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文献名1霊界物語 第69巻 山河草木 申の巻
文献名2第2篇 愛国の至情よみ(新仮名遣い)あいこくのしじょう
文献名3第10章 宣両〔1755〕よみ(新仮名遣い)せんりょう
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2018-11-15 14:24:45
あらすじ
城下の外れのうどん屋で、四、五人の若者が新聞を見ながら、このごろの珍の国の世相に話の花を咲かせている。

大地震、エトナ山の爆発、世継・国照別の逐電、進歩派老中・岩治別の失踪、老中伊佐彦の妻・樽乃姫の狂乱と逮捕、侠客・愛州の投獄、とざっとこれだけの事件が、すでに起こっている。

そこへ、宣伝歌の声が聞こえてくる。

厳と瑞の二柱の神が、天津空より降り、助けの神として善悪・正邪を立て分ける。

誤解・矛盾に満ちた悪魔の世界を射照らして、松の神代に立て直す。

民草はみな、神の御子であり、神が子供たちを見捨てることはない。

神には備えがあるので、何が起ころうとも、勇んで天地の時を祈り、待つべし。

我は、斎苑の館に現れた、瑞の御霊の大神の教えを世に弘く述べ伝える。

うどん屋の若者たちは、この女宣伝使の後をつけていくが、すると向こうより、侠客・愛州が馬に乗ってやってくる。

四辻で愛州は馬上から、宣伝歌を歌い始めた。

神人和楽・四民平等の神代が、常世の曲つ教えにより、物質本位・優勝劣敗の世となり果てている。

我ら侠客は背水会を組織して、社会の大掃除をなし、衆生を救おうと活動している。

義侠のある奴は、我らの参加に集まり着たり、奮起せよ。

先の女宣伝使は、実は春乃姫が化けた姿であった。春乃姫は愛州の宣伝を見て、横道へそっと姿を隠してしまった。

愛州の宣伝はなおも続く。

物質界に神の天国を建設するには、肉体を持った真人の力でなくてはならない。

それを感じた我は、世の中の模範を示そうと、侠客の身分となって人類愛善という本当の目的を遂げようと励んでいる。

神は万物普遍の霊であり、一方、人間は天地の経綸を実行するための器である。

神と人とが合一して強く大きな力を発揮する、という三五教の教えを自分の身で示そうと決意した自分である。

いかなる妨害があっても、決して恐れてはならない。屈してはならない。人々よ、神の世のために勇み奮い立て。宝も名誉も打ち捨てて尽くすべし。

この宣伝に、道筋に人が集まり、愛州の人気は支柱に沸き上がった。
主な人物 舞台 口述日1924(大正13)年01月23日(旧12月18日) 口述場所伊予 山口氏邸 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1927(昭和2)年10月26日 愛善世界社版145頁 八幡書店版第12輯 327頁 修補版 校定版151頁 普及版66頁 初版 ページ備考
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本文  城下外れの極めて淋しい河原町の饂飩屋の店に、四五人の若者が饂飩を肴にコツプ酒を呑み乍ら、配達して来る新聞を見て、いろいろと話の花を咲かしてゐる。
甲『オイ、随分世の中も物騒になつて来ただないか、此頃の新聞をみてみよ。何時とても吾々の肝を冷すやうなことが、一つや二つは出てゐるだないか。ヒルの都の大地震にエトナ山の破裂、……といひ又珍の都の国照別様が顕要の地位を嫌つて人力車夫となり、或は老中の岩治別が陰謀露顕したとか何とかで姿を隠し、伊佐彦老中の家内樽乃姫といふ大兵肥満の樽女はサデスムスとか何とかに罹つて、人を斬る打つ、そして牢獄へ入れられる。横小路の親分は牢へぶち込まれるといふ大騒ぎだ。そして春乃姫様が大変なハイカラで、そこら中を馬に乗つて駆け廻り、其上彼方に強盗、此方に火災、殺人、姦通、会社銀行の破綻、重役の持逃げに詐欺、破産、ルーブル紙幣の下落、本当に世の中はモウ末だな。此先、俺等や何うして生活をつづけたら良からうかと心配でならないワ』
乙『それだから、衆生一般が生活難の声に脅かされ、人心は日に悪化して、ソシヤリズムやアナアキズムが蔓延するのだよ。之も時代の影響だから仕方がないな』
『だと云つて、俺等ア、矢張家族制度の国に生れたのだから、家族制度の破れるやうな主義には賛成したくないのだ。私有財産撤廃とか土地国有とか、いろいろの議論が新聞紙上にのつてゐるが、困つた社会になつたものだな』
『別に困る必要はないだないか。偉相に汝云つてゐるが、猫額大の土地も所有せず、嬶の湯巻まで質においてる分際として、家族制度が好だの嫌だなんて、柄にないこと吐ざくない。俺等はソシアリズムでも、アナアキズムでも結構だ。人間は生の執着を持つてる以上は、完全なる生活を営まねば、牛馬にも劣るやうな事では人間を廃業するより外に仕方がないからのう』
丙『ウン、そらさうだ。俺だつて朝から晩迄営々兀々と、ブルの為にこき使はれ、労働と賃銭の不統一の為、悲惨な生活を送つてるのだ。嬶の着替一つあるでなし、正月が来ても子供に下駄一足買つてやる訳にもゆかず、大勢の家内が高い家賃を取られて、三畳敷や二畳敷に雑魚寝をしてる生活に甘んじてゐるのだから、本当に世の中に生存の価値も何もあつたものでないと思ふよ。三五教の教に、神が表に現はれて善と悪とを立分けるとかいふ事があるさうだが、早く救の神が現はれて、此暴悪な残虐な、吾よしの強い者勝の世の中を立直し、四民平等の幸福と平和を得る所の世の中に会ひたいものだ。大きな声でこんな話をすれば、すぐ取締に取捉まへられて、臭い飯を食されるなり、本当に弱者となれば頭の上らない時節だなア』
乙『それだから、アナアキズムやソシアリズムが頭を擡げ出したのだ。神が表に現はれる現はれると昔から言つて来たが、ねつから現はれ相にないぢやないか。救主は東方の天より現はれるとか聞いてるが、根つから吾々を救うてくれる光明も神霊も現はれた例もなし、本当に苦い暗黒な世の中だな』
 斯く話す所へ宣伝歌の声が聞えて来た。
『神は此世の救主  厳と瑞との二柱
 常世の暗をはらさむと  天津空より降ります
 助けの神と現はれて  善悪邪正を立分ける
 此世を造りし神直日  心も広き大直日
 直日の御霊現はれて  悪を戒め善を賞め
 貧しき人を富しつつ  生活難に苦しめる
 可憐の民を救ふなり  誤解と矛盾に充たされし
 悪魔の世界を射照らして  松の神代に立直す
 救ひの神は天にあり  恵の神は地にます
 天と地との真中に  生ひ育ちたる民草は
 何れも神の御子ぞかし  神は汝等の親なるぞ
 吾子の悩み苦みを  如何でか見すて玉ふべき
 神には神のそなへあり  暫く待てよ神の子等
 五六七の柱現はれて  光と栄と喜に
 充てる社会を建設し  神人和合の瑞祥を
 来し玉ふは目のあたり  心を研き身をきよめ
 其日の境遇に甘んじて  天地の時を待てよかし
 旭は照る共曇る共  月は盈つ共虧くる共
 星は御空にきゆる共  山裂け海はあする共
 仮令地震強くして  大廈高楼忽ちに
 地上に壊れ崩る共  恵の神は誠ある
 可憐の御子を救ふべし  喜べ勇め四方の国
 山野に生ひ立つ人草よ  山野に生ひ立つ神の子よ
 神は汝と共にあり  勇めよ勇め皆勇め
 勇んで時の至るをば  神に祈りて待てよかし
 あゝ惟神々々  神にまされる力なし
 神の恵に如くはなし  吾は此世を教へ行く
 三五教の宣伝使  斎苑の館に現れましし
 瑞の御霊の大神の  聖き教を世に弘く
 宣べ伝へゆく神司  何れの人も世の中に
 合点の行かぬ事あらば  吾目の前に集りて
 深き教を聞けよかし  吾等は神の御使
 神に代りて何事も  完全に委曲に諭すべし
 あゝ惟神々々  御霊の恩頼を願ぎ奉る』
 かく歌ひつつ年若き女宣伝使が店の前を通り過ぎた。甲乙丙丁戊等は宣伝使の後を追つかけて、何処迄もと従いて行く。宣伝使は被面布をかぶり、蓑笠をつけ、手甲脚絆草鞋の扮装にて金剛杖をつき乍ら、足拍子を取り、優しき声にて、五人の男の追跡するのも知らず進み行く。
 向ふの方より馬に跨つて、やつて来たのは横小路の侠客愛州であつた。愛州は馬上乍ら四ツ辻に立ち、声高らかに歌ひ出した。
『珍の都の人々よ  早く眼をさませかし
 物質文明の世の中は  最早終となりにけり
 これの御国は其昔  高天原に現はれし
 桃上彦の天降りまし  恵の露を降らせつつ
 汝等の祖先を守りまし  神人和楽の神国を
 いや永久に樹て玉ふ  珍の御国ぞ神の国
 四民平等博愛の  聖き教を樹て玉ひ
 上下和合し官民は  一致の歩調を取り乍ら
 世は安国と平らけく  治まりゆきし御代なれど
 近き御代より常世なる  怪しき国の曲教
 蔓り来りて珍の国  先づ第一に上に立つ
 醜の司の魂を  物質本位に惑溺し
 優勝劣敗吾よしの  教を頻りに吹込みて
 衆生の痛苦は白河の  夜舟と枕を高くして
 大廈高楼に安臥なし  尸位と素餐の譏をば
 受けつつ知らぬ曲津神  上のなす事下倣ふ
 上流濁れば下にごる  中間連中は悉く
 上流階級に圧倒され  国家の中堅悉く
 影を隠せし今日は  如何にせむ術なきままに
 吾等は神に祈りつつ  苦しむ衆生を救はむと
 背水会を組織して  義侠を以て任じつつ
 衆生の権利を壟断し  私利を営む奴原の
 鼻つぱしをばねぢ折りて  モルヒネ注射を断行し
 尚も自ら悟らずば  吾に正義の剣あり
 珍の御国の御為に  尊き命を犠牲とし
 衆生に代つて大掃除  敢行せむと思ふなり
 仁義に富める人達よ  義侠に強き諸人よ
 吾等が傘下に集りて  震天動地の大業に
 参加し玉へよ時は今  天と地とは転倒し
 上と下とは逆転し  善悪正邪を誤りて
 悪人益々世に栄え  善人将に亡び行く
 此現状を見乍らも  吾身の安全計る為
 袖手傍観する奴は  姿は人間なればとて
 体は畜生の容物だ  早眼をさませ眼をさませ
 虚偽と猜疑と罪悪に  満ちたる旧衣を脱ぎ捨てて
 仁慈と進歩と幸福に  満てる新衣と着替へかし
 正義に刃向ふ刃なし  誠を辿る吾々に
 神の守のなからむや  衆生よ衆生よ奮起せよ
 起つて醜類打倒せ  汝等起つて倒さずば
 忽ち汝等亡びなむ  人間興亡の黄泉坂
 振へよ振へ今の時』
と呶鳴つて居る。女宣伝使は愛州の姿を被面布起しに眺めて、何思つたか、コソコソと横道へ姿を隠して了つた。之は春乃姫が宣伝使と変装して、市中を宣伝に廻つてゐたのである。女宣伝使に従いて来た五人の男は、愛州の演説に気を取られ、女宣伝使の行方を見失つたのも気がつかなかつた。愛州は馬の頭を立て直し、横小路の吾家の方面を目がけ、
『神が表に現はれて  善悪邪正を立別ける
 との御教は昔より  今に伝はりましませど
 今迄神の現はれし  例を聞きし事はなし
 物質界の現代を  救うて神の天国を
 建設するは肉体の  神に等しき真人の
 力でなければ世の中は  決して立つては行かうまい
 吾等はそれをば感じしゆ  ヒルの国をば後にして
 これの都に進み入り  先づ第一に吾身をば
 犠牲となして済世の  模範を示し世の中の
 眠れる僧侶や宣伝使  比丘や比丘尼の目をさまし
 此世の泥をすすがむと  覚悟をきはめ侠客の
 身分となりて朝夕に  人類愛護の本旨をば
 遂げむが為に励むなり  あゝ惟神々々
 神は万物普遍なる  誠の霊にましまして
 人は天地の経綸を  司るべき器なり
 神人茲に合一し  無限絶対無始無終
 太き力を発揮すと  三五教の御教に
 示させ玉ふを自ら  事実に現はしためさむと
 思ひ立つたる侠客の  義侠にみちし愛州ぞ
 如何なる妨害あるとても  恐るな屈すなためらふな
 神は汝と共にあり  神の守りし人の身は
 如何なる曲も襲はむや  いざ諸人よ振ひ立て
 勇めよ勇め世の為に  宝も名誉も打すてて
 来らむとする神の世の  犠牲となつて尽せよや
 あゝ惟神々々  御霊幸ひましませよ』
と歌ひ乍ら己が館を指して、馬上豊に帰りゆく。道筋は人の山を築き、市中の人気は鼎の沸くが如くなりける。
(大正一三・一・二三 旧一二・一二・一八 伊予 於山口氏邸、松村真澄録)
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