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文献名1霊界物語 第21巻 如意宝珠 申の巻
文献名2第1篇 千辛万苦よみ(新仮名遣い)せんしんばんく
文献名3第2章 夢の懸橋〔676〕よみ(新仮名遣い)ゆめのかけはし
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグインフエルノ(インフェルノ、地獄) データ凡例 データ最終更新日2021-05-02 00:44:31
あらすじ高姫と黒姫が、アルプス教の鷹依姫を言向け和しに出発してから、何の連絡もないまま、三ケ月が過ぎた。言依別命は密かに竜国別(元松姫の部下の竜若)、玉治別(田吾作)、国依別(宗彦)の三人を呼んで、高春山に高姫・黒姫の消息を探りにやらせた。三人は、鷹依姫の勢力範囲の地につながる岩の橋までやってきた。神智山の入口にあり、断崖絶壁を渡す天然の岩橋で、鬼の懸橋と呼ばれていた。玉治別が橋を渡ると、どうしたはずみか岩橋が中ほどから脆くも折れて、玉治別ははるか下の谷川に墜落してしまった。竜国別と国依別は青くなって、せめて遺骸を拾ってやろうと谷底まで降りてきた。すると玉治別は何事もなかったかのように、谷川で着物を絞っている。二人は、この高さから落ちて無事なことを信じられず、本当の玉治別かどうか疑う。玉治別は神懸りの真似をして、二人が自分の無事を信じないことをなじる。国依別と竜国別も、神懸りの真似をして言い返すが、玉治別はさっさと谷川を下って行ってしまった。すると辺りが真っ暗闇に包まれたと思うと、それは夢であった。三人は亀山の珍の館にやってきた。ここは、言依別命の命で、梅照彦・梅照姫が守っていた。三人が珍の館の門を叩くと、梅照彦は召使の春公に、丁重に招くようにと言いつけた。しかし春公は勘違いして、立派な来客があると思い込み、みすぼらしい姿の宣伝使を乞食とみなして、追い払おうとする。三人は怒って梅照彦を大声で呼びつけ、玉治別は抗議の宣伝歌を歌った。梅照彦はあわてて門に迎え出て、丁重に土下座をして不首尾を詫びた。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年05月16日(旧04月20日) 口述場所 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年4月5日 愛善世界社版38頁 八幡書店版第4輯 278頁 修補版 校定版40頁 普及版17頁 初版 ページ備考
OBC rm2102
本文のヒット件数全 2 件/バラモン教=2
本文の文字数8144
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本文  高春山に割拠するバラモン教の一派アルプス教の教主鷹依姫を言向け和すべく、言依別命の旨を奉じて天の磐樟船に乗り、勢よく聖地を出発した高姫、黒姫は殆ど三ケ月を経るも何の消息もない。言依別命は密かに竜国別、玉治別、国依別の三人の宣伝使を招き、聖地の何人にも明さず、高春山に二人の消息を探査すべく出張を命じた。竜国別はもと高城山の松姫館に仕へたる竜若の改名である。玉治別は田吾作、国依別は宗彦の改名である。
 教の花も香ばしく  咲き匂ひたる桶伏の
 山の麓にそそり立つ  錦の宮を伏し拝み
 言依別の命令を  密かに奉じて三人は
 月の光を浴びながら  勇み進んで石原の駅
 長田野、土師を夜の間に  栗毛の駒に跨りて
 蹄の音も勇ましく  晨の風の福知山
 尻に帆かけてブウブウと  痩せ馬の屁を放りながら
 青野ケ原を右左  眺めて走る黒井村
 心いそいそ石生の駅  御教畏み柏原の
 田圃を越えて進み行く。
 此処は神智地山の入口、アルプス教の鷹依姫の勢力範囲として居る十里四方の入口である。鬼の懸橋と云つて、谷から谷へ天然に架け渡された一本の岩の橋がある。此処を通らねば何うしても高春山へ進む事が出来ない嶮要の地である。
 幾百丈とも知れぬ山の頂きに天然に架け渡された石橋、眼下を流るる谷川の水は淙々として四辺に響き、自ら凄惨の気に打たるる許りである。玉治別はこの橋の前に着くや否や、頓狂な声を出して、
『ヨー要害堅固の絶所だ。アルプス教の奴、中々良い地点を撰んで関所にしやがつたものだなア。我恋は深谷川の鬼かけ橋、渡るは怖し、渡らねば、恋しと思ふ鷹依姫の鬼婆アさんに会はれない』
と無駄口を叩きながら半分許り進んで行つた。どうした機か、さしもに長い石橋は、中程より脆くも折れて、橋と共に玉治別は深き谷間に顛落し、泡立つ淵にドブンと、落ち込んで仕舞つた。
 竜国別、国依別は此変事に胆を潰し、
『ヤア、国さん、何うしよう何うしよう』
と顔を見合して驚きの浪に打たれて居る。
『今日は何となしに気分の悪い日だと思つて、石生の里から馬を放ちやり、三人が斯うしてテクついて来たが、まアまア結構だつた。馬にでも乗つて居らうものなら玉治別と一緒に馬も死んで仕舞ふところだつた』
『何を云つて居るのだ。馬位死んだつて諦めがつくが、肝腎の玉治別を谷底へ落して仕舞つて詮らぬぢやないか。何とか考へねばなるまい。馬と同じやうに取扱はれては玉治別も可憐さうだ』
『アヽさうだつた。余り吃驚して狼狽へたのだ。サア川下へいつて、何処かの岩石に宿泊して居るだらうから、肉体なと探してやらねばなるまい』
と早くも引返す。竜国別も後についてトントンと四五丁ばかり引返し、谷川を彼方此方と眼配り、捜索し始めた。
 いくら探しても影も形もない。二人は途方に暮れて施すべき手段もなく、悔し涙に暮れて居る。二三丁下手の方より、
『オーイ オーイ』
と呼ぶ者がある。二人は、
『ハテなア、聞き覚えのある言霊だ』
と声する方に向つて駆出した。
 見れば玉治別は、谷川の中に立つ大岩石ホテルの露台の上にて、着物を一生懸命にしぼつて居る。
『オー、お前は玉治別ぢやないか。何か変つた事はなかつたかなア』
玉治別『変つた事が大ありだ。堂々たる天下の宣伝使がお通り遊ばしたものだから、あれだけの大きい石の橋が脆くも折れよつて、忽ち玉治別のプロパガンデイストは、数千丈の空中滑走を旨く演じ、無事御着水、直ぐ谷川の水に送られて殆ど下流十丁許り、忽ち変る男の洗濯婆アさま、今濡れ衣を圧搾して居る最中だ、アハヽヽヽ』
と平気で笑つて居る。
『オイ、貴様は真実の玉治別ではあるまい。あれだけ高い石橋から顛倒し、谷底の深淵へ墜落しながら、そんな平気な顔して居れる筈がない。大方貴様は化州だらう。オイ竜国別、ちつと合点が行かぬぢやないか』
『アヽさうだ。彼奴は何かの変化であらうよ』
と矢庭に眉毛に唾をつけて居る。
『実際は玉治別は死んだのだ。大岩石と共に墜落し、五体は木つ端微塵、流血淋漓として谷水を紅に染め、忽ち変るインフエルノの血の河となつたと思ひきや、まアざつと此の通り御壮健体だ。オイ竜、国の両人、お前も橋は無いが、あの橋詰から一辺飛び込んで見よ、随分愉快だよ』
『益々怪しからん事を云ふ奴だ。オイ国依別、も少し下を探して死骸でも拾うて帰らうぢやないか』
『お前の探す肝腎の玉は、この岩上に洗濯爺となつて鎮座坐しますのを知らぬのか。お前の考へはタマで間違つて居る。玉治別の宣伝使が二人もあつてたまるものかい。死骸を探すと云うても、死なぬ者の死骸が何処にあるか。そんな至難の業はよしにせよ。苦労の仕甲斐がないぞよ、アハヽヽヽ』
竜国別『本当に玉治別に間違ひは無からうかのう、国依別』
『間違ひがあつて耐らうかい。俺はお勝の婿の元の田吾作だ。これでもまだ疑ふのか。今の人民は薩張悪の心になりて仕舞うて居るから、疑がきつうて何を云うても誠に致さず、神も迷惑致すぞよ。改心なされよ。改心致せば盲も目があき、聾も耳が聞えるやうになるぞよ。灯台下は真闇がり、目の前に居る友達の真偽が分らぬとは良くも此処まで曇つたものだぞよ。玉治別の神も、今の人民さまには往生致すぞよ。余り鼻を高う致すと、鼻が邪魔して上も見えず、向ふも見えず、足許は尚見えぬやうになつて仕舞ふぞよ。開いた口が塞がらぬ、煎豆に花の咲いたやうな結構な御神徳が、目の前にぶらついて居りながら、灯台下は真闇がり、ほんに可憐さうなものであるぞよ。改心なされよ。改心致せば其日から目も見えるぞよ。身魂も光り出すぞよ。二人のお方疑ひ晴らして下されよ。玉治別の幽宣伝使に間違ひはないぞよ。これが違うたら神は此世に居らぬぞよ。余り慢心致して宣伝使が馬に乗つたり致すから、神罰を蒙つて、結構な神のかけた橋を折られ、谷川に落されてアフンと致さなならぬと云ふ実地正真を見せてやつたのであるぞよ。高姫や黒姫を見て改心なされよ。結構な二本の足を神界から頂きながら、偉さうに飛行船に乗つて、悪魔の征服なぞと云つて出かけるものだから、今に行衛が知れぬではないか。其方等は神の御用を致す宣伝使だ。鑑は何程でも出してあるから、鑑を見て改心致されよ。この玉治別は誠に結構な神が守護して御座るぞよ。明神の高倉、旭を眷属と致して、身代りに立てたぞよ。人民の知らぬ事であるぞよ、アハヽヽヽ』
『オイオイ田吾作、馬鹿にするない。貴様は稲荷ぢやないか。稲荷なら稲荷ではつきりと云へ、俺はこれから貴様の審神をしてやるから、早く素直に往生致さぬと取り返しのつかぬ事が出来致すぞよ。ジリジリ悶え致しても後の祭り、苦しむのを見るのが国依別は可憐さうなから、気もない中から気をつけるぞよ。お前は俺の妹のお勝の婿に化けて居るが、早く往生致して改心致せばよし、余り我を張通すと、神界の規則に照らして帳を切るぞよ、外国行きに致すぞよ』
『こらこら何を云ふのだ。彼方にも此方にも、しようもない神懸をやりよつて、俺を馬鹿にするのか』
『神は直き直きにものは云はれぬから田吾作の肉体を借りて気をつけるぞよ。実地正真の手本を見せてあるぞよ。大本の大橋越えてまだ先へ、行方分らぬ後戻り、慢心すると其通り谷底へ落されて仕舞ふぞよ』
『エヽ怪体な、早く真正ものなら此方へ出て来い』
玉治別『真正者でも贋者でも、何時迄もこんな所に立つて居れるかい。早く改心して呉れ、改心さへ出来たなら、神はいつでも谷を渡つて、其方へ行つてやるぞよ』
国依別『竜公の改心の出来ぬのは、度渋太い豆狸の守護神であるから、玉治別神様が御降臨、イヤ御降来遊ばさぬのは無理もないぞよ。早く豆狸や、野天狗の守護神を放り出して、神様に貰うた生粋の水晶魂に磨いて下されよ。神は嘘は申さぬぞよ』
竜国別『エヽ兄と弟と寄りよつて、此谷底で竜国別を馬鹿にするのか』
玉治別『馬鹿にし度いは山々なれども、頂上に達した完全な馬鹿だから、此上もう馬鹿にしようがないので、玉もたまらぬから神も胸を痛めて居るぞよ』
 竜国別、自暴自棄になつて、
『余り此世が上りつめて、悪魔計りの世になりて、神は三千年の苦労艱難致して此世に現はれて見たなれど、余り其処辺中が穢しうて、足突つこむ所も、指一本押へる処もありは致さぬぞよ。余り此豆狸の身魂が世界を曇らしたによつて、神が仕組を致して、玉治別の身魂を懲戒のために、折れる筈のない石橋をポキンと折つて、神力を現はし、身魂の洗濯をして見せたぞよ。曇つた世の中にも、一人や二人は誠の者があらうかと思うて、鉄の草鞋が破れる処迄探して見たが、唯た一人誠の者が現はれたぞよ。之を地に致して三千世界の立替立直しを致すのであるぞよ。竜国別の身魂は誠に結構な因縁の身魂であるから、神が懸りて何彼の事を知らさねばならぬから、長らく御苦労になりて居るぞよ。糞糟に落ちて居りて下されと神が申したら、一言も背かずに竜国別が聞いて下されたおかげによつて、神の大望成就致したぞよ。それについても因縁の悪い身魂は玉治別、国依別のガラクタであるぞよ。此身魂さへ改心致せば世界は一度に改心致すぞよ。此御方は誠に結構な清く尊い偉い立派な、世界にもう一人とない生粋の根本の元の分霊であるから、神が懸りて大望な御用が仰せつけてあるぞよ。世界の者よ、竜国別の行ひを見て改心致されよ』
『アハヽヽヽ、何奴も此奴も皆神懸の真似ばかりしよるわい。サアサアこんな人足に相手になつて居れば日が暮れる。一遍出直して、再び出陣しようかい』
と、濡れた着物を脇に拘へ、真裸のまますたすたと谷の流れを此方に渡り、坂道を谷沿ひに下り行く。二人は、
『オーイ待て』
と後を追ふ。
 折から俄に黒雲塞がり、咫尺も弁ぜざるに至つた。玉治別は、
『オーイオーイ二人の奴、俺の声を目当について来い』
と力一杯呶鳴り立てる。
竜国別『アヽ吃驚した。何だい、夜中に夢を見やがつて、大きな声を出しよつて、寝られぬぢやないか』
国依別『アヽ俺もエライ夢を見て居つた。玉公の奴、鬼の懸橋から谷川に顛落し、軈て仕様もない事を口走りよつたと思つたら、何だ、夢だつたか。錦の宮の高殿に七五三の太鼓が鳴りかけた。サア早くお礼をして、言依別様の夜前俺達に云ひつけられた高春山征伐に向はうぢやないか』
 折からの風に小雲川の水瀬の音は手に取る如く耳に入る。
 言依別の御言もて  聖地を後に竜国別の
 神の命の宣伝使  心の玉治別司
 国依別を伴ひて  小雲の流れを溯り
 高春山の鬼神を  征服せむと出で行きし
 高姫黒姫両人を  助けにや山家の肥後の橋
 膝の栗毛に鞭打ちて  草鞋脚絆に身を固め
 菅の小笠の草や蓑  巡礼姿に身を窶し
 谷を伝ひてテクテクと  須知蒲生野ケ原を過ぎ
 観音峠も乗り越えて  教の花の咲き匂ふ
 珍の園部や小山郷  翼なけれど鳥羽の里
 道も広瀬の川伝ひ  高城山を右手に見て
 名さへ目出度き亀山の  珍の館に着きにける。
 此処には梅照彦、梅照姫の二人、言依別命の命を奉じ、小やかな館を建て、教を遠近に伝へて居た。三人の姿に驚いて梅照姫は奥に駆入り、
『モシモシ御主人様、妙な男が三人やつて来ました。さうして門口に立つて動きませぬ。どう致しませうか』
『誰人か知らぬが、服装が悪くつても、如何なる神様が化けて御座るか知れないから、鄭重にお迎へ申したらよからう』
 梅照姫は召使の春公を招き、
『何人か門に来て居られる筈だから、鄭重にお迎へ申して来なさい』
『承知致しました』
と門口に走つて出た。春公は其処をきよろきよろ見廻しながら独言。
『庭長にせよと仰有るから迎ひに出たが、誰も居やせぬぢやないか。乞食が三人居る計りで、大切なお客さまは見えはせぬ。ハヽア、もう、つい御座るのであらう。オイ其処な乞食共、其処退いて呉れ。唯今庭長さまがお越しになるのだから、お前のやうな乞食が門口に立つて居ると、見つとも好くない。サアサア何処かへ往つたり往つたり』
竜国別『貴方は当家の召使ですか。梅照彦は居られますかな』
『エヽ何をごてごて云ふのだ。人を見下げて召使かなんて、其様なものとはちつと違ふのだ』
竜国別『然らば貴方は当家の御主人ですか』
『マアマア何うでもよいわい。どつちかの中ぢや』
『御主人とあれば、一寸承はり度い事があつて参りました』
『そんな者に当家の主人は用が無いわい。早く何処かへ退散せぬか。今庭長さまがお越しになるのだ。邪魔を致すと此箒で撲りつけるぞ』
玉治別『これや、お前は此処の召使だらう。下男だらう。門前に三人の宣伝使が見えて居るのに主人にも取り次がず、追ひ出すと云ふ事があるものか。早く取り次いで呉れ』
『取り次がぬ事もないが、今日は俄にお取込みが出来たのだ。庭長さまがお出になるのだから、何れ御馳走をせなくてはならぬ、さうすれば又ちつとは余るから、明日除けて置いてやるから、更めて出て来い。それ迄其辺うちを迂路ついて、今日はまア他家で貰ふが好からう』
玉治別『お前は我々を乞食と見て居るのだなア。それや余りぢやないか』
『余りも糞もあつたものかい。縦から見ても、横から見ても乞食に間違ひはない。余りぢやと云うたが、今日は御馳走が余るとも余らぬとも見当がつかぬ。明日出て来い。屹度握り飯のあんまりを一つ位は俺がそつと除けて置いてやる。貴様も腹が空つとるだらうが、まア辛抱をして居れ。俺だつて生れつきの悪人ぢやない。つい十日程前まで、乞食に歩いて、道の端で飢に迫り倒れて居つたところ、此家の主人が拾ひ上げて下さつたのだから何処迄も大切に此門を守らねばならぬのだ。何卒頼みだから暫く他家へ行つて居て呉れ。今庭長さまがお見えになるのだ。若しその庭長さまが、此家の主人にでも何かの端に、此方の門口には乞食が三人立つて居ましたと云はつしやらうものなら、それこそ俺は此家を放り出されて又元の乞食になり、お前等の仲間に逆転せなくてはならぬから、何うぞここは俺を助けると思つて、暫く退却して呉れ。乞食の味は俺もよく知つて居る。辛いものだ。本当に同情するよ。訳の分らぬ無慈悲の奴だと恨めて呉れな』
 国依別は大声を発し、
『梅照彦 々々々』
と呶鳴つた。春は吃驚して、
『コラコラ、そんな非道い事を云ふものぢやない。俺が叱られるぢやないか。乞食が云うたと思はずに、俺が主人を呼び捨てにしたやうにとられては耐らぬぢやないか。些とは俺の身にもなつて呉れ』
 竜、玉、国の三人の宣伝使は一時に声を揃へて、
『梅照彦 々々々』
と呶鳴り付ける。春は、
『やアこいつは耐らぬ、ぢやと云うて人の口に戸を立てる訳にも行かないわ。一つ奥へ行つて言ひ訳をして来う』
とバタバタと奥に駆込む。梅照彦は人待顔にて、
『お客さまはどうなつたか。早くこちらへ御案内せぬか』
『イヤ、未だ見えませぬ。何うしてこんなに遅いのでせうなア』
『今何だか大勢の声がしたではないか』
『あれは乞食が歌を歌つて御門前を通つたのですよ』
『お前の声ではなかつたかな』
『イエイエ滅相もない、誰人が御主人様を梅照彦なんて呼びつけに致しますものか。何でも貴方のお名を知つて居る乞食が云つたのでせう』
『ハテナ、それでも今妻が、門口に三人のお方が門を開けて呉れと云つてお待ちになつて居ると云うて居た。今御飯の仕度をすると云つて炊事場の方にいきよつたが、もうお客さまは帰つて仕舞はれたのかなア』
『イヽエ、まだお客さまは見えませぬ。唯三人の見すぼらしい乞食が、蓑笠を着て、門の傍に立つて居ります』
『何、まだ立つて居られるか』
『御主人様、貴方はあんな乞食に丁寧な言葉をお使ひになるのですなア』
『乞食だつて誰人だつて、同じ神様から生れた人間だ。丁寧に致さねばならぬではないか』
『それでも私に対しては余り丁寧ぢやありませぬな。いつも春、春と呼びつけになさるでせう』
『そんならこれから、春さまと云つたらお気に入りますかなア』
『御尤もでございますなア』
 斯く話す折しも、門口から宣伝歌が聞え来る。
『神が表に現はれて  善と悪とを立て別ける
 此世を造りし神直日  心も広き大直日
 唯何事も人の世は  直日に見直せ聞き直せ
 身の過ちは宣り直す  三五教の神の教
 四方に伝ふる亀山の  珍の館を守り居る
 梅照彦の門の前  遥々訪ね来て見れば
 佇み居たる山の神  我等の姿を見るよりも
 踵を返し奥に入る  嗚呼訝かしや訝かしや
 主人の妻か下婢か  不思議と門に立ち止まり
 門の開くを待つうちに  躍り出たる下男
 我等の前に竹箒  掃出すやうな捨言葉
 庭長さまが来るまで  帰つて呉れいと頑張つて
 又もや門をピシヤと締め  蒼惶姿を隠しけり
 汝梅照彦司  三五教の御教を
 何と思ふか世の人を  貴賤老幼別ちなく
 救ひ助けて皇神の  教の徳に靡かせつ
 世人を守る神司  世にも尊き天職を
 もはや汝は忘れしか  神の教を笠に着て
 体主霊従利己主義を  発揮し居るは三五の
 神の教に非ずして  バラモン教の行り方ぞ
 我は御国を救はむと  晨の風や夕の雨
 そぼち濡れつつ高春の  山に向うてアルプスの
 神の教の司なる  鷹依姫を言向けて
 世人を救ふ神柱  言依別の御言もて
 漸う此処に来りしぞ  汝が日頃のやり方は
 今現はれた下男  言葉の端によく見える
 貴き衣を身に纏ひ  表面を飾る曲人を
 喜び迎へ入れながら  服装卑しき我々を
 唯一言に膠もなく  追ひ帰さむと努むるは
 全く汝が指金か  但は下男の誤りか
 詳細に御答へ致されよ  朝日は照るとも曇るとも
 月は盈つとも虧くるとも  仮令大地は沈むとも
 神に仕へし身の上は  如何なる卑しき姿をも
 如何なる見悪き服装せる  乞食の端に至るまで
 救ひ助けにやおかれまい  汝は易きに狎れ過ぎて
 救ひの道を忘れしか  神は我等と倶にあり
 神の勅を畏みて  曲津の征途に上り行く
 我等一行三人連れ  竜国別や玉治別
 国依別の宣伝使  此処に暇を告げまつる
 あゝ惟神々々  恩頼を蒙りて
 早や暮れかかる冬の日を  御稜威も高き高熊の
 御山を指して進むべし  梅照彦よ妻神よ
 随分お健でお達者で  神のお道に尽くされよ
 私はこれにて暇乞ひ  三人の司が凱旋を
 指をり数へて待つがよい  さアさア往かうさア往かう
 門前払ひを喰はされて  余り嬉しうは無けれども
 これも何かのお仕組か  行けるとこ迄行つて見よう
 決して世界に鬼は無い  三五教の身の内に
 梅照彦の鬼が坐す  もしや我等の云ふ事が
 お気に障れば赦してよ  あゝ惟神々々
 御霊の幸を賜へかし』
と玉治別は大声にて心の丈を歌ひ終つた。
 梅照彦は此歌を聞くや、驚いて表門に駆けつけ砂上に頭を下げ、
『これはこれは宣伝使様で御座いましたか。まことに下男が粗忽を致しまして、申訳が御座いませぬ。さアさアどうぞお這入り下さいませ』
玉治別『イヤ有難う。かういふ立派なお館へ乞食が這入りましては、お館の名誉にかかはりますから、今日はまアこれで御免を蒙りませう』
『お腹立御尤もで御座いますが、つい失礼致しまして……全く下男の業で御座いますから、どうぞ許して下さいませ。さアさア御機嫌直して、トツトとお這入り下さいませ。コレ梅照姫、春公、お詫を申上げないか』
と呶鳴つて居る。二人は此声に驚いて様子は分らねど、梅照彦が土下座をして居るのを見て、自分も同じく大地に平伏して頭を下げた。
玉治別『今貴方は下男が悪いのだと云はれましたな。決して下男ぢやありませぬよ。責任は矢張主人にある。さう云ふ気のつかない馬鹿な男を、門番にするのが第一過りだ』
『ハイ、何と仰せられましても弁解の辞がありませぬ』
『サア、事が分れば好いぢやないか。玉治別、国依別、お世話になりませうかい』
と先に立つて進み入る。二人もニコニコしながら、
『アヽ、エライお気を揉ませました。もうこれで一切の経緯は帳消だ。さア梅照彦御夫婦さま、春さま、何うぞ安心して下さいませ』
『有難う御座います』
と安心の胸を撫で下し、妻諸共三人の後に従いて奥に入る。春公は門の傍に佇立し、
『アヽ庭長さまの御挨拶だつた。お蔭で免職もどうやら免れたやうだ』
(大正一一・五・一六 旧四・二〇 加藤明子録)
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