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文献名1霊界物語 第65巻 山河草木 辰の巻
文献名2第4篇 神仙魔境よみ(新仮名遣い)しんせんまきょう
文献名3第20章 熊鷹〔1676〕よみ(新仮名遣い)くまたか
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2018-04-07 14:03:15
あらすじ
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年07月17日(旧06月4日) 口述場所祥雲閣 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1926(大正15)年4月14日 愛善世界社版218頁 八幡書店版第11輯 687頁 修補版 校定版229頁 普及版98頁 初版 ページ備考
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本文  三千彦、スマナー姫の二人は、黄昏の暗を幸ひ、ソツト家路に帰り、裏口から考へてゐた。テーラは二三十人の若い男を集めて、
テーラ『オイ、お前達、青年隊に宣告をしておくが、此通り一家断絶の厄に会ひ、スマナーが只一人残つて居つたが、それも亦何うしたものか、行衛が不明となつて了つた。斯うなるといふと、ここの遺産は法律上親戚の者が継がねばならぬ。ハテ困つた事が出来たものだ。俺は元より寡欲恬淡だから、親類の財産を欲しいとは夢にも思はぬが、これも天から降つて湧いた出来事だから、辛抱して遺産相続する事にするから、青年隊の御連中何卒俺に同情してくれ玉へ。ホンに困つた事がイヒヽヽヽ到来したものだよ。今日お前達に来て貰うたのは、一杯祝……オツトドツコイ、祝所か家内中全滅したのだから、亡き人の魂を慰める為にタラ腹飲んで貰ひたいのだ。俺の拵へた財産ぢやなし、酒位は充分飲ましてやるから、ドシドシ飲んでくれよ』
と得意面をさらしてゐる。青年の中より一人の男、テーラの前に進み寄り、
『オイ、テーラ、一家全滅とはそら何を云ふのだ。ここにはスマナーといふ未亡人が残つてるぢやないか、未亡人のある以上は、汝の自由にはなるまいぞ。何程汝が自由にするといふても、青年隊が承知せぬのだ。何ぞ又スマナーさまから財産管理の依頼状でも受けてるのか、ヨモヤ汝のやうな極道には、如何にスマナーさまが血迷ふたと云つても、依頼する筈があるまいぞ』
テーラ『オイ、ターク、そら何を云ふのだ。已に已にスマナーは遺書をおいて家を飛出し、自殺をすると書いて居るぞ。今頃にはどつかの谷川へでも身を投げて死んでゐるに違ないワ。さうすりや無論俺の財産だ。今日からここの主人は俺だ。何程村中の奴がゴテゴテ云つても、切つても切れぬ親戚の端だから、仕方がないワ』
ターク『そんなら其遺書を見せて貰はふかい。サア皆の前で読んでくれ』
 テーラは懐中から遺書を一寸出し、大勢の前にふり廻し乍ら、
テーラ『ソレ、此通りだ』
と、はしくれを一寸まくり、
テーラ『オイ、皆の連中、此筆跡はスマナーに間違あるまいがな。どうだ違ふと思ふ者は違ふと云つてくれ』
ターク『成程、実に麗しい水茎の跡だ。此村にこれ丈書く者は、スマナーさまより外にはない筈だ』
テーラ『そらみたか。これで疑が晴れただろ、エヘヽヽヽ。果報は寝て待てだ。一家の家宝も、山林田畑も今日から皆、此テーラさまの所有品だ。あゝあ、俄に長者になると何だか肩が重たいやうだワ。イヤ体が大きくなつたやうな気がし出した。テモ扨も煩さい事だワイ。イヒヽヽヽ』
ターク『オイ、其遺書を皆の前で一遍読んで貰ひたいのだ。何が書いてあるか、分らぬからのう』
テーラ『一寸お前読んでくれぬか。俺は些と許り目が悪いのだから、日の暮と云ひ余り細かいので見えにくいワ』
ターク『ヘーン、巧い事言ふ哩。明盲の癖に、汝何時やら、人の前で新聞を逆様に読んで居つたでないか。……さうすると傍から、テーラさま、そら新聞が逆様ぢやないかと云はれた時、汝負惜みを出しやがつて……ナアニお前に見せてるのだと言ひやがつた位だから、こんな美しい字が汝に読める道理がない。サア玉手箱を一つあけてやろ。此文句に仍つて、汝が財産を相続するか、村の共有物になるか、スマナーさまの遺言通だ』
 テーラは稍狼狽の色を浮べ、タークの耳のはたに口を寄せ、
『オイ、ターク、俺に都合の悪い所があつたら、そこは巧く利益のやうに読んでくれよ。其代り成功したら汝に財産の十分の一位はやるからなア。さうすりや汝も何時迄も難儀をしてをらいでもよかろ。其金を持つて洋行をして博士になつて来うとママだよ』
と小声になつて囁く。タークは何の頓着もなく、巻紙をくり拡げ、
ターク『サア、青年隊の御連中、今此遺書を朗読致します。テーラの運不運の之できまる所だ』
 大勢は一同に手を拍つて『ヒヤ ヒヤ』と迎へる。
ターク『一、妾事如何なる前生の罪の廻り来りしや、親兄弟夫迄、無残な最期を遂げ、後に淋しく一人空閨を守り、亡き両親に孝養を尽し、夫に貞節を守り居りし所、人の悪事を剔抉し官に訴ふるを専業とするテーラの厭な男、朝から晩まで、晩から夜明迄、厭らしく無体な恋慕をなし、未亡人と悔り、酒を燗せよ、肩を打て、足を揉め……は未だ愚か、身分にも似合はぬ不埒な事を強請致し、立つてもゐても居られなく相成りし故、妾は覚悟をきはめ、白骨堂の前にて自刃致し、夫の後を逐ふ積に候。就ては村の人々並に青年隊の皆々様、テーラの悪党を糾弾遊ばした上、所払になし下され度偏に願上参らせ候。又夫の遺産は残らず金に代へ、白骨堂を立派に御建て下され、山林田畑は白骨堂の維持費として村人に於て、保管下さる様偏に念じ上げ参らせ候。誠に誠に厭らしきテーラの為に、此世を去る心持に相成候者なれば、彼れテーラは妾の為には不倶戴天の仇敵にて御座候。仮にも村長の妻たる妾に向つて、卑しき番太の身を以て恋慕するなどとは実に言語道断の振舞にて、悔しく腹立たしく存じ候。此村の古来よりの掟にてらし、斯の如き不倫常の人物は、一時も早く叩き払になし下さらむことを、懇願致します。
   仙聖郷の御一同様及青年隊の御一同様へ
      スマナーより
      謹言』
 テーラは眉を逆立て、面をふくらせ、ヤケクソになつて、尻ひきまくり、あぐらをかいて、悪胴をすゑて了つた。
ターク『ハヽヽヽ、オイ、テーラ、汝は怪しからぬ奴だ。今此遺書の文句を聞いただらう。馬鹿な奴だなア、サアとつとと此処を立つて行け』
テーラ『ヘン、何と云つても親族の端だ。ゴテゴテ吐すと、裁判してでも取つてみせうぞ。お前達はバータラ家の財産を占領せうと思うて企んでゐるのだらう。何と云つても相続権は俺にあるのだから、村中と喧嘩をしても美事取つて見せう。俺は汝の知つてる通り、上の役人に接近し偵羅をやつてるのだから、俺の言ふ事は何でもお取上になるのだ。汝の云ふ事はお取上にならぬのだ。嘘でも何でも偵羅といふ肩書に対し採用して下さるのだ。俺の御機嫌を損じてみよ。汝等がバータラ家の財産の横領を企てたと訴へてみよ。汝等は横領罪とか騒擾罪とかで、万古末代此世の明りの見えぬ所へやつて了ふがそれでもよいか。第一タークの奴、此奴が張本人だ。首魁は死刑に処すといふ刑法を知つてるか。お恐れ乍らと、此テーラさまの三寸の舌が動くが最後、汝の命は無いのだから……何うだ。それでも俺の意志に反対する積りか、エヽーン』
ターク『どうなつと勝手にせい。善はしまひにや分るから。悪は始めは巧く行きよるが、九分九厘で化が現はれるからのう』
テーラ『アハツハ、それだから汝お目出度いといふのだ。今日の制度を知つてるか、今日の世の中は紳士紳商官吏の天下だぞ。俺達もヤツパリ官吏の下を働いてる者だ。人民のクセに何を云ふのだ。時勢を知らぬと云つても余りぢやないか。何程善な事でも○○のする事は打潰して了ふのが今日の行り方だ。何程悪い事でも○○がすれば善となつて通るのだ。些と改心して天下の趨勢を考へてみたら何うだい』
 タークは青年会の会長をしてゐる事とて、一寸気骨のある男、中々テーラのおどしには容易には乗らない。
ターク『ヘン、バンタのザマして偉相に云ふない、冷飯奴が。グヅグヅ吐すと、村内一同に同盟軍を作り、汝に冷飯を供給しない事にするぞ。何程官吏の下役だと威張つて居つても、糧道を絶たれちや駄目だらう……。オイ、皆の連中、心配するにや及ばぬから、此テーラをスマナーさまの遺書の通り、追つ払うて村に置かないやうにせうぢやないか』
 青年の中より少し背の高い、インターはつかつかと前に進み来り、
インタ『ヤア、会長、君の説には賛成だ。一百姓、二宣伝使、三商売、四職人、五毘丘、六巫子、七乞食、八バンタ、九汚家、十隠亡、と云つて、社会の階級は自然に定まつて居るのだ。第一に位するお百姓さまを掴まへて、番太が何を云ふのだ。野良犬奴が。そんな脅し文句が怖うて、此悪の世の中に、一日だつて生活がつづけられるかい。馬鹿だなア』
テーラ『喧しい哩、番太が何、それ程卑しいのだい。今日は衡平運動さへ起つてるぢやないか。衡平団の勢力を知らぬか。時勢遅れの頓馬野郎だな。今おれがヒユーと一つ笛を吹かうものなら、夫れこそ捕手が裏山にかくしてあるのだ。何百人といふ程やつて来て、村の奴ア一人も残らず、牢へ打ち込んで了ふのだから、それでも可いか。仙聖郷の長者の財産は、百人や千人の家族が一生遊んで暮しても尽きない程あるのだから、俺達の上官に一寸申上げ、財産没収の準備がしてあるのだ。マゴマゴしてると汝たちの身辺が危ないぞ。サア笛を吹かうか、笛を吹いたが最後、汝たちの命は風前の燈火だ。テモさても憐な者だ哩。アツハツハ』
ターク『オイ青年隊、此奴ア、うつかりして居れぬぞ。皆の中から四五人手分けして、村中の中老組を招んで来てくれ。そして各自に得物を携へて来いと言つてくれ。そして後に残つた青年は各自に鍬なり、手斧なり、鎌なり、鶴嘴なり、百姓道具を取つて用心せい。此奴の事だから、どんな事してるか分らぬから、準備をしておかなならぬからのう』
と大声に怒鳴り出した。気の利いた青年は跣足で裏口から飛出し、村中の中老組を呼集めにいつた。テーラは懐中から呼子の笛を取出し、切りにヒヨロ ヒヨロ ヒヨロと吹立てる。忽ち数百人の足音、体を固めた黒装束の捕手は、十手、叉又、鎌、槍なんど手ん手に携へ、バラバラと飛込んで来た。
テーラ『これはこれはお役人様、能う来て下さいました。ここに居る奴等は当家の財産を横領せうと致し、今斯の通り、数十名を以て押寄せて来たのです。つまり騒擾罪ですから、一番にターク、インターの首魁をフン縛つて下さいませ。親戚の私が何うしても遺産を相続すべき権利が厶いますから、巧く手に入れば、お役人御一同へ分配致しますからなア、決してお約束は違へませぬから、御安心の上何卒此奴等をおくくり下さいませ』
 捕手の頭キングレスは威丈高になり、
『オイ、当家は一人も残らず不慮の炎難にかかつて滅亡し、憂愁の空気が漂うてるにも係はらず、其方は不都合千万にも当家の財産を横領せむと押寄せて来たのか、返答次第に依つては容赦は致さぬが何うだ。当家は一人も残らず滅亡したのだから、親類関係のテーラが遺産相続するのは法律の許す所だ。不都合千万な、マゴマゴしてると皆捕縛するぞ』
ターク『モシ、キングレスさまとやら、万々一、未亡人のスマナーさまが生残つて居つたら何うなりますか。それでも遺産をテーラが相続せねばならぬのですか。左様な法律は未だ聞いた事は厶いませぬが…』
キング『きまつた事だ。もし未亡人が居るとすれば、却てテーラが財産横領を企てた事になり、大罪人となる所だ。併し乍ら今軒下に隠れて聞いて居れば、夫の後を逐うて自殺をすると申し、書置まで残しておいたぢやないか』
ターク『成程、夫れには間違厶いませぬが、もしも死なずに居つたら、矢張、テーラの物にはなりますまいな』
キング『無論の事だ』
テーラ『アハヽヽヽ、何と云つても運が向いて来たのだから……オイ、ターク、インター、駄目だよ。神妙に捕縛されるか。但しは茲であやまるなら、俺も村のよしみで許して貰うてやる。何うだ。返答を早く致せ』
 此間に五六人の青年は中老をかり集めると云つて出たのは、其実白骨堂のあたりにまだスマナーが生きてうろついて居りはせぬか、それさへ居ればテーラの鼻をあかしてやるのに好都合だと、目ひき袖ひき捜索に出たのであつた。かかる所へ幽かな女の歌ふ声が聞えて来た。
(大正一二・七・一七 旧六・四 於祥雲閣 松村真澄録)
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