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文献名1霊界物語 第30巻 海洋万里 巳の巻
文献名2第4篇 修理固成よみ(新仮名遣い)しゅうりこせい
文献名3第19章 蜘蛛の児〔861〕よみ(新仮名遣い)くものこ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-02-17 18:47:31
あらすじ
国依別は武装したウラル教徒の一団を見て打ち笑い、キジとマチに、神力を与えるから二人で彼らを蹴散らして見たらどうか、と促した。

キジは腕力に、マチは機転に自信があると、国依別の提案に乗った。国依別は自分は司令官となると言って丸木橋の上に陣取り、キジとマチに、くれぐれも敵の命だけは取らないようにと念を押した。

アナンとユーズが率いる武装隊の前に、マチは暗がりのなか立ちはだかり、大音声で言依別命だと名乗った。言依別命と聞いてウラル教徒たちは早くも心の中で恐れを抱きながらも、ユーズの下知で襲い掛かった。

マチは素早く体をかわして隠れてしまうと、ウラル教徒たちは暗がりの中で同士討ちを始めてしまった。一方キジは、アナンが率いる隊に向かって立ちはだかり、国依別を名乗って怒鳴りたてた。

アナンの号令でウラル教徒たちはキジに突っ込んできたが、キジは次々に日暮シ川に取って投げてたちまち人の山を築いてしまった。

国依別は橋の上からサーチライトのように霊光を放射して、戦場を射照らしている。アナンとユーズはたまらず、退却を命じてウラル教徒たちは逃げて行った。マチとキジは国依別の元に凱旋する。国依別は、マチとキジの勇気と働きに喜んだ。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年08月16日(旧06月24日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年9月15日 愛善世界社版219頁 八幡書店版第5輯 649頁 修補版 校定版234頁 普及版88頁 初版 ページ備考
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本文  幾十旒とも分らぬ白旗を夜の風に翻し、旗鼓堂々と、川の堤の両方より進み来る数百の集団を眺めて、国依別は打笑ひ、
『アハヽヽヽ、マチさま、キジさま、面白くなつて来たぢやないか。昨夜荒しの森で数百人のウラル教の連中、吾々一人を十重二十重に取巻乍ら、脆くも国依別の言霊に吹散らされて、雲を霞と逃去つたウラル教の手合が、今度はどうやら武装を整へ捲土重来の挙に出よつたらしい。なんと愉快な事が出て来たものだ。お前達両人は、入信記念の為に一つ南北に分れて、両方の敵に当り、縦横無尽にかけ悩まして見たら如何だ。其代りに国依別が無限の神力を与へるから、万々一お前達の不利を見たならば、球の玉の神力を以て、敵を射倒して了ふ成算が十分にあるから、試験的にやつて見やうではないか?』
キジ『願うてもなき其お言葉、私もテルの国に於ては相当に、神力はなけれ共、腕力並ぶ者なしと言はれて居る豪傑ですから、こんな面白い機会はありますまい。如何なる武器を以て攻め来る共、此腕一つあれば大丈夫です。何卒私を其任に当らして下さい』
マチ『私はキジの様な力は有りませぬが、気転を利かす段に於ては、決して人後におちない積りです。そんなら両人が此川の南北に分れ、一つ奮戦激闘をやつて見ませう。あゝ面白い面白い、天運循環し来つて、優曇華の花咲き匂ふ春に会うたる心地がする』
と力瘤だらけの腕をまくり、ブンブンと振りまはし、撚をかけて居る。
国依『そんなら両人、一つやつて見よ……国依別は司令長官になつて、此丸木橋の上から戦況を調べる事にせう。あゝ良い月だ。こんな愉快な事は、滅多にあるものぢやない。併し乍ら成るべくは、両人敵の生命をとらない様にしてくれ』
キジ『宜しい、一人も残らず此空川へ放りこみ、人間の山を築いてお目にかけませう』
 斯く云ふ間、ウラル教の大部隊は最早間近くなつて来た。マチは北側を、キジは南側の草の中に身を潜めて、敵の近付くのを今や遅しと、腕を唸らせ、片唾を呑んで控えてゐる。
 南の一隊はアナン之を率ゐ、北側の一隊はユーズ之に将として、勢ひ凄まじく川辺を下り来る物々しさ。マチは忽ち敵前に塞がり大音声、
マチ『ヤアヤア、ウラル教の宣伝使、それに従ふ小童共、よつく聞け! 吾こそは三五教の宣伝使、言依別命、御倉山の谷間に於て、此方が言霊の神力に泡を吹き、脆くも逃げ去つたる弱武者共、サア吾々は神勅に依つて、汝が茲に数多の人々を引きつれ、武器を携へ、攻め下り来る事を前知せしを以て、汝等一人も残らず素首を引抜き、汝の最も希求する霊の国、天国へ引導を渡してくれむ。覚悟を致せ!』
と呶鳴り立てた。ユーズは藪から棒の、どこともなく権威に充された此言霊に辟易し、数多の部下を率ゐ、堂々とここまで進み来れる手前退却もならず、轟く胸を無理に押へ、
ユーズ『ナヽヽ何と申す。汝は体主霊従の邪教を奉ずる言依別命なるか。如何に獅子王の勢あればとて、雲霞の如き大軍に向つて、如何に孤軍奮闘すればとて、汝の力の及ぶ所にあらず、要らざる事を致して、命をすてるよりも、神妙に吾軍門に降れ』
マチ『ナニ猪口才千万な、汝こそ某が前に閉口頓首して罪を謝し、貴重なる生命を無事に持つて帰れ。汝等は天国に至る事を無上の光栄とする者ならば、一人も残さず、霊の国へやつてやるのはいと安き事なれ共、さう致しては懲戒にならぬ。汝の最も忌み嫌ふ娑婆世界に置いて苦めてやらむ、覚悟を致せ。アハヽヽヽ』
ユーズ『何と其方は妙な事を申す奴、人間は生命が大切だ。肉体なくして神業が勤まると思ふか。馬鹿を申せ、汝こそ今某が、生命をとり、地獄の引導を渡してくれむ、覚悟致せ……ヤアヤア者共、言依別に向つて斬つてかかれよ』
と采配ふつて下知すれば、数多の部下はマチ一人を取まき、斬つてかかる。向うは大勢、此方は只一人、すばしこくも体を躱して、草の茂みに隠れて了つた。大勢はあわてふためき、互に刃に火花を散らし、ケチンケチンと同士打を始めてゐる其可笑しさ。
 又一方南岸に向うたキジは、アナンの引率せる一部隊に向ひ、叢より忽然と現はれ、大音声、
キジ『ヤア其方はウラル教の宣伝使であらう。吾こそは三五教の神司国依別なるぞ。飛んで火に入る夏の虫、能くマア出て来よつたなア。サア是より此方の発射する言霊の弾丸を浴びて、汝の最も忌み嫌ふ現界を棄て天国に救ひ与へむ。どうぢや嬉しいか』
と呶鳴り立て、大声で人もなげに笑ひ出した。アナンは国依別と聞いて、心戦き乍ら、空元気を出し、
アナン『アハヽヽヽ、何と申す、国依別、敗けたと見せかけ御倉山の谷川に於て逸早く姿をかくし、又荒しの森に於てワザと敗軍を装ひ、汝をここにおびきよせむとの吾等が計略、うつかりと出てうせた痴呆者。モウ斯うなる上は百年目、神妙に吾軍門に降るか、ゴテゴテ吐さば、汝が素首引抜いて天下の害を絶ち、汝が身魂を地獄に追ひおとしくれむ……サア部下の者共、国依別に向つて斬りつけよ』
と下知すれば『オウ』と答へて数多の人数、竹槍をすごき、キジ一人を目当に突込み来る。キジは大手を拡げ、来る奴来る奴、ひつ掴んでは日暮シ川にドツと許り投げ込み、瞬く間に数十人の人山を築いた。
 此方のユーズの部下は何れも長剣を以て戦ひ、南方のアナンの部下は何れも竹槍を以てキジ一人に向つて戦つてゐる。されどキジの手に掛つて、最早数十人は河中に投込まれ、腰を打ち、足を摧き、痛さに身動きも得せず、慄ひ戦いてゐた。国依別は丸木橋の上より指をさし伸べ、サーチライトの如き霊光を発射して、此域を射照らしてゐる。アナンは最早叶はじと思ひきや、采配を打ふり打ふり、
アナン『退却! 退却!』
と連呼し乍ら、散り散りバラバラに算を乱して敗走する。
 此方ユーズは味方の同士打に度を失ひ、止むを得ず采配を打振り、又もや南方のアナンに傚つて『退却! 々々!』と号令する。此声にユーズの部下は思ひ思ひに元来し道を先を争ひ逃げて行く其可笑しさ。マチは之を眺めて高笑ひ、
マチ『アハヽヽヽ、脆いものだなア。俺もこれ丈の神力が出るとは思はなかつたが、実に不思議だ。これも全く三五教の神様の御神徳、次いでは神様のお使ひになる神魚を食つた為でもあらう。実に有難いものだなア。ドレドレ国依別様に戦況を詳さに報告せねばなろまい。それに付いても何処ともなく、強烈なる光の現はれた時、敵の光に打たれて狼狽する様は実に痛快であつた』
と独言ちつつ、国依別の傍に意気揚々として帰つて来た。
 南方に向うたキジも亦勝ち誇つたる面色にて、力瘤だらけの腕を打ふり乍ら帰り来り、
キジ『宣伝使様、実に有難う御座いました。生れて以来、斯様な愉快な事は御座いませぬ。戦ひの最中、あなたより強烈なる霊光を送つて下さつた時の其気強さ、面白さ、いやモウ終生忘る可らざる愉快な印象を与へられました。アハヽヽヽ』
国依『ヤア両人共、天晴れ天晴れお手柄だつた。あれ丈の勇気があれば、最早三五教の布教者としても大丈夫だ。国依別も幸福だ。何と良い弟子が出来たものだなア』
キジ『本当に仰有る通り、古今独歩の神力充実せるあなたに対し、斯様な英雄豪傑がお弟子になるのも全く神様のお引合せでせう』
国依『アハヽヽヽ、随分吹く事も吹きますねえ。ヤア面白い面白い、それ丈の気概がなくては駄目だ』
マチ『私だつて、ヤツパリあなたの御家来として余り不適当な者ではありますまい。どうです宣伝使様、あなたの御感想は……』
国依『アハヽヽヽ、何ちらも担いだら棒が折れる様だ。力に甲乙が無くて面白い。マア是からは慢心をせない様に心得て、神界の為にドシドシと尽して貰はうかなア』
両人『ハイ承知致しました。今日の腕試しに依つて、最早神の御加護ある事を悟つた以上は、天下何者をか恐れむやで御座る』
と腕を揺つて雄健びする其可笑しさ。国依別は……妙な奴が降つて来た者だ……と心秘かに微笑み乍ら二人を伴ひ、明けかかる夜の道を、河を渡つて、北へ北へと足を早め宣伝歌を声高く歌ひ乍ら、ヒルの都を指して進み行く。
 空に輝きし月は漸く光り褪せ、星は次第に影を没し、絵絹を拡げた様な東の空は、紅を潮し始めたり。
(大正一一・八・一六 旧六・二四 松村真澄録)
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