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文献名1霊界物語 第15巻 如意宝珠 寅の巻
文献名2第3篇 神山霊水よみ(新仮名遣い)しんざんれいすい
文献名3第17章 窟の酒宴〔584〕よみ(新仮名遣い)いわやのしゅえん
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2021-01-16 02:16:46
あらすじ岩窟の中に館があり、高姫、黒姫、蠑螈別を始めとするウラナイ教の信徒たちが酒宴を張っている。黒姫は、池に投げ込んでおいた二人の女(岸子姫と岩子姫)を連れてきて、芸をさせて慰みものにしようと案を出す。丁ン助と久助は、二人を池から連れてこようとするが、池のほとりには三男六女の宣伝使たちが立っていた。丁ン助と久助は恐れをなしてへたり込んでしまう。亀彦が二人を怒鳴りつけると、二人は逃げ出してしまった。丁ン助と久助が、宣伝使たちがやってきたことを知らせると、館の門前に宣伝歌が響いてきた。高姫、黒姫、蠑螈別らウラナイ教の一同はたちまち苦しみを覚えてその場に倒れてしまった。
主な人物 舞台 口述日 口述場所 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1922(大正11)年12月5日 愛善世界社版219頁 八幡書店版第3輯 361頁 修補版 校定版208頁 普及版100頁 初版 ページ備考
OBC rm1517
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本文  四面岩壁を以て包まれたる広き館の内には糸竹管絃の響爽かに、飲めよ、騒げの大乱舞が行はれて居る。ずつと見渡せば中央に黎牛の皮を幾枚とも無く積み重ね、其上に見るも憎さうなる面構への蠑螈別は数多の男女に酌をさせ乍ら、墨の様な黒き酒をグビリグビリと傾けて居る。数十人の男女は何れも一癖あるらしき面構へ、けいを敲く、笛を吹く、弓弦を弾ずる、石と石とを打ち乍ら真裸の儘踊り狂うて居る、恰も百鬼昼行の有様である。
蠑螈別『ヤア大変に酔がまわつた。如何だ、皆の者共、一つ何か面白い芸当をやつて呉れないか』
黒姫『さアさア皆サン、これから須佐之男尊征伐の芝居をやりませう。丁ン助サン、お前が須佐之男尊になるのだよ、黒姫がお前の髭をむしる役、高姫さまは手足の爪を脱く役だよ』
丁ン助『エーエ、滅相な、誰がソンナ役になりませうか、爪を抜かれる様な悪い事は根つからした覚えが御座いませぬ』
黒姫『吐すな吐すな、貴様は爪に火を点して吝な事許り考へ、人を苦しめる奴だ、鷹の様に爪の長い代物だ、喰ひつめ者だ、如何でも斯うでも此婆がつめかけて抜いてやらねば措くものかいヤイ』
丁ン助『爪の長いのは、それやお前サンの事だないか。一途の川辺で往来の旅人を嚇して肝腎の身魂を引きぬく欲婆アサンだ。お前サンから爪を抜きなさい』
黒姫『能うツベコベと理窟を言ふ丁ン助だナア、エーエ憎らしい、頬辺なと抓めつてやらうか』
と鷹の様な鋭利な爪で丁ン助の頬をグツト捻る。
『イヽヽヽ痛い哩痛い哩、放サンかい』
黒姫『放さぬ放さぬ、神が爪を掛たら、いつかないつかな放しはせぬぞ。話すのは庚申待ちの晩だ、人の難儀は見ざる、聞かざる、言はざるの苦労人の黒姫だ。尻なつと喰ふとけ、苦労知らずの真黒々助の丁ン助奴が』
丁ン助『ヤアヤア、婆アサン、ヒヽヽヽひどい哩、ソヽヽヽそれや余りぢや、頬辺がチヽヽヽちぎれる哩』
黒姫『チヽヽヽちつとは痛からう、血の出るとこ迄、いや頬がちぎれるとこ迄、いつかないつかな放しやせぬぞや。チンチクリンのチンピラ奴、ちつとは正念が行つたか、貴様は又してもウラナイ教の裏をかく奴ぢや。今にひよつとして三五教の奴が出て来よつたならば、直に黒い黒い燕の様に燕返しの早業をやる代物だ。この黒姫が黒い目でグツと睨んだら違ひはせぬぞや』
丁ン助『もしもし高姫さま、ちつと挨拶して下さいな』
高姫『マアマア十万億土の成敗の事思へば磯の様なものだ。お前の将来のためだよ、もつともつと黒姫さま、首の脱ける処まで捻つてやりなさい、アーア一人の男を悪の道に引き入れ様と思へば骨の折れる事だワイ。もしもし大広木正宗さま、何して御座る、酒ばつかりあふつて居らずに、ちつとお前さまも此丁ン助の成敗をなさつたが宜からうにナア』
丁ン助『もうもうもう、改心致します、之からは善のぜの字も申しませぬ、飽迄も悪を立て通します』
高姫『これこれ丁ン助、何を言ふのだ、善一筋のウラナイ教の教ぢやぞい』
丁ン助『ソヽヽヽそのウラナイ教だから裏を言つて居るのだ。悪と言へば善、善と言へば悪ぢやがなア』
黒姫『はて扨て合点の悪い男ぢや、底には底がある、奥には奥がある、裏には裏がある。エーエ、もうもう手が倦うなつて来た、モウこれで勘へてやらう。いやまだまだ膏をとらねばならぬが、婆の手が続かぬから一寸一服ぢや、エヘヽヽヽ』
丁ン助『何が何だか皆サンの仰有る事は一寸も訳が分りませぬワ。善をすればお気に入るのやら、悪がお気に入るのやら、薩張り訳が分らなくなつて来た。善なら善、悪なら悪と、はつきり言つて下さい、どちらへでも私はつきます』
高姫『善とも悪とも分らぬのが神の教ぢや。人間の分際として、さう善悪がはつきりと分つて堪るものかい。何事も高姫の仰有る通りに、ヘイヘイ、ハイハイと盲目滅法に盲従すれば良いのだよ』
丁ン助『アーア又しても又しても、人の顔を抓つたり殴つたり、爪を抜いたりせねば改心さす事が出来ぬのか、そこになるとアナヽ、アヽヽヽ、何ぢやつた、忘れた忘れた。あないでも、あなでもあつたら隠れ度い様な気がします哩。あな恐ろしや、あな有難や、あな苦しや、あな痛やなア』
黒姫『矢つ張貴様は三五教に未練があるな、よしよしこれから須佐之男尊ぢやないが、頭の毛も髭も爪も一本も無い様に抜いてやらう。これこれ久助、釘抜を持つて来い』
久助『釘抜は此館には一つも御座いませぬ、如何致しませう』
黒姫『アヽそうか、釘抜は無いか、それでは仕方がない。これこれ丁ン助、貴様は余つ程幸福者だ、之と言ふも神様の御慈悲ぢや、ウラナイ教の神様の御恩を夢にも忘れてはならぬぞよ』
 蠑螈別はグタグタに酔ひ潰れ、
『オイオイ皆の奴、何か面白い芸当をして見せぬか、折角飲んだ酒が沈んで仕舞ふ、ちつと浮かして呉れ、瓢箪ばかりが浮物ぢやあるまい、偶には人間の心も浮かさねばならぬ、それだから此世を浮世と言ふのだ』
黒姫『アヽ其瓢箪で思ひ出した、水の中に浮かして置いた二人の女、誰か行つて浚へて来い、此処で一つ面白い芸当をさして楽しまう』
蠑螈別『アハヽヽヽ、妙案々々、面白い面白い、サアサ皆の者共、二人の奴を引摺上げて此場へ連れて来い』
黒姫『こら丁ン助、其方は爪抜きの成敗を許してやる、其代りに二人の女を引摺上げて此場へ連れて来い』
丁ン助『はい、畏まつて御座います、然し乍ら私一人では到底手にあひませぬ、誰か助太刀を貸して下さいませ、一人づつ担げて連れて参ります』
黒姫『久助、貴様は丁ン助の後から跟いて、サア早く引き上げて来い』
『畏まりました』
と二人は表の石門を開くや否や尻端折つて池の辺を指して一生懸命に走つて来た。見れば池の辺に三男六女の神人が立つてゐる。
丁ン助『オイオイ久公、貴様先へ行かぬかい』
久助『何、俺は貴様の助太刀だ、言はば代理ぢや。貴様が先へ行つて縮尻つたら其控へに俺が出るのだ、先陣は貴様だ、早う行かぬかい』
と、尻をトンと押す拍子に丁ン助はトンと尻餅を搗く、
『アイタヽ、ナヽヽヽ何をしやがるのだい、アーア、もう腰が抜けた。貴様が弱腰を無理に突いたものだから、腰の蝶番が折れて仕舞つたよ、貴様が代理するのだ。サアサ行け行け』
久助『触り三百とは貴様の事だ、なまくらな、起んかい。一寸押した位で腰の枢が外れる奴が何処にあるか』
丁ン助『それでも抜けたら仕方が無い、嘘と思ふなら俺を歩かして見い、一寸も歩けやせぬぞ』
久助『エーエ、腰抜け野郎だな』
丁ン助『オヽヽヽ俺は腰抜け野郎だ、それだから貴様行けと言ふのだ』
久助『俺も何だか急に足が抜けた様だ、膝坊主奴が危ない危ないと吐しよる』
丁ン助『何だ、乞食の正月の様に「餅無い餅無い」ナンテ、団子理屈を垂れない、サアサ行け行け、俺は絶対に腰が抜けた。もう一足も歩けぬ、貴様胆玉を放り出してあの池を覗きなつとして来い、帰つて申訳が無いぞ』
 亀彦は二人の姿を見てツカツカと間近に進み、
『ヤア其方は悪神の眷属、能くも三人の女を苦しめよつたナア、サア返報がへしだ。股から引裂き頭から塩をつけて齧つて喰つてやらうか』
と呶鳴りつけた。二人はキアツと声を立て腰の抜けたと言つた丁ン助は真先に韋駄天走りに、雲を霞と逃げ去つた。
 話変つて蠑螈別は、
『アーア、何だか今日は心の沈む日だ。皆の奴共、何奴も此奴も芸無し猿の唐変木許りだな、一つ面白い事をやつて見せぬか、アーア頭痛がする』
高姫『これも何かの御都合で御座いませう、さう、おなげき遊ばすには及びませぬ、日の出の神の生宮が一つ踊つてお目に掛けませう』
と高姫はお多福面をニユツと出し、山車尻をプリツプリツと振り乍ら、怪しき腰付で踊り始めた。此時慌しく息せききつて丁ン助、久助は此場に走り来り、
『タヽヽヽ大変で御座います』
と言つたきり、丁久二人は息を喘ませて此場にドツと倒れたり。
黒姫『大変とは何事ぞ、二人の女は如何致した』
久助『ドヽヽヽ如何も斯うもありませぬ、タヽヽヽ大変々々、大変と言へば矢つ張り大変で御座います』
黒姫『こら、久助、丁ン助、しつかり致さぬか、何が大変だ』
丁ン助『いやもう、タヽヽヽ大変で御座います、大変と申すより申し上げる言葉も無かりけり、アーン、アンアンアン、オーン、オンオンオン』
黒姫『エー腑甲斐無い奴だ、又歩きもつて夢を見よつたのだらう、臆病な奴だ、しつかり致さぬか』
とキユーと鼻を捻る。
丁ン助『イヽヽヽ痛い、勘忍勘忍』
黒姫『サア、しつかりと申さぬか、様子は如何に』
丁ン助『ヨヽヽヽ様子も何にもあつたものか、ヨヽヽヽ用心なさいませ、酔つぱらつて居るどこの騒ぎぢやありませぬぞ、アヽヽヽ三五教の宣伝使、大きな男が三人とアルマの様な別嬪が而も六人、どうで、ロヽヽヽ碌な事は御座いませぬ哩』
黒姫『貴様の言ふ事は何が何だか、テンと分らぬ、こらこら久助、様子は如何だ。女は何処に居る。』
久助『女どころの騒ぎですかい、たつた今、貴方等の頸は胴を離れますよ、何卒しつかりと用意をして下さい』
高姫『お前達は何を狼狽へ騒ぐのだ、昔の昔のさる昔の根つ本の天地の始まりから、何も彼も調べて調べて調べ上げた此方ぢや、仮令百億万の敵押し寄せ来るとも、此高姫のあらむ限りは大丈夫だ、しつかり致さぬか。してして女は何と致した』
 此時門前に勇壮なる宣伝歌の声、四辺を轟かし響き来たりぬ。
 高姫、黒姫、蠑螈別を始め、一同は俄に頭痛み胸は引裂く許り苦しくなつて、其場にドツと倒れたり。アヽ此結末は如何なり行くならむか。
(大正一一・四・三 旧三・七 北村隆光録)
(昭和一〇・三・二四 於台湾蘇澳駅 王仁校正)
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