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文献名1霊界物語 第64巻下 山河草木 卯の巻下
文献名2第1篇 復活転活よみ(新仮名遣い)ふっかつてんかつ
文献名3第3章 草居谷底〔1809〕よみ(新仮名遣い)くさいたにぞこ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-05-25 07:41:56
あらすじ
主な人物お寅、守宮別、トンク、テク、ツーロ 舞台トンクたちのアジト 口述日1925(大正14)年08月19日(旧06月30日) 口述場所丹後由良 秋田別荘 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年11月7日 愛善世界社版35頁 八幡書店版第11輯 508頁 修補版 校定版36頁 普及版63頁 初版 ページ備考
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本文  トンク、テク、ツーロの三人は僧院ホテルの裏口から二人を担いだ儘、一生懸命に道路、田畑の嫌ひなくかけ出し、キドロンの谷深く川辺を伝ふて登り行き、雨露を凌ぐ許りの自分の借家へと持ち運び、手荒く二人を土の上に投げつけた。守宮別はこの間に殆ど酔も醒め、丸い目をギヨロづかせ、ウンと云つた限り、三人の顔を睨めつけて居る。お寅は勝気の女とて大地に投げつけられた際、腰骨をうち乍ら痛さを耐へて、
『こりや、三人のアラブ共、三千世界の救世主、底津岩根の大ミロク、日の出の神の太柱お寅さまの肉体を、お神輿さまとして、此処迄つれて来るのはいいが、なぜ下ろす時にも些と気をつけないのか、お神輿が些と許り損傷だぞよ、行儀も作法も知らない馬鹿野郎だなア。サア私を此処まで連れて来た以上は、何か深い計画があつてのことだらう。きつぱりと白状したがよい。何者に頼まれたかその訳を聞かう。これこれ守宮別さま確りせぬかいなア。何の為めの強力だいな。それだから無茶苦茶に酒を呑みなさるなと云ふのぢや。お前さまはお前さまとした所で、竜宮の乙姫さまの生宮は何をして居るのだらう、ても扨ても気の利かない人足許りだなア。こりやアラブ、早く神の前に白状致さぬか、神罰が当つて脛腰が立たぬやうにしてもよいか』
 トンクは、
『ハヽヽヽヽ。気違ひ婆、それや何アに吐してけつかる。誰にも頼まれはせぬ。貴様の懐中にもつて居るお金が目的ぢや。地獄の沙汰も金次第ぢやからキリキリちやつと渡したらよからう。グヅグヅ致して居ると生命が無いぞよ。一方の野郎は酒に喰ひ酔つて脛腰は立たず。高が婆の一人位、捻り漬すのは宵の口ぢや。金を渡さにや渡さぬでよい。勝手に取つてやる。サア覚悟せい』
と猿臂をのばして、胸倉をグツと掴む。お寅はその刹那足を上げてトンクの睾丸を力一ぱい蹴つた。トンクはウーンと云つた切り、地上に大の字となつて了つた。テク、ツーロの二人は吃驚してトンクを呼び生けようとする。其隙を考へて守宮別はテクの足をグイと引張り俯向にドンと倒す。お寅はツーロの首筋を鷲掴みにしながら挙骨を固めて六つ七つ撲り打ちに打ち据ゑる。ツーロはフラフラと眼が暈うて又もやばたりと其処に倒れて仕舞つた。
『サア、守宮別さま、其処の藤蔓をもつて動かないやうに、何奴も此奴も今の中に縛つておきなさい。これからこれ等三人を厳しく詰問してブラバーサの陰謀を白状さしてやらねばなりますまい。何と気味の善い事、遉は日の出の神の生宮だけあつて偉いものだらう。これ守宮別さま、日の出の神の生宮には感心したらうな、アラブの千匹万匹来るとも、このお寅が、フンと一つ鼻息するや否や、何奴も此奴もバタバタと東京のバラツクに二百十日の大風が吹いたやうにメチヤメチヤに倒れて了ふのだよ。日の出神様も聖地へ来てから、だんだん出世を遊ばし偉い御神徳の出来たものだ。もう此上は三千世界の救世主と名乗つても誰一人非難するものはあるまい、ヘヽヽヽ。てもさても愉快の事だわい。苦みの果には楽しみあり、万難を排して勝利の都に達するとかや。お前さまも些と酒をやめて心の底から私の云ふ事を聞くのだよ。僧院ホテルでお前さまは何と云ふ馬鹿気た演説をするのだえ。この私をブラバーサと同じやうに余り信じないと云つたぢやないか。肝腎要の参謀長がそんな考へをもつて居てどうしてこんな大望が成就しますか。些と心得なされ。余り云ふ事を聞かないと小北山のお寅さまぢやないが、鼻を捻ますぞや』
『イヤもう改心致しました。朝顔形の猪口がメチヤメチヤになつては耐りませぬからな、ウフヽヽヽ』
 トンクはウンウンと唸き出した。お寅はトンクの髻をグツと握り、
『これやトンク、恐れ入つたか。往生致したか。どうぢや、サア誰に頼まれた白状致せ』
『ハイ、ハヽ白状致します。どうぞ其手を放して下さい髪が脱けます』
『ぬけたつて何だ。お前の頭ぢやないか。肉と一緒にコポンと取つてやる積りだ。苦しきや白状なさい。魚心あれば水心だ。白状さへすれば今迄の罪は神直日大直日に見直し聞き直して許してやる。そして白状した褒美にお金をやるから、トツトと白状したがよからうぞや。かう見えてもこのお寅は、虎でもなければ狼でもない、三千世界の氏子を助ける生神様だからな。敵たうて来たものには鬼か大蛇になるお虎であるけれど、従つて来たものには結構な結構な大歓喜天の女神様ぢやぞえ』
『ハイ、白状致します。その代りにテク、ツーロの縛を解いてやつて下さい。私だけ助かつた所で仕方がありませぬから』
『これこれ守宮別さま、何んぢやいな、気楽さうに煙草ばかり呑みつづけて、ちつとお手伝ひをなさらぬか。気の利かねえ男だなア』
『到底神様のお手伝ひは人間として出来ませぬわい。マア悠りと見物でもさして貰ひませうかい。あた阿呆らしい。酒も無いのにこんな事を見て居られませうか、お寅さまも仲々気が荒いですなア』
『それや荒いとも、アラブの荒男を三人迄、荒肝を取つて荒料理をせうと云ふのだもの。随分霊験な神様だよ。これアラブのトンク、大略でよいから早く誰に頼まれたと云ふ事を白状せぬか。命取られるのが好いか。お金を貰ふのがよいか、どうぢや』
『実の所はお前さま所へ始終出入して居るヤクさまに頼まれました。ヤクさまが金を吾々三人に二十両宛下さいました。そしてお寅さまが剣呑になつて来た時は掻攫へて僧院の裏から何処かへ逃げて呉れと仰有つたのです』
『ホヽヽヽヽ、甘い事、どこ迄も云ひ含めたものだなア。ブラバーサの奴、反間苦肉の策をつかひよつて、ヤクに頼まれたなぞと、熱心の信者とこのお寅と喧嘩させようと思つて居やがるのだな。どこどこ迄も油断のならぬど倒しものだ。これやトンク本当の事を云へ。ヤクさまぢやあるまいがな』
『イエ滅相な有体の事を申します。御霊城の受付をして厶るヤクさまが、お前さまが僧院で演説をしられた時、聴衆の中へ入つて厶つて、あまり聴衆の人気が悪く殺気が立ち、お前さまを殺してやらうと迄ひそびそ相談して居たものが有つたので、ヤクさまが心配して、傍に居つた私等三人に大枚二十円宛をそつと懐中に入れ、どうかお寅さまと守宮別さまを担いで此場を逃げて呉れ。さうせぬとお二人の命が危いと囁きましたので、二十円のお金まうけにお二人さまを担ぎ出しました。さうするとお前さまの懐中に、ガチヤガチヤと余り沢山の金が入つて居さうなので、此処迄来てから二重儲けをせうと思つて、一寸ごろついて見たのですよ。何うか耐へて下さい。しかし吾々三人が無かつたらお前さまの生命が無かつたかも知れませぬよ。これが正直正銘一文の掛値のない所の白状で厶います』
『フーン、さうかいな。ても扨てもブラバーサと云ふ奴は剣呑な奴だな。矢張り彼奴が此生宮を殺さうと思つて、聴衆の中に暴漢を匿まひ置きよつたのだなア。これトンクさま、お前さまはブラバーサをどう思ひますか』
『さうですな、どうか頭を放して下さい痛くて仕方がありませぬわ。アイタヽヽヽヽ、痛いがな』
『余り話に身が入つてお前の頭をブラバーサだと思ひ、力一杯痛めたのは悪かつた、まア耐へてお呉れ。これも時の災難だからな。これこれ守宮別さま、話が分つた以上は、テク、ツーロの縛を解いて上げて下さい。話を聴いて見ねば分らぬものだ、ほんに気の毒だつたな。とは云ふものの三人が三人乍ら、俄にこのお寅を脅迫した罪は許されないから、痛い目に遇つたからといつて怒る事は出来まい、これで帳消だ。サアこれから改めてお前達三人と篤と相談をしよう』
『悪にかけたら抜目のない吾々三人、金になる事ならドンナ御相談にも乗ります。私だつてあのブラバーサには深い深い意恨が厶います。マリヤの奴を三人寄つて手籠になし、念仏講でもやり、楽しもうと思つて居た所へ彼のブラバーサが、仕様も無い歌を歌つて来たものだから、折角仕組だ芝居も肝腎の所でおジヤンになり、オチコ ウツトコ、ハテナの願望も遂げず、すごすごと吾家に帰つたものだから仲々伜のやつ承知をしませぬ、オチコ、コテノとなつて、マストを立てそれはそれは夜半大騒動五人組が駆け出すやら、泥水が出るやら、ヘヽヽヽヽン、いやもうラツチもない事でした、アハヽヽヽ』
『ウフヽヽヽ、ソンナ厚い唇で、真黒な顔して居つて色のこひの鮒のつて、些と食ひ過ぎて居るわい。併し乍らブラバーサとマリヤに対し、さう云ふ経緯があり意恨が残つて居るとすれば何うだ、反対派の吾々の仲間に入り、幾何でも金はやるからエルサレムの町に出て、ブラバーサ攻撃の大演説をやる気は無いか』
『ハイそれは合ふたり叶ふたり、大にやります。のうテク、ツーロお前達も賛成だらう』
『ウン尤もだ、テクさまの恋の敵のブラバーサ、力一ぱい面皮を剥いてやり、此エルサレム町に居れないやうにしてやるのも痛快だ、腹癒せだ、溜飲が下るやうだ。ようし面白い面白い、面白狸の腹鼓だ。喃、ツーロ、何程辛うても、エルサレムの通路を縦横無尽にテクついてブラバーサの罪状をトンクと市民に分るやうに、布留那の弁を揮つて吹聴仕やうぢやないか』
『ヤア面白い、大ミロクの生宮、日の出の神のお寅さまを大将軍と仰ぎ、守宮別様を参謀総長とし、エルサレムの町を三方四方から突撃と出かけようかい』
『これこれトンクさま、決してヤクに頼まれたなどと云ふちやなりませぬよ。ブラバーサに頼まれて、あんな悪い事を致しましたが、日の出の神の御神力に怖れて罪亡ぼしに白状致しましたと大声に云ふのだよ。分つたかな』
『ハイ、事実を曲げて云ふのは間違ひやすうて些と許りやり悪くて困りますが、マア成可く貴女の為になるやうブラバーサを攻撃致しませう』

お寅『ブラバーサ憎む心はなけれども
  世人のために葬らむとぞ思う。

 聖場を色で汚したマリヤ姫を
  千里の外に逐やりて見む』

守宮『吾は唯薬師如来がましまさば
  如何な悩みも苦しからまじ。

 酒呑めばいつも心は春の山
  笑ひ乍らに花は咲くなり。

 お寅さまお花さまでは気が行かぬ
  蒲萄酒ビール酒が好物。

 キリストも釈迦も孔子も神さまも
  酒に比べりやしやうもない奴』

お寅『又しても守宮別さまの罰当り
  腸までが腐つて居るぞや』

守宮『くさつても酒と鯛とは味がよい
  腐らぬ先に呑めばなほよし。

 ドブ貝の腐つたやうな香ひより
  酒の腐つた香がよろしい』

お寅『虫の喰た松茸股にぶらさげて
  腐れ貝とは何を云ふぞや』

トンク『くさいやつ三人五人集まつて
  臭い相談谷底でするも』

テク『お寅さま手管の糸を繰返し
  マリヤの腹を突かむとぞする』

ツーロ『つらうても彼の為めなら町に出て
  嫌な演説せねばなるまい』

 お寅は、

『さア早く此場を立つて帰りませう
  お花が霊城に待つて居るだろ』

と云ひ乍ら、吾営所を指して一行五人帰り行く。
(大正一四・八・一九 旧六・三〇 於由良秋田別荘 加藤明子録)
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