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文献名1霊界物語 第68巻 山河草木 未の巻
文献名2第2篇 恋火狼火よみ(新仮名遣い)れんかろうか
文献名3第7章 茶火酌〔1731〕よみ(新仮名遣い)ちゃびしゃく
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじ茶湯の宗匠タルチンは、太子とスバールの逢引の場を提供することで、アリナからたくさんの心づけをもらっていた。タルチンは幸運を喜び、女房の「袋」に自慢するが、袋は秘密の逢引のことが城のお偉方にばれたときの危険を心配して逆にタルチンをなじる。また、タルチンの酒癖の悪さを非難する。タルチンも女房に対して不満を並べ立てるが、袋は逆上してタルチンから一千両の金を奪い取り、家を飛び出してしまう。そこへ城下に大火事が発生し、警鐘の音が響いてくる。タルチンは得意先の火事見舞いに回るため、太子とスバールに留守を頼み、城下に出て行く。最初は火事の壮観さに見とれていた太子だが、火が城にまで回り始めたのを見て、自分に化けているアリナのところへ人がやってきて変装がばれるのがにわかに心配になってくる。スバールは太子の弱気をなじり、太子も気を強く持っている振りをするが、警鐘乱打の声、人々の叫びはますます強くなって来る。
主な人物 舞台 口述日1925(大正14)年01月29日(旧01月6日) 口述場所 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1926(大正15)年9月30日 愛善世界社版98頁 八幡書店版第12輯 186頁 修補版 校定版98頁 普及版69頁 初版 ページ備考
OBC rm6807
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本文  向日の森の片辺に住む茶湯の宗匠タルチンは、思はぬ福の神の御来臨と笑壺に入り、茶室は太子とスバールの自由歓楽場となし、スバール姫に茶の湯を教へると云ふのはホンの表向、実は両人の恋を完成せむ為アリナに頼まれて沢山の心付を貰ひ、ホクホクもので天下太平を謳つてゐる。彼は中庭を隔てた古ぼけた母屋の一室に胡坐をかき乍ら、大布袋然たる女房の「ふくろ」と共に酒汲み交し舌鼓を打ち乍ら、
タルチン『オイ、袋、人間の運と云ふものは不思議なものぢやないか。俺等も親の代から茶湯の宗匠として彼方此方の大家に御贔屓になり、僅に家名を継いで来たが、世の不景気につれ大家の盆正月の下されものも段々と少くなり、頭は禿山となり髭には霜がおき、懐は寒く財布は凩が吹き荒び、爐の炭さへも碌に買へないやうになつてゐたのに、あの弁才天が山奥から御出現遊ばしてより御霊験あらたかになり、畏れ多くもスダルマン太子様までお忍びでお越しになるやうになつたのは何たる幸運の事だらう。まだ運命の神は吾々をお見捨遊ばさぬと見えるわい。のう袋、お前はいつも奴甲斐性なし奴甲斐性なしと俺を罵詈嘲笑なし、お暇を下さいとチヨコチヨコ駄々を捏ねよつたが、どうだお暇をやらうかの』
袋『ヘーヘー、何ですか、たまたまお金が這入つたとて、さうメートルを上げるものぢやありませぬよ。お前さまは仔細らしく茶の湯の宗匠などと云つてすまし込んで厶るが、女房の私から見れば余り立派な人間様ぢやありませぬよ。浮世を三分四厘、四分五裂、五分々々五厘々々に茶化して通る鈍物坊主の夜這星だから、あまり気の利いたらしい事を云はないがよろしい。太子様だつてお忍びの身、何時化が現はれて城内から呼び戻されなさるか知れませぬよ。さうしてお歴々の御家来衆が太子の外出を防がうものなら、再び甘い汁を吸ふ事は出来ぬぢやありませぬか』
タル『何心配するな、太子様が、よしんば家来共に妨げられ、お出ましになる事が出来ないにした所で、左守の息子さまのアリナさまが控へて厶る。アリナさまは自由の利く身だから、どんな便宜でも取計つて下さるよ』
袋『さう楽観は出来はすまい。アリナさまだつて外出差止めとなられたら、それこそ取つく島がないぢやありませぬか。その上山奥の美人を囲つて太子様に合引させ、堕落させたと云つて重い罪にでも問はれたら、それこそ笠の台が飛ぶぢやありませぬか。お前さまは大体利口に出来てゐないから、女房の心配は一通りぢやない。チツト気をつけて下さいや、お金がよつた時、さうムチヤに費つては、マサカの時にどうしますか。お前さまはヒネ南瓜だから何時国替してもよろしいが、此年の若い女房をどうして下さるつもりですか。今日はお銚子は二本でおいて下さい。お前さまが酒に酔うと梯子酒ぢやからヒヨロヒヨロと宅を飛び出し、裏町辺の待合にでも惚気込んで、ありもせぬ金を費はれちや、宅の会計がやりきれませぬからな』
タル『エー、酒が理におちて甘くないわ。今日は機嫌よく飲ましてくれ。しやうもない世帯の話を聞かしてくれては流石茶人の俺も、いささか閉口だ。さう石に根つぎするやうに心配するものぢやない。俺の宅は御先祖さまの余慶で、之から一陽来復の気分に向ふのだ。よう考へて見よ。山奥から生捕つて厶つた、あのスバール姫さまは弁才天様。さうして太子様は毘沙門天様だ。お前は云ふに及ばず布袋和尚なり、俺は頭が長いから福禄寿だ。そこへ恵比須や大黒のついた金札が此通り懐に納まつて厶るなり、チヤンと六福神は揃つてゐるのだ。も一つの事で七福神となるのだから心配するな。言霊の幸はふ国だから、こんな時は目出度い事云つて祝ふに限るよ。チヤンと六福神が揃つてる所へ、お前の名が袋だから丁度揃つて七福神だ。芽出度い芽出度い酒喰はずんばあるべからずだ。飯飲まずんばあるべからずだ、エツヘヽヽヽ』
袋『何とまア気楽な事をいい年して居つて云へたものですな。お前さまの宅に後妻に入つてから已に三年にもなるぢやありませぬか。着換の一枚も買つてくれた事もなし、足袋一足買つてくれた事もないのに、いつも亭主面さげて、偉相に何ですか。その金こつちにお渡しなさい、私が預つておきます。お前さまにお金を持たしておくと剣呑だ。チツト許り渋皮のむけた女を見ると直グニヤグニヤになつて家も女房も忘れて了うと云ふ奴倒しものだからな。ほんとにいけすかない薬鑵爺だよ』
タル『こらこら何を云ふか。貧乏はして居つても俺はタラハン城に歴仕する茶の湯の宗匠さまだよ。俺の女房にならうと思へば、余程茶の湯、生花、歌、俳諧等の諸芸は一渡り嗜んでおかねばならず、言葉使も高尚につかはねばならぬぢやないか。お前のやうに大きな図体をして蛙のやうな声を出し、ひびきの入つた釣鐘のやうにガアガア云つて貰ふと、名門の恥辱だ、エーン。此夫にして此妻ありと云ふ事があるから、俺の女房ならチツト女房らしう、品行を謹んで貰はねば困るぢやないか。何時だつて女の癖に囲爐裏の側に胡坐かき、煙草ばかりをパクつかせ、飯を焚かすれば焦げつかす、タマタマ焦なかつたと思へば半焚きの心のある飯を喰はせやがるし、何時だつて飯らしい飯を喰わした事があるか。アーア、俺も、せう事なしにこんな女房を持つたのだが、かう懐が暖かになつて来ると、もつとした…………』
 袋は胸倉をグツととり、
『こりや薬鑵爺、もつとの後を聞かせ、俺を追出すつもりか。お前の方から追ひ出されるよりも私の方から追ひ出てやるのだ。今迄も幾度か見込みが立たないから、飛び出さう飛び出さうと思つたが先立つものは金だ。此薬鑵奴、之でもいつか懐をふくらしやがる事があるだらう。その時こそは懐の金をスツカリ奪ひとつてドロンと消えてやるつもりだつた。こんな険呑な暗雲飛び乗りの芸当をやるものについて居つては袋の生命が険呑だ』
と云ひ乍ら懐の札束をむしりとり、強力に任して老爺の尻を二つ三つ蹴り乍ら、腮をしやくり、
袋『お蔭さまで一千両のお金にありつきました。永らくお世話になりました。タルチンさま、三年に一千円は安いものでせう。精出しておまうけなさいませ。貯つた時は、又頂きに出ますよ。アバよ』
と牛のやうな尻をクレツと引捲り、
『薬鑵爺尻でも喰らへ』
と云ひ乍ら一目散に逃出したり。
 タルチンは無念の歯がみをなし、後追つかけむとすれども、大女の力強に力一杯尻こぶたを蹴られた為、大腿骨に痛みを感じ、顔をしかめて逃げ行く女房の後を怨めしげに見送つてゐる。
『アー、袋の奴、馬鹿にしやがる。折角マンマとせしめた千両の金を自分一人で占領して、おまけに手厳しく毒つき乍ら帰つて行きやがつた。アヽ、又俺は元の木阿弥だ。文なしの素寒貧だ。よくよく金に縁のない男と見えるわい。然し俺も一つ考へねばなるまい。万々一、太子様をかくまつて逢引さしてゐる事がお歴々の耳にでも這入らうものなら、お出入差止めは申すに及ばず、お袋の云つたやうに俺の笠の台が飛ぶかも知れない。又幸に命だけは助かつたとした所で、太子様のお出入もなくなり、アリナさま迄も来られないやうな破目になつたら、此茶坊主はどうしたらよいかな。どうも心配になつて来た。家宝伝来の名物道具よりも大切にしてゐる此頃の珍客、金剛不壊の如意宝珠を、もしも老臣共に見つけ出され、吾館から連れ帰られるやうな事があつたとしたら、それこそ俺も身の破滅だ。地獄と極楽へ往復する茶柄杓の中折れ。今日迄の湯加減も、俄に足茶釜の底ぬけ騒ぎをやらねばなるまい。アーア、何とかいい工夫はあるまいかな。干からびた頭脳から何程絞り出しても、よい智慧は出て来ず、どうしてマサカの時の準備をしようかな』
と腕を組み、胡坐をかいて、燗徳利を前に転がしたまま思案にくれてゐる。
 暫らくしてタルチンはニツコと笑ひ、
『イヤ、流石は茶湯の宗匠だ。いい智慧が浮かんで来たぞ。万々一不幸にして太子さまがお出入遊ばさぬやうになつても構はぬ。よもやノメノメとあのスバール姫を殿中へ、連れて帰られる筈はない。さうすればキツト此タルチンが、どつかへお隠し申さねばなるまい。太子もキツト、さうして呉れと仰有るに定まつてる。何程考へても、それより外に方法手段はないもの。太子さまだつて、アリナさまだつて、実の所は内所でやつて厶る事だから弱味がある。そこを甘くつけ入つて、あの名玉を処分するのは処世上の奥の手だ。捨売にしても二万や三万の価値はある玉だ。僅に千円や二千円のつまみ金を貰つてヒヤヒヤとして暮してゐるよりも、さうなりや二三万円にでも売り飛ばしトルマン国にでも逃げ出し、立派な女房でも貰つて此世を栄耀栄華に気楽に暮すが一等だ。俺には何とした幸運が見舞うて来たのだらう、エツヘヽヽヽ』
と一人笑壺に入つて居る。折から聞ゆる、警鐘乱打の声、タルチンは足をひきずり乍ら窓の戸をあけて外を眺むれば、タラハン城下に当つて、火災を起し炎の舌は高く大空を舐て居る。
タル『ヤア、此奴ア大変だ。御得意先が火事にでも会ふやうな事があれば、俺等の懐に大影響を来す所だ。そして日頃お出入の情誼として火事見舞に行かねばなるまい。どうやらあの勢では容易に火事もおさまりさうにはないわい。太子様には済まないが一つ留守を頼んで火事見舞に出かけようかな』
と太い杖をつき大女の袋に蹴られて痛んだ足をチガチガさせ乍ら、離室の茶室に入り来り、
『もしもしお二人様、タラハン城下は大変な火災が起つて居ります。ここは町を余程離れてゐますから、メツタに飛火もしませぬから、安心で厶いますが、私は一寸お出入先へ見舞に行つて参りますから、どうぞ火事を見物し乍ら留守をしてゐて下さいませ』
太子『成程、大変な大火事と見えるな。此調子では、どうやら城内も危険が迫る恐れがある。然し乍ら余はここに神妙にスバールと留守をして居るから、余に構はず行つて来るがいいわ』
タル『ハイ、宜しうお願ひ申します。そんなら之から急ぎ見舞に行つて参ります』
と云ひ乍ら漿酸提灯をぶらつかせ、片手に杖をつき、チガチガと泥濘に満ちた悪道を尻きれになつた下駄を穿ち出て行く。
太子『これ、スバール、随分壮観ぢやないか。余はまだあんな大きな火事を生れてから見た事はない。火事と云ふものは本当に勇ましいものだな』
ス『仰せの如く実に火事は人気のいいものです。此通り地上に蟻の這うてゐるのさへもハツキリ見えます。然し乍ら火災にあうた人は可愛さうぢやありませぬか。どうか人命に関するやうな事がなければよう厶いますがな』
太子『ウン、さうだな。どうか無事にをさまればいいが。あれあれだんだん火が燃え拡がつて来た。あのスツと高く白く光つてゐる壁は城内の隅櫓だ。火は隅櫓を舐出したぢやないか、こいつア大変だ。さうして大変な鬨の声が聞えて来る。余が城内に帰つて居つたならば、又何とか工夫したらうに城内へ飛火がしたりするやうな事あれば、忽ち俺の所在を老臣共が尋ねまはるに違ひない。アリナが甘くやつてくれればいいが、アヽそれ許りが気にかかる』
と、うなだれる。
ス『太子様貴方はお心が弱いぢやありませぬか。夜前何と仰有いました、「お前の側に居るならば、仮令天は落ち、地はくだけタラハン城は焼けおちても敢て意に介せない。お前と俺との恋愛さへ、完全に維持されたら何よりの幸だ。余は王位も富も城も捨てた」と仰有つたぢやありませぬか。チツとお落ち付きなさい。見つともないぢやありませぬか』
と大胆不敵の事を云ふ。太子はスバールの言葉に肝を冷し乍ら、さあらぬ体にて、
『アツハヽヽヽ如何にも尤も千万、火災なんか意に介するに足らないよ。サア夜分を幸ひ、お前と二人手をひいて郊外の散歩に出かけ火事の見物をしようではないか』
 警鐘乱打の声は四方八方より聞え、民衆の叫ぶ鬨の声は鯨波の如く聞え来りぬ。
(大正一四・一・六 新一・二九 北村隆光録)
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