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文献名1霊界物語 第53巻 真善美愛 辰の巻
文献名2第1篇 毘丘取颪よみ(新仮名遣い)びくとりおろし
文献名3第3章 軟文学〔1366〕よみ(新仮名遣い)なんぶんがく
著者出口王仁三郎
概要
備考
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あらすじ
ビク国では左守は政務を、右守は軍馬を司っていた。左守のキュービットは、家令のエクスと密談を凝らしていた。二人は、右守が軍馬の権を握っているのをいいことに、わざと国内の治安を悪化させ、民心をビクトリヤ王からそむかせていると頭を痛めていた。

また二人は、キュービットの嫡子・ハルナが、文学に熱を上げて国家の事には少しも関心を示さないことにも頭を痛めていた。

しかし息子が政敵である右守の妹・カルナ姫と想いあっているということを耳にはさんでいたキュービットは、なんとかこの結婚を成就させて左守家と右守家を統合し、国内を治められないかと考えた。

エクスはキュービットに頼まれて、ハルナ本人の意向を確認することになった。エクスはハルナに問いかけて、ハルナの思い人が確かに右守の妹・カルナ姫であることを聞きだした。エクスから、父のキュービットもこの結婚には前向きであることを聞かされたハルナは、ひとり舞い上がっていた。
主な人物 舞台左守キュービットの館 口述日1923(大正12)年02月12日(旧12月27日) 口述場所竜宮館 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年3月8日 愛善世界社版35頁 八幡書店版第9輯 516頁 修補版 校定版38頁 普及版19頁 初版 ページ備考
OBC rm5303
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本文  ビク王国の制度は、左守司は王の師範役となり、国内一切の枢要なる事務を取扱ふこととなつてゐた。そして右守司は軍馬の権を握り、内寇外敵の鎮圧に努むる職掌であつた。左守司のキユービツトは、家令のヱクスと共に密談を凝らしてゐる。
左守『ヱクス、どうも今日の国情は日に月に悪化し、国民怨嗟の声は四方に充ち、各所に動乱起り、暴徒は其隙に乗じて民家を焼き放ち、白昼強盗往来し、人を斬り、婦女を辱め、天下は麻の如く紊れて来たではないか。ビクトリヤ王様も御老齢の身を以て、日夜宸慮を悩ませ玉ひ、余に向つて種々と鎮圧の道をお尋ね遊ばすけれ共、何を云うても斯かる時には兵馬の権を握つてゐない為に、強圧的に一時なり共鎮圧することが出来ない。何とかして右守司の職権を左守に移さなくては仕方がない。何とか妙案があるまいかな』
ヱクス『何と申しましても、右守司、奸侫邪智にして、ヒルナ姫様に取入り、権を恣に致して居りますれば、刹帝利様も、左守司様も、殆ど有名無実の有様、実に残念で厶います。加ふるに右守司、野心を包蔵し、国内の動乱を煽動し、紛擾をして益々大ならしめむとするの傾向が厶いまする。モ少し早く軍隊を動かし、鎮撫にかかつたならば、斯様な事にはならないのですが、右守司は胸に一物ある事とて、此紛擾を傍観し、軍隊を以て民に向ふは、政治の本義ではない、民心を怒らしむるは危険至極だと主張し、蔭から暴動を煽動し、自発的に貴方の退位を余儀なくせしめ、自ら取つて代らむとの野心が仄見えて居ります。何とか今の内に用意を致さねば、取返しのつかぬ大事が起るだらうと、私も昼夜心胆を砕いて居ります。加ふるに、甚申上げ難い事乍ら、左守司の跡をお継ぎ遊ばすべき御賢息様は、耽美生活だとか、軟文学だとか云つて、荐に妙な議論をまくし立て、国家の事などはチツトも念頭において厶らぬのだから、困つた事で厶います』
左守『如何にも、親の目にも、彼奴は困つた奴だと思つてゐるのだ。何とか彼を甘く改心させ、王様の為に舎身的の忠勤を励むやうにさせたいものだなア。併し仄かに聞けば伜のハルナは右守の妹、カルナに対しラブ・レタースを取交してゐるとやら聞いたが、それが果して真なら、何とかして此結婚を成立させ、災を未発に防ぐ手段を廻らさねばならぬ。国内の紛擾を治めむとすれば、先づ城内の暗闘を防ぎ、一致団結しておかねば右守司の術中に陥るやうな事があつては実に困るからなア』
ヱクス『如何にも御尤もな御説、ハルナ様とカルナ姫との間に、左様な消息があるとすれば、一つハルナ様に此処に来て貰つて、御意見を承はつた上、何とか工夫を致さうだありませぬか』
左守『それも一つの方法だ。ヱクス、お前一寸伜に会うて、意見を叩いて来てくれまいかな』
ヱクス『ハイ畏まりました。直様ハルナ様に御面会を願ひ、御意見を承はつた上、詳細なる復命を致しませう』
と左守の室を後にしてハルナの居間を訪れた。ハルナは一生懸命に机に凭れて、少し青白い顔をし乍ら、マトリモーニアル・インスティチューシャンズを繙き、読み耽つてゐた。そこへ頑強な無粋な忠義一途のヱクスが、古い頭をニユツと突出して、糊つけ物のバチバチを着たやうな四角張つたスタイルで、ソツと襖を引あけ、
ヱクス『ハイ、御免下さいませ。ヱクスで厶います』
 ハルナは此声が耳に這入らぬとみえて、一生懸命に結婚制度史の上に目を注ぎ、ゲツティング・マリドだとか、フヰジオロヂー・オブ・ラブなどと首をかたげて考へて居る。ヱクスは頓狂な声を出して、
ヱクス『モーシ、ハルナ様』
と呼はる声にハツと気がつき、慌てて結婚制度史を机の引出しにしまひこみ、素知らぬ顔をして、膝の上に両手をキチンとおき、
ハルナ『ヤ、お前はヱクスだないか、僕が勉強してる所へ突然やつて来たものだから、面くらつて了つたよ』
ヱクス『又軟派文学でも耽読してゐられましたのでせう』
 ハルナはハツとし乍ら、首を左右に振り、
ハルナ『アアイヤイヤ、軟派の文学などは青年の読むべきものでない、俺は硬派文学を耽読してゐるのだ』
ヱクス『それでも、貴方、机の上にマトリモーニアル・インスティチューシャンズがチヨコチヨコおいてあるだありませぬか』
ハルナ『ウンあれか、あれは結婚制度史だから、お前のやうな既婚者は必要はないが、吾々には強ち不必要と断ずることは出来ない。併し乍ら少し許り軟派でも硬派を研究比較上、一度は読んでおかなくちやならないからなア』
ヱクス『もし、ハルナ様、私は軟文学が大好物で厶いますよ。貴方の不在中にも、チヨコチヨコ拝借しまして、覗き読みをさして頂きましたが、随分面白いものですな』
ハルナ『吾々の参考書を無断で、お前は読んだのか、怪しからぬだないか』
 ヱクスは頭を掻き乍ら、
ヱクス『ヘー、誠に済みませぬ、余り面白いものですから、お父上に、ソツとお見せ申しました所、此様な軟文学は汚らはしい、雪隠壺へでも放り込んで了へ……とお目玉を頂くかと思ひの外、流石はハルナ様のお父さま丈あつて、ヘヘヘヘヘ、開けたお方ですよ。内の伜もここ迄徹底したか、流石は私の息子だ。これならば左守の後を継がしても大丈夫だ……と以ての外のお喜び、口を極めて御讃嘆、イヤもう此頑固爺も意外の感に打たれ、それから後といふものは、スツカリ軟派に改悪……否改良致しまして、此古い頭もチツと許り新しくなりました。此書籍のお蔭で全くヰータ・ヌーバの気分になり、どこともなしに心が若やいで来ましたがな、アハハハハ』
とうまくハルナの精神にバツを合さうとしてゐる其老獪さ。ハルナはヱクスの心中を知らず、大に喜んで、
ハルナ『成程父上様も、時代に目覚め遊ばしたと見えるなア、イヤ有難い有難い。元より左守家は殺伐な軍馬の権を扱ふ家だない、文学の家だから、お父さまがさうなられるのも当然だ。お前も今迄の様に拙者の恋愛論に就て、此上ゴテゴテ苦情は云はないだらうなア』
ヱクス『ハイ、仰せ迄も厶いませぬ、頭は禿げても、気はヤツパリ十七八、貴方の御主義に全部共鳴して居ります。アハハハハ』
ハルナ『父上様はそこ迄人間味がお分りになつた以上は、僕の主義にキツト賛成して下さるだらうかな。レター・ライタの中に普通一般の往復文の中にラブ・レターズが混入してゐる今日の教育法だから、ラブ・イズ・ベストの真理は分つてゐるだらうなア。コーエデュケーシヤンの行はれてゐる今日、古い道徳に捉はれて、夫婦別あり、男女席を同うせずなどと、旧套語をふり廻したり、門閥結婚、強圧結婚、無情結婚、自分以外の者が定める結婚などの迷夢は醒まされたであらうなア』
ヱクス『決して御心配なさいますな。お父さまはジュネス・アンテレック・テーエルですよ。キヨロキヨロしてゐると、貴方よりも遥かに新しうなられますからな』
ハルナ『さうすると、僕のゲツティング・マリドに就ては決して干渉せないと云ふ御方針だな。今迄お前達の云つて居つた、アメージング・マリーヂな事を強られると、俺のやうな文明人士はサイキツク・トラウマを来し何時の間にか、ヒステリックになつて了ふ。今日の親はすべてを其子の自由意志に任すのが賢明なる親たるの道だからなア』
ヱクス『実に貴方は明敏な頭脳の持主ですな、此親にして此子あり、イヤ早、此頑固なヱクスも恐れ入りました。付いては貴方が理想の妻となさる御方はきまつて居りますか』
ハルナ『きまつたでもなし、きまらぬでもなし、今熟考中だ。何ぞ好い機会があつたらお前に相談してみたいと思つてゐたのだが、何分今迄のお前と俺とは思想上の距離が余り甚しいので、つい言ひ出しかね、今日迄煩悶苦悩を続けて来たのだよ』
ヱクス『ハハハ、そんな御心配がいりますか、娘が乳母に打あけるやうに、私は左守家の家令で厶いますから、万一お父さまが亡くなられた後は、貴方の直接の御家来、どんな事でも、腹蔵なく仰有つて頂きたう厶います。心の秘密を家令の私にお打明けなさらぬとは、実にお水臭い御心根、ヱクスはお恨み致します』
とワザとに袖に空涙を拭ふ。ハルナは得意になり、
ハルナ『ヤア、そんなら打明かすが、実の所は右守司の妹カルナ姫とゲッティング・マリドの予約が出来てゐるのだ』
ヱクス『エツ、何と仰せられます、あのカルナ様と情約締結が整うたと仰有るのですか……ヘーエ……何と貴方も辣腕家ですな。此ヱクスもゾツコンから感服致しました。ヤ、大におやりなさいませ、双手をあげて家令のヱクス賛成致します』
ハルナ『お前は賛成してくれても、肝心要の父上の御意思を伺はねば、まだ安心する所へは行けない、よく考へて見よ。右守左守両家の暗闘は時々刻々に激烈になつて来てゐるのだからなア』
ヱクス『貴方にも似合ぬ事を仰有いますなア。両家の暗闘は暗闘だありませぬか。人生に取つて肝心要の、それが為に、結婚問題までも犠牲にするといふ事がありますか、ソレヤ問題が違ひますよ。キツトお父上も此問題に就いては賛成遊ばすことは受合です。貴方の決心が定まれば、一時も早く、及ばず乍ら此ヱクスが斡旋の労をとらして戴きます。御安心なされませ』
 ハルナはさも嬉しげに、包みきれぬやうな笑を頬に泛べて、恥かしげに俯いた。ヱクスはしてやつたりと、心中に頷き乍ら、
ヱクス『ハルナ様、善は急げで厶いますから、直様お父上に申上げ、先方に掛合ふ事に致しませう』
とイソイソとして、此場を立出で左守司の居間に一伍一什を報告すべく進み行く。
 後にハルナは天にも上る心地して、
ハルナ『あああ、時節が来たかなア、よく開けた父上だ。盤古神王様、何卒此恋が完全に成就致します様に、守らせ玉へ、幸ひ玉へ、惟神霊幸倍ませ惟神霊幸倍ませ』
と合掌し、結婚の成立を祈願した。天井から鼠がクウクウクウ チウチウチウ チーチー ドドドドド、バタバタバタと鳴き乍ら走る声が聞えて来る。
(大正一二・二・一二 旧一一・一二・二七 於竜宮館 松村真澄録)
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