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文献名1霊界物語 第7巻 霊主体従 午の巻
文献名2第8篇 一身四面よみ(新仮名遣い)いっしんしめん
文献名3第45章 酒魂〔345〕よみ(新仮名遣い)くしみたま
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-05-24 15:49:06
あらすじ日の出神は蚊取別に語りかけた。蚊取別は三五教の宣伝使と聞いて、逃げ出そうとする。日の出神は蚊取別を引き止めて、実は三五教は民には飲むな、といっておいて自分が飲む教えなのだ、と説示する。蚊取別は、それは本当にようわかった神様ですな、と感心している。日の出神の共の三宣伝使は、日の出神の言いように合点がゆかず、怪訝な顔をしている。丑三つ時になると、日の出神は何事か祈願を始めた。すると、あたりを照らす鏡のような火の玉が降り、光の甕となって芳しき酒を湛えた。日の出神は酒を飲もうとする蚊取別の体を霊縛したため、蚊取別は飲もうとしても飲めない状態になった。そのうちに蚊取別の口から焼け石が三個飛び出して甕の中に落ちた。とたんに甕は消えうせた。これ以降蚊取別は酒がすっかり嫌いになってしまい、三五教を信じることとなった。蚊取別は後に面那芸司の供となって諸方を遍歴し、生き神になることになる。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年02月02日(旧01月06日) 口述場所 筆録者井上留五郎 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年5月31日 愛善世界社版273頁 八幡書店版第2輯 132頁 修補版 校定版283頁 普及版116頁 初版 ページ備考
OBC rm0745
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本文  一たん蹲踞みたる蚊取別は群衆の散り失せたるに、ほつと一息し、お山の大将俺一人と云はぬばかりに、薬鑵頭を振立てて、篝火の前に臂を張り威張りゐたり。
 そこへ悠然として現はれたる四人の宣伝使の一人日の出神は、蚊取別の肩をソツと敲きながら、
『もしもし蚊取別の宣伝使、思はぬ所でお目にかかりました。今木蔭より承はればウラル彦の宣伝歌を歌つて歩かれるさうですな。それは誠に御苦労なことです。常世の国の会議でお目にかかりました私は大道別ですよ、否や偽の常世彦命ですよ』
 聞くより蚊取別は後ふり向いて、ギロリと日の出神の顔を見詰め、尻を後へ突き出し、早くも逃腰になりゐる。
日出神『あなた沢山な瓢箪を持つて居ますね』
高照彦『瓢箪だと思つたら、何ンだ、光つた顔だな。瓢箪によう似た宣伝使だ』
日出神『又貴方は他人の事をおつしやる。人の顔の批評は止めて下さい』
高照彦『ハハハイ』
蚊取別『ハア、私はあれから常世の国を放り出され、流れ流れてナイヤガラの滝の水上の鬼城山に、永の月日を送りましたが、悪い事を致しまして、たうとう鬼城山も追ひ出され、それからウラル彦さまの宣伝歌を聞いて、飛び立つ許り勇み立ち、今はこの通り瓢箪を提げて世界に宣伝をやつて居ります。貴方は矢張りウラル彦の宣伝使ですか』
日出神『吾々は三五教の宣伝使だ』
 蚊取別は宣伝使と聞いて、逃げ出さうとする。
日出神『ままお待ちなさい。私も斯うやつて歩いて居るものの、表面は酒を飲むな飲むなと教へてゐるが、その実世界の奴が酒を飲むと、吾々の飲む酒が無くなつて困るので、世界の奴は「飲むな、飲ンだら悪いぞ」と云つて止めて廻つて、自分一人こつそりと飲ンでゐるのだ。好きな酒を止めと云つたつて、どうしても止むものでない。世の中はな、かならず裏と表とがあるものだ。お前さまも酒を飲め飲めと云うて歩くのは結構だが、余り世界の者に酒ばかり飲ますと、お前さまの飲む酒が無くなつて了うぢやないか。ウラル彦さまは本当に博愛だな。お前さまもその博愛に感心して宣伝して居るのだらう。さうして彼方や此方で頭を敲かれたり、瓢箪を破られたり、天下の宣伝使も並大抵の事ぢやありますまい、御察し申す。貴方もここは一つ考へ直して、三五教の宣伝使になつて、自分独り美味い酒を飲む気はないか。世の中は何事も表があれば裏がある。昼があれば夜があるものだ。一枚の紙にも裏表がある。なンぼウラル彦さまだとて、裏ばかりでは間に合ふまい。これからはウラル教を表にして、三五教を裏にして、表裏揃うて吾々と一緒に宣伝に出て来ませぬか』
蚊取別『あー貴方はよく判つてゐる。これまで三五教の宣伝使に沢山逢うたが、それはそれは堅い堅い、石部金吉鉄兜、飲みたい酒も、神が怒るの何うのと云つて辛抱して、グウグウいふ喉を抑へて、唾を呑ンで、目を剥いて気張つてゐる苦しさ。こンな事なら死んだがましだ、酒無くて何の己が桜かなだ。貴方のやうな教なら、ただ今より喜びて御伴をいたしませう。実のところ私もさうしたいのだけれど、何分に智慧が廻らぬものだから、真正直にやつて来ました。本当によう判つた神さまですな。さうでなくては、世の中が渡れませぬ哩』
と顔色を変へ、肩をゆすつて歓ぶ。
 三人の宣伝使は合点ゆかず、日の出神の蓑を引張り、
『もしもし貴方のおつしやることは、ちつと違ひはしませぬか』
日出神『違ひはしませぬよ。細工は粒々仕上を見て下さい』
 一同は怪訝な顔つき。
 夜は深々と更けわたる、水も眠れる丑満の頃となり、日の出神は何事か祈願を籠めた。たちまちその場に何処ともなく、四辺を照す鏡の如き火の玉は降り来りぬ。
 一同は驚きその火の玉を凝視めゐたり。これぞ日の出神の奇魂が、今天より降り来れるなりき。見る見る大なる光りの甕となりぬ。なんとも言へぬ芳ばしき酒は、溢るる許り盛られゐたり。蚊取別は鼻をぴこつかせ、
蚊取別『やあ、是は是は結構な御神酒、頂きませうか』
と早くも甕に向つて飛び付かうとする。
日出神『マア、お待ちなさい。この酒は手をつけたり、杓で汲んでは神罰が当ります。天から与へて下さつた、結構な御神酒、静かに口をつけて飲まなくては味がありませぬ』
蚊取別『こンな大きな甕に手も触れず、杓もつけずに、どうして飲めますか』
日出神『私が今飲ましてあげやう』
蚊取別『有難う、どうぞ早く飲まして下さい』
 日出神は又もや甕に向つて、何事か神文を唱へける。忽ち甕は横に平たくなり、その代りに丈は低くなりぬ。口をつけるには丁度よき加減となりけり。
蚊取別『あゝ見とる間に、甕が地の中へ這入りよつたな。ちやうど私の体の丈に比べて、よい加減の所へ来たワ』
日出神『さあ飲ましてあげませう』
と云ひながら、蚊取別の身体に霊縛を施した。蚊取別は首から下は、材木のやうに堅くなりぬ。
 蚊取別は酒に心を奪られて、身体の強直した事も気が付かず、首ばかり振り居たる。日の出神は蚊取別の二本の脚をグツと掴みて、甕の上に突き出したるに、蚊取別は舌を出して、
蚊取別『もしもし、も少し一寸許り下げて下さい、届きませぬ』
日出神『よしよし』
と云つて七八分下げた。蚊取別は一生懸命に舌を出し、
蚊取別『もう一分下げて下さらぬか、届きませぬ』
日出神『よしよし』
蚊取別『そら反対です、高うなりました。もちつと下まで』
 日の出神は蚊取別を上げたり、下したり、どうしても酒の処へまで届かさざりけり。蚊取別は声を搾り出して、
『あゝ鈍なお方だな、もちつと下げて下さいな』
 斯くして半時ばかりも時間を経にける。蚊取別は、
『かゝゝ』
と咳払ひをすると共に、焼石が三箇飛び出し、ジユンジユンと音を立てて甕の中に落ち込みし途端に、甕は煙のごとく消え失せにけり。
 そこら一面もとの暗夜となり、空には閃く星の影、地には暗を透して蚊取別の頭薄く光りゐるのみなりける。
 これより蚊取別は、すつかり酒が嫌ひになつて了ひ、しかして三五教を信ずる事となり、面那芸司の供となりて諸方を遍歴し、知らぬまに生神となりにける。
(大正一一・二・二 旧一・六 井上留五郎録)
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