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文献名1霊界物語 第66巻 山河草木 巳の巻
文献名2第2篇 容怪変化よみ(新仮名遣い)ようかいへんげ
文献名3第10章 八百長劇〔1692〕よみ(新仮名遣い)やおちょうげき
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2018-04-17 14:47:53
あらすじ
主な人物【セ】ヨリコ姫、コリ、ショール(甲)、乙、スガコ姫、玄真坊【場】シーゴー【名】タライの村の里庄(ジャンク)、大自在天 舞台オーラ山、シノワ谷の入口 口述日1924(大正13)年12月16日(旧11月20日) 口述場所祥雲閣 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1926(大正15)年6月29日 愛善世界社版140頁 八幡書店版第11輯 781頁 修補版 校定版140頁 普及版67頁 初版 ページ備考
OBC rm6610
本文のヒット件数全 5 件/オーラ山=5
本文の文字数4168
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本文  ヨリコ姫の大頭目を始め、シーゴー、玄真坊の三人は酒汲み交はし、いろいろと面白からぬ協議に耽つてゐた。そこへ慌ただしく手下の一人現はれ来り、
『親分に申上げます』
ヨリコ『慌ただしき其様子、何事が起つたのかなア、お前はコリぢやないか』
コリ『ハイ、左様で厶います。シーゴー親分様の御命令に依り、タライの村の里庄が家に十数人を率つれ、夜陰に乗込み、たうとう絶世の美人スガコ姫を引捉へて帰り、狼谷の入口に於て、吾々同僚が芝居をやつてゐる所で厶いますから、どうか救世主として、御一人現はれ下さいませ』
『ソリヤ可い事をした。あしこの娘ならば随分美人だらう。そして沢山の金も要求出来るだらう。ヤ、面白い面白い。オイ、コリ、あの娘をかつさらへるに付いての殊勲者は誰だ』
『ハイ、兎も角私が引率して参つたのですから、誰がかつさらへても、ヤツパリ私の凡ての画策宜しきを得た結果で厶いますから、先づ月桂冠は此コリに帰すべきものと存じます』
ヨリコ『自分が生れた村の娘と聞けば、何だか恥しいやうだ。そして面を見られちや大変だから、妾は天王の社の床下なる地下室に住居を移さう。玄真坊、コリ、お前両人寄つて、よきに取計らうたが宜からう』
 両人は『ハイ』と頭を下げ、能い椋鳥が捉まつた……と俯向いたまま、ホクソ笑んでゐる。
ヨリコ『コレ、シーゴー殿、吾居間に跟いて来て下さい。お前さまには又別の用があるから』
と云ひ乍ら、シーゴーを伴ひ、地下室に帰り行く。玄真坊は厳しき法服をつけ、錫杖をガチヤガチヤと響かせ乍ら、七つ下りの山路を法螺貝を吹立て吹立て降り行く。
 狼谷の入口に十五六人の手下共が、一人の美人を中におき、
甲『オイ、女、汝は今迄栄燿栄華に、何不自由なく、里庄の娘として暮して来た奴だが、最早汝の運命もツキの国だ。サア之から因果腰を定めて、此方の女房になるか、厭と吐さば、此方が刀の錆、性念をすゑてシツカリ返答を致すが可からうぞ』
女『お前さまは、此山に割拠してゐる小盗児サンだな。同じ人間に生れ乍ら、なぜ又こんな卑怯な商売をしてゐるのだい。自在天様の御冥罰が怖ろしくはありませぬか』
甲『アツハヽヽヽ、大自在天がこはくつて、こんな商売が出来るか、馬鹿な事をいふな。どうだ一つ、改心して泥棒様の奥様になり、女盗賊の頭目として羽振を利かす気はないか』
女『エー、汚らはしい、小泥棒の分際として貴婦人に向つて何をいふのだ。さがりおらう!』
甲『アツハヽヽヽ、チヨツクとやりよるワイ。流石は里庄の娘丈あつて、どこともなく魂が出来てゐる、ヤ、感心々々。其魂を見込んで、此方が惚たのだ。お前は俺を小盗児といふが、決して其様な者ではない。トルマン国のバルガン城下に生れたショールさまといふ立派な男だよ。男の中の男といはれた哥兄だ。俺が腮の振り方で、お前の命が助からうと助かるまいと、自由自在の権力をもつ男だ。どうだ、一つ考へ直して、俺の奥になる気はないか』
乙『ショールさま、エ、邪魔臭い、こんな尼ツチヨに相手になつてたら、日が暮れますよ。サ、たたんだり たたんだり。コリの親分が帰つて来たら、何と云つて小言をつかれるか分らぬ。こんな婦女の一疋や半疋に手古ずつたとあつちや男が立たねえ。オイ皆の奴やつつけろ』
 『ヨーシ合点だ』と一同は柄物を取つて、一人の女に向ひ打つてかかる。女も強者、身構なし、柳眉を逆立て、
女『タカが小泥棒の十人や二十人、何の怖るる事あらむや。日頃覚えし柔術の妙技を現はすは此時だ。サア来い、来れ』
と大手を拡げて待つてゐる。
『何猪口才な』
と一同は、武者振ついて、手を取り足を取り忽ち地上に捻伏せて了つた。
ショール『コリヤ女、ジタバタしてもモウ駄目だ。サア俺の心に従ふか、何うだ、其方の一言に依つて、汝の生死が分るるのだ』
女『エー、汚らはしい、妾はタライの村の里庄が娘スガコ姫だ。汝が如き心汚れし小泥棒に靡く様な女ではないぞ。殺したくば殺したがよい。惜まれて散るのが花の値打だ。サア殺せ殺せ』
と呼ばはつてゐる。ショールも……早く玄真坊が来て呉れないかなア……と稍手持無沙汰の気味でまつてゐると、ブーブーと法螺を吹立て乍ら、ガチヤリ ガチヤリと急坂を下つて来る男がある。彼はコリの注進によりて、此芝居の処置をつけむ為、修験者の法服を纒うてやつて来た玄真坊である。玄真坊はあたりに響く大音声にて、
玄真『吾れこそは、天の命を受け、オーラ山に天降りたる玄真坊の大救世主だ。見ればかよわき女を拐かし、乱暴狼藉を働き居る、こわつぱの企みと見えたり。待てツ、今に神譴を加へくれむ、そこ動くなツ』
と呼ばはる声に、ショール初め部下の者共は、ヤレ幸と、蜘蛛の子を散らすが如く、バラバラバツと逃げ出し遠く姿をかくした。スガコ姫は余りの無念さ、残念さに白歯をくひしばり、嗚咽涕泣してゐる。玄真坊は側近くより来り、静に姫の頭や背中を撫で一入静なやさしみのある声で、
玄真『どこのお女中か知らぬが、えらい御災難で厶つたのう。最早拙僧の現はれた上は御安心なさい。テも偖も危い所で厶つたワイ』
スガコ『何れの方かは存じませぬが、妾の命の瀬戸際をお助け下さいまして有難う存じます。貴方は何れの神様で厶いますか、恐れながら御名を承りたう厶います』
玄真『拙僧は天を父となし、地を母となし、宇宙の主宰となり、トルマン国を救済の為、此オーラ山に聖蹟を止め、斯の如く修験者と変化して衆生済度を致す者、最早吾目にかかりし上は、如何なる曲神と雖、貴女が体に一指だもそへる事は出来ない。御安心なさい』
スガコ『どうも有難う厶います。貴方が噂に高きオーラ山の玄真坊様で厶いますか、これも全く神様の御引合せ、何かの御縁で厶いませう。妾はタライの村の里庄が娘、親一人子一人の憐な者で厶いますが、昨夜泥棒の団体に踏み込まれ、猿轡を篏められて広い原野を引廻され、今又この処に於て泥棒頭が無体の恋慕、彼が意に従はざる為、妾が命を取らむと致し、大勢寄つてかかつて捻伏せてをりました一刹那、尊き法螺貝の声が聞えたかと思へば、救世主様の御来臨、おかげで危い所を助けて頂きました、幾重にも御礼申上げます』
玄真『イヤ、御礼を言はれては困る。天が下の万民は皆吾子だ、吾弟子だ。親が子の危急を救ふのは当然だ、決して礼をいふにや及ばぬ。サア之から此方と共に、オーラ山の聖場へ行つて休まうぢやないか』
スガコ『ハイ御親切有難う厶いますが、吾家におきましては、父は申すに及ばず、家の子共が上を下へと、妾を探ねて心配をして居りませうから、何卒父の家迄送つて頂く訳には参りますまいか。そして十日も二十日も百日も御逗留下さいまして、里人に結構な恵みを御与へ下さいますまいか』
玄真『そなたの望み、聞いてやりたいは山々なれど、此玄真坊は七つ下ると、天地の神々と相談を致さねばならず、星は天より下り大杉の梢に止まつて、吾教説を聞きに来る……といふやうな次第であるから、今少時里方へ出る訳に行かぬ。さうだと云つて、お前を一人、此儘帰せば、又もや泥棒の難に会はぬとも保証し難い。それ故今少時、此方と共にオーラ山の聖場に詣でて、天王の社に感謝祈願の誠を捧げ、少時逗留致したが可からう。貴方の父上には、此方より人をつかはし、報告をしておくから軈て迎へにみえるだらう。救世主の言葉に二言はない。サアサア此方に従いてお出なされ』
スガコ『さう御親切に仰有つて下されば、否む訳には参りませぬ。左様なれば不束な妾、少時御厄介に預かりませう』
玄真『ウン、ヨシヨシ、流石は明察の淑女、否賢女だ』
とほめそやし乍ら、スガコの手を引いて、コツリコツリと急阪を登り、おのが住家へと帰り行く。早くも日は山の頂に没し、四辺は薄暗く、大杉の梢には燦爛なる妖星の光が輝いてゐた。玄真坊は頭上の光を指ざし、笑を満面に湛へ乍ら、
玄真『コレコレお女中、あの梢を御覧なさい、あの通り、日の暮れるが最後、天からお星様がお降りになり、救世主の教説を聞かんとお待ち兼だ』
 スガコは頭上を打仰ぎ乍ら、目も眩き光の梢に散在せるを見て、且つ驚き且つ怪しみ乍ら、青い面して慄うてゐる。玄真坊は此態を見て高笑ひ、
玄真『アハヽヽヽ、流石は深窓に育つたお嬢さまだなア。天からお降りになつたお星様がこわいと見える。其青い顔……』
スガコ『玄真坊様、余りの御神徳の高さに、妾は肝をとられました。何と不思議な事があるもので厶いますなア。天地開闢以来お星様が降つて教を聞かれるといふ事は、言置にも書置にも厶いませぬ。思へば思へば貴方様は絶対無限の神権を備へて入らつしやる活神様の御化身で厶いませう、余り有難くつて御礼の申様も厶いませぬ』
玄真『お前は実に見上げた才媛だ、此方の魂の素性をよくもそこ迄看破したなア。お前は尋常の人間ではない。尊き或女神様の化身だよ』
スガコ『ホヽヽヽ、勿体ない、妾の如き賤しき女に向ひ女神の化身だなどとは、玄真坊さま、御冗談も程が厶いますよ、貴方も人が悪う厶いますな。さう揶揄て頂きますと、知らず知らずに慢心致しますからなア』
玄真『イヤ決して揶揄のではない、救世主の言葉には嘘詐りはない筈だ。拙僧の言葉は神の言葉だ。スガコ殿、安心をなされよ』
スガコ『ハイ有難う厶います、そんなら少時、魂の素性が分る迄、貴方のお側において頂きたいもので厶いますなア』
玄真『ヨシヨシ、それが可からう、お前は第一霊国の天人の天降りだ。八百万の神に云ひつけて、天国の身許調べをしてやらう。ここ一週間の中には、お前の素性が判然と分るだらう』
スガコ『ハイ、有難う御座います、何分宜しく御願ひ致します』
 スガコは相当の教育もあり、凡人にすぐれた智慧も有つてゐた、そして天性の美人であつた。併し乍ら何程賢明な婦人でも思はぬ厄難に会ひ、九死一生の場合、思はぬ人に助けられ、其人から……お前は立派な女神さまだの、化身だの……と言はれては、如何なる明智の女でも迷はざるを得ないのである。スガコは到頭彼等悪人輩の待ち受けた穽に陥り、玄真坊を真の救世主と信じ、虎狼の窟に入るとは知らず、欣然として妖僧の後に従ひ、漸く大杉の下、玄真坊が居間に導かるる事となつた。あゝスガコの今後の身の上は何うなるであらうか。
(大正一三・一二・一六 旧一一・二〇 於祥雲閣 松村真澄録)
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