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文献名1霊界物語 第51巻 真善美愛 寅の巻
文献名2第1篇 霊光照魔よみ(新仮名遣い)れいこうしょうま
文献名3第6章 舞踏怪〔1321〕よみ(新仮名遣い)ぶとうかい
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2023-08-06 15:23:40
あらすじ松姫の館には、お千代とお菊と三人が集まって何事かささやいていた。勇敢なスマートが松姫の危難をすくったことなどが話題に上った。するとどやどやと表に人の足音が聞こえてきた。妖幻坊と高姫は、初と徳が酒の勢いで杢助と高姫の名をかたり、勝手に乱暴を働いたことにして、見せしめに二人の尻を三百叩くという芝居をしにやってきたのであった。妖幻坊と高姫は、数を数えながら二人の尻を叩くふりをして、地面をたたいた。そのうちに、妖幻坊と高姫の手が狂って、棍棒が初と徳の尻に当たりだした。二人は悲鳴を上げ文句を言ったが、妖幻坊と高姫は辛抱するようにと言うだけで芝居を続けた。お菊とお千代は何事かと思って外に出てみれば、右のとおりの様子であった。二人は手を叩いて面白がり、八百長だとはやし立てて、面白い芝居だと言って松姫を呼んだ。松姫は気がかりで外に出てきた。妖幻坊と高姫は、八百長だと思われないように力を込めて二人の尻を叩きだした。たちまち二人の尻は腫れ上がり、身動きできずに目を回してしまった。松姫は驚いて妖幻坊と杢助を押しとどめた。高姫と松姫は再会の挨拶を交わし、妖幻坊も杢助のふりをして松姫に挨拶した。初と徳は、ようやく松姫の仲裁によって制裁を免除された。松姫はお千代とお菊に二人の介抱を命じると、高姫と妖幻坊を館に招き入れた。高姫はさっそく、神様の命令で、小北山は自分が教主になることになり、松姫は自転倒島の生田の森の司に任じられたのだ、と松姫に迫った。松姫はいったんは斎苑の館の教主・八島主の辞令を見せるように求めたが、高姫が押すと、あっさり奉告祭をしてここの事務を高姫に引き継ぐと引き下がった。松姫は早速、文助をはじめ小北山の役員に引き継ぎの奉告祭の準備をさせ、松姫、高姫、妖幻坊は新しい衣装に身を包んで上段の石の宮に上ってきた。たちまち神饌は踊りだし、宙に舞い狂い始めた。高姫は、神徳が高い者が御用をするとこのような奇蹟が起こるのだ、と得意がっている。妖幻坊は渋い顔をして、神前に出て頭痛がするのをこらえている。松姫は高姫の言葉に乗り、これほど神様がお勇みになっているから、神様の御社の扉を開けさせていただこうと提案した。高姫は得意になって松姫に扉の開帳を命じた。松姫はすっと神前に進み、中の社の扉をぱっと開いた。妖幻坊と高姫はその霊光に打たれ、アット叫んでよろよろと七歩八歩後ずさりをした。とたんに、断崖絶壁から逆さまにギザギザの岩の上に転落した。妖幻坊は怪しい悲鳴を上げると、痛さをこらえて高姫を呼び、坂道を逃げ出した。初と徳は尻の痛さも忘れて、二人の後を追って逃げ出した。妖幻坊は、ヨボヨボと階段を上がってくる文助に突き当たり、顔を引っ掻いて飛ぶように駆けて行ってしまった。その後を高姫、また初と徳が追いかける。逃げる妖幻坊の耳に、スマートの唸り声が聞こえてきた。こうして、スマートは松姫の返書を首にくくりつけられ、初稚姫に事の顛末を報告すべく祠の森に帰って行った。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年01月25日(旧12月9日) 口述場所 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年12月29日 愛善世界社版84頁 八幡書店版第9輯 296頁 修補版 校定版87頁 普及版40頁 初版 ページ備考
OBC rm5106
本文のヒット件数全 7 件/生田の森=7
本文の文字数5049
これ以外の情報は霊界物語ネットの「インフォメーション」欄を見て下さい 霊界物語ネット
本文  松姫の館には、お千代、お菊と女三人首を鳩め、ひそびそと何事か囁いて居る。勇敢なスマートが、松姫の危難を助けて呉れた事などが無論話頭に上つた。スマートは俄に魔の如く姿を消して仕舞つた。
千代『あれまア、可愛いスマートが何処へやら行つて仕舞つたわ、私どうしませう』
松姫『スマートは神様のお使で吾々の危難を助けに来て下さつたのだから、もうお帰りになつたかも知れないよ』
『それだつて私、あのスマートが好きで耐らないのよ。お母さまの危難を谷の向ふからよく探知して助けに来て呉れたのだもの。そして賢い犬で私とお友達にならうと云うて約束して置いたのだもの』
『茲暫くスマートさまの事は云うてはいけませぬよ、どんなお仕組があるか知れないからねえ』
『だつてスマートは恋しい犬だわ。なア、お菊さま、ほんたうに貴女だつて好きでせう』
お菊『私、貴女の次にスマートが好きのよ』
と斯んな話をして居ると、表にどやどやと人の足音が聞えて来た。
妖幻『こりや初、徳、エエ貴様は不届きの奴だ。サア尻を捲れ、なぜ松姫様に御無礼を働いたか。是から此杢助が其方の尻引つ叩いて懲しめて呉れる。悪の報いだと思うて観念せい』
初『ハイ誠に誠に済まぬ事で厶いました。貴方のお名を借りまして、松姫さまを嚇かしましたのは重々悪う厶いました。決して殺さうなぞと思うては居ませぬ。つい酒の興に乗つて狂言をかいたのですから、何卒耐へて下さいませ』
『馬鹿申せ、そんな事申しても松姫様に御無礼を加へ、此方の名を騙つたのだから了簡はならぬ、尻を捲れ』
高姫『これ初、徳両人、お前は杢助さまや私の名を騙つて松姫さまに御無礼をしたぢやないか、何と云つても松姫さまに済まないから、お前の尻を、千切れても構はぬから三百ばかり叩いて上げよう、徳公さまは私の名を騙つたのだから私が叩いてあげる。初公は杢助さまの名を騙つたのだから杢助さまに叩いて貰ひなさい。サア早く尻をまくりなされ』
徳『ハイ仕方が厶いませぬ。どうぞソツと叩いて下さい。三百もそんな太い杖でやられては命がなくなりますから』
『命がなくなつたつて仕方がないぢやないか、お前は松姫様の命を取らうとしたのだから。サア杢助さま、貴方は初公をお叩きなさい、オイ徳、もうかうなつては駄目だ、早く尻を出さぬか』
と館の中に聞えるやうな声で四人は八百長芝居を始めかけた。
 両人は笞を振り上げながら、二人の尻を叩くやうな顔をして大地を叩く。
妖幻『一つ、二つ』
『キヤツ、キヤツ』
高姫『一つ、二つ』
『アイタタタ、アイタタタ』
『四ツ、五ツ、六ツ、七ツ、八ツ、九ツ、十』
『キヤツ、キヤツ、キヤツ、アイタタタタ、アンアンアン』
 手許が狂うて、妖幻坊が力一ぱい打ち下した棒が初公の尻にビウと当つた。初公はキヤツと云つて其場に倒れた。妖幻坊、高姫の両人は、持場を定めて、尚も続け打ちに数をかぞへながら打つて居る。
初『これ杢助さま、約束が違ふぢやありませぬか、本当に叩かれるのなら、もう止めですわ、アア痛いワ』
高姫『これ初さま、黙つて居なさらぬか、あいさには二つや三つ手が狂うたつて仕方がないぢやないか』
『それだと云つて痛いわな』
『二十、二十一、二十二、二十三、二十四』
『アイタタタアイタ、キヤア、キヤツキヤツ』
高姫『痛かろ痛かろ、痛いやうに撲るのだ。かうせねばお前の罪も亡びず、私の疑も晴れぬから、弁慶でさへも御主人の頭を撲つた事を思へば辛抱をしなさい』
徳『本当に高姫さま、撲つちや耐りませぬわ、約束が違ふぢやありませぬか。何ぼお前さまの弁慶の(弁解の)ためだと云つてもやりきれませぬわ』
 何だか屋外にザワザワ音がするので、お菊、お千代の両人は立ち出でて見れば右の体裁である。両人は一度に手を叩いて、
『ああ面白い面白い、芝居ぢや芝居ぢや、痛くもないのに猿のやうに初公と徳公が泣いて居るわ。ありや八百長だよ。お母さま、一寸来て御覧、面白い芝居が始まつて居ますよ』
 松姫も気掛りでならぬので、お千代の言葉に引かれて外に出て見た。杢助、高姫の両人は八百長と見られちや大変だと思ひ、真剣に力をこめてビウビウと撲り出したから耐らない、忽ち臀部は紫色に腫上り血が滲み出した。二人は動きもならず、目を眩かして仕舞つた。松姫は驚いて其場に走り寄り両手を拡げて、
『ヤア高姫様、杢助様、如何なる事か存じませぬが、どうぞ暫くお待ち下さいませ』
高姫『イヤ、お前さまは松姫さま、長らくお目に掛りませぬ、此両人が吾々の名を騙つてお前さまを苦しめたさうですから、今折檻を加へて居る所です。何卒お止め下さいますな。これ杢助さま、もつと打つてやりなさい。こんな奴は死んだつて構ふものか』
『杢助さま、高姫さま、お腹が立ちませうが、これら両人は小北山の役員、如何なる事が厶いませうとも、私に云つて下されば何とか致しますから、まアまア待つて下さいませ』
妖幻『イヤ初めてお目に掛ります。貴女が松姫さまで厶いましたか、えらいお気を揉ませまして恐れ入ります。許し難い奴なれども、貴女のお言葉に免じ許してやりませう。これ高姫、お前も許してやりなさい』
高姫『エエ私はどうしても許しませぬ。三百の笞を加へなくてはなりませぬ。私や貴方の名を騙つて悪事をなした代物だから、以後のみせしめ、息の止まる所まで撲つてやりませう』
とピシヤピシヤと撲りつけた。徳公は息が切れむばかりになつてヒーヒーとひしつて居る。漸くにして松姫の仲裁によつて鞭を加へることだけはやめて了つた。松姫は、お千代、お菊に命じ水を運ばせ、両人に呑ませ且つ尻に水をかけてやつた。二人は無我夢中になつて起き上り、尻の痛さに肱をついて庭に横たはつて居る。
松姫『まア可愛さうに、酷いことなされますなア、貴方等の気の強いのには私も感心致しました』
高姫『私だつて斯様な事はしたくはありませぬが、杢助さまと私が貴女を殺して来いといつたやうに申して乱暴を働いた悪者ですから、以後のみせしめに笞を加へたのです。松姫さま、何卒疑はないやうにして下さい、こんな獣は何を申すか知れませぬからなア』
『ハイ何卒お気遣ひ下さいますな。善悪は神様が御存じですから、私等は善悪を審く力はありませぬ。サア何卒此処は門先……中へ入つて下さいませ。これお千代や、お菊さまと二人、初公、徳公の側に筵をもつて行つて其上に寝かせ、お前等が世話をして上げて下さい。お母さまは一寸お二人さまとお話があるから』
と二人の介抱を二人の少女に命じ置き、高姫、杢助を居間に引き入れた。
松姫『高姫様、お久しう厶います。貴女は生田の森の神司として、琉の玉を御守護遊ばすとか承はり、お羨ましい事だと存じて居りました。此頃は又斎苑の館へお越しになつて居たさうで厶いますねえ』
『ハイ、一寸都合があつて斎苑の館へ参りましたが、神様の命令に依つて、此小北山は高姫の系統蠑螈別が開いたのだから、其方が行つて教主となり、松姫さまは生田の森へ行つて貰へとの事で厶います。つまり云へば更迭ですな、自転倒島は又景色のよい所ですな、高城山からは僅か三十里許りの所で厶いますからな』
『それは神界の御都合とあれば是非に及びませぬが、併し貴女は斎苑の館の八島主の命様から御命令を受けてお出でになりましたか、神様の命令と云つても、現界の仕事は矢張現界の法則を守らねばなりませぬ。ついては御辞令が厶いませう。一寸拝見さして頂きませう』
『馬鹿な事を仰有るな、松姫さまにも似合はぬ愚問を発するぢやありませぬか。三五教は人民の教を立てる所ぢやありますまい。神様の御命令で働く所でせう。私も誠の義理天上様の御命令で忙しくして仕方がない身を、小北山の神司となつて来たのですよ。お前さまは神様の御命令を聞いて生田の森へ行つて貰ひたい、元はお前さまの師匠ですから、私の云ふ事を聞くでせうね、そして杢助さまは生田の森に厶つたけれど、今は斎苑の館の総務、此お方が厶つた以上は辞令も何も要りますまい。つまり八島主さまの意見は杢助さまの意見、杢助さまの意見は八島主さまの意見、又八島主さまの意見は義理天上の意見、義理天上の意見は高姫の意見ぢやぞえ』
『いや分りました、それなら仰に従ひ貴女に事務の引継を致しませう。それについては私は解職の奉告祭、貴方等は新任の奉告祭をなさらなくてはなりますまい。それでなくては神様の御用の引継ぎは出来ませぬからなア』
『イヤ尤もで厶います。お前さま立派に引渡して下さるか、偉いものだなア。其代り生田の森へ行つて下さい、又生田の森へ転任の辞令がないと仰有るだらうが、現在此処に杢助さまが厶るから、生証文だ。どうか安心して行つて下さいや』
『左様ならば事務の引継ぎを致しませう、善は急げと申しますから、一時も早くお空の大神様へ参拝致し、奉告祭を行はうぢやありませぬか』
『それは真に結構で厶います。杢助さま、お前さまも、何程霊界の天人だからといつて、今日は新任の奉告祭だから参らねばなりませぬぞや』
『ウン仕方が……ウンない、イヤ結構だ、私も奉告祭に参列させて貰ひませう』
松姫『それでは貴方等にお装束をつけて頂きたう厶ります。又それ迄に神饌の用意や祓戸の式をせなくてはなりませぬから、役員にその準備を致させませう。肝腎の初や徳は貴方等に笞を当てられ、八百長芝居が利き過ぎて、あの通り平太つて居ますから、他の役員に命じませう。これ、お千代や、お前はお菊さまに二人の介抱を頼み、文助さまに祭典の用意を命じて下さい』
 お千代は、
『ハイ』
と一言後に残して、文助に松姫の命令を下すべく階段を下り行く。文助は早速四五の役員に命じ、祭典の準備を整へしめた。彌祓戸も済み神饌も済んだ。松姫、高姫、杢助は新しき衣装を着替へ、悠然として上段の石の宮の前に現はれた。
 忽ち神饌は踊り出し、供へた木の果などは空中に蚋の舞ふ如く舞ひ狂うて居る、さうして人参も大根も山の薯も蜜柑も川魚もピンピン跳ね出し踊り出した。高姫は首を傾けて非常に感心をして居る。
『何とまア神徳の高い者が御用をする事になると偉いものだなア、神様が大変にお勇みだと見えて、お供へ物が中天に舞ひ上り、皆踊つて居る。これ松姫さま、偉いもので厶いませうがな。あれ御覧なさいませ。神様が四辺の木の上に鈴なりになつて居られませうがな、エエ見えませぬか、修業の足らぬものは仕方が厶いませぬな。義理天上さまが、松姫をおつぽり出せ……いや生田の森に遣はせと仰有つたのも、斯んな仕組があつたからだらう。ああ宙空に八百万の神様が勇んでお出でになることわいなア。ネーブルなどは、あの通り目の届かぬ所まで上つて舞踏をやつて居ます。何と神徳と云ふものは争はれぬものだなア』
 杢助は何とも云へぬ渋い顔をして頭の痛いのを耐へて居る。高姫は益々調子に乗つて法螺を吹いて居る。
松姫『これ高姫さま、これ程神様がお勇みになつて居るのですから、一遍、ユラリ彦や月の大神、日の大神様のお扉を開けさせて頂きませうか』
『ああそれが肝腎だ。お前さま、開けて下さい、私が神様に直接にお話し致しますから。嘸神様も高姫にお給仕をして貰ひ、杢助さまに構うて貰へば御満足なさるだらう。大神様、斎苑の館の杢助と義理天上日の出神が、今日から御世話をさして頂きますぞや』
 松姫はスツと神前に進み、中の社の扉をパツと開いた。杢助、高姫の二人はアツと叫んで其霊光に打たれ、ヨロ ヨロ ヨロと七歩八歩後すざりをした途端に、断岩絶壁から逆とんぼりに、キザキザの岩の上に顛落し「ウン、キヤツ」と怪しき声を立てながら、痛さを耐へ、
『高姫来れ』
と一生懸命坂道を逃げ出した。初公、徳公両人は之を見るより尻の痛さも忘れ、トントントンと二人の後に従ひ一生懸命に逃げ出す。折からヨボヨボと階段を上つて来る文助に突きあたり、妖幻坊は文助の顔を引つかき坂の下に投げつけながら、飛ぶが如くに雲を霞と駆け出す。高姫は金切声を振り立てながら髪振り乱し、でつかい尻を振りながら可愛い男を逃がしちや大変だと、一町許り間隔を保ち、一本橋を渡り怪志の森を指して逃げて行く。又一町許り後れて、初、徳の両人が、
『オイオイ』
と叫びながら、青草の芽含んだ野路を追つ駆けて行く。小北山の頂から、
『ウーウーワウ ワウ ワウ』
とスマートの声、雷の如くに杢助の妖幻坊の耳に入る。
 是より、スマートは松姫の返書を首に括りつけられ、初稚姫に報告すべく祠の森をさして帰り往く。
(大正一二・一・二五 旧一一・一二・九 加藤明子録)
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