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文献名1霊界物語 第52巻 真善美愛 卯の巻
文献名2第5篇 洗判無料よみ(新仮名遣い)せんばんむりょう
文献名3第25章 恋愛観〔1361〕よみ(新仮名遣い)れんあいかん
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2023-12-22 19:03:14
あらすじ
高姫は三人の悪人たちが絞られたのを見て痛快となり、ますます調子に乗って石の上に立ち上がり、大道演説を始め出した。

八衢の赤の守衛は、仕事の邪魔になると、高姫の演説をやめさせようと叱りつけた。高姫は自分は日の出神の生き宮だと赤の守衛を叱りかえした。

赤の守衛はとうとう高姫を縛って木に吊るしてしまった。しかし高姫は伊吹戸主を呼んで来いと怒鳴りたてる始末であった。口の減らない高姫に辟易した守衛たちは、門内に入れておとなしくさせることにした。高姫は得意げに大手を振って門の中に入って行った。

その後は、不倫心中をした男女がやってきて、赤と白の守衛の取り調べに対して、当世風の恋愛論を振りかざして、門内に入って行った。赤と白の守衛は現界の乱れを嘆いた。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年02月10日(旧12月25日) 口述場所 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年1月28日 愛善世界社版292頁 八幡書店版第9輯 484頁 修補版 校定版300頁 普及版131頁 初版 ページ備考
OBC rm5225
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本文  高姫は敬介、狂介、悪次郎の三人が手厳しくコミ割られたのを見て痛快措く能はず、益々調子にのつてロハ台の上に登り、又もや大道演説を始め出した。
『皆さま、あれをお聞きになりましたか。泡沫に等しき権勢や、地位や、財産を振りまはし、社会に於て乱暴狼藉を働いた偽善者の末路は、此通りで厶りませうがな。皆さまはここを現界と思うてゐますか。ここは霊界の八衢、善悪を調べる所ですよ。お前さま等も常平生から結構な日の出神が現はれてウラナイの道を開き、万民を救ふべく朝な夕なに口を酸うしてお導き遊ばしたのに……ヘン、あの気違ひが何を吐す、冥土があつて堪らうか、地獄極楽は此世に厶る……等と高を括つて厶つたが、今三人行つた奴の様に、ここで十分に膏を搾られ、吠面をかわかねばなりませぬぞや。それだから現界に於て神様のお話をよく聞きなされと云つたのだ。如何です、之でもお前さま等は此高姫の演説を聞く気はありませぬか。義理天上日の出神様は現界、幽界、神界の救主で厶るぞや。何程深い罪があらうとも、此方の云ふ事さへ聞けば、神直日、大直日に見直し聞直して助けて上げるぞや』
 赤の守衛は高姫の手をグツと握り、
『こりや高姫、帰れといつたら帰らぬか。大変邪魔になる。どうしても聞かねば、其方を此儘地獄に堕とすが宜いか』
『ヘン、よう仰有いますワイ。何と云つても神界、現界、幽界の救主なる義理天上日の出神の生宮で厶りますぞや。余り見違ひをして貰ひますまいカイ。これこれ皆さま、何程怖い顔して此守衛が睨んだ処で、チツとも驚くに及びませぬよ。然し此高姫の申す事が分らねば駄目ですよ。おい赤さま、チツとお前も高姫の云ふ事を真面目に聞いたら如何だい』
 赤の守衛は煩さくなつたと見え、高姫の手をグツと後へまはし、傍の梧桐の木に縛りつけて了つた。高姫は尚も屈せず、稍怒気を含んだ声で、
『こりや、罰当り奴、三界の救主日の出神の生宮を何と致すか。物が分らぬにも程があるぞよ。もう斯うなつて貴様の様な蠅虫に話をした処が仕方がない。伊吹戸主を呼んで来い。此高姫が噛んで啣める様に誠の道理を聞かしてやらう。さうすればお前も初めて此生宮の御神力が分り目が覚めるだらう』
『エー、仕方がない。白さま、どうか暫く門内へ突つこんでおいて下さい。事務の邪魔になつて仕方がありませぬから』
『オホホホホホ、出来した出来した、到頭往生致したと見え、杢助さまの厶る門内へ入れと云ひよつたな。ヤツパリ高姫さまには敵ふまいがな、オホホホホホ』
白『さア高姫、縛をほどいてやるから門内へ這入れ』
『ハイ、有難う。順風に帆をかけた様なものだ。之を思へば熱心と云ふものは偉いものだな』
赤『エー、グヅグヅ申さずとトツトと這入れ』
『ホホホホ、這入りますわいな。其代り赤のお前さま等の都合の悪い事が出て来るかも知れませぬぞや。勿体なくも日の出神の生宮を梧桐に縛りつけた大悪は、伊吹戸主に会うたら屹度告げてやるから、地獄行は覚悟の前だらう。まア喜んで待つて居なさい。あの、まア心配さうな顔ワイノー』
 白は優しい顔に少しく怒りを帯び声を尖らして、
『こりや高姫、云ふ事があれば後で云へ。さア早く這入らないか』
『ホホホホホ、青瓢箪に屁を嗅がしたやうな営養不良な顔をして、此生宮様を「高姫云ひたい事があるなら後から云へ」……何吐すのだ。チツと身分を考へたら如何だい、オツホン』
と女に似合はず大手を振り、大股に歩いて門内に姿を隠した。
 赤は男女連れの精霊を手招きし住所姓名を尋ねかけた。
『其方は何と申す姓名か』
『ハイ、私はおつやと申します』
『其方は何と申すか』
『ハイ、私は呆助と申します』
『おつや、其方は夫のある身を以て、此呆助と私かに情を通じ、斯様な処へやつて来たのだな』
『ハイ、理想の夫がないものですから、已むを得ずこんな破目になつたのですよ。今日の結婚問題は愛の結婚でなくて財産結婚、門閥結婚、強迫結婚、強姦結婚、往生づくめの無理無体の結婚を強ひる世の中ですから、離婚沙汰が頻々として起つてゐます。恋愛を無視した因襲的結婚法は、斯様な問題を惹起する最も重大なる原因の一つとなるのです。自分が好いて自分が選んだ結婚関係ならば、それが仮令うまく行かなくても自分自身に其全責任があります。出来得るだけの努力をして現在の結婚生活をもつともつと良きものにしなければなりませぬ。最初から自分以外の者が取計らつた結婚と云ふものは、少しも恋愛味が存在しませぬ。何れ合せものは離れものだと云ふ流儀ですから、離婚の不祥事や、他に情夫を拵へて三角生活を送る様になるのは已むを得ませぬ。皆社会の制度が悪いのだから、自分の意思の合うたもの同志が結婚を自由にしたと云つて、お前さま等にゴテゴテ言はれて堪りますか。女は決して男の玩弄物ぢやありませぬ。ヤツパリ一人前の人格者である以上は男子の圧迫や強圧は許しませぬ。それだから無理結婚の夫を捨てて最愛の呆助さまと隠れ忍んで、耽美生活を味はつてゐたのです。之程分り切つた道理を社会の奴は皆盲目だから、嫉妬半分に、あのおつやは不貞腐れだの、ホームの破壊者だの、阿婆摺女の張本等と下らぬ事を吐きやがるので煩さくて堪らず、呆助さまと相談の上、手に手を取つてライオン川に投身し、霊界に於て完全なるホームを作り恋愛味を味ははうと思つてやつて来た賢明な新しい女ですよ。コンモンセンスを欠いた社会の馬鹿人間は、トランセンデンタルな恋愛の権利を解せない馬鹿者ばかりですから、サツパリ社会が嫌になつて了つたのです。想思の男女をして自由に結婚せしむるのがワイズ・ペアレントフツドでせう。今日の親と云ふものは吾子の恋愛までも抹殺しようとするのだから堪らないですよ。吾々はチヤスティティなラブを以て人生の最大要件と認めてゐるのです。イケ好かない男子と結婚する位なら、寧ろセリバシイ生活を送る方が何程ましだか知れませぬわ。お前さまも、未だ年がお若いが屹度妻君があるでせう。気に入つた妻君と添うてゐらつしやいますかな』
『こりやこりや女、こんな処で変愛論をふりかざす処ぢやないぞ。之から其方の罪悪を調べるのだ』
『高竹寺女学校の卒業生で、天才の誉をとつたおつやで厶ります。天才と秀才を兼ねた新しい女だから、到底お前さまの頭へは入りますまい。ホーム・ウエーゼリ・ゼヤリーベの分らない、世に遅れた人間にはテンで話にはなりませぬワ。ラブ・イズ・ベストを以て吾々目覚めた婦人は大理想としてゐるのですよ。何とまア気の利かない顔して居りますね、ホホホホホ』
『此頃の女性には冥官も実に往生だ。何は兎もあれ、其方のメモアルを調べてやるから此方へ来い。高等女学校を高竹寺女学校とは何を云ふか』
『妾の行状を調べるとは、そいつは面白い。純潔な婦人ですよ。サンナム・ボーナムの行ひを尽して来た才媛ですから、旧道徳の古い頭で御覧になれば罪悪かは知りませぬが、恋に目覚めたニユー・スピリツトを有する妾の主義は、世に遅れた、失敬ながらお前さまでは分りますまい。何と云つても人間の世界ではラ・ヴイ・セクシユエルと云つて性的生活を以て第一とするのですから、此位最善の方法はありますまい。無理解な親に虐げられて、良心を枉げ結婚した夫婦は、云はば罪悪の最なるものと思ひます。愛なき結婚を強ひられて、朝から晩まで、夫婦がアンタゴーニズムの悲劇を演じて居るよりも、想思の男女が互にホーリ・グレールを傾けて天国の法悦に酔ふのが最も賢明な覚めた婦人のやり方です。お前さまは到底吾々を審判するだけの権能はありませぬよ。何卒もう此問題には此上クエーストして下さるな』
 赤はあまりの事に呆れ果て、呆助の方に言葉を向けた。
『おい呆助、お前は此おつやを真から愛してゐるのか』
『ハイ、私はおつやの意見に共鳴して居ります。よく考へて御覧なさい。恋愛と云ふものは至高至上のものでせう。恋愛至上の思想があつて茲に初めて一夫一婦の制度に的確なる精神的、道徳的、合理的基礎を与ふる事が出来るのです。それ以外の一夫一婦論は、所謂偽善説に非ざれば、単なる便宜的、因襲的、実理的の御都合主義か、又は形式主義たるものに過ぎませぬ。斯の如きは少くとも人間として第二義的の考察として取扱はるべき問題となると思ひます。至上至高の性的道徳としての恋愛は二つの人格の全的結合なるが故に、そこに一夫一婦の原則が確認されたとすれば、必然的に之と相即不離の関係をなして生ずるものは所謂貞操観念でせう。男女が互に貞操を厳守し格守する事によつてのみ、此一夫一婦が完全に実現せられ得るものです。故に貞操は恋愛の神聖なる擁護者たると共に、又真の恋愛は必ず貞操が伴ふものです』
『随分猛烈な恋愛関係だのう。嫉妬や悋気が随分花を咲かしただらうのう』
『世間的物質的の欲望に煩はされてゐない純真の恋愛の場合に於ては、嫉妬なるものは必ずしも悪徳として非難せらるべきものでなく、寧ろ双方の純潔を保たむとする貞操観念の副作用とも見られるのです。悋気をせない女は明かに不貞の女である場合が最も多いものです。それ故吾々は悋気もしたり、イチヤついてもみたり、低気圧が両人の間に起つたりする事は、幾度か出現しますが、之が所謂貞操観念の濃厚なる証拠であらうと思ひます、エヘヘヘヘヘ』
『アーア、サツパリ煙に捲かれて了つた。御両人、お目出度う。此先はどうなるか知りませぬが、先づ伊吹戸主神様の前で諄々と恋愛神聖論でもまくし立てなさるが宜しからう。併しおつやの夫は昨日ここを通過したから、嘸今頃は伊吹戸主神の前でお前等両人の現界に於ける一切の行動を陳述したであらう。さア早く通りなさい』
『ハイ、下らぬ事を申しまして誠に済みませぬ。併しながら吾々両人の結合力は極めて硬固なもので厶りますから、仮令地獄の底へ落されても滅多に分離などは致しませぬワ』
『エー、八釜しい。そんな問題は審判廷で喋々とまくし立てたが宜からう。早く通れ』
と一喝した。二人は睦じさうに手を曳きながら、いそいそとして門を潜り入る。
『何とまア脱線した女が来たものだなア。赤さま、之からチツと方針を変へなくちやなりますまいぞや』
『如何にも白さま、非常に現界には魔風恋風が吹き荒んでゐると見えますな。之では到底社会の秩序は保たれますまい。ああ困つた事だなア』
(大正一二・二・一〇 旧一一・一二・二五 北村隆光録)
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