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文献名1霊界物語 第70巻 山河草木 酉の巻
文献名2第3篇 理想新政よみ(新仮名遣い)りそうしんせい
文献名3第19章 梅花団〔1786〕よみ(新仮名遣い)ばいかだん
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじ千草姫は王に、キューバーはもう死亡し、その代わりに第一天国の天人の霊を宿した若者がトルマン国の政治をつかさどるべく天より使わされた、と勝手に王に宣言する。その若者(梅公)は、千草姫と話を合わせ、王や番僧たちに千草姫の話を信じ込ませてしまう。千草姫は梅公を、自分の伴侶、高宮彦と思い違いをしていたのだた、梅公は話を合わせて千草姫に信じ込ませてしまう。そうしておいて梅公は、囚人の恩赦を行い、まずは人気取りの政治を行って民衆の気を引くべきだと千草姫に勧める。千草姫が囚人恩赦の命を王に伝えて部屋に戻ってくると、高宮彦(に化けた梅公)は寝ている。千草姫がゆり起こすと、梅公は、千草姫が高姫の再来、金毛九尾の狐であること、また自分の素性は、三五教の守護神・言霊別のエンゼルであることを明かし、大きな光となって窓の隙間より出で消えてしまった。後に千草姫は驚きのあまり失神してしまう。
主な人物 舞台 口述日1925(大正14)年08月25日(旧07月6日) 口述場所丹後由良 秋田別荘 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年10月16日 愛善世界社版237頁 八幡書店版第12輯 477頁 修補版 校定版244頁 普及版120頁 初版 ページ備考
OBC rm7019
本文のヒット件数全 1 件/ハリマの森=1
本文の文字数5327
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本文  千草姫は意気揚々として城中に帰り来り、ガーデン王の居間に入り、
『日の出神の生宮、ガーデン王に申し渡す仔細がある。よつく承はれ』
王『ハイ、首尾よう御下向になりまして、お目出たう御座います。御用の趣、慎んで承はりませう』
千草『第一霊国の天人、日の出神はウラル彦命、盤古神王等とジヤンクの処置に就て、長時間協議をこらせし結果、ここ一週間の間に彼が命をたち、教国の害毒を除くべく評定がきはまつたぞや。それ迄は汝、必ず必ず、彼に暴虐の手を加ふる勿れ。自然に消滅致す神の仕組を致しておいたから……』
王『ハイ、其御神勅を承はり、大に安心仕りました。就ては教国の枢機に任ずべき重臣として採用すべきキユーバーは、神界に於て、何時御召出し下さいまするか』
千草『否、心配は致すに及ばぬ。彼れキユーバーは神界に於て、眷族を使ひ、よくよく査べみれば、当城の牢獄を破り、逃行く途中、狼に追撃され、終にはもろくも全身を群狼の為に喰ひつぶされ、非業の最後をとげたとの、眷族共の復命。止むを得ず、盤古神王と相談致せし所、第一天国の天人の霊を天より遣はすによつて、日の出神殿、其身霊を城中へ伴ひ帰り、教政を執らば、トルマン国は申すに及ばず、三千世界の支配者として、世界万民に仰がるべし、――との御告げなれば、此日の出神心も勇み、役僧共に守られて帰途につく其の途すがら、一介の男子と化し、吾輿に近よらむとし玉ふや、心眼開けざる盲同様の番僧共は、輿に危害を加へ無礼を与ふる者となし、即座に捕縛して了つたのである。てもさても訳の分らぬ俗物位困つた者は御座らぬぞや。オホヽヽヽ』
王『其身霊の宿つた男子は如何なされましたか』
千草『只今玄関口に番僧付そひ、待たせあれば、汝は最敬礼を以てお迎へ申して来れ。三千世界の救世主、日の出神の片腕ともなり、汝が教政を輔くる教務総監ともなるべき、現幽両用の大神人であるぞよ。サ、早く早くお迎へなされ』
 王は『ハアハア』と頭をさげ乍ら、玄関口に自ら走り出た。警固の番僧はハツと驚き、最敬礼を施して居る。ガーデン王は捉はれ人の前に両手をつき、恐れ戦き乍ら、
王『これはこれは、第一天国の天人の霊様、分らぬ臣下共が、いかい御無礼を仕りました。何卒々々こちらへお上り下さいませ』
 梅公は無言の儘ニコニコしてゐる。護送の番僧は驚いて、手早く縄目をとき、青くなり無礼を陳謝し、猫に追はれし鼠の如く、小さくなつて、スゴスゴと帰り行く。
梅公『拙者は、天津御国より盤古神王の命をうけ、トルマン国を救はむ為、人体を顕はし突然現はれし者、当家には日の出神の生宮、三千世界の救世主、大みろくの太柱、第一霊国の天人様が御降臨の筈、どうか其居間へ案内めされ』
と応揚にいふ。ガーデン王は千草姫が、第一霊国の天人といふ事は、九分九厘迄信じてゐたが、今此神人の言葉を聞いて、一層確信を強め、ペコペコし乍ら、梅公の先に立ち、千草姫の居間を指して案内する。千草姫は梅公の姿を見て、益々悦に入り、
『ヤ、これはこれは、高宮彦殿、能くマア妾が神業を助けむと、お越し下さいました。妾は神界に於ては、日の出神、又の名は高宮姫で御座います。ヨモヤお忘れは御座いますまいなア』
梅『いかにも、某は高宮彦に間違ひない。併し乍ら余は其後天国に昇り、仙術を以て若返り、今は斯の如く絶世の美男子となつて、衆生を済度すべく再臨したのだ。日の出神の生宮殿、最早安心あつて可からうぞ』
千草『如何にも、之にてトルマン国の基礎も定まり、教王家の祥兆、実に慶賀に堪へませぬ。ガーデン王殿、神界秘密の用事あれば、暫く命令を下す迄、此場をお外しなされ』
王『ハイ畏まりまして御座います。御用が御座いましたら、何時なり共、お呼び出しを願ひます。左様ならば、高宮彦様、日の出神様、ゆつくりと御休み下さいませ』
といひ乍ら、イソイソとして吾居間に帰り行く。梅公は忽ち体を崩し、大胡坐をかき乍ら、
『オイ、君、千草君、否々高姫君、能くもマア化けたものだな。どうだい、久し振で又一芝居打たうぢやないか、僕ア時置師の杢助だよ』
千草『如何にも、貴方は杢チヤンでしたかいな。何とまア、立派な御容色だ事。私、余り変つてゐらつしやるので、外の方だと思つてゐましたよ』
梅『何とすごい腕前ぢやないか。あれ程僕に固い約束をしておき乍ら、美しい男が通つたといつて、其奴を喰へ込まうといふ量見だから、本当に男は可い面の皮だ。其美貌で、なまめかしい言葉で、あやかされて了や、どんな硬骨男子でも、一たまりもなく参つて了ふよ。幸ひ僕は時置師の本人だから可かつたものの、さう小口から男を喰はへられちや約らないからのう』
千草『ホヽヽヽあれ丈、固う約束をしておいたものですもの……、貴方こそ、可い女をみつけて、妾をみすて、どつかへうろついて居つたのでせう。本当に苛いワ』
梅『馬鹿いふない。僕ア、お前の所在を捜し索ねて、殆んど三年、彼方此方と苦労をして居つたが、お前がハリマの森の神殿で祈願をこめてる時、後姿をチラツと見て、能くも似たりな似たりな、高チヤンに瓜二つ……だと思ひ、先へ廻つて、輿の中を覗かうとした時、番僧の奴に取つ捕まつて了つたのだ。お前の霊は、どこ迄も王妃の霊と見えて、偉いものだのう』
千草『そらさうです共、第一霊国の天人ぢや御座いませぬか。ヤツパリ上になる霊はどこ迄も上にならねばなりませぬからな』
梅『時にお前、之から何うする考へだ。俺と一緒に此処を逃出し、又曲輪城でも造つて仲よう暮す気はないか、それが聞きたいのだ』
千草『そら、貴方のお言葉なら何うでも致しますけれど、これ丈立派なトルマン城を扣え乍ら、別に曲輪城なんか拵へる必要はないぢやありませぬか。これから貴方と私と、此処を根拠としてウラナイ教の本山となし、三千世界の救世主と天晴現はれたら何うでせうかな』
梅『あ、それも可からう。そんなら之から、お前と一つ内々相談をしようか』
千草『どうか、さう願ひませう』
梅『此室は何だか窮屈でたまらない。お前の寝所がないか。どうか其処へ案内して貰つて、久し振で寝物語をやりたいものだがな』
千草『あ、さう願ひませう。ホヽヽ、何だか恥しいワ』
といひ乍ら、目尻を下げ、梅公の手を曳いて己が居間へと伴ひゆき、ドアを固くとざし、外から開かない様にして、絹夜具を布いて二人は枕を並べて横たはつて了つた。
梅『オイ高チヤン、久し振だな』
千草『本当にお久しう御座います』
梅『お前が自惚鏡の前で、ウツトコを映写してゐた時分も随分綺麗だつたが、其時に比べてみて、一入美しうなつたぢやないか』
千草『何だか知りませぬが、三十年も若くなつたやうな気が致しますワ。これ御覧なさい、肌の艶なんか、丸で白金の光のやうですわ。併し杢チヤンも大変綺麗になつたぢやありませぬか。丸つ切り、ダイヤモンドの様な体から光が現はれるぢやありませぬか』
梅『そらさうだらうかい。第一天国の天人の霊だもの、併し之から大神業を開始するに就ては、先づ第一に天下に向つて、お前と私との信用を得る為、仁恵令を行はねばなるまい。思ひ切つて、牢獄の囚人を解放したらどうだ』
千草『ハイ、恋しき貴方のお言葉、否む訳には行きませぬ。仰せに従ひ、仁恵令を行ふ様、ガーデン王に申しつけませう。併し乍ら特別の重大犯人丈は許すことは出来ませぬ。吾々の身辺を窺ひ、何時危害を加へるか知れませぬからな』
梅『ハヽヽヽ高チヤン、やつぱりお前は女だ。そんな気の弱い事をいふものぢやない。牢獄に一人の囚人もゐない様にするこそ、仁恵といふものだ。お前は照国別、照公の両宣伝使を非常に気にかけてゐる様だが、此際思ひ切つて放免した方が、何程お前の信用が上るか知れないよ。城下の噂を聞けば、大変な事になつてゐるよ。三五教の宣伝使を二人迄牢獄へ打込むなんて、怪しからぬ千草姫だ。今クーデターを行ひ、千草の首を取り、大衆の怨を晴らさにやおかぬ……とそれはそれはエライ悪い人気だよ。さうだから此際、お前がガーデン王に言ひ付け、仁恵を行ひ、大衆の疑をはらせ…といふのだ。之より可い方法はないからなア』
千草『成程、それも一つの政策としては可いかも知れませぬな。時に杢チヤンに折入つて願ひたいのは、あのジヤンクといふ奴、仲々のしたたか者で、日の出神の生宮の神命でさへも拒むといふ剛腹者だから、一寸困つてゐるのよ。何とかして彼奴を放り出す工夫はありますまいかな』
梅『ハヽヽ吹いたら飛ぶ如うなジヤンクが何だ。併し今彼を放逐すると却てお前の人気が悪くなり、大望の邪魔になるから、あの儘にしておけ。今に此杢助が頭を上げたが最後、ジヤンク何か、谷底へ一けりに蹴り落して了ふ考へだからな』
千草『ホヽヽヽ、そらさうでせうな。貴方の御力量はとつくに承知してをります。広い此世界に貴方に優る豪傑はないんですもの』
梅『そらさうだ、さ、一時も早う王を呼び出して、仁恵令を行ふべく取計せたが可からうぞ』
千草『杢チヤン、さう急くにも及ばぬぢやありませぬか。久し振で焦れ焦れた男女が面会したのぢやありませぬか。マア今晩はゆつくりと抱いて寝て下さいな。わたえモウ杢チヤンの面みてから、勇気も何もなくなり、ヤヤ子のやうになつて了つたワ』
梅『人気沸騰し、今やクーデターの勃発せむとする矢先だもの、一刻の猶予も出来ないよ。早く教王を呼出して仁恵令を行はしめなくちや、安心して寝る訳にも行かぬぢやないか。それさへ済めば、十日でも百日でも、三年でも五年でも、お前にひつついて放しやしないよ。厭といふ所迄抱き締てやるからなア』
千草『ホヽヽヽそんなら、教王に日の出神が命令を下しておきます。それさへ済めば寝て下さるでせうな』
梅『そらさうだ共、サ、早くやつてくれ。特別急行で頼むよ』
千草『承知しました。飛行機でやつつけませう、ホヽヽヽ』
と笑ひ乍ら、教王の居間にソロリソロリと、両手を拡げ、三つ四つ羽搏し乍ら進み入る。教王は一生懸命にウラル教の経典を、首をかたげて調べてゐた。
千草『ホヽヽヽ、ガーデン王殿、偉い御勉強、日の出神、誠に感じ入つたぞや。只今お出遊ばした神人は、天国にても名も高き時置師の神様であつたぞや。此神が現はれ玉うた上は、トルマン城は大磐石、御安心なされ』
王『ハイ、有難う御座います』
千草『就ては日の出神が其方に申し渡す仔細がある。よつく承はれ』
王『ハイ』と俯く。
千草『日の出神自ら教王の居間に現はれたのは、余の儀ではない。先づ第一に五六七神政開始の御祝として、牢獄の囚人を、時を移さず、一人も残らず、仁恵令を発布して、放免せられよ。之ぞ全く、三千世界の救世主、底津岩根の大みろくの霊体、第一霊国の天人、日の出神の生宮の神命で御座るぞや』
 ガーデン王は『ハイ』と答へて、直ちにジヤンクを呼び、牢獄の囚人を一人も残らず解放して了つた。千草姫はニコニコし乍ら、吾居間に帰つてみれば、梅公はグウグウと高鼾をかいて、他愛もなく眠つてゐる。
千草『コレ、杢チヤン、起きて下さらぬかいな。何ですか、タマタマお面みせておいて、本当にスゲナイ人だワ。もし、杢チヤンつたら、目をあけて下さいな』
 何程揺すつても、呼んでも、鱶の如な高鼾をかいて一寸も気がつかぬ。千草姫は止むを得ず、梅公の寝姿を少時打ち見守つてゐた。
千草『ホヽヽ何とマア、気高いお面だこと。色あく迄も白く、搗立の餅のやうなお面の生地、眼許涼しく、鼻筋通り、口は大きくもなく、小さくもなく、お髭の具合といひ、お頭の髪といひ、肌の滑らかさ、お爪の光沢、どこに一つ、点の打ち所のない、宇宙第一の美男子だワ。こんな美男子を男に持つ此高チヤンは、何といふ仕合者だらう。ホヽヽヽ、お涎が知らぬ間に一合許り、お膝の上へこぼれよつたワ。ガーデン王のやうなド茶瓶頭や、キユーバーさまの様な、さいこ槌頭をみてゐた目には、一入立派に見えて堪らないワ。味の悪い腐つたドブ漬を食た口で、特製の羊羹を食た時の様な気がするのだもの、ホヽヽヽ。ても偖も愛らしい、凛々しい、男らしい、神さまらしいお姿だこと』
と面を撫でたり、目をあけてみたり、なぶり物にして楽んでゐる。時しも城外の牢獄の囚人を解放した為、囚人が一斉に『万歳々々』と叫ぶ声、窓ガラスを通して響き来る。
千草『ホヽヽヽ杢チヤンの御発明に仍つて、牢獄の囚人が解放され、万歳を叫んでゐる様だ。囚人も万歳だらうが、此高チヤンも天下無双の英雄豪傑美男子に会うて万々歳だワ、オホヽヽヽ』
梅『あーあーあ』
と欠伸し乍ら、両手をヌツと伸ばし、
梅『ヤア、高チヤン、お前そこにゐたのか』
千草『ハイ、ゐました共、貴方どうですか。何程ゆり起しても、喚いても起て下さらぬのだもの』
梅『オイ、金毛九尾の容物、千草姫の亡きがら、高姫の再来、しつかり聞け。俺は時置師の杢助でも何でもない。三五教を守護する第一霊国の天人、言霊別のエンゼルだ』
といふより早く、大光団となつて、千草姫の両眼を射乍ら、窓の隙間より、音もなく出て了つた。依然として老若男女の万歳の声、間断なく聞え来る。千草姫は余りの驚きに暫しの間は失心して了つた。
(大正一四・八・二五 旧七・六 於丹後由良秋田別荘 松村真澄録)
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