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文献名1霊界物語 第59巻 真善美愛 戌の巻
文献名2第1篇 毀誉の雲翳よみ(新仮名遣い)きよのうんえい
文献名3第2章 歌垣〔1502〕よみ(新仮名遣い)うたがき
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグリュチナント(リュウチナント) データ凡例 データ最終更新日2020-05-22 17:01:47
あらすじ
キヨの港の関所の総取締であるキャプテン・チルテルの留守宅では、チルテルの妻チルナ姫が、部下のカンナとヘールを呼んで、ひそびそ話をしている。

この頃、チルテルが美しい女を奥の別室に招き入れたので妻のチルナ姫は悋気を起こし、部下の二人に、女を口説いてチルテルから引き離すようにと命じていたのであった。

カンナとヘールは、チルナ姫にうまく丸め込まれ、女を口説こうと庭園を縫って奥の別室に近づいたが、いざとなると心がドギマギして戸を開けることができない。

ヘールとカンナは歌を歌って美人の気を引くことにした。二人はおかしな手つきで一生懸命、滑稽な歌を歌い始めた。

美人が戸を開けると、二人の軍人が尻をまくって滑稽踊りをやっている。美人は戸を開けて二人を室内に招き入れた。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年04月01日(旧02月16日) 口述場所皆生温泉 浜屋 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年7月8日 愛善世界社版24頁 八幡書店版第10輯 493頁 修補版 校定版25頁 普及版 初版 ページ備考
OBC rm5902
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本文  キヨの港の関所の総取締チルテル・キャプテンの留守宅にキャプテンの妻チルナ姫は、リュウチナントのカンナと、ユゥンケルのヘール三人が密々首を鳩めて何事か小声で囁き居たり。
チルナ『これ、カンナさま、ヘールさま、此頃の旦那様の様子は、チツと変だとは思ひませぬか』
カンナ『さうですな、奥様の前だから申上げ難う厶いますが、此頃は余程旦那様も怪しうなられた様ですわ。のうヘール』
ヘール『ウン、さうだな。併し乍ら吾々卑しき者が上官の行動に就いて云々する権利はないからのう』
チルナ『これ、ヘールさま、公務上の事は兎も角も、今日は私事に関して打解けて話をして居るのだから旦那様の事だつて、矢張り、よくないと思つたら妾に忠告して呉れるのがお前の役ぢやないか。お前から云ふ事が出来なければ妾が又機嫌の可い時を見てお話するから、気の付いた事があれば遠慮は要らぬ、トツトと云ふて下さい。如何なる英雄豪傑でも女房が確りして居らねば成功するものぢやありませぬよ』
カンナ『如何にも、奥様の仰有る通り、どんな難問題でも裏口からソツと這入つて奥様の御機嫌さへ取つて置けば、直に解決がつくものだ。表の玄関口から這入つて来る奴は官海游泳術を知らぬものだ。一寸裏口からソツと奥様の気に入りさうな反物や宝石等を持ち込みて置くと、屹度出世の出来るものだ。何と云つても裏に女性がついて居らなくては、世の中で成功する事は出来ないからな。アハヽヽヽ』
チルナ『これ、そんな事は如何でも宜い。お前等、奥の別室に一絃琴を朝から晩まで弾じて居る、彼の女を何と思ひますか』
カンナ『さうですな。第一私は、それが不思議で堪らないのですよ。朝から晩まで座敷を締めきつて、琴ばつかり弾じて居る美しい女は、まだ吾々にも一言の挨拶もした事もなし、旦那様とニタニタ笑ひ乍らコソコソ話をやつて居るのです。そして肝腎の奥様にも挨拶せないのだから、怪ツ体なものだと思ひますワ』
ヘール『ウン、あれかい。ありや旦那様に聞いて見たら、「あの方は天上からお降り遊ばしたアバローキテー・シュヷラ様だ。バラモン教を守護の為にお降り下さつた天人様だ」と仰有つて居られました。奥様、必ず御心配なさいますな、失礼乍ら、よもや嫉妬をなさる様な卑屈な事は厶いますまいな。嫉妬は婦徳を汚す最も恐るべき悪魔で厶いますからな。あの方はトライロー・キャボクラーの救世主だと云ふ事ですから、うつかり穢れた身魂のものが側に寄つては大変です』
チルナ『何程、観自在天様か知らぬが、矢張先方が美しい女の肉体を以て、自分の主人と喋々喃々と甘つたるい口で話してゐるのを聞くと、余り宜い気分がしないぢやないか』
ヘール『成程、奥様の立場とすれば、そんな気分にお成り遊ばすのも無理も厶いますまい。併し乍らそこが辛抱と云ふものです。まアまア暫らく様子を考へて御覧なさい。あの品行方正な旦那様が立派な奥様があるのに女を引張り込むだり、なさる様な筈が厶いませぬワ』
カンナ『おい、ヘール、さう楽観は出来ないよ。男と云ふものは女に掛けたら目も鼻も無い者だ。況して天下無双の美人、年も若し、肌は紫磨黄金色、愛嬌たつぷり、何処から見ても三十二相揃ふた、欠点のない女菩薩だから、如何なる強骨男子もあの一瞥にかかつたら忽ち章魚の様に骨も何もなくなつて了ふからな。頭の先から足の先までスヴァラナやルーブヤや、ブラヷーザ、バヅマラーカ、マニラツナ、ムサラガルワ、アスマガルタと云ふ様な七宝を鏤め一目見てもマクマクする様な、あのお姿、木石ならぬ人間として、どうして心を動かさぬものがあらうかい。実に奥様、御注意なさらぬと険難で厶いますよ。うつかりして居ると、「チルナ姫は夫に愛がないから、今日限り暇をやる」なぞと何処から低気圧が襲来するやら、地震、雷、火の雨の大騒動が勃発するやら分りませぬぞえ』
チルナ『如何にもカンナさまの御観察は違ひますまい。何とか二人さま、よい考へは浮むで来ないかな。実はあの女が此館へ来てから神経が興奮して一目も眠られないのよ』
カンナ『成程、奥さまのお目が血走つて居ますわ。用心せないとヒステリックになりますよ』
チルナ『そらさうだとも、何時自分の不幸の種となるかも知れない美人だから、妾だつて安心が出来さうな事がないぢやないか。あの方は決して観自在天でも文珠師利菩薩でもありませぬ。矢張り普通の人間だ。旦那様がそんな巧い事云つてお前等を誤魔化して厶るのだ。何卒今の間にお前等の考へで、あの女をどうか口説き落し、旦那様の鼻を明かして、思ひ切らして下さる訳には行きますまいかな』
カンナ『ヘー、そりや願ふてもなき御命令、直ちにお受け致し度いは山々で厶いますが、そんな事をして旦那様の御機嫌を損ねやうものなら、それこそ足袋屋の看板で足上り、忽ち風来者になつて了ふぢやありませぬか』
チルナ『ホヽヽヽヽ、何とまア、お前さまの魂も時代遅れだな。リュチナントの職名を剥がれるのが、それ程恐ろしいのかい。よう考へて御覧、あの様なナイスをお前さまの女房にしようものなら、それこそ天下に名が揚り、ゼネラルよりも尊敬されるやうになりますよ。あの体に着いて居る宝石を一つ金にしても一代安楽に暮されるぢやないか。あんな美人を見す見す見逃す位なら男を廃業なさつたが宜からう。男は決断力が肝腎ですよ』
カンナ『成程、さう聞けば食指大いに動いて来ました。併し、私も、もう十年許り辛抱して、せめてカーネルの地位に上り、郷里に錦を飾り代議士の候補者にでもなつて巧く当選し、議事壇上で花々しく言霊戦を開始し、天晴政治家と褒められ様と思つたのですが、ここは一つ思案の仕所ですな』
チルナ『議場雑沓議員や、矛盾議員、着炭議員、事故議員、陣笠議員、墓標議員、等と国民から冷評を浴びせかけられ、痺れケ原の糞蛙と云はれるよりも、あんなナイスを女房に持ち総理大臣の裏口からソツと出入させてお髯の塵を払はせ、伴食大臣にでもなる方が余程出世の近道だよ。陣笠になつた所で到底知事にもなるこたア出来やしない。先づ出世をしようと思へば、あの位の美人を女房に持つのだな』
ヘール『もし奥様、此ヘールは予算外で厶いますか。カンナが、あの美人を女房に持つのならば私も持ち度う厶います。一人の女に二人の男、どうも平衡がとれぬぢやありませぬか』
チルナ『そこはお前さま等が選挙競争でもやつて、うまく当選するのだな。負た処で運動が足らないのだから諦めるより仕方がない。又次期の総選挙を待つて、やり直せば可いのだから』
ヘール『もし、その運動方法は如何すれば可いのですか。何と云つても先方は天下無双の美人、そして宝は何程でも持つてゐるのだから、黄白を以て歓心を得る事は出来ないし、男前でゆかうと思へば零なり、弁舌は巧くなし、到底寄りつけないぢやありませぬか』
チルナ『さア、そこが選挙は水物と云ふのだ。縁は異なもの、乙なものと云つて、女は妙な所に惚れるものだから、一つ憖に知恵を出して内兜を見透かされるよりも、力一杯滑稽を演じて女の腮を解き、「何とまア調子の宜い人だな、余程チヨカ助だ、斯んな男と添ふて居つたら嘸面白からう。妾一人でこんな所でコードを弾じて居つても面白くない。久振りで腮の紐も解けた。何とまア好いオツチヨコチヨイだ」と思はせるのが一番近道だよ』
ヘール『ヘー、生れつき無粋な私、滑稽なぞは到底出来ませぬわ』
カンナ『や、好い事を教へて下さつた。滑稽諧謔、口をついて出ると云ふチーチャーのカンナさまだから勝利疑ひなし、さア之から一つ逐鹿場裡に立つて烏鷺を争ひませう。エヘヽヽヽヽ、もし、当選したら奥さま、何を奢つて下さいますかナ』
チルナ『当選した方から奢つて貰はなくちやならぬぢやないか。そして落選した方には妾が慰安料として一生食へる丈けのお金を上げませう。さア之から二人寄つて精一杯ベストを尽して下さい。早くやらなければ旦那様が帰つては駄目になりますよ。アヅモス山にでも引張り出して、巧く要領を得るのだな。勝てば結構、負ても結構、こんな甘い選挙競争がありますか。さア勇むでやつて下さい』
カンナ『はい、然らば仰せに従ひ捨身的活動を御覧に入れませう。おいヘール、貴様も俺の暫らく艶敵となつて逐鹿場裡に立つのだ。時遅れては一大事だ。さア行かう』
と二人は庭園の樹木の間を縫うて美人の居間に胸を躍らせ乍ら近づいた。何だか心がドギマギして、戸を開けて這入る事が出来ない。二人はモジモジし乍ら庭の木立に立つてコソコソと囁いて居る。
カンナ『おい、此処迄来るは来たものの、何だか恥しくて頬が赤くなつて、あの戸一枚開ける勇気が出なくなつたぢやないか。男も斯うなると弱いものだな』
ヘール『さうだ、到底正面攻撃は駄目だよ。ここで一つ二人が歌でも唄つて、品よう踊らうぢやないか。そしたらナイスが窓を開けて、あの涼しい目付で覗いて呉れるかも知れない。さうなりや、此方のものだ。其時ヤ一生懸命にラブ・イズ・ベストを唄ふのだ。屹度先方だつて血が通ふて居る水の垂る様なボトボトとした盛りの肉塊だから、屹度動くに違ひない。それより良い方法は無からうぢやないか。オツト失敗つた。こんな妙案奇策を政敵のお前に聞かすぢやなかつたに』
と云ひ乍らヘールは窓の外にて黒い尻を捲り妙な手付で唄ひ踊り狂ふ。
ヘール『俺は印度のハルナの育ち
   こんなナイスは未だ知らぬ
  ヨイトサヨイトサ、ヨイトサのサツサ。
 夏の暑いのに一間に籠もる
   さぞや暑からう淋しからう
  ヨイトサー ヨイトサー。
 人は如何しても一人ぢや暮れぬ
   女ばかりぢや夜が明けぬ。
 男持つならヘールさまを持ちやれ
   顔に面痤がこの通り
  ア、ヨイトサー ヨイトサー』
カンナ『男持つならカンナさまを持ちやれ
   リュウチナントの軍人よ
 ヘールは偉さうに威張つて見ても
   ユウンケルでは仕様が無い。
 ここに厶るのは天女か又は
  三十三相の観音さまか
    一度お顔が拝み度い。
 吹けよ夏風上れよ簾
   中のナイスの顔見たい
  ア、ヨイトサー ヨイトサー。
 女旱もない世の中に
   惚れて出て来る粋な男。
 此男色が黒うても浅漬茄子
   噛めば噛む程味が出る
  ア、ヨイトサー ヨイトサー。
 これ丈けに二人男が心を尽し
   踊り狂ふのを知らぬ姫。
 一絃の、琴の音色に俺や憧憬れて
   ピンピンシヤンシヤン撥ね廻る
  ア、ヨイトセー ヨイトセー。
 ヘールさま一つお前が皺嗄れ声で
   姫の腮をば解いて呉れ。
 勝つも負るも時世と時節
   負た所で金になる』
ヘール『カンナさまもう此上は惟神
   神のまにまに任しませう。
 三五の神の教に照らされて
   バラモン教が嫌になつた。
 こう云へば屹度ナイスが窓開けて
   俺の黒い顔見るであらう。
  ア、ヨイトサー ヨイトサー。
 これ程に唄ひ踊れど此ナイス
   耳が無いのかぢれつたい。
 月はテラテラ テルモン山の
   峰を掠めて昇り行く。
 星の顔より綺麗なナイス
   月の様なる光出す
  ア、ヨイトサー ヨイトサー。
 宝石を体一面ピカピカと
   誰も欲しがる着けたがる。
 月にや村雲花には嵐
   カンナ、ヘールの雲が出る。
 紫の雲の中より現はれた
   二人男の此踊り。
 棚機も年に一度の逢う瀬はあるに
   何故に渡れぬ恋の橋』
カンナ『惟神神のまにまに唄歌ふ
   開けて嬉しい姫の顔。
 窓開けて庭の面を見やしやんせ
   罪な男が二人居る。
 チルナ姫、角を生してブツブツ叱言
   云ふに云はれぬ訳がある。
 トントンと叩く妻戸を開けて呉れ
   棄てた男ぢや無い程に』
 二人の歌の声を聞いて一絃琴の手を止め、美人は耳を傾けて暫らく様子を考へて居た。
カンナ『一絃の琴の音色がピツタリ止んだ
   思案投首窓の中』
ヘール『さア〆めた閉めた障子をサラリと開けて
   観音菩薩が今覗く。
 その時は互に顔の整理して
   男比べをせにやならぬ
  ア、ヨイトサー ヨイトサー』
 美人は連子窓の障子をサツと開けて庭の面を見渡せば、チュウリック姿の両人が臀部を現はし、滑稽踊をやつて居る。
美人『庭の面を見れば怪しき人の影
  胸は躍りぬ人も踊りぬ。

何人か知らず妾の窓前に
  踊り狂へる姿可笑しき。

面白き唄を唄ひて面黒き
  人が手を拍ち舞ひ狂ひけり』

カンナ『村肝の心のかぎり真心を
  尽して君を慕ひ来にけり』

ヘール『今更に驚かれける汝が面
  月の顔花の姿に』

美人『如何にせむ天津乙女の妾なれば
  人の恋をば入るる術なき』

カンナ『いぶかしや人の体を持ち乍ら
  天津乙女と免れ給ふか。

 吾も亦高天原の天人の
  霊魂を受けし益良夫ぞかし』

ヘール『此男人の頭を削る奴
  それ故名をばカンナとぞ云ふ』

カンナ『此男酒ばかり飲みて財産が
  日向に氷ヘール馬鹿者』

美人『兎も角も珍の益良夫吾居間へ
  進ませ玉へ勧め参らす』

カンナ『惟神姫の言葉に従ひて
  進み入らむか君の御前に』

ヘール『今こそはラブ・イズ・ベストを振翳し
  登竜門を安々潜らむ』

美人『兎も角も優しき二人の益良夫よ
  吾前に来よ心安けく』

カンナ『思ふたよりいと安々と門の戸を
  打開け玉ひし姫ぞ畏き』

と詠ひ乍ら表門をガラリと開け、何となく手足を微動させつつ、美人の前に恥しげに座を占た。
(大正一二・四・一 旧二・一六 於皆生温泉浜屋 北村隆光録)
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