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文献名1大本史料集成 2 >第1部 明治・大正期の運動
文献名2第1章 出口王仁三郎関係文書よみ(新仮名遣い)
文献名3随筆『神霊界』大正9年8月21日号掲載「教主輔大先生の御訓示」よみ(新仮名遣い)
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ページ96 目次メモ
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本文    教主輔大先生の御訓示
(八月十七日午後八時ミロク殿に於て役員信徒のため)
 今晩お暑い所を皆様に御集りを願つたのは外ではありません。諸君の御承知の如く、全国の新聞雑誌の大本に対する批難攻撃は近来又日盛んになつて来まして、都の大新聞も田舎の小雑誌も大本の事を書かねば何か不見識でもあるやうに、皆筆を揃へて書き立てて居ます。そして其等の記事の大部分は皆根も葉もない虚妄な中傷的なものであるのも、諸君周知の事でありませう。
 が、古諺にも「火のない所には煙は立たぬ」と云つて居る通り、是等の記事の出づる源には、仮令其れが如何に誇張されたものとは云へ、其処には必ず役員信者の誤れる言行が原因して居るで有らうと思ふのであります。即ち、入信後日浅き信者や、又大本の真髄を未だ捕へ得ざる研究者の誤れる言行が、誇張好きの新聞記者に依つて針小棒大的に伝へられ、それが「一犬虚に吠えて万犬実を伝ふ」的に天下に喧伝せらるるに至つたものと信じます。故に此際諸君の最も慎んで戴きたいものは口であります。俚諺にも「口は禍の門」と云ひ復御神諭にも「此大本は世間からは指一本さすことも出来ぬ誠の教であれども、大本を破るものは、大本の中より出現するぞよ」とか「力一杯御用した積りで力一杯邪魔する」とか仰せられて居ます。この際役員信者諸氏は充分に口を慎しんで貰はねば、却て神界の経綸を妨ぐることとなるのであります。
 御筆先はすべて各人の身魂相応にとれるものであります。丁度鏡のやうなもので対者の心が正しければ写つた姿も正しくありますが、若し対者の心が邪しまであれば邪に写りとんだ間違ひになるのであります。
 昔斯う云ふ話があります。或御幣かつぎが、正月の元朝は何でも御目度たい事を云つて福を招かねばならぬと思ひ、近所の物識の許へ行つて、「福の神に貧乏神が追ひ出され垣の外面にメソメソと泣く」と歌へと教へられました。その男は大喜びで帰りましたが、元日の朝になつて「福の神が貧乏神に追ひ出され垣の外面にメソメソと泣く」と、がとにとが顛倒して意味が正反対になつて居るのも知らず、一生懸命に怒鳴つて居たと申します。
 御筆先も丁度これと同様に肝腎な所を一寸と違へてもとんでもない間違になつて了ふのです。
 役員信者諸氏の中には大立替で大変な天変地災が起るとか、大正十一年には天地がヒツクリ覆るとか云ふやうな事を現実に在る如くに依然喧伝する方もあるやうに聞きますが、すべて破壊動乱を喜ぶのは悪魔の心でありまして、斯様な人は上に述べた御幣かつぎも及ばぬ大取違ひをして居られるのであります。即ち是等の人は神諭中に「急遽に致せばこの世は潰れて了ふなれど、ここまで開けて来た世を潰すことはどうしても神は忍びないから斯の艮の金神は如何なりとして一人でも多く改心させ、餓鬼虫族迄も助けたいのが此の方の願ひであるから、万一の事があれば天の大神様へ申訳がないから、ここの所を推量してどうぞ一日も早く改心して下されよ」とある、至仁至愛の大神の大御心を汲取らず、全然目の付け処を違へて居るからであります。
 神諭には神心に立ち帰れと始終御教誨になつて居ますが、神心とは全然自己を離れ大君の為御国の為に尽す処の所謂「我身をすてて世界助けの信心」をする事であります。即ち上は天壌無窮の皇運を扶翼し賜ふ皇室の弥栄えに栄え給ふ事を祈り、下は万民鼓腹の泰平を楽むやうになるのを願ふのが神心であります。であるから、天変地災などは可成無きやうに、一人でも多くの人がミロクの世に救はるる様に大神様に祈願し、又自らも努めるやうにならねば、決して御神慮に叶ひ奉るやうにはならぬのであります。神諭には「大難を小難に祭り代へて小難は無き様に」とありますが、この大難と云ふのは風水火の大三災の事で、小難とは饑病戦の小三災の事であります。前者は人力を以て、如何とも為難いものでありますが。後者は必ずしもそうではありません。我々が充分に改心して神心に立ち帰れば、大難を小難に祭り代ヘて戴き、又た小難は来ぬやうに守つて頂けるのでありますから、此際諸君は充分に神心になつて、悪魔の言は固く却けていただかねばならぬのであります。然かのみならず我国は古来言霊の幸ひ天照る国でありますから、善きことを云へば善き事来り、悪いことを云へば悪い事が来ます。故に余り天変地災を唱導すると、其言霊の為に実際それを招来さすことになるのであります。故に私は今迄も神霊界誌上で「思ふことありて」と言ふ歌を読んで色々と御注意申上げたのですが、今回は遂に内務省当局に御心配をかけるやうになつて来ました。内務省では近来思想界動揺の甚だしきを憂へ、この方面の取締を大いに厳重にして居られるのですが、今年に至りて愈々天下の視聴の中心となつた我大本が、天変地災や日米戦争の予言的宣伝をやつては世に影響する処頗る甚大なのであります。殊に日米戦争説の如きは外交上にも尠なからぬ支障を来すとの事ですから、特に御注意を御願ひするのであります。
 私は今日綾部の警察署へ出頭致しまして、小原高等課長、遠藤綾部署長立会ひの上、諸種の注意をうけましたから、それに付いて少し皆様に御話しを致し、御反省を待たうと思ふのであります。
 第一の注意は皇室の尊厳を冒涜するが如き言辞を慎むやうにと云ふ、誠に意想外な注意であります。
 抑も我皇道大本は世道民心の堕落を慨嘆し、敬神尊皇愛国の旗幟を押し立てて蹶起したものでありますから、大本より敬神尊皇愛国を去つたなら、あとには何物も残らぬのであります。只世の為人の為に自己を忘れて尽瘁し迷へる人々に神の慈愛を宣べ伝へ、之を改心させて、ミロクの世に救ふ、是が大本の根本精神なのであります。然るに、今回思ひがけずもかかる誤解を世に得たのは、誠に何たる意想外なことでありませう。吾人平素の主張主義に対しこれ程遺憾な、又愧しいことは無いのであります。私はかかる誤解の生じた原因を考ヘて見ますに、今の体主霊従になり切つた世人は善の事は余り顧みないが、悪の事になると大変喜んで見聞きしたがるものです。随つて過激な突飛な言論が喝采をうける所から、大本の伝道者中の血気に迅る人等は動もすれば、奇矯な、大本の根本精神に背戻する──少くともその様に誤解さるるやうな──言論をなすやうであります。上述の如く雪とタドンと取り違へたやうな誤解も斯う云ふ処から生じたものでせう。諸君は「伝導者の言葉と行為は恰も原野を焼く火の如し」との神諭の前によくよく御反省あらんことを切に希望する次第であります。
 皇道大本の綱領は政(万世一系の御天職)教(天授の真理)慣(天人道の常)造(適宜の事務)であります。神聖な神様に仕へ奉る以上は今迄のやうな賤しい商法を止めねばならぬなど云ふ人がありますが、若し世人が皆職業を止めて祝詞斗り奏上して居たら国家は何うして維持して行けませうか。斯誤解は造の何物たるかを知らぬからであります。諸君はこの政教慣造の区別を明かに体得して戴かねばなりません。
 第二は私有財産撤廃、大家族制度に対する注意で、之に就ても大分世人に誤解されて居るやうであります。
 すべて天地間の一切の事物は「豊葦原の千五百秋の瑞穂の国は我子孫の君たるべき地なり」と云ふ御神勅を奉じて天が下を知食し給ふ我天皇陛下の御所有であらねばなりません。即ち普天の下率土の浜王土に非ざるはないのであります。然るに今我々が御仁勅によつて私有財産を許されるのは臣民を赤子の如く見給ふ陛下の御神慮に依るものと有難く感謝し奉らねばなりません。でありますから自己が相当な生活をなして行くに足る財産は戴いて居ても決して差支へないのであります。只今日の成金輩の為す如く、他の赤貧に苦しむ人を顧みずして、自己の快楽の為にのみ貪るやうな事はしないで、余裕あれば公益の為に供せよと云ふに過ぎないのであります。僅か五十年の人生にのみ通用する財産を積むよりも、末代に滅ぶ事なき霊魂の徳を積め、吾々は斯う叫ぶのであります。仏教でも説くやうに、すべて善因には善果あり、悪因には悪果があります。斯世で正義を行ひ人道を履んだ人は、神界にてはまことに結構な身にしていたいただき、永遠の幸福を楽み得るのであります。此の事がよく了解さるれば、区々たる私欲の為、自らを根底の国に堕す人こそ真に欲を知らざる者と云ふべきではありませんか。我大本にては斯かる見地より、即ち形ある金銀財宝よりも、心中の無形財宝を重んぜよと云ふ意味に於て、私有財産を重んじ過ぎるなと云ふのであります。
 又日本の国家は神代の昔より、主師親の三徳を惟神に具有し給ヘる、陛下を親と慕ひ家長と仰いだ、一大家族をなして居ます。故に互に反目争闘することなく、常に相倚り相助け以て、渾然たる一家の団欒をなさねばならぬのであります。是即ち吾人の呼号する精神的大家族制度であります。
 然るに中には之を形体上の事となし共産主義社会主義抔に誤解されるやうに説かれる人があり、為に当局より白眼まれ、神界の経綸を妨ぐる様なことになるのであります。又憲法は立替後には無くなるとか云ふ人もあるそうですが、すべて憲法は皆、陛下の御欽定になつたもので、その廃否は皆、陛下の御意に御在します事でありますから、我々臣民は何も申上ぐべき訳がないのであります。それから、地震雷火の雨等と云ふ天変地災に付いては先に述べたことをよく体得して、軽々しき言は最も慎んで戴かねばならぬのであります。
 御筆先には「本宮山の御宮が出来たら黙りて居りて改心出来るやうになる」「物云ひたいやうな間は誠でない」「なんとした静かさだらうと世間から云ふやうにならぬと神は表になられぬ」抔とよく教へられてあります。私は斯う云ふ処から神諭の発表を見合はせやうと思つた事は再三ありましたが、「変性女子は大本の経綸を邪魔して、自己の所説を拡めあとを取らうとする」なぞと誤解されてはと、躊躇して居ました。そうして居る所へ本月五日に至り火の巻発売禁止の命が来たのであります。
 私は是は皆神界の御仕組と、有難くこそ思ヘ決して不平も何も無いのであります。御筆先は只の一枚でもよく腹に這入ればそれでよいのですから、諸君も今迄の神諭を入念に御拝読になれば、火の巻はなくとも毫も差支へはあるまいと思ひます。
 次は鎮魂帰神でありますが、当局でも之を廃止さすことは出来ぬが、可成せぬやうにして呉れと云ふことです。一体この鎮魂帰神の神法は古事記日本紀古語拾遺等の国家の重典に誌されてあり、大日本国教の重要なる要素をなして居ます。その起原は畏くも皇祖天照大神の御時にあり、故に歴代の陛下は御即位式の節は必ず鎮魂祭を行はせらるるのであります。又た宮中の八神殿は則ち鎮魂の神様が祭つてあります。故に若し真の鎮魂帰神を無視するならば、夫れは軈て国教を毀ち、延いては皇室の尊厳を冒涜する不敬に陥るのであります。然し乍ら、今まで大本の人々がやつて居たのはその形の上にも相違が有り、且つ余り濫用し過ぎて居ました。中にはその原理も真目的も知らずに盛んにデモ鎮魂をやつて居た人も尠少ではなかつた様であります。その上、地方の発狂者などが治病の為に鎮魂を受けに来るのを、鎮魂をうけた為発狂したやうに誤伝せらるる等、カナリの迷惑や弊害を認めましたので、私は台湾当局が禁止するよりも更に以前に於て充分の注意をしたのであります。
 抑も鎮魂の神法は上は畏くも天皇様の治国平天下の大道より、下は万民が修身斉家の基本であつて、実に我神国の重要事でありますから、万々一鎮魂を禁止するやうな事が在りとすれば、皇室のため国家のため断じて許さないので在ります。併し先達て台湾官憲が鎮魂を禁止しましたに就ても吾々は一言も抗議が出来ないと云ふ残念な次第は真正の鎮魂でなくて、前に申上げた様なデモ鎮魂の乱用に帰因して居ると思ひますから、止むを得ず泣寝入りを為て居るので在ります。如何に乱暴な国体精神に乏しき某地方の官憲と雖も皆さんが真正なる鎮魂を奉修されるのを禁止する筈は無い、要するに我々の不明の罪と思ふて自ら戒むるより外に在りませむ。其筋の御注意の点は是位なものであります。
 最後に一言奥津城の事に就て申上げます。教祖様の御昇天は大正七年十一月六日でありましたが、当時はかの流行性感冒が猖獗を極めて居て、共同墓地に余地が無かつた為め、今の奥津城の地の使用を願ひ出たのですが、仲々許しが出ず、御昇天后二十八日目の十二月四日に漸く許可の通知状が来たのであります。然も御本葬はあと二日に迫つて居るので、各地青年隊が一生懸命に努力した結果、やつとあの土饅頭丈けが築けたのであります。然し原の設計は決してああ云ふのでなくて、方形に石を積んでその上に墓標を樹てる予定だつたのです。
 処が其後あの奥津城は畏くも明治大帝の御陵に似て居る不敬だと云ふ批難が起りました。実際そうであるとしたら、敬神尊皇愛国なる大本の主義に悖り、敬虔なる教祖様も決して御快よく思はれないに違有りません。且心ある信者は此点を大いに遺憾に思つて居られるやうでしたから、私も二代も三代も大変心配して、一年祭までに原の設計通り改築し度いと思ふて一二回或る法律家に問ひましたが、十年後迄は改築する事はならぬとのことで心ならずもあの儘にして置いたのですが、今回願つて許可を得る見当がつきましたから、三年祭(即ち本年の十二月六日)までには原の設計通りに改築することにしましたから、皆様に誤解のなきやうに願ひます。
 又本宮山の御神殿を(御神宮)と時報などにあるのを見受けますが、御神宮なる呼称は官幣大社以上でないと法規上須ひられませぬから、今後は必ず御神殿又は大神殿と呼んで頂かねばなりません。
(「神霊界」大正九年八月二十一日号)
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