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文献名1霊界物語 第64巻上 山河草木 卯の巻上
文献名2第4篇 遠近不二よみ(新仮名遣い)えんきんふじ
文献名3第18章 新聞種〔1647〕よみ(新仮名遣い)しんぶんだね
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-05-24 12:11:23
あらすじ
主な人物バハーウラー、サロメ、ブラバーサ 舞台バハイ教のチャーチ 口述日1923(大正12)年07月13日(旧05月30日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年10月16日 愛善世界社版210頁 八幡書店版第11輯 456頁 修補版 校定版210頁 普及版62頁 初版 ページ備考
OBC rm64a18
本文のヒット件数全 1 件/橄欖山=1
本文の文字数2833
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本文  ヨルダン河の河縁に新しく建つたバハイ教のチヤーチがある。そこには、バハーウラーが足を止めて、各国人に対し、バハイ教を宣伝してゐた。次から次へ聞き伝へて救世主の再臨の如く、聖地に集まる各国人はその教を聴かむと、昼となく夜となく可なりに集まつて来た。サロメもヤコブとの恋愛関係より両親と意見合はず、此チヤーチに隠れてバハイの教を研究してゐた。
 ヨルダン河は朝霧立ち昇り、余り広からぬ向ふ岸の樹木さへも見えない迄に濃霧に包まれてゐる。川べりの窓をあけて水の流れを打見やりながら、バハーウラーと共に世間話に耽つてゐる。サロメは、
『聖師様、此世の中に最も幸福な人と云へば如何なる人で御座いませうか』
『一般の人は一国の主権者となり、或は貴族生活をして道を行くにも馬車自動車に乗り、何一つ不自由なく安楽に暮す者を最も幸福者として居りますが、私なんかは、世界人類を救済する聖き神の使となる位、世の中に幸福な者はないと思ひます。そして夫婦睦まじく、二三人の子を生んで其子も親も同じ神さまの道に、一身を捧げて信仰する人の家庭位幸福なものはなからうと考へます』
『成程、妾も御存じの通り、貴族の家に生れ、ウルサイ虚礼虚式に束縛され、少しも自由の行動は出来ず、殆ど慈悲の牢獄に投ぜられたやうなもので御座いました。其苦痛に堪へかねて、筆墨に親み、下らぬ小説を書いたり歌などをよんで、悶々の情を消さむと努めてゐましたが、小説を一つ書いても身の生れが貴族の為に、あちらにつかへ、此方につかへ、思ふやうに筆を走らすことも出来ないので、本当に人生貴族となる勿れといふ言を深く味はひました。それから無理解な親兄弟の圧迫によつて、素性卑しき毘舎の妻として追やられ、十年が間あるにあられぬ苦痛と不愉快を忍んで参りましたが、とうと居たたまらなくなつて、毘舎の家を飛び出し、自分に同情をしてくれる男の方へ走つたので御座いますが、之も又ウルサイこつて御座います。どうしたら天下晴れての夫婦になれるであらうかと、いろいろと心を痛めましたが、モウ此上は神様のお力を借りるより仕方がないと存じまして、バハイ教の教を信仰することになつたので御座います。本当に不運な生付で御座います』
『成程、貴女のお考へも強ち無理ではありますまい。併し乍ら今日の世の中は分らずやが多くて、誤解する者ばかりですから、余程心得なくちやなりますまい。あなたもシオンの女王として随分新聞紙に喧しく書き立てられましたなア』
『世界中へ醜名を拡めてくれました。ルートバハー教のウヅンバラチヤンダーさまと東西相並んで新聞種の巨壁となりましたよ。オホヽヽヽ』
『あなたが普通の平民の生れであつたならあれ位な事は、六号活字で人の気のつかないやうな所へ、ホンの二行か三行のせるのですけれど、何と云つても伯爵家のお嬢さまだから新聞屋の阿呆奴が、針小棒大に書き立てたのでせう。ウヅンバラチヤンダーさまだつて、やつぱり、ルートバハー教といふ背景がなければ、あれ程喧しくならなかつたでせう。本当に新聞記者位悪い奴はありませぬなア』
『新聞記者に狙はれたが最後、助かりつこはありませぬよ。丸で胡麻の縄の様なもので、何処へ隠れて居つても探し出して、おマンマの種を拵へやうとするのですからねえ』
『時にサロメさま、此頃日出島から、立派な宣伝使が聖地へ見えて居りますが、お聞及びで御座いますか』
『ハイ、存じて居ります。本当に立派な方で御座いますねエ』
『あなたは此処へお出になつてから殆ど二ケ月になりますさうですが、どこでお会ひになつたのですか。根つから貴女が其方にお会ひになる機会がなかつたやうに思ひますが……』
『ハイ、妾は橄欖山へ夜分にお参りする時、チヨコチヨコ山上や坂の途中に於て、お目にかかり、お話しもさして頂いて居ります。それ故あの方の人格も思想もよく存じて居ります』
 バハーウラーは微笑を泛べ乍ら、
『ヤコブさまに比べては、あなたどちらが良いと思ひますか』
『お尋ねまでもありませぬワ、ホヽヽヽヽ』
 かかる所へ『御免なさいませ』と言ひ乍ら受付に案内されて這入つて来たのは、ブラバーサであつた。ブラバーサは、
『これはこれは聖師様、此間は御親切にお尋ね下さいまして、有難う御座います。今日は折入つて、サロメ様に御相談致したいことがあつて、お伺ひ致しました』
『ヤ、よう来て下さいました。呼ぶより誹れとか云つて、今も今とて貴方のことを話して居つた所です。サロメさまに御用とあれば私は席を外します。どうぞゆつくりお話し下さいませ、……モシ、サロメさま、ヤコブさまのことを忘れちや可けませぬよ』
とニツコリと笑ひ、気を利かして此場を立去りぬ。
『ブラバーサさま、能くマア訪ねて下さいました。一昨夜はエライ失礼を致しましたね。妾思ひ出しても恥しうなつて参りましたワ』
『イヤもう失礼は御互で御座います。併しサロメさま、今日参りましたのは外のことだ御座りませぬ、吾々の身の上に関して大変なことが起つて居るので御座います』
『大変とはソリヤドンナことで御座いますか。どうぞ早く聞かして下さいませ。何だか妾も胸が騒いでなりませぬワ』
 ブラバーサは眉をひそめ乍ら言ひ憎相にして、
『実の所は一昨夜の山上の活劇を三人のアラブがスツカリ見て居つたと見えまして、私の草庵を訪ね、一万両の金を出さねば、新聞へ出すとか言つて、強請に参りました。私だつて遠国から参つた者で御座いますから、夫れ程の大金は持つてゐる筈もなし、已むを得ず百両包んでやつた所、忽ち大地にぶつつけて、之から新聞社へ行つて二三万両の金を貰つて来る、さうすりやお前達四人はユダヤ人の怨府となり磔刑に会ふだらうと捨台詞を残して帰りました。グヅグヅしてゐて新聞にでも出されちや大変ですから、何か貴女によいお考はなからうかと御相談に参りました』
 聞くよりサロメは目を丸うし、面色迄変へて稍慄ひ声になり、
『ヤ、其奴ア大変です。何うしませうかなア』
『何うも仕方がありませぬ。恥し乍ら、何れ分ることですから、バハーウラーさまに一伍一什打あけて、何かよい智慧を借らうぢやありませぬか』
『だつてマサカ、ソンナ恥しいことが言へぬぢやありませぬか。あゝ困つたことですねえ』
 斯る所へ聖師バハーウラーは少しく苦々しい顔をし乍ら現はれ来り、
『モシお二人さま、都新聞の記者があなた方にお目にかかりたいと云つて参りましたが、何う致しませうかね』
『ハテ、困りましたねえ』
『モウ斯うなつては隠れたつて駄目でせう。此方の方から面会して、何もかも事情を云つてやりませう。それの方が却て良いかも知れませぬよ。新聞記者に隠れると、憶測で針小棒大に何を書き立てるか知れませぬからな』
 サロメは胴を据ゑて、
『ソンナラさう致しませう。聖師様、記者様をどうか此方へお出で下さる様に云つて下さいませぬか』
 バハーウラーは『宜しい』と諾き乍ら表へ出で行く。
(大正一二・七・一三 旧五・三〇 松村真澄録)
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