌み嫌わせたんや」
「わしらは……ついこないだまで節分になると豆を……何も知らんとはいえ、子供らと一緒にぶっつけとった。鬼は外、福は内いうてなあ」と、湯浅が悔しげに唇を噛む。
「それだけやないぞ、日本人民のしてきたことは……今日までの日本の神事・仏事・五節の祭礼と言うのは、すべて艮の金神の調伏の儀式や。古伝には、『午頭天王が巨旦大王を滅ぼす』とあるじゃろ。巨旦大王とは艮の金神のことじゃ。つまり金毛九尾系の邪神どもが国祖を陥れたいわれや」
「……」
「いま言うたのは午の頭の午頭天王やが、牛の頭の牛頭天王は、素盞嗚尊のことや。つまり牛と馬との違いじゃ。
 素盞嗚尊が天下られたという朝鮮の山の名をソシモリというが、朝鮮語でソシは牛、モリは頭のことや。午の頭の午頭天王は邪神系の方で、素盞嗚尊の名を僣称して、わざとまぎらわしい名をつけた。だから、その午頭天王を素盞嗚尊とするのは、平田篤胤もいうとるように、吉備真備の大きな誤りじゃ」
「邪神の企みは、あくまで巧妙ですなあ」と湯浅が感嘆する。
「そうや。その結果、わしらがやってきたことはどうじゃ。
 正月元旦の紅白の鏡餅は巨旦が骨肉、竹を削いだ門松は巨旦の墓標、三月三日の蓬莱の草餅は巨旦の皮膚、五月五日の菖蒲のちまきは巨旦の鬢髪、七月七日の小麦の素麺は巨旦の筋、九月九日の黄菊の酒は巨旦の血潮や。また鞠は巨旦の頭、弓の的は巨旦の目や。
 節分の儀式にも、『巨旦の鬼の目つき』というて柊の針を戸や壁に差しかざし、巨旦の頭を梟すべく鰯の頭を串刺しにして門戸に刺し、『鬼の目つき』といって煎豆を年男に撒かせ、『鬼は外、煎豆に花が咲くまで入るべからず』と叫ばせたのや。
 知らずとはいえ、こうして日本の人民は上下こぞって国祖を調伏させられてきた。どうあっても国祖の身魂を滅亡させ、地上に再現させたくない……何と根強くも徹底した奴らの仕組みやろ」
「恐ろしい相手どすなあ」
 湯浅の実感こもる呟きに、しばらく三人は押し黙った。
 急に梅田は筆先の一説を暗唱する。
「……『煎り豆が生えたら出してあげると申して、三千年余りて押し込められておりたなれど、この神を世に出すことはせんつもりで、叩き潰して、はらわたは正月の雑煮にいたし、骨は二十日正月に焼いて食われ、体の筋は盆に素麺に例えて茹でて食われたぞよ。そうしられてもこたえんこの方、化けて世界を守護しておりたぞよ』……それからこんなお筆先もおましたなあ。『正月の三箇日の雑煮の名をかえさすぞよ。この艮の金神を鬼神といたして、鬼は内へ入れんと申して、十四日のどんどにも、鬼の目はじきと申して、竹を割りて家のぐるりに立ててあろうがな』……」
「そして神さんはこう言いなはる。『艮の金神は悪神でありたか善の神でありたか、明白にわかりて来るぞよ。今のうちは世間から力一杯悪くいわしておくぞよ。艮の金神の道は、今の悪のやり方いたす人民からは悪く申すが、もうしばらくの間であるぞよ。悪く言われな、この大もうはとうてい成就いたさんから、悪く言われるほど、この大本はよくなりて来るぞよ』……」と王仁三郎は言い、ほっと吐息をつく。
「思わず喋りすぎてしもた。いや、喋りついでに、もう少し後を語っとくかのう」
 王仁三郎は数十年胸に抱き続けてきた思いを、今は二人の弟子の前に吐きだしてしまいたかった。
「多年の宿願成就して、常世彦命は天の大神をいただき、盤古大神を奉じて地上霊界の神政を握った。国祖をはじめ堅苦しい律法をかざす天使など、もう一人も居らん。ただ少々煙たいのは、エルサレムの奥殿にまします盤古大神お一人や。
 常世彦命一世は国祖御隠退前に没していたさけ、この時は二世や。八王大神の称号を勝ちとって奢りきっていた。彼は盤古大神の温厚な神格が苦手で、エデンの園に宮殿を造り、そこに転居を乞うた。盤古大神は何ごとも見ざる聞かざる言わざるの三猿主義をとられ、そこに移っていかれた。
 地の高天原の御神霊は同殿同床をさけ、申し訳に小さな宮をカンラン山の頂きに建ててお移し申し、年に一度お祭りするにとどめた。神殿は風雨にさらされて荒廃するに任せ、屋根は雨が漏り、くもの巣ははびこって、ついに野鼠の住処と化した。
 聖地がこれやさけ、各国の八王八頭も神習って宮殿から国魂を分離し、形ばかりの宮を造って祭祀の道を怠った」
「なんと畏れ多い」と、梅田が嘆く。
「時とともに地上霊界の乱れは現界に移って、天地の神を信じ己れを省みる心は失せはて、律法は遠く忘れ去られてしもた。国祖大神の威霊の抜け出た天地六合は、大変調を来した。春の花は秋に咲き、夏は雪降り、冬蒸し暑く、妖気は天を鎖して、次第に日月の光は曇っていく。
 エルサレムの龍宮城は八王大神夫妻が住んで遊楽場と化し、おぼろ月夜みたいな大地の有様も苦にせず遊び狂った。
 ついにエルサレム・エデンの城はともに鳴動爆発し、大火災になった。盤古大神や八王大神夫妻らは、アーメニヤの野に向かって逃げた。彼らは大蛇・悪狐の邪神の容器となりはてて、ここにアーメニヤの神都を開くのや」
「……」
「ところが、国祖御隠退に際して協力しあった仲の大自在天一派は、この機を逃さなんだ。天下の神政統一を旗印にまず常世城を占領、盤古大神一派に無名の戦端を切った。この反逆を激怒したアーメニヤ側は、常世城討伐を期して、各山各地の八王八頭を招集した。大自在天神も同じ力を持って招集令を発したので、天下は二分し、おのおのその去就に迷わされた。
 内乱衝突は各地に拡がって深刻になった。もはや頼むに足る権威すらない。混乱に乗じて、大蛇・悪狐・邪鬼の邪神たちは、時こそ至れりと暴威をふるった」
「……」
「かなわぬ時の神頼み、今更のように国祖大神の威霊を慕って神殿に伏し祈願を捧げる人々さえ現われた。地上神界・現界のこの有様は、隠身となられた国常立大神の御神霊に響かぬわけはない。国祖の数十億年の忍苦の結果に成った地界は汚濁し、邪悪な気魂は宇宙の霊気を汚し、毒素は刻々と増してくるのや」
「……」
「このままでは天足彦・胞場姫の体主霊従の気を受け継いだ地上人類は殺し合いによらずとも、自ら滅亡する他はない。大神は耐えに耐えた吐息を内にこらえ、涙を体内にのまれた。泣くに泣かれぬと言うのは、このことやで。
 大神の御煩慮の息は大彗星を生み、ガス体を放ち、吐息は嵐を起こし、落涙は強雨にも相当して地上を洗わずにはすまんのや。今にして堪忍の緒を切ったら、体内に積みふさがった悲憤の思いがどれだけの力を爆発させるか、御自身にはわかる。
 恋し恋しと松世は来いで、末法の世が来て門に立つ……」
 艮の金神のお筆先の一説が、今さらに二人の胸に沁みわたった。
「地に落ちて蔭ながらこの世を守ってはった艮・坤二柱の大神は、地上を立替え立直す時が来たのを悟られ、ひそかに救いの道を開かれたんや。
 根底の国へ落ちていた天使たちは、国祖の神命を受けて予言者となり、神の教えと警告を予言にことよせて世界各地に広めて行った。けれど利己一辺に傾き荒みきった人々は、流浪神の予言警告などに耳をかすもんかい。ごくわずかの者だけが……。
 その中でもさすがに盤古大神は、言触神の一言で世の終わりを悟りなはった。礼を尽くしてその教えを聞き、改心して新しく神殿を造り、日月地の神を鎮祭した。
 それに反して、八王大神は言触神を牢に投じ、『飲めよ、騒げよ、一寸先は闇よ』と自棄的に踊り狂い、予言警告を無視した。その上、相容れざる盤古大神を、暗夜に乗じて攻め滅ぼそうとするのや。
 盤古大神は無抵抗主義をとり、言触神とともに辛うじて聖地エルサレムに逃れた。かつての神政の都エルサレムは崩壊し、すすき野に帰していた」
「……」
「天変地妖は各地に続発し、予言を信じた神々たちは、エルサレムに集まってくる。八王大神の野望はとどまる所を知らず、盤古大神を偽証して、ついに魔軍を率い、海を渡って大自在天神を攻めた。偽盤古大神と見破った大自在天神一派は、迎え撃って猛烈な戦端を開いた。地上は真二つに割れて惨憺たる修羅場と化した。
 国常立大神は再び地上の修理固成を期せられて、耐えに耐えられた大声を発し、地団太を踏まれた」
「とうとう……」
 湯浅がこぶしを握りしめ、ぐいと鼻柱をこすり上げれば、梅田も涙ぐむ。
「そうや。絶望と怒りと悲しみと……大地は揺れ、一度に地震の神、荒れの神が発動した。酷熱の太陽が数カ所一度に現われて氷山を溶かし、海水は刻々と増加する。太陽の光が没したと思うと闇夜が続いて、五百六十七日に渡る長雨となった。
 天は鳴動し、地は裂け、山は崩れ、津波は常世城を没せんばかりに襲いかかる。引き返そうとした魔軍の磐樟船は狂乱の海底にもまれて沈み、天の鳥舟も大気の激震に耐えかねて、次々と墜落して行った。天地神明の怒りの前には、さしも猛威をふるった大蛇・悪狐・邪鬼の魔力も萎えて、ただただいもり・みみずに変化れて逃げまどうばかりや」
「……」
「大洪水は、地上を泥海に返した。水中よりわずかにのぞく高い山の頂きには、いちはやく天災を知った鳥類・獣類が、あるいは数日前からこのことを予知していた蟻の大群が真っ黒に積もっていた。
 泥海の上にはいくつかの神示の方舟が、暴風雨にもまれつつ漂っている。これは一名目無堅間の船というて、銀杏の実を浮かべたように、上下がしっかり樟の板で円く覆われている。わずかに空気穴が開いとるだけや。予言者の神示に従って、心正しい人々が長い日数かけ、牛・馬・羊・鳥など一つがいづつ入れ、草木の種を積み、食物とともに準備していたんや」
「つまりはノアの方舟どすなあ」と、梅田が嘆息した。
「そうや。彼らは第二の人類の祖とも言える」
「それで後は……みんな死に絶えてしもたんどすか」
「地上の蒼生のほとんどは、死に絶えた。形あるものは滅びるのや。けど神さまの見てはるのは、器の肉体の生死よりも本体の霊魂やろ。
 艮・坤二神は世の終末を見るに耐えず、宇宙の本源たる大国常立大神に訴え、天の日月の精霊にすがってこう口説かれた。
『地上のかくまで混濁してかかる大難の出来したるは我ら二神の責任なれば、われらを地上神人はじめ一切万有の贖いとなさしめ給え。願わくば地上人類の罪を許されて、その霊魂を救わせたまえ』……祈り終わられるや、地獄の口を開く天教山の噴火口に身を躍らせて、二神ともども根底の国へ神避られ給うたのや」
「……その慈愛の権化を、悪神やの祟り神やの鬼門の金神やのというとる人間はどうなるんどす。長い間、艮へ押し込めて煎豆をぶつけてきたわてらは?……」
 梅田の激しい嗚咽に、王仁三郎まで巻き込まれて号泣した。
 二人の男の人目も構わぬ泣きように、湯浅は立ったり坐ったり、忙しく鼻をこすり、目をこすり、それをたっつけにまたこすり直している。
「それで、死んだ人間はどうなったんどす」
 まだ呻き泣きいる王仁三郎を揺すって、梅田が焦れる。
「おう、見事に救われたぞ。本当なら根底の国に落ちるべき人類の霊魂が、地上蒼生のすべてとともに、そのまま顕の幽界へ救われたのや。龍宮城から延びて来た金の浮橋から金・銀・銅の霊線が下りて来てのう、東西南北に巡りながら波間に漂う無数の神人を救いあげるのを、現にわしがこの目で見たんや」
「救われたんは肉体ですか、それとも霊魂のことどすか」と、湯浅が念を入れる。
「地上霊界の神々の体は、三次元の物質とは違う希薄な霊身や。いったんは死の世界へ落ちても、救いの御綱によって蘇ることができる。盤古大神や大自在天神は金橋に救われ、極悪非道の八王大神夫婦でさえ見捨てられずに、国祖の慈愛の綱にかけられとった。それでも、蟻の山に降ろされて、全身蟻だらけになっとったぞ。甘い汁を吸うて肥え太った御霊やさけ、蟻もたかるわい」
「国祖の御霊は死なはらしまへんやろなあ」
「死なはるもんけい。どんな地獄の烈火といえども至仁至愛、まこと一つ善一筋の御霊を滅ぼす力はないのや。けど神意に背いて積み重ねた神と人の罪の重さ、それをすべて御一身に背負いなさるのやさけのう」
「……」
 気を取り直して、王仁三郎は早口になった。
「天地の大変動によって、大地の位置はやや西南に傾いた。そのために北極星・北斗星は、地上より見てその位置を変じた。現今のアフリカの一部と南北アメリカの大陸が現出し、太平洋及び日本海が陥没した。
 その時、地球のもっとも強固な部分が龍の形をして取り残されたんや。ここは天地剖判の初めに泥海の中に黄金の円柱が立っていて、おのずからころげたところ。その形は龍体に変じられた大国常立尊のお姿そのままであり、同じ大きさといえる。この島を自転倒島と名づけ、世界の胞衣として立て分けておかれたんじゃ」
「それがこの日本どすか」と、梅田が驚いた声を出す。
「そうや。それまでは今の日本海はなくて、支那も朝鮮も日本と陸続きやった。大国常立尊は『このくらげなす漂える国を修理固成なせ』と宣りて、日月界から伊邪那岐尊・伊邪那美尊を下し給い、天の瓊矛を給う。これが今の北斗星の意味や。この星が月の呼吸を助け、月は地上の水をさかんに吸引した。数年を経て洪水は引き、陸地が現われた。地上の蒼生はいったんは朽ち果てながら、国祖の贖いの力に蘇り、生命が芽吹いてくる。
 自転倒島に天下った那岐那美二神は月の御柱を中に行き巡り合い、美斗能麻具波比……つまりは火と水の息を調節して陰陽合致、万有に活生命を与え給う、国生み・御子生みの神業を始められる」
「ああ、やっとこれから……」
 湯浅が目玉をぐりっとむく。
 王仁三郎は笑い出し、
「そうや、日本の神話というのは、やっとここから始まっとる。だから今までの話は言い置きにも書き置きにもない話と思え。やれやれ、思わぬ長話になってしもた。続きはまたいずれ……」
 梅田が王仁三郎の前に立ち塞がった。
「管長さん、なんでこんな大事な話を今まで隠してはったんどす。十七年間も人に言わんと……早う言うとってくれはったら、艮の金神のご因縁もはっきりして、教祖さまをわかる人かて、お筆先を信じる人かて、もっとあったかもしれまへん」
 王仁三郎は、抗議を込めた梅田の目を静かに見返した。
「それには時期が早い。今言うてしもたんさえ、実は少々後悔しとるぐらいや。口に出したんは初めてやが、むかし書き綴ったことはある」
「それはどこにおます」
「夜寝んと一年がかりで書きためたんを、役員らに寄ってたかって焼き捨てられてもたわい。その前に拾い読んだ者も二、三はあったやろ。今は帰幽したり大本を離れてしもたがのう。もう一度筆を執ろうと思ても、神さまが許して下さらんのや」
「焼いた……」
 呆然とする梅田に、湯浅が言った。
「その話はわしも聞いたで。無茶したもんや。あんまりや」
「教祖さんもわしも、お互いに審神がでけとらなんだのや。役員だけが悪いんやない。その奥には教祖さんの強い意志があった。今と違って、本を読むことも書くこともできず、ずいぶん必死の思いやったぞ」
 苦笑とともに、王仁三郎は腰を上げた。
「待っとくれやす。まだ肝心の話が……悪の仕組みが……」
 梅田が真剣な目を向ければ、湯浅も大きくうなずいた。
「そうやがな、それを聞きに来たんやった。管長はん、金毛九尾らは、大洪水の世の終末にも滅びなんだんでっしゃろか」
 二人の質問に王仁三郎は腰を据え直し、きびしい表情に変わった。
「奴らも残った。滓のようにしがみついて、ともかくも国祖の慈愛のもとに残してもろたんや。さすがの八王大神常世彦命さえ神性を取り戻し、大峠を越えてしばらくは、改心の誠を見せとった。
 けど、神でも人間でもない奴らはそうはいかん。いわば神と人との邪悪の火水の寄せ集めから生まれた奴らには、もともと省みる力、直霊などの持ち合わせがないさけのう。神怒を恐れて縮み上がっていたうちは天下も平安に治まっていたが、われよし、強い者勝ちの心が人間どもからなくならん限りは、いずれ勢いを盛り返してくる。
 しかも奴らは下々の貧しい、力のない者には絶対憑かん。困ったことには、力あるもの、目的を持つものを選んで憑きくさる」
「目的って、何の目的どす」
「野心じゃ。身欲から出た野心……お筆先にも、『目的者は神は使わん』とあるやろ」
 考え考え、梅田が言った。
「金毛九尾が今この時代に日本におったら、何を考えまっしゃろ」
「きまっとるわい。やつらは利口や。型の仕組みを見抜いて、とっくに日本に渡って来とるぞ。
 奴らの目的はただ一つ、世界を握って自由にしたいのや。今は世界は九分まで奴らの思いのまま、だから四つ足獣の世や。けど安心せい。九分九厘で奴らの悪の仕組みはくつがえる。いや、くつがえさなならんのや」
「そのことどすわ。その一厘の仕組み……」
 王仁三郎が遮った。
「お久はんの説なら、ようく審神せいよ。奴らの思惑を見透かす眼力がのうて、どうして三千世界の立替え立直しがでけるかい。
 よいか、悪霊どもが世界を自由にするには、その胞衣であり型代である日本を占領せなならんのや。世界の艮には、奴らの一番恐ろしい国祖の威霊が封じ込めてある。
 ところが天運巡り来て明治二十五年旧正月、艮の金神は稚姫君命の因縁の身魂・出口直に下られ、大本を創られた。ついに煎豆にも花の咲く時節が来たんや。奴らが必死の妨害に来んはずがなかろう。
 金毛九尾だけやない。すでに邪鬼も大蛇も、三邪神系それぞれが眷属を率いて大本に侵入してきとる。奴らはまず血統の身魂に潜り込み、力を得て、何としてでも大本の艮坤二神のお働きを殺したいのや。一度目の立替えの恐怖を体験しとる奴らやさけ、『立替えは二度目が最後、三度目はないぞよ』のお筆先を知って、さぞ慌てるこっちゃろ」
 梅田が不思議そうな顔をした。
「金毛九尾は『艮の金神さんの世になったら今までのように悪ではいかんから改心したい』とお久はんを通して詫びに来とるそうどすで。お筆先を知って、国祖の御威光を恐れてきたんなら、結構なことやおへんか」
「馬鹿な、そんなことで改心する金毛九尾かい。真正直で誠一筋のお久はんやから、そういう甘い言葉でころっとだまされる。よう考えてみい。奴らの本性そのものが、天地剖判以来と言っていい悪のかたまりなんや。もし真実改心して善に立ち返りたいと言うなら、奴らの存在そのものが消え失せねばならんのや。そんななまやさしい期待はでけるけい」
 湯浅が声を低めて言った。
「金毛九尾は『宮中にまで入って悪さしとる』と白状したそうですなあ。もしほんまなら、お久はんの言葉も嘘とばかりは言えまへん」
 まだ半信半疑の二人に王仁三郎はしばし黙したが、ややあって言った。
「お久はんの言葉がすべて嘘やとは言わん。いや、信じさせるためには、金毛九尾の奴、あえて正直な告白もする。下々の人民では知ることのできん真実もさらけ出して、奴らの手のうちを見せる。
 ここだけの話やが、奴らが宮中深く入り込んどるのは確かや。天皇(大正天皇)は、御幼少の頃に脳病を煩われた。その後も御病弱で、いろんな重い病気に冒されておられる」
 うすうすは聞いていたのか、二人は黙ってうなずいた。
「知っての通り、明治天皇の第三皇子、明宮嘉仁親王(後の大正天皇)は明治十二年八月の御誕生、御生母は二位局柳原愛子や。青山御所に入って右側の質素なお局屋敷で生まれられた。そしてその年の暮れ、麹町有楽町(当時の町名)の中山忠能邸へ移られた。ここに明治天皇の御生母であられる一位局中山慶子が居られる。
 公式記録では、明治天皇には愛子の他に葉室光子・橋本夏子・千種任子・園祥子と五人の権典侍……いわばお妃がおられた。皇后からは一人の御子も生まれず、五人の妃からは親王五人、内親王十人が誕生された。そのうち十人までが三才までになくなられとる」
「十五人のうち十人まで……普通やないなあ」と、湯浅が呟く。
「お育ちになったんは、明宮と園祥子の腹から生まれられた内親王四人に過ぎん。園祥子は、毎年のように八人の御子を生んだことになっとる。他にも御子を生んだ女官があって、それを祥子の子にされたとも勘ぐれる」
「天地の律法どこやないなあ」と、湯浅が嘆息する。
「天皇家ばかりやない。上に立つものが世継ぎを得るためには、それが当然とされて来た。明治の宮中に、徳川将軍の大奥制度をそのまま取り入れたと言うから、腹違いの十五人の御子たちにまつわる空気がどんなものであったか。が、それにしても、異常な死亡率と言わねばならん。
 明宮かて普通やなかった。中山慶子は雑司が谷の鬼子母神へ祈願したり、昭憲皇太后の思し召しを受けて、明宮の守護神として、出雲大社の分霊を中山屋敷へ迎え入れたりしておられる」
 人一倍勤王家の梅田が、たまりかねて抗議した。
「そんな阿呆な。明宮は天皇にならはるお方どすで。皇室の守護神であられる伊勢の大神宮が立派にありますやないか。他人の子を食ったちゅう前歴のある鬼子母神や国津神系の出雲神社から守護を受けられるちゅうのは、どうも納得でけまへん」
「これは今に始まったことやない。遠く崇神天皇の時代までさかのぼるのや。崇神天皇の御世に疫病が流行し、人民が多く死んだ。
 天皇が神床におられる夜、大物主神(大国主神の和魂)がお夢に現われ、『是は我が御心ぞ。故、意富多多泥古を以って我が御前を祭らしめ給はば、神の気(疫病)起こらず、国安らかに平ぎなむ』と宣られた。そこで人を派して探らせられ、河内の美奴村に住んでいた意富多多泥古を見出された。素姓を問われると、大物主神の末裔やいうことが知れた。そこで彼を神主として、奈良県桜井の御諸山に大物主神を祭られた。これがわが国最古の大神神社や。それ以後、疫病が流行ると、宮中では祇園の神を祭るしきたりができた」
「……祇園の神いうたら牛頭天王?……」
 聞き返したまま、二人は息を凝らした。
「牛頭か午頭か、正体はもうわかっとるやろ。巨旦大王を滅ぼしてもなお飽きたらずに調伏せしめた神、末代に疫病を流行らせ、わが子孫だけは疫病から守ると誓った利己一辺の午頭……」
「……」
「すでに天皇には神力がなかったんじゃろう。特に御所の女官たちの多くは死霊・悪神・いきすだま・狐などの物の怪に怯え、占いに頼り、呪符を身に着けたり、加持祈祷に凝ったり、源氏物語の世界さながらの陰湿さやそうな。金毛九尾が跳梁する素地は十分や」
 どこで調べたのか王仁三郎の皇室に対する関心の深さに圧倒されて、梅田も反発できなかった。
 気を取り直したように、王仁三郎は続ける。
「お久はんが盛んに親指と小指を出し、四本の指を示す。わしはそこに奇妙な暗合を感じずにはおれん。
 これはお澄から聞いたのやが、明治二十三年にお久はんが初めての子を産んだ。その子の片手が六本指やったそうな。夢中で余分の指を切り落とし、別の手を調べてみたら、親指のない四本指。それが最初のお久はんの神憑りの原因や。続いてお米はんの神憑り、教祖さんの神憑りとなって、大本の開教につながる。
 お久はんが親指と小指や四本指に固執するのは、過去の衝撃的な事件が暗示となっとるのかも知れん。あるいは……これは恐ろしい想像やが、大本の開教二年前にしてすでに金毛九尾が恐ろしい罠を仕掛けとった。血統の御霊のお久はんを落とし、お米はんを手中に落として……」
 王仁三郎は、重く口を閉ざした。長い沈黙があった。
「霊界と現界とは合わせ鏡や。霊界で起こったことは、いずれ必ず現界で起こる。先に見せられるというのも、ほんまに辛いもんやぞ」
 王仁三郎が外へ出ると、湯浅も梅田もむっつり後へ続いた。
 梅田は王仁三郎と肩を並べ、心配げに聞いた。
「お久はんに憑っとる金毛九尾の奴を改心させることは、でけんのどすか。たとえば鎮魂帰神で……」
「そう簡単にいくかい」
 王仁三郎は空を見あげた。凍ったような空に雲が動いていた。
「見い、あの雲はどこから来てどこに行く。宇宙間一物といえども原因なく因縁なくして現われる物はない。けれどその真の原因さえ、容易につかめぬ。ましてあの雲がどのように変化するか、誰一人はっきり言い切ることはでけんやろ。
 お久はんに憑った金毛九尾がどんな手を打ちくさるか……ただわしらは大神にひたすら祈り、誠を持って言向けやわす以外にはないのや」
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