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文献名1霊界物語 第8巻 霊主体従 未の巻
文献名2第4篇 巴留の国よみ(新仮名遣い)はるのくに
文献名3第26章 讃嘆〔376〕よみ(新仮名遣い)うろーうろー
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-06-07 14:56:37
あらすじ一行はすわ敵軍かと警戒するが、これは巴留の国の人民たちが、宣伝使がやってきてから鷹取別の軍勢が退却して行ったので、感謝のために貢物を持ってやって来たのであった。蚊々虎はこの騒ぎの中でまたもや滑稽なやり取りをして一同を煙に巻いている。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年02月09日(旧01月13日) 口述場所 筆録者東尾吉雄 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年6月15日 愛善世界社版175頁 八幡書店版第2輯 213頁 修補版 校定版177頁 普及版78頁 初版 ページ備考
OBC rm0826
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本文  門内には駱駝の嘶く声、群衆の話し声、刻々に高まり来たる。蚊々虎はムツクと身を起し、玄関に立ち現はれ、
『ヤアヤアその物音は敵か味方か、実否は如何に』
と、呶鳴り立ててゐる。
 高彦は吹き出し、
『オイオイ、周章てるな、なぜ刹那心を発揮せぬか』
『刹那心ぢやと云つたつて、斯う成つて来てはどうもかうも有つたものかい。刹那心も切無いワイ、この蚊々さまは』
『アハヽヽヽ、弱い奴だな、法螺計り吹きよつて。昨日のやうな勇気はよう出さぬのか』
『出さいでか、まあ見ておれ。これから蚊々虎は寄せ来る敵に向つて、この鉄拳を縦横無尽に打ち振り打ち振り、打つて打つて打ち倒し、勝鬨挙ぐるは瞬く間さ。細工は流々仕上げを見てから何なと言へ』
と云ふより早く、韋駄天走りに門外に飛び出しける。高彦は後見送り乍ら、
『オーイ、待て待て、アー往つて了ひよつた。周章者だなあ、飛んで火に入る夏の虫かい、モシモシ淤縢山津見様、如何取り計らひませう』
『まあ急くに及ばぬ。悠くりお茶など飲んで心を落着けたら良からう』
『察するところ、鷹取別の配下の軍勢が、吾々一同を亡ぼすべく、押し寄せたのでは有りますまいかナア淤縢山さま』
『サア淤縢山津見には何とも判らぬなあ』
 この時韋駄天走りに玄関より上つて来た蚊々虎は、
『オーイ、淤縢山津見、一同の者、確り致せ、敵は間近く攻め寄せたりだ。駒山彦を始めとし、慗いに身を逃れむとして敵の捕虜となり、死恥を見せむよりは、潔くこの場で割腹々々。サアサア腹を切つたり切つたり』
『アハヽヽヽ、オイ、狂言をするない。あの声を聞いたか。ウローウローと言つてるではないか。吾々一行を、この辺の人民が神様のやうに思つて、お祝に来てるのだぞ。駱駝の声と言ひ、喜びの声と云ひ、あの言霊にどうして敵意を含んで居るか。貴様もいい周章者だ。それだから臍下丹田、天の岩戸に魂を据ゑて居らぬと、まさかの時には狼狽へて、キリキリ舞ひを致さな成らぬと仰有るのだよ。何だ、この態は、キリキリ舞を仕よつて、恥でも知れ。五月姫さまが、襖を細目に開けて、笑つて居らつしやるぞ』
『ソンナことは遠の昔に百も承知だ千も合点だ。駒山彦の奴、俺を地獄から迎ひに来たなんて脅かしよつたから、俺も一つ返報がへしをして見たのだ。貴様は要らぬ事を云ひよつて、俺の妙計の裏を掻くと云ふ事があるかい。実の事を云へば、五月姫様でさへも、その父さまの闇山津見さまでさへも、丁重に待遇して、教を受けられるやうな立派な蚊々虎の宣伝使を、お祝ひ申せ、お礼に行かねば成らぬと、皆の者が言合して、色々の珍しい物を沢山持つて、駱駝に積んでな、蚊々虎に進上したいと云つていよるのだよ。ヘン、豪勢なものだらう』
『アハヽヽヽ、笑はせやがらあ。ヘー貴様の様な宣伝使に、誰が木の葉一枚呉れる者があつて堪るか。みな淤縢山津見の宣伝使と、高彦さまの改心演説に感心してお祝に来たのだよ。余り自惚れて貰ふまいかい。貴様は自惚れるのも一番だが、恐がるのも、威張るのも一番だ。それだから馬鹿の一番と云ふのだよ、ウフヽヽヽ』
『何なと勝手に吐けい。百千万の敵にも、ビクとも致さぬ事は無いことは無い蚊々虎だ。木端武者は控へて居らう』
『オイ、また狂言するのか。五月姫が窺いてるよ』
 玄関に二三人の声として、
『頼みます、頼みます。闇山津見さまに会はして下さい』
 玄関番は、
『ハイ』
と答へて、直ちに奥の間に走り入り、この旨を伝へたるに、闇山津見は、五月姫と共に宣伝使一同の前に現はれて、
『昨夜は失礼致しました。今日はどうか御悠りと御休息を願ひます。就ましては巴留の国の人民共が、宣伝使の労を犒ひたいと申して種々の御土産物を持参致しました。今三人の代表者がこれへ参りますから、何うか話をしてやつて下さいませ』
『重ね重ねの御親切、有難う存じます。何時でもお目に掛りませう』
 斯く挨拶を交す折しも、三人の男、代表者としてこの場に現はれ、一同に向ひ叮嚀に辞儀をしながら、
『宣伝使御一同様に申上げます。この地方は、鷹取別の軍勢が沢山に入り込み、強盗をする、婦女子を嬲り者にする、乱暴狼藉致らざる無く、昨日迄は何事が勃発するかも知れないと云つて、この国人は戦々兢々として仕事も手につかず、心配を致しまして、国魂の神のお祭を始めて居ました処が、思はずも宣伝使様の宣伝歌が聞えると共に、鷹取別の軍勢も、悪神の私語も、ピタリと影を隠し、声を潜めて了ひました。大方この大沙漠を横断して、西の国へ逃げ帰つたのでせう。吾々人民が塗炭の苦みをお救ひ下さいました其の御高恩の万分の一に酬ゆる為めに、吾々は人民を代表して、茲に数十頭の駱駝を献上致したいと思うて参りました。御受納下さらば有難き仕合に存じます』
と、云ふを聴きて、
『ああさうか、それは良く改心が出来た。結構だ。神様は何よりも改心が一等だと、宣はせられる。高砂島の国魂、竜世姫神は実に偉い神さまだ。さうしてそれよりま一つ偉いのは、この蚊々虎の宣伝使だ』
『はい、左様で御座いますか。その偉いお方は何処に居られますか。一度拝顔を願ひたいものです』
『居られますとも、確にこの場に鎮座まします。篤と拝んで帰るがよからう』
 高彦クスクスと笑ひ出す。
『不謹慎な奴だ。何が可笑しいか。黙れ黙れ』
 蚊々虎は代表に向ひ、
『蚊々虎といふ生神の、立派な広い世界に唯一人より無い宣伝使は、この御方だ』
と右の手を左手にて握り、食指を突き出し乍ら、空中を東から西へと指ざし、その指の先を自分の鼻の上に、テンと乗せて見せる。高彦は、
『オイ、三五教は耐へ忍びだ』
と云ひつつ、横面をピシヤリとやる。
蚊々虎『何をツ、チヨ、チヨコザイナ。蚊々虎を知らぬか』
『オイ、見直し聞き直し、耐へ忍びだよ。それが生神の宣伝使だよ』
 五月姫は思はず、
『オホヽヽヽ』
と倒て笑ふ。
『貴方がその結構な宣伝使で御座いましたか。それにしても余りお軽う御座いますな』
『軽いぞ軽いぞ、お前達の様に罪の重い者では宣伝使は出来ぬからのう』
『蚊々虎さま、偉い勢ですな、駒山彦も感心致しました』
『ウン、それでよい。長く饒舌ると屑が出る。言はぬは言ふに弥勝るだ。オイ、代表者共、生神の宣伝使は、人民の厚き志、確かに受納致したと申し伝へよ』
『ハイ、畏まりました』
代表甲『オイ、一寸此奴は可笑しいぜ』
代表乙『神さまなんて、アンナものだよ』
代表丙『妙な神さまも有つたものだな』
 蚊々虎ニヤリニヤリ、
『其方共は何を私語くか。生神の前だぞ』
『イヤ、三人の御方、私が淤縢山津見で御座ります。何うか皆さまに宜しう御礼を仰有つて下さい。今偉さうに申上げました彼は、蚊々虎と云ふ私共の荷物を持つ従僕で御座いますから、何うかお心に障へられぬやうに。宣伝使はアンナ者かと思はれちや、教の疵になりますから、私は改めて宣り直します』
 蚊々虎は面を膨らし、淤縢山津見の宣伝使を睨み詰めて居たりける。
 高彦は堪へかねて
『ウワハヽヽヽヽ』
 闇山津見も同じく
『フツフツヽヽヽヽヽ』
 駒山彦もまた
『クワツ クワツ クワツ クワツ』
 五月姫も
『オホヽヽヽヽ』
 代表者は妙な顔して
『エヘヽヽヽヽ』。
(大正一一・二・九 旧一・一三 東尾吉雄録)
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