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文献名1霊界物語 第64巻上 山河草木 卯の巻上
文献名2第1篇 日下開山よみ(新仮名遣い)ひのしたかいさん
文献名3第1章 橄欖山〔1630〕よみ(新仮名遣い)かんらんざん
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2017-11-25 17:24:46
あらすじ
主な人物スバツフオード(スバッフォード)、マグダラのマリヤ 舞台アメリカン・コロニー 口述日1923(大正12)年07月10日(旧05月27日) 口述場所 筆録者出口鮮月 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年10月16日 愛善世界社版7頁 八幡書店版第11輯 379頁 修補版 校定版7頁 普及版 初版 ページ備考
OBC rm64a01
本文のヒット件数全 2 件/橄欖山=2
本文の文字数3969
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本文  エルサレムの郊外にアメリカン・コロニーと云ふ宏壮な建築物があつて、雲を圧して聳え立つて居る。今より四十年ばかり以前に、アメリカからスバツフオードと云ふ猶太人が、基督の再臨が近づいて、その場所は橄欖山の頂上だといつて基督を迎へる準備のために来て居つたのが抑の始りで、其後は国籍や人種の異同を問はず、基督再臨を信ずる人々が是に加はつて、自分等の財産を全部提出して共同生活を行つて居る。各自がその分に相応して働いて得た利益は、之を共同生活の為に使用すると云ふ基督教的の精神に基く一つの団体が組織さるるに致つた。その創立の最初には、人々は非常に狂信的で、自分の年頃になつた時も結婚さへしなかつたものだが、現時は人々の考へ方が余程自由になり、団体員の中で結婚をする様になり、幾組かの家庭が出来て今の団体員は第二の時代の人々である。全体で約壱百人ばかりで、互に兄妹と呼び合つて居る。国籍は種々で、一番に多いのがスエーデン人である。そしてアメリカンコロニーと云ふ名称が附されてある。創立者が亜米利加人であつたから此名を附すことになつた。現今ではアメリカ人は数名に過ぎない。ユダヤ人は十数名集つて居る。
 創立者の子息スバツフオードは熱烈な信仰者で、マグダラのマリヤと云ふ猶太人の婦人が加はつて居る。この婦人は、殆どスバツフオードと相並びて、アメリカンコロニーの牛耳を採り大活動を続けて居る。そして三十歳を過ぎたるにも拘らず独身生活をやつて居る。この団体員は、何れも身の一切を主の神に任せ切つて居る態度と云ひ、人類に対する愛の発現と云ひ、到底他で見る事の出来ない美しさである。凡ての猶太人は、この神の広い教旨を聞いて居るに関はらず、民族的偏見に囚はれ、彼等は特有な、いい意味のヂレツタント的の性質から此の域まで深く達し得る者の少いのに、彼団体員は神意を克くも体得し、抱擁帰一博愛平等の大精神を有して居る公平無私な態度には、感歎せざるを得ないのである。
    ○
 スバツフオードは朝早くから、一間に立籠り熱心に神の宣示を祈つて居る。そこへマグダラのマリヤが、少し顔色を赤らめながら忙しげに走り来たり、両手を突いて、
『聖師様、妾は何だか昨夕から身体の様子が変つて来た様で御座いますが、一つ何神の帰神なりや、ただしはサタンの襲来なりや、厳重なる審判神をして戴き度う御座います』
 聖師はマリヤを一瞥して、眉をひそめながら、
『成程、貴女は御様子が変ですよ。どうれ、私が及ばず乍ら審神者を勤めさして頂きませう。随分強烈な感じ方ですわ』
 マリヤは、
『何分よろしく御願ひ申上げます』
と言つた限り、聖師の前に座を占め両手をキチンと胸のあたりに組合せ、
『この方は大黒主の神、八岐大蛇の守護神であるぞよ。汝スバツフオードよつく聞け、メシヤの再臨を夢想して、今日まで殆ど四十年間数多の愚人を誑惑し来つた横道者奴、メシヤなぞがこの聖地に降つて何になるか』
『是は怪しからぬ。汝は今自白いたした八岐大蛇の化神悪神の張本、吾が言霊の神剣の威力を知らぬか』
『アハヽヽヽ、今此方が憑依して居るマリヤなるものは、汝と同様に無智迷矇の婦人到底度し難き代物なれ共、憑るべき身魂なき故に、不満足ながらも此方が御用に使つたのだ。この婦人はユダヤの生れ、神の選民と申して威張つて居るに由つて、懲しめの為この肉体を臨時苦しい用に使つたのだ。其方も東方の星とか、メシヤが日出島より再臨するとか申して、夢幻の境遇にさまよふ馬鹿者、この方の託宣を耳を洗つて謹みて承はれ。今より三千年以前に、パレスチナの本国を他民族に奪はれ、世界到る処に於て虐げ苦しめられ、無籍者の癖に吾々は天の選民なりと主張し、メシヤを待ち望みて居るではないか。左様な根拠もなき妄想に耽るよりも、心を改めてこの方の言葉を承はり、汝ら民族のために全力を尽す心はなきや』
『現代の如き常闇の世となれば、到底今日までの宗教や政治の行り方では駄目だから、吾々は大聖主メシヤの再臨を待つて居るのだ。聖書の中にも、吾々猶太民族が天下を支配すべき神権を保有することは明かに示されてある。故に吾々はこの予言の実現すべきことは確信して居る。然し乍ら、この世界は神の保護を離れては無事泰平なることは出来得ない。就ては超人間的の大偉人即ちメシヤが現はれなくては如何とも成すことは出来ない。それ故に吾々は神を信じ神を愛し、何事も惟神に任せて行動して居るのだ。汝何れの魔神かは知らねども、吾々の信仰に対して妨害を加へむとするか。悪神の覇張つた世の中は今迄の事だ。今日は最早メシヤ再臨の時期に近づいたのだから、悪神の出て威張る時ではない。一時も早くマリヤの肉体より退出いたせ』
と威丈高に詰問すれば、マリヤの憑霊は大口開けて高笑し、
『アハヽヽヽ愚なり汝スバツフオード、汝の四十年来待ち焦れて居るメシヤと称するものは、無抵抗主義を標榜せる瑞の御霊と申す腰抜人物だ。この方の幕下の神のために散々に苦しめられ、聖場を破壊され、身の置き所を失つて仕方なしに、此パレスチナの国へ逃げ来たらむとして居る狼狽へものだ。手具脛曳いて待つて居る大黒主山田颪の此方の縄張内へウカウカ来る大馬鹿ものだ。左様なものをメシヤと称して待つて居る其方等の心根が可憐しいわい。アハヽヽヽ、兎角現世は権力と金の世界だ。黄金万能主義だ。世界の富を七分まで占領いたして居るユダヤ人は大黒主の何れも幕下だ。汝は同じユダヤに生を享けながら不心得千万、高砂島のメシヤを待望するとは何の事真正のメシヤはこの方山田颪様だ。世界の所在強大国を片端から崩壊させたのは、皆この方の三千年来の経綸の賜だ。今にモ一つの高砂島を崩壊すれば、三千世界は大黒主山田颪の意の儘だ。諺にも時の天下に従へ、長いものには巻かれよと申すではないか。三千年以来結構な神の国をキリスト教国に占領せられ、神の選民は所在軽蔑と迫害とを蒙つて来たユダヤの元の聖地を取返したのも皆此方が経綸の現はれ口、サア是よりは山田颪様の天下だ。汝等も今の間に改心致してメシヤ再臨の妄想を止めないと、軈ては呑噬の悔を遺すであらう』
『吾々は国籍は仮令ユダヤに置くとも、真の神の選民である。汝等の如き悪神の選民では無い。今日のユダヤ人は真の神を忘れ汝如き邪神の幕下となり、体主霊従的行動を以て、九分九厘まで世界を惑乱いたして来よつたが、モハヤ悪神の運の尽きだ早く改心致したが良からうぞ』
『テモ扨ても愚鈍な奴だなア。汝は愛国心のない大痴漢だ。汝等の祖先は何れもキリスト教国に圧迫され、アラビヤの荒野に四十年の艱苦を嘗めた事を知らぬか。今迄は彼のキリスト教国の天下であつたが、世は廻り持ちだ。何時までも持ち切りには為せられないぞ。今に山田颪の守るユダヤ民族が全世界を支配いたすのだ。丑寅の金神なぞが種々と此方の仕組の邪魔を致したるに由つて、高砂島へ追ひやつたのも一つの仕組だ。大江山の酒呑童子と現はれて、一時活動を続けたのも矢張り此方大黒主山田颪様だ。然し乍ら時期未だ来らずと感じ、一旦引揚げ、このパレスチナに於て万事抜目なき計画を廻らし、漸くパレスチナの本国を手に入れた以上は、如何に天下広しと雖も、モハヤ此方の自由だ。シオン団の活動も、ユダヤ民族の熱烈なる信仰力も皆この方の守護のためだ。アハヽヽヽ』
『シオンとは日の下又は日向と云ふ意味では無いか。日の下は神の国だ。その神の国は高砂島だ。神の国よりメシヤを迎へるのは当然ぢやないか。其方の言葉は実に自家撞着の甚だしきものだ。最早吾々に用は無い。早くマリヤの肉体より脱出いたさぬか』
『アハヽヽヽ日の下とは即ちパレスチナの事だ。太陽は東より昇り、中天に来た所を日の下といふではないか。高砂島は東の国即ち日の出島だ。世界の中心は太陽の真下だ。試みにパレスチナを中心として、約七千哩、八千哩の半径を以て大きな円環を引廻して見よ。八千哩東に当つて高砂島がある。西八千哩にメキシコあり、北六千八百哩に、ナウルエーが皆這入つて居る。世界に於ける国と云ふ国は皆この円環の内に這入つて居る。斯る尊きパレスチナこそ世界の中心だ、日の下だ、日向の国だ。爰に国を建てたのは即ち此方の仕組だ。何を苦みて、高砂島から雲に乗つて来るとかいふキリスト教の神を待つ必要があるか。馬鹿だのう』
と怒鳴り立てる。
 聖師は一生懸命に大神に祈願をなし、天津祝詞を奏上するや、流石の大黒主山田颪も聖師の言霊の威力に打たれマリヤの肉体を其場に倒して逃げ去つて了つた。マリヤは初めて正気になり、
『聖師様、妾には何だか憑依して居たやうで御座いましたなア。善神でせうか邪神でせうかなア』
『イヤ最う、大変な元気な事を言ふ神で御座いましたが、私の祈願に依つて漸く貴女の体を退却しました。油断のならぬことに成つて来ました。悪神の仕組も余程進みて居りますから、吾々団員は余程しつかり致さねばなりませぬ。然し乍ら誠の大神様が邪神と化つて、吾々の信仰をお試しになつたのでは有るまいかと俄にソンナ気分になつて来ました』
『吾々は何処までもメシヤの再臨を信じて父祖以来待つて居るのですから、今になつて心を変へることは到底出来ませぬからなア』
『左様です。お互にその心で居りませう』
『聖師様、妾は何だか俄に橄欖山へ登りたくなりましたから、一寸参拝して参ります。何だかメシヤ様に遇はれる様な心持がいたしますから』
『貴女は平素から立派な霊感者だから、何か神様の御都合があるのかも知れませぬ。早く参つてお出でなさいませ』
『ハイ有難う。後は宜敷くお願ひいたします』
といそいそとして軽装の儘、エルサレムの停車場へと知らず知らず何ものにか引かるる心地して駅前に着きける。
(大正一二・七・一〇 旧五・二七 出口鮮月録)
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