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文献名1霊界物語 第48巻 舎身活躍 亥の巻
文献名2第4篇 福音輝陣よみ(新仮名遣い)ふくいんきじん
文献名3第15章 金玉の辻〔1269〕よみ(新仮名遣い)きんたまのつじ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2023-05-30 16:31:29
あらすじ治国別と玉依別(竜公)は、八衢を逍遥しながら四つ辻の辻堂の前に差し掛かった。二人はあたりの様子から、娑婆が近くなってきたことを知り、伊吹戸主神様の忠告を思い返しながら雑談にふけっている。そこへ蠑螈別とエキスの精霊が酔っ払ってやってきた。いずれも肉体に帰ることができる精霊であるので、互いに意思疎通ができた。蠑螈別は、お民がここを通らなかったかと治国別と竜公に尋ねた。蠑螈別は竜公が知らないと答えると、お民を隠しているに違いないと言いがかりをつけてきた。エキスはもうお民やお寅にかかわるのはこりごりだと辟易している。蠑螈別が治国別を殴ったので、蠑螈別と竜公は喧嘩になり、蠑螈別の助太刀にはいったエキスも合せて三人とも金玉を握り合って目を回し、その場に倒れてしまった。治国別はあわてて天の数歌を上げ、鎮魂を施した。竜公は息を吹き返し、蠑螈別とエキスは起き上がると、雲を霞と逃げてしまった。二人の耳には、アークとタールが呼ばわる声が聞こえてきた。にわかにぱっと明るくなったと思うと、治国別と竜公の身は、浮木の森の陣営のランチ将軍の居間に横たわっていた。枕元にはアークとタールが心配そうな顔をして控えていた。アークとタールは、二人がランチと片彦の計略にかかったことに気が付き、ランチが留守の間に縄梯子を下ろして二人を引き上げ、介抱していた。四人は互いに無事を祝し、大神の前に端座して祝詞を奏上した。治国別は蠑螈別の身の上が気にかかって探しに行き、雪が人間の形に積もって高くなっているところを発見した。治国別と竜公は、雪の中から倒れていた蠑螈別とエキスを助け出した。治国別はさらに、ランチ、片彦両将軍をはじめお民の身の上が気にかかると、物見やぐらに向かった。蠑螈別もお民の身の上が心配だと聞いて、治国別たちと一緒に向かった。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年01月14日(旧11月28日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年10月25日 愛善世界社版213頁 八幡書店版第8輯 668頁 修補版 校定版221頁 普及版112頁 初版 ページ備考
OBC rm4815
本文のヒット件数全 4 件/浮木の森=4
本文の文字数5038
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本文  治国別、玉依別は八衢をブラリブラリと逍遥しながら或四辻の辻堂の前に差掛つた。
『治国別さま、どうやら玉依別の称号も断末魔が近付いたやうです。ここは浮木の森の十町許り手前の破れ堂ぢやありませぬか、どうも記憶に残つてゐるやうです』
『成程、川の水音迄聞えて来た。何とはなしに娑婆近くなつた様だ』
『伊吹戸主の神様にキツウ釘をさされて来ました。本当に吾々も何時の間にやら、鼻ばかり高くなつて居つたと見えますな。柔かく厳しくカツンとやられた時の恥かしさ、苦しさ、今思ひ出しても冷汗が出ますワ』
『余りお喋りが過ぎたからだ。三五教の御神諭にも……何にも知らずに途中の鼻高が、鼻ばかり高うして偉さうに申して居るが、余り鼻が高うて上も見えず、鼻が目の邪魔を致して、足許は尚見えず、先も見えず、気の毒なものであるぞよ。神が鼻を捻折りて改心さした上、誠の事を聞かしてやるぞよ……とお示しになつてゐるが、今伊吹戸主神様に御説教を聞かされて、実に御神諭の尊い事を、今更の如く悟つたよ』
『ハ、さうですな。之から現界へ帰つたら、科学的霊学研究などと偉さうにホラを吹いてゐる途中の鼻高の鼻つパチを捻折つてやらぬ事には、到底霊界の片鱗も宇宙の真相もヨウ分けず、亡者然と威張つて居る始末に了へぬ奴を、鼻を捻折つて助けてやりませうかな』
『アハヽヽヽ、自分の顔は見えませぬか、玉依別さま、お前さまの鼻は随分高うなりましたよ』
『ヤア、知らぬ間に霊界ぢやと見えて、想念の延長を来し、鼻迄延長してゐました、治国別様に折つて貰つて、これで満足な顔になりました。アヽ惟神霊幸倍坐世』
『伊吹戸主神様のお諭しを忘れちやなりませぬよ』
『モシ忘れたら、貴方気をつけて下さいや。又潜在意識とか、潜在神格となつて、心内深く潜伏致しました時にや、副守が跋扈して、又脱線をするかも知れませぬから、どうぞ其都度々々、御忠告を願ひます』
『ハツハヽヽ、玉依別さま、私も何時忘れるか知れないから、互に気をつけ合ふ事に致しませう』
『貴方も私も一時に忘れて了つたら何うなりますか』
『今から忘れる事ばかり考へなくても宜しい。忘れてよい事は忘れ、忘れてならない事は忘れない様に努めるのですな』
 かく話す所へ、ヅブ六に酔うてヒヨロリ ヒヨロリとやつて来たのは蠑螈別、エキス両人の精霊であつた。肉体のある精霊は、肉体のなき精霊に言葉をかけられる時は、直に煙の如く消失するものだが、四人共肉体に帰り得べき精霊の事とて、どちらも元気がよい。蠑螈別は辻堂に休んでゐる二人の前に現はれ来り、
『モシ、何れの方か知りませぬが、一寸御尋ね申します、二十歳許りの妙齢の美人が、ここを通過致しませなんだかな』
玉依『ウン、ねつから女らしい方には、牝猫一匹会ひませぬよ』
『ナヽ何だ、会はぬと申すか、大方其方が誘拐して隠して居るのだろ。此街道は男も女も通る所だ。エヽン、ゴテゴテぬかさずに白状せぬか。なア、エキス、お前の鑑定は何う思ふ』
『何だか知らぬが、女はモウ懲々だ、お民の事を言ふものぢやない。お民の事を聞くと、すぐにお寅婆を聯想する。あんな鬼婆が又もや、やつて来て鼻でも捻ぢよつたら、今度はモウ、サツパリだ。言ふな言ふな、女の一疋やそこら、何だい』
『貴様にや情交上の関係がないから、そんな平気な顔して居らりようが、当の御亭主たる俺には又特別の悲痛があるのだ。恋知らずの木狂漢に英雄の心事が分つてたまらうかい、エヽーン、大切なる情婦を片彦将軍の色魔にチヨロまかされ、其上色白の青瓢箪男に自由にされ、どうしてこれが黙つて居らりようか。お民の奴、とうと途中で逃げて了ひよつた。キツと喋し合せて、どつかで会うてけつかるに違ない、俺はどこまでも彼奴の所在を突き止め、思ふ存分やらなくちや虫がいえねえのだ。……ヤア貴様は治国別ぢやないか。こんな所へお民の後を追うて来よつたのかな。貴様もヤツパリ同穴の貉だらう、サア所在を白状致せ』
と臭い息を吹きかけながら、治国別の手をグツと握り、目を縦にして睨みつけた。治国別は迷惑さうな顔をしながら、
『蠑螈別さま、見当違も程がありますよ』
『ナーニ、見当違だと、馬鹿を申せ、俺の天眼通で、貴様がお民をそそのかして居ることを遠隔透視したのだ。そして囁いて居つた事をも天耳通でチヤンと調べてある。サア何処へかくした、白状致せ』
『アハヽヽヽ、それ程よく天眼通が利くならば、お民さまの所在は一目で分りさうなものですなア』
 蠑螈別は言葉につまり、酒の酔機嫌で、拳を固めて治国別の横面を続けざまに三つ四つなぐつた。治国別は頭をかかへて抵抗もせず、『惟神霊幸倍坐世』を奏上しながら、しやがんでゐる。玉依別はグツと癪に障り、蠑螈別の後に廻り、睾玉をグツと握つて、後へ引いた。此体を見て、エキスは又もや玉依別の睾丸をグツと握り、後へ引いた途端に足が前に辷り、ドンと握つたまま仰向けに倒れた。将棋倒しにズルズルと玉依別、蠑螈別といふ順に三つ重ねとなつた。エキスは玉依別の大きな尻に睾丸をグツと押へられ、三人共睾丸を痛めて、舌をかみ出し、目を眩して了ひ、三人揃うて三きん交替の睾丸の江戸登城をやつて了つた。
 治国別は驚いて三人の手を無理に放し、一人々々地上に横臥させ、一生懸命に数歌を歌ひ上げ、鎮魂を以て神霊注射を試みた。玉依別は第一着に息を吹返し、
『アイタヽヽ、アー偉い目に遇はしよつた。ヤ、先生、よう助けて下さいました。私は又第一天国へただ一人上りかけて居りましたら、貴方のお声で天の数歌が聞え出しましたので、後ふり返り見れば、貴方の身体より霊光が発射し、其光に包まれたと思へば気がつきました。精霊界へ来てもヤツパリ目をまかしたり、霊体脱離したりするものと見えますなア』
『アヽさうと見えるなア、不思議なものだ。併し蠑螈別さまとエキスさまが、睾丸を損ねてまだ気がつかない。早く助けてやらねばならぬ。玉依別さま、一つ貴方、神様に願つて復活さしてやつて下さい』
『成程、揃ひも揃うて睾丸病者ばかりですな。一つ願つて見ませうか。併し先生、此奴ア、貴方の横つ面を擲つた悪人ですから、放つといてやりませうかい』
『神の道は人を救ふのが勤めだ。霊界へ来てそんな心では可けませぬぞ。天国には恨もなければ憎みもない、只愛あるのみですよ』
『そらさうです、併しここは天国ぢやありませぬぞえ。中有界ですから、善も居れば悪も居ります。悪人は悪人で懲してやるが社会の為ですよ』
『ソリヤいけませぬ。貴方は仮令身は中有界に居るとも、其内分には最高天国が開けてゐるぢやありませぬか。其心を以て御助けなさい』
『伊吹戸主神様が中有界は中有界、現界は現界相応の理を守れ、妄りに天界の秘密を、訳の分らぬ人間に示すと、却て神を冒涜する……と仰有つたぢやありませぬか』
『ハツハヽヽ、益々分らぬやうになりますねえ』
『さうでせうとも、すでに竜公に還元の間際ですからなア。大に愛善と証覚が衰へました。否内分が塞がりましたやうです』
 かく言ふ折しも、蠑螈別、エキスはムクムクと起上り、二人の顔を睨みながら、怖さうに後向けに歩き出し、五六間の距離を保つた時、何を思うたか、一生懸命に雲を霞と逃げ出して了つた。
『ハツハヽヽ、とうとう吾々の霊光に打たれ、雲を霞と消え失せよつたな、ヤツパリ吾々はどことはなしに御神力が備はつたとみえるワイ、あゝ愉快々々』
『玉依別さま、先方の方から何だか、人声がするぢやないか』
 玉依別は耳をすませ、
『いかにも、あれはアーク、タールの声ですよ、こんな所へ彼奴も亦迷つて来よつたのですかなア』
 二人の声は益々高く聞えて来た。俄にパツと際立つて明くなつたと思へば、治国別、竜公の身は浮木の森の陣営のランチ将軍が居間に横たはつてゐた。さうして枕許にはアーク、タールの両人が心配さうな顔をして坐つてゐた。
治国『あゝ、アークさま、タールさま、此処はどこだなア』
アーク『治国別様、確りなさいませ。貴方は片彦将軍等の企みの罠に陥り、暗い井戸の底で、一旦亡くなつてゐられたのですよ。吾々両人がランチ将軍、片彦将軍の出て行つたのを幸ひ、漸く縄梯子を吊りおろし、此処までお二人の肉体を持ち運び、いろいろと介抱を致しましたら、漸くお気がついたのです』
竜公『ヤア有難い、何時の間に睾丸握の喧嘩から、こんな所へ帰つたのだらうな、アイタ、ヤツパリ睾丸が痛いワイ』
と顔をしかめてゐる。
 さて四人は互に無事を祝し、大神の前に端坐して、例の如く祝詞を奏上し、終つて治国別は、蠑螈別の身の上が気に掛り、四人一度に陣内を隈なく探り、漸く酒房の前に行つた。雪は一尺以上も降り積もり、二人の寝てゐる所は際立つて高くなつてゐる。アーク、タールの両人は態とに治国別に知らさなかつた。治国別はこの場に現はれ、人間の形に雪が高くなつてゐるのを見て、
『アークさま、あの雪はチツと変ぢやありませぬか、丁度人間が寝てゐるやうに高く積つてゐるでせう』
『彼奴あ、ユキ倒れかも知れませぬよ』
竜公『こんな所に行き倒れがあつてたまるかい。行き倒れといふ奴ア、道端で乞食が野倒死したのを言ふのだ』
アーク『それでも、あこに蠑螈別が倒れて其上へ雪が積もつたら、ヤツパリユキ倒れだ……ウソと思ふなら、お前行つて調べて来い。彼奴アな、食ひしん坊だから、酒盗みに行きよつて、酒房の外で酔ひつぶれてるのかも知れないよ』
竜公『今幽界で蠑螈別、エキスの両人に面会し、睾丸の掴み合ひをして来た所だ。大方それから考へると、最早肉体は冷たくなつて、現界の人ではないかも知れないよ』
タール『ナニ、俺達と今一緒に倒れた所だ、彼奴ア酒の量が多いのでよく寝てるのだ。俄にブチヤケるやうな雪が降つて、瞬間に一尺も積つたのだ。本当に不思議な雪だつたよ。何はともあれ、竜公さま、お前は冥土の知己だから、一つ気をつけてやり給へ。亡者卒業生だからなア、亡者が亡者に対するのは、身魂相応の理によるものだからなア、アツハツハヽヽ』
 竜公は足で雪を掻き分けて見ると、蠑螈別はムクムクと起上り、雪の中に胡坐をかき目をつぶつてゐる。エキスも亦竜公に足で雪を取除かれ、頭を蹴られた途端に気がつき、目を塞いだまま、雪の中に坐つて、口をムシヤ ムシヤ動かしてゐる。蠑螈別は夢中になつて奴拍子の抜けた声で、
『片彦将軍、お民を返せ、コラ色白の小童、俺の女を何うしよつた。早く此場へ出さぬか、……ヤお寅が来よつたな、痛いわい痛いわい……睾丸を引張りよつて、イヽ痛い、息が切れる、エキス、コラ、竜公の睾丸を引張つてくれ!』
などと千切れ千切れに喋り立ててゐる。エキスはエキスで又拍子抜けのした声で、
『アヽヽア、痛い痛い痛い、睾丸がツヽ潰れる潰れる』
と喚いてゐる。アークは首を傾けながら、
『何とマア不思議な事があるものだな。竜公さまが気がつくが早いか、睾丸が痛いといふかと思へば、蠑螈別が又睾丸々々といひ出す、エキスの奴までお附合に睾丸々々とほざいてゐよる。此奴ア面白い。エヘヽヽヽ、コラ睾丸の大将、早う起きぬかい、確りせい』
と蠑螈別の鼻を力に任して捻ぢた。
『イヽヽヽ痛い痛い、又してもお寅の奴、俺の鼻を摘みやがつて……許せ許せ』
『ハツハヽヽ、オイ、蠑螈別、俺だ俺だ、目をあけぬかい。どこだと思つてゐるのだ』
『何処でもないワイ、辻堂の前だ。早く俺を浮木の陣営へ連れて行つてくれ』
『ここが浮木の森の陣営だ、余り酒を喰ふものだから、目を眩しよつたのだろ』
と頬を平手でピシヤピシヤと擲る。蠑螈別はハツと気が付き四辺を見れば、エキスが側に真白気になつて坐つてゐる。そして治国別、竜公の其処に立つてゐるのを見て、不思議さうに手を組み、
『ハテ ハテ』
と云ひながら、穴のあく程二人の顔を覗き込んだ。
治国『蠑螈別さま、エキスさま、此処は浮木の森の陣営ですよ。私も暫く魂が肉体を放れ、八衢旅行をやつて来ました。お前さまも八衢で会ひましたね。併しモウ現界へ帰つたのですから、安心なさいませ。それよりもランチ将軍、片彦将軍初めお民さまの身の上が、どうも気にかかります。物見櫓の方に何か変事が突発してゐるかも知れませぬ。サア参りませう』
 蠑螈別はお民の危急と聞いて、酔も醒め、本気に立帰り、陣営の駒に打ち乗り、治国別、竜公他四人は馬首を揃へてカツカツカツと蹄の音も勇ましく、物見櫓を指して雪に馬足を印しながら走り行く。
(大正一二・一・一四 旧一一・一一・二八 松村真澄録)
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