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文献名1霊界物語 第67巻 山河草木 午の巻
文献名2第4篇 山色連天よみ(新仮名遣い)さんしょくれんてん
文献名3第21章 針灸思想〔1723〕よみ(新仮名遣い)しんきゅうしそう
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじ今回の事件で、アリナは一ケ月の謹慎を命じられる。父のガンヂーも城内を騒がせた責任を感じ、自ら謹慎を守っていた。ガンヂーは今回の騒ぎを引き起こした息子の不思慮を責める。アリナは、城内を騒がせ驚かせたことについて自分の罪を認めるが、父が刃傷沙汰を起こした事を逆に責める。ガンヂーは、刃傷沙汰は右守の不忠を誅せんとしたのであり、太子の思想を蝕むアリナの方が国家にとって脅威であると責める。アリナは父の過去の所業を挙げ、現在のタラハン国衰退の原因としてガンヂーを責める。ガンヂーは父の権威を嵩に着るが、アリナは自分が太子の寵臣であり、左守である父でさえも自由にすることはできないと反論する。アリナは言論の自由、個人の人格をたてとし、個性を十分発達させることが天地の分霊としての働きを十二分に発揮させることである、と論を展開する。ガンヂーはあくまで圧迫こそが政治・支配の鉄則であると主張する。国家を一つにまとめあげるためには、王家を中心にして国民を団結させる必要がある、と説くが、アリナはあくまで譲らない。ガンヂーは息子の態度を嘆き、国家の滅亡を心配する。
主な人物【セ】左守ガンヂー、アリナ【場】-【名】右守サクレンス、スダルマン太子、カラピン王(大王)、元左守シャカンナ、ハリスタ姫(シャカンナの妻)、王妃、シャカンナの娘(スバール姫) 舞台 口述日1924(大正13)年12月29日(旧12月4日) 口述場所祥雲閣 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1926(大正15)年8月19日 愛善世界社版275頁 八幡書店版第12輯 133頁 修補版 校定版278頁 普及版68頁 初版 ページ備考
OBC rm6721
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本文  左守の悴アリナは、評議の結果一ケ月の謹慎を命ぜられ、父の館に閉ぢ籠められて居た。左守司のガンヂーも別に王からの咎めはなけれども、殿中を騒し右守と刃傷した其責任を負ひ、自ら門を閉ぢ謹慎を守つて居た。
ガンヂー『オイ悴、貴様は何と云ふ不埒な事を致したのだ。貴様がいつも太子の君を煽て上げ、共産主義だとか、人類愛善だとか、ハイカラ的の新思想を吹き込むものだから、あんな御精神におなり遊ばされ、万代不易の王統を継ぐ事をお嫌いなされ、殿内を飛び出し、上は大王殿下を始め奉り、此父や老臣共に心配をかけ上下を騒がした其罪は仲々浅くはないぞ。是から心を改むればよし、今迄の量見で居るならば太子のお側付は許されない。さうして吾家にも置く事は出来ない。些とは親の心にもなつて見て呉れ。王様の宸襟を悩まし奉り、老臣共に心配をさせ、殿内を騒がしたぢやないか』
アリナ『ハイ、如何にも父上のお言葉の通り、大王様に御心配をかけ、老臣を驚かせ殿内を騒がしましたのは事実で厶います。併し私は同じ殿内を騒がしても父上のやうな、刃傷などの乱暴は致しませぬ。お父さま、私に御意見下さるのならば、先づ貴方のお尻を拭ひ、自分の顔に留まつた蜂を払ひ、真面目になつて御教訓を願ひます。此親にして此子あり、親子が一致して、大王殿下の宸襟を悩まし奉り殿内を騒がしたのも、何かの因縁で厶いませうよ』
ガン『エヽ、ツベコベと訳も知らずに屁理窟を云ふな。お前と俺とは同じ殿内を騒がしたにしても訳が違ふのだ。天地霄壤、黒白、月鼈の差違が有るのだ。彼れ右守のサクレンス奴、王家の専制政治を廃し、共和政治を立てようなどと、大それた国賊的機略を弄し、殿下の宸襟を悩ませ奉つたによつて、俺は命を的に奸賊を誅伐せむと彼右守に斬りつけたのだ。貴様のやうに、大切な太子に種々のハイカラ的思想を注入し、太子の精神を惑乱し、遂には国家の一大事を惹起せむとするやうな悪逆無道の行為とは比べものにならぬのだ。確りと性念を据ゑて父の言葉を聞いたらよからうぞ。大王様は金枝玉葉の御身をもつて、汝一人の為に有るにあられぬ御苦心遊ばして厶るのだ。その悴の父たるこのガンヂーが、どうしてノメノメと生て居られやうか。お前がどうしても悔い改めて、太子の御心を翻さぬに於ては、もはや此父は自害して申し訳を立てねばならぬ羽目となつて居るのだ。不忠不義の極悪人とは貴様の事だ。どうしてまアこんな極悪人が俺の胤から生れたものだらうなア』
アリ『アハヽヽヽ。お父さま好く自分の今迄の行動を顧みて御覧なさい。さう、堂々と私に向つて、御意見は出来ますまい。お父さまは私が幼年の時迄は、右守の司と仕へてゐらつしやつたのでせう。其時に忠誠無比のシャカンナと云ふ左守の司様が国政を料理して厶つたでせう。亡くなられた王妃様は悪魔に魅られ、日に夜に残虐性が募り、遂には無辜の民を虐げ、憐れなる妊婦の腹を割いて胎児を剔ぐり出し、丸煮にして食膳に上ぼせ舌皷を打つて厶つたにも拘らず、死を決して直諫し奉る事も知らず、却つて王妃に媚び諂ひ、残忍性をしてますます増長せしめられたぢや厶いませぬか。国民の怨嗟の白羽の矢が王妃の狩の遊びの砌、天の一方より飛び来つて王妃の額を射ぬき其場で絶命し、国民は是を聞いて却つて喜んで密かに祝賀会を開いた事があるぢや厶いませぬか。それ程国民の怨嗟の的となつて居る王妃を嗾かした上、大王様に迄いろいろの悪い智慧を吹き込み……天誅の白羽の矢を左守の部下が射放つたものだ……などと無実の罪を着せ、大王の手をかつて左守の妻ハリスタ姫を斬り殺し、なほ飽き足らず左守の命を取らむとして果さず、遂に自分が取つて代つて洒々然として左守の職につかれたぢやありませぬか。夫さへあるに左守家の巨万の財産を全部没収し、自分が国民に信用を繋がんが為に頭の揉めない、腹の痛まない、彼の財産を国民に与へ、善の仮面を被り、悪行を遂行した極重悪人ぢや厶いませぬか。お父さまの為にシャカンナは可憐な娘と共に天下漂浪の旅に出で、今に其行方さへ知れないと云ふぢやありませぬか。貴方の前にては誰も彼も阿諛諂侫追従の有らむ限りを尽し、お髯の塵を払はむとする役人許りで厶いますが、彼等は面従腹背、蔭では、いづれも後向いては舌を出し言葉を極めてお父さまの悪逆無道を罵り、且つ憎んで居りますよ。タラハン国が今日の如く乱れかかつて来たのも皆、お父さまの責任ですよ。圧制と強圧と専制に便利な時代不相応の法律を作り、軍隊や警察や監獄の力で、今迄お父さまは国民の頭を抑へつけ、思想を圧迫し、あらむ限りの吾儘勝手を振舞つて来たぢやありませぬか。お父さまの悪徳が子供に報いて遂に累を王家に及ぼし、今日の悲惨の有様になつたのぢや厶いませぬか。お父さまこそ私の意見を聞いて翻然と悔い、忠誠の赤心と愛善の行ひに立ちかへつて貰ひたいものです。私はお父さまの口から御意見を聞くのは、恰度地獄の鬼が擦鉦を叩いて念仏を唱へて居るやうで滑稽で耐りませぬわ。いや寧ろ抱腹絶倒の至りで厶います、アハヽヽヽ』
ガン『これや悴、何と云ふ口巾の広い事を申すか。苟にも子として父の行為を云々し、くだらぬ意見口を叩くと云ふ事は、天地転倒も甚だしいではないか。「親と主人は無理を云ふものと思へ」との格言を何と心得て居るか。何と云ふても親父ぢやないか。善悪正邪に拘らず、親に反抗する奴は天下の不孝者だ。貴様も最早十八、些とは孝行と云ふ事を知れ。否忠義の道を弁へねばなるまいぞ』
アリ『お父さま、貴方は親と云ふ名の下に私を圧迫するのですか。吾子になればどんな無理難題を吹きかけても、それで道理が立つと思ひますか。そんな古い道徳主義は三百年も過去の事ですよ。こんな流儀で国政に当られては、数多の役人や国民共の迷惑が思ひやられます。私はお父さまの所謂、不孝者、不忠者になり度う厶います。……大孝は不孝に似たり。大忠は大逆に似たり。……と古の聖人も云つたぢや厶いませぬか。大義親を滅するとか云ふ諺も厶います。私は大義明分の為には親を捨てます。何時迄も其精神をお変へ下さらぬ以上は、親でも無ければ子でもありませぬ。私の方から貴方に向つて勘当を致しますよ』
ガン『これ悴、云はしておけば何処迄もつけ上り親を親とも思はぬ其暴言、手打ちに致して呉れるぞ』
アリ『お父さま、よいかげんに血迷つておきなさいませ。何を狼狽して居られるのです。アリナの身体は最早貴方の自由にはなりませぬ。私の身体は太子様の杖柱とお頼み遊ばす、タラハン城に無くてはならない国宝ですよ。もしお手打に遊ばす御所存ならば、大王殿下及び太子殿下のお許しを得た上になさいませ。太子殿下の寵臣を、何程左守だつて自由にする事は出来ますまい。それこそ貴方は不忠不義の大逆賊となるでせう』
ガン『不忠不義とは何たる暴言ぞ。貴様こそ万代不易の王家を覆へさむとする悪逆無道の曲者だ。不忠不義の逆賊だ。共産主義や平民主義を太子殿下に日夜吹き込んだ売国奴め、黙言おろう』
アリ『お父さま、天帝より賦与された私の言論機関を行使するのは私の自由の権利で厶います。今日の不完全極まる貴方の作つた法律でさへも言論集会の自由を認めて居るぢや厶いませぬか。左様な解らぬ事を仰有いましては耄碌爺と云はれても弁解の辞はありますまい。矛盾混沌、自家撞着も茲に至つて極まれりと云ふべしです。貴方は一体個人の人格を無視せむとして居られますが、国民としても、個人としても其個性を十分発達させ、天地の分霊としての働きを十二分に発揮させ、其自由の権を十分行使させねばならぬぢやありませぬか。夫れだのに、貴方は圧迫や威喝をもつて之を妨げむとするのは時代に疎い癲狂痴呆者と云はねばなりますまい』
ガン『お前は年が若いから政治の枢機に参加した事が無いから、左様な小理窟をこねるのだ。併し乍ら理論と実際とは大に違ふものだ。今頃の政治家を見よ、野にある時は時の政府の施設に対し、どうのかうのと極力反対を試み、民衆を煽て上げ遂に政府を乗つ取り、扨て国政を執つて見ると俄然と調子が変つて来て、野にあつて咆哮した主義主張もケロリと捨て、否放擲せなくてはならぬやうになるものだ。それだから世の中は議論と実際とは大に径庭のあるものだ。其間の消息も知らずに、青二才の分際として小田の蛙の鳴くやうにゴタゴタ云ふても納まらないぞ。総て政治の秘訣は圧迫に限るのだ』
アリ『どこ迄もお父さまは解らないのですな。理窟はどんなにでもつくものですよ。専制と圧迫を唯一の武器として治めて居たスラブはどうです。チヤイナはどうですか。既に已に滅亡したではありませぬか。世界各国競ふて共和主義をもつて治国の主義となし、次から次へと王政が亡びてゆく趨勢を見ても、時代の潮流は共和主義に向つて、急速力を以つて進んで居るぢやありませぬか、個人、個人を無視するやうで、どうして国家を治める事が出来ませうか。賢明なる太子殿下は早くも此点に気付かれ、王位を去つて庶民となり、個人として人間らしい生活をやつて見度いと望んでゐらつしやるのですよ。もうお父さま、貴方も好い加減に骸骨をお乞ひなさい。貴方が一日国政を料理さるればさるるだけ、それだけ国家は滅亡に向ふのです。国民の多くは……頑迷固陋の左守が一日も早く、此世を去れば一日丈国家の利益だ……と云ふて居りますよ』
ガン『お前は個人々々と云ふて盛に個人主義をまくし立てるが、個人主義が発達すればする程専制政治が必要ぢやないか。完全なる個人主義が発達し、生活し得る力が出来た所で、ほんの小つぽけな砂のやうなものだ。二十万の国民が、二十万粒の砂になつたやうなものだ。個々別々になつた砂は何程堅固でも団結力は有るまい。個人としてはよからうが、国家及団体としては実につまらぬものぢや。そこで、カラピン王家と云ふ大きな革袋が必要なのだ。この革袋に二十万粒の砂を入れ袋の口を固く縛り横槌などで強く叩きつけてこそ初めて一つの国家団体が固まるのぢやないか。革包の破れた袋は所謂支離滅裂何の力もない。それを貴様は破らうとする極重悪人だ。賢明なる殿下のそれ位の道理のお解りにならない筈は無いのだが、貴様が常に悪い思想を吹き込むものだから、あのやうな悪い精神におなりなされたのだ。云はば貴様はタラハン国を覆へす悪魔の張本だ。あゝもう仕方がない。死ぬにも死なれず、悴は何程説き聞かしても頑迷不霊にして時代を解せず、政治を知らず、何とした苦しい立場であらう』
アリ『お父様、煩悶苦悩の今日の境遇、私も同情致しますが、併し乍ら心の持ちやう一つで厶いますよ。些と郊外の散歩でもして、天地の芸術を御覧なさいませ、さうすれば些とは胸も開けて新しい思想が生れて来るでせう』
 左守は青息吐息しながら、
『あゝあゝ兎やせむ角や線香の煙となつて、タラハンの国家は滅ぶのかなア』
(大正一三・一二・四 新一二・二九 於祥雲閣 加藤明子録)
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