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文献名1霊界物語 第20巻 如意宝珠 未の巻
文献名2第1篇 宇都山郷よみ(新仮名遣い)うづやまごう
文献名3第1章 武志の宮〔663〕よみ(新仮名遣い)たけしのみや
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじ言依別命は、神素盞嗚大神の命を奉じて、照山と桶伏山の間に貴の御舎を仕え祀って国治立大神、豊国姫大神の霊を鎮祭した。これを錦の宮という。玉照彦、玉照姫は幼時より神人に秀で、神格勝れ、救世主として尊敬を集めた。言依別命は錦の宮を根拠として自転倒島の総統権を握った。コーカス山、斎苑の館と相俟って、天下修斎の神業を世界に拡げることになった。高姫、黒姫、松姫も身命を三五教に奉じて、世界を渡り歩き、神徳を拡充することになった。元照彦の御魂の再来である天の真浦は、錦の宮のことを聞くと、きこりをやめて聖地に訪ねて来て、言依別命より宣伝使に任命された。真浦は神徳宣布の旅に出て、人の尾峠の西麓に着いた。真浦は雪に悩まされながら、熊のつけた獣道をたどっていくと、道の傍らに一軒のあばら家に灯りがともっているのが見えた。真浦が外で屋内の様子をうらやんでいると、あばら家から真浦を中に招き入れる声がする。厚意に甘えて中に入ると、あばら家に居た二人は、真浦の身ぐるみを剥ごうとしていた。二人はバラモン教徒だと名乗った。しかし真浦は、二人が三五教の駒彦、秋彦に似ていることに気付く。二人はバラモン教徒の振りをして、真浦を試したのだということがわかった。真浦は駒彦、秋彦とともに武志の宮を祀っている浮木の里に着いた。三人は社務所で休んでいると、この宮に仕える松鷹彦と出合った。三人は、バラモン教を言向け和すために、バラモン教の司・友彦の館に案内するように松鷹彦に頼み込んだ。道中、駒彦と秋彦は、突然真浦を抱えると崖の下に投げ落とした。松鷹彦は驚くが、駒彦と秋彦はこれも宣伝使の試練だと言う。松鷹彦は驚いて逃げてしまった。駒彦と秋彦は、真浦が平気な様子でいるのを確認すると、試験に合格したと祝福して、またどこかへ行ってしまった。真浦は一人雪を踏みしめて河原の茅屋にたどり着いた。そこは松鷹彦の家であった。松鷹彦は真浦の身を心配するが、真浦は逆に、駒彦、秋彦のお陰で腹に宝をいただいた、と述べた。松鷹彦は翻然として悟り笑うと、三五教に興味を抱いた。真浦と松鷹彦は信仰についての問答で互いに親交を深めた。真浦は四五日逗留して、法話を聞かせた。ある日、松鷹彦は漁をして真浦に魚を捕ろうと川(宇都山川)に入った。しかし松鷹彦は川に落ちてしまった。真浦は婆に諭されて不言実行の教えに思い出し、松鷹彦を助け出した。松鷹彦夫婦は、実地をもって不言実行の教えを真浦に教え、真浦は自ら裏の川で禊をなすと、松鷹彦の足の痛みを祈願によって治した。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年05月12日(旧04月16日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年3月15日 愛善世界社版7頁 八幡書店版第4輯 151頁 修補版 校定版7頁 普及版2頁 初版 ページ備考
OBC rm2001
本文の文字数12138
本文のヒット件数全 2 件/神素盞嗚=2
これ以外の情報は霊界物語ネットの「インフォメーション」欄を見て下さい 霊界物語ネット
本文  常世の暗を晴らさむと  神の御稜威も高熊の
 静の岩窟の奥深き  恵の露の雨となり
 雪ともなりて空蝉の  醜世を洗ひ照さむと
 空に輝く旭子の  光も強き玉照彦の
 伊豆の命を奉按し  言照姫の神霊や
 数多の神に送られて  五六七の神代を松姫が
 心イソイソ山坂を  渉りて来る玉鉾の
 道も広らに世継王山  東表面の峰続き
 紅葉の色も照山の  麓に立てる仮の殿
 神の御言を畏みて  悦子の姫が守りたる
 珍の宮居に木の花の  姫の命の御水火より
 出でし玉照彦の神  勇み進んで送り来る
 天火水地と結びたる  紫姫や若彦は
 喜び勇み彦神を  迎へ奉りて玉照の
 姫の命の夫神と  称へまつらむ真心の
 限りを尽し仕へ居る  神素盞嗚の大神は
 英子の姫を遣はして  五六七の神代の礎の
 百の仕組に仕へしめ  国治立の大神が
 国武彦と現はれて  曇り果てたる末の世を
 照し清むる先駆と  姿隠して桶伏山
 黄金の玉と諸共に  御稜威は四方に輝きぬ
 言依別の宣伝使  斎苑の館を立出でて
 雲路押分け遥々と  綾の聖地に着き玉ひ
 心の空に玉照彦の  神の命や姫命
 経と緯との皇神の  分の御霊と嬉しみて
 三五教を弥固に  いや遠永に宣り伝ふ。
 言依別命は、神素盞嗚大神の命を奉じ、照山と桶伏山の山間に、国治立の大神、豊国姫の大神の、貴の御舎を仕へまつりて、其威霊を鎮祭し、玉照彦、玉照姫をして宮仕へとなし、世界経綸の神業の基礎を樹立せむとしたまひ、遠近の山野の木を伐り、瑞の御舎を仕へまつつた。神人等の道を思ひ、世を思ふ真心凝結して、荘厳無比の瑞の御舎は瞬く中に建造された。称して錦の宮と云ふ。玉照彦、玉照姫は幼時より数多の神人に秀で、神徳高く、神格勝れ、神代に於ける救世主として、天下万民の尊敬を集めたまふに到りけり。
 言依別命は、素盞嗚大神の命を奉じ、錦の宮を背景として、自転倒島に於ける三五教の総統権を握り、コーカス山、斎苑の館と相俟つて、天下修斎の神業を宇内に拡張し給ふ事となつた。三五教の宣伝使は云ふも更なり、ウラナイ教を樹て、瑞之御霊に極力反抗したる高姫、黒姫、松姫は、夢の覚めたる如く心を翻し、身命を三五教に奉じ、自転倒島を始め、海外諸国を跋渉して、神徳を拡充することとなつた。茲に元照彦の御霊の再来、天の真浦は、大台ケ原の山麓に生れ、木樵を業となし其日を送り居たるが、綾の高天に錦の宮の建造され、神徳四方に光り輝くと聞きて、樵夫の業を廃し、遥々聖地に訪ね来り、言依別命に謁し、新に宣伝使となることを得た。天の真浦は大に喜び、昼夜の区引なく宣伝歌を謡ひ乍ら、先づ自転倒島に向つて、神徳宣布の神業を試みむとし、聖地を後に唯一人、霧の海原押分けて風のまにまに、人の尾峠の西麓に着いた。道行く人も見えぬ許りの粉雪、滝の如くに降り来り、見る見る一尺許りも地上に積もり、日は黄昏れて、道いよいよ遠く、真浦は行手に迷ひ、進みもならず、退きもならず、蓑笠を着けたる儘、路上に佇立して、声低に天津祝詞を幾度となく繰返しつつあつた。怪しき獣の影幾十となく隊をなして、山上より降り来る。されど真浦は滝と降り来る雪に眼を遮られ、足許に進み来るまで知らざりき。唯何となく雪踏み砕く何者かの足音、追々近づく声のみ耳に入る。真浦は独言、
『今迄暖かい国に育ち、此様な深雪は見た事がなかつた。始めて神様のお道に入り、百日百夜の修行を積み、漸く許されて今茲に宣伝使補となり、足に任せて進みて来たが……アヽゆき詰つたものだ。言依別命様より「汝は是れより人の尾峠を越え、河水清き宇都の郷に初宣伝を試みよ」と仰せられた。併し乍ら、斯う降り積る大雪、況して樹木茂れる此谷間、日は暮かかる……アーア宣伝使も辛いものだ。追々積る雪の量、罷り違へば我身は雪に埋まつて、冷たくなつて了うであらう。進退惟谷まるとは此事だなア』
と心細げに呟く折しも、最前の足音追々近づき来る。見れば数十頭の熊の群、真浦が足許を勢込んで走り行く。真浦は驚いて雪の中に路を避けた。熊の群は何の遠慮もなくスタスタと列を組んで、西方さして走り行く。
 真浦はホツと息をつき、
『アヽ、有難い、沢山の熊が現はれて雪路を踏み分けて、立派な通路を開いて呉れた。是れも全く神様の御神徳であらう…………有難し有難し』
と感謝しながら、熊の足跡を踏み分け上り行く。道の傍に一軒の茅屋が有ることが目に付いた。屋内には幽かな火影が瞬いて居る。風が持て来る雪しばき益々烈しく、熊の折角開いて呉れた雪の新道も、瞬く間に閉塞して了つた。屋内には気楽さうに笑ひさざめく声。真浦は此愉快気に笑ふ声を聞き、
『ホンに羨ましい事だなア。我れは神命とは言ひ乍ら、此雪路に悩み、玉の緒さへも切れなむとする極寒の苦しみ、血管を流るる血潮も凝結せむとする辛さに引替へ、此家の内の面白さうな笑ひ声、…………実に人の境遇位運否のあるものはない。併し乍ら我れも神の道を伝ふる宣伝使の初陣、斯の如き雪に恐れ、人の家に這入つて、一夜の宿を請はんとするも、何となくウラ恥かしい、アヽ如何にせむか』
と躊躇ふ折しも、屋内より男の声、
男『オイ、どこの乞食だか知らぬが、此雪の降るのに、何を愚図々々して居るのだ。チツと俺の宅へでも這入つて休んだらどうだ。あつたかい湯も沸いてある。沢山な火も焚いてあるぞ』
真浦『ハイ有難う御座います。併し乍ら私はどうしても此峠を越さねばなりませぬ。御志は有難う御座いますが……』
男『ナニ、俺の宅で休むのは厭だと云ふのか、馬鹿な奴だなア。俺は此辺の杣人だ。少しの雪はチツとも苦にならない男だが、流石山猿の俺でさへも、一歩も今日の雪には歩む事は出来ない。どうして此坂が登れると思ふのか。マアそんな馬鹿な事を言はずに旅は道連れ世は情だ。一樹の蔭の雨宿り、一河の流れを汲む人も、深い縁の有るものだ。サア遠慮は要らぬ、這入つて休息したがいい』
 真浦は其言葉に稍心動き、
『どなたか知りませぬが、御親切に有難う御座います。左様ならば暫く休息をさせて頂きませう』
男『アヽそれが良い。サアサアお這入りなさい』
と真浦の手を取り引き入れ、斜に歪んだ雨戸をピシヤツと閉めた。
男『大変な大雪で、倒けかかつた家が益々怪しくなつて来た。愚図々々して居ると雪の重みで、此家も平太つて了ふかも知れないぞ。………オイ駒公、お客さまだ。どつさりと薪木を燻べて御馳走するのだぞ。寒い時には火が一番御馳走だ』
駒公『馬鹿言ふな。どこの馬の骨か、鹿の骨か分りもせぬ代物を、物好きにも駒さんの承諾も得ず、引き摺り込みやがつて、火を焚けも有つたものかい。貴様は何でも取込む事ばつかり考へて居やがる。チツと執着心を脱却せぬかい。取り込むことなら犬の葬式でも喜んで引張り込むと云ふ代物だから困つて了ふ。そんな事で此の立派な家が、どうして立つて行くと思ふのか、秋公の不経済家には俺も本当にアキが来た。寒い時に俄に体を火に近づけると、却て凍傷を起すものだ。どこの奴か知らぬが、赤裸にして頭から冷水でも、ドツサリ御馳走してやるのだなア。貴様と二人斯うして雪に閉されて居つても、チツとも面白味がない。此奴の衣服万端を奪ひ取り、其上赤裸にして水をかけ、それを肴に一杯やつたら面白からう』
真浦『なんだ、其方らは甘言を以て此方をひつぱり込み、泥棒を致すのか』
秋彦『アハヽヽヽ、好い頓馬だなア。そんな事を尋ねるのが馬鹿だ。俺も今日が泥棒の初陣だ。此家は実は吾々の物ではない。老爺と婆アとが居つたのだが、凄い文句を並べてやつた所、昨日の日の暮頃、どつかへ逃げて行きよつた。彼奴は雪爺に雪婆だつたと見えて俄にこんな大雪が降つて来た。サア皮を剥いてやらう』
と真浦の身に着けたる衣服を剥奪せむとする。
真浦『それは、あまりぢや。一寸待つて呉れ』
秋彦『松も檜も有つたものか。袋の鼠、どうしたつて剥かねば置かぬ』
真浦『此家を立去る時に脱ぎませう。それまで此衣服を私に貸して下さいませぬか』
駒彦『オイ秋公、仕方がない、貸してやれ。……オイ何程借賃を出す? それから約束して置かねば喰逃げされては、泥棒商売も棒が折れるからなア。ワハヽヽヽ』
真浦『自分の着物に利息をつけて貸して貰ふとは、又妙な規則の出来たものですなア』
駒彦『愚図々々言ふない。郷に入つては郷に従へだ。是れが泥棒社会の規則だ』
真浦『貴様達は丸でバラモン教みたやうな奴だなア』
駒彦『きまつた事だ。鬼雲彦様の乾児だよ。秋、駒と云つたら、それは本当に翔つ鳥も落すやうなバラモン教の有名な宣伝使だぞ。貴様は三五教の宣伝使、無抵抗主義を標榜して居る腰抜教の奴だから、指一本俺に触へても、抗言一つ致しても、抵抗した事になる。頭をカチ割られようが、黙つて辛抱するのだぞ』
真浦『アーア困つた事になつたもんだワイ。三五教には噂に聞けば、もとは馬、鹿と云ふ紫姫様の家来があつて、それが高城山の松姫さまを帰順させ、駒彦、秋彦と云ふ名を貰つたさうだが、お前の名は秋と云ひ、駒と云ひ、能く似て居る。何か因縁の糸が結ばれて居る様だ。もしや三五教の駒彦、秋彦ではなからうかなア』
秋彦『そんな腰抜の秋彦や、駒彦とはチト相場が違ふのだぞ。俺は三五教の宣伝使真浦と云ふ新米者が宇都山の郷へ初陣に往くので、言依別の神様から……』
駒彦『オイ秋公、何を言ふのだ。ウツカリした事を言ふものでないぞ』
真浦『アハヽヽヽ、大方そんな事だと思つた。言依別の神様が俺の信仰力を試す為に、貴様を此処へ廻しおき、そうして此道を通れと仰有つたのだなア……オイ秋彦、駒彦、モウ駄目だぞ。泥棒でも、バラモンでも、ベラボウでもない、貴様の襟の印は何だ』
駒、秋『アハヽヽヽ、到頭陰謀発覚したか。エヽ仕方がない。そんなら事実をスツカリ白状致して遣はす』
真浦『イヤもう沢山だ。何も承はる必要は有りませぬワイ』
駒公『先づ宣伝使の点数六十五点だ。速に言依別の神様に成績表を書留郵便で送つて置かう。夜が明ける迄三人鼎坐してお神酒を戴いて御日待をしようではないか』
真浦『またそんな事言つて、点数を減らすのではないか』
秋彦『心配するな。一旦認めた以上は減点は決してしない。其代り俺の事もよく報告するのだぞ』
真浦『能く報告してやらう。コンミツシヨンとしてモウ四十五点あげて呉れ』
秋彦『六十五点に四十五点を加へると満点以上になつて了ふ。それでは試験官として報告の仕方がないワ』
真浦『俺の改心は百点以上だ。其代り貴様は百八十点に俺から報告してやらう。併し二人合計してだから……』
と他愛なき雑談に一夜を明かしたりける。
 天の真浦の宣伝使  秋彦駒彦諸共に
 神の教を伝へむと  人の尾峠の急坂を
 雪かき分けて登り行く  地は一面の銀世界
 金烏の光りキラキラと  またたき初めて大空は
 拭ふが如く晴れ渡り  茲に三人は勇ましく
 谷の流れに沿ひ乍ら  足踏みなづみ進み行く
 旭輝く雪は照る  神の恵も白妙の
 雪に包まる宇都の郷  武志の宮を祀りたる
 浮木の里に辿り着く  又もや降り来る雪しばき
 茲に三人は大宮の  脇に建ちたる社務所に
 雪を凌いで車座に  なつて暖をば採り乍ら
 携へ持てる握り飯  ムシヤリムシヤリと平げて
 四方の話に耽る折  雪かき分けて登り来る
 怪しの翁唯一人  覚束無げに杖を突き
 宮の階段登り来る  真浦秋彦駒彦は
 眼を据ゑて眺むれば  怪しの翁は神前に
 やうやう近づき拍手の  音も涼しく太祝詞
 称ふる声の麗しく  三人の耳に透きとほる
 神の使か真人か  但は悪魔の化身かと
 怪しみ乍ら秋彦は  此場を立ちてザクザクと
 雪踏み鳴らし神前に  額づく翁に打向ひ
 汝は何処の何人ぞ  人里離れし此森に
 雪を冒して参来たり  祈願するは何故ぞ
 聞かまほしやと尋ぬれば  翁は漸く顔を上げ
 胸に垂れたる白鬚を  二つの手にて撫で乍ら
 四辺キヨロキヨロ見廻して  武志の宮の神司
 朝な夕なに真心を  尽して仕へ奉る
 吾れは松鷹彦の司  汝は何処の何人ぞ
 訝かしさよと問ひ返す  其容貌のどことなく
 得も言はれざる気高さに  秋彦思はず手を突いて
 三五教の宣伝使  心の色も紅葉の
 錦の宮に仕へたる  秋彦駒彦二人連れ
 天の真浦も諸共に  宇都山郷に現はれし
 バラモン教の曲神を  言向け和す鹿島立ち
 雪を冒してやうやうに  此処まで進み来りしぞ
 雪に埋まる山里の  家並も見えぬ淋しさに
 武志の宮の社務所を  借りて休らひ居たりけり
 綾の高天に現はれし  玉照彦や玉照姫の
 宇豆の命の仕へます  三五教の司神
 言依別の御言もて  あもり来りし三人連れ
 汝松鷹彦の司  吾等三人を宇都山の
 バラモン館に伴なひて  太しき功績を建てませよ
 応答如何と詰め寄れば  松鷹彦は畏みて
 老の歩みもトボトボと  雪の階段降りつつ
 天の真浦や駒彦が  前に現はれ会釈なし
 先頭に立たむと誘へば  三人は勇み喜びつ
 翁の後に従ひて  武志の宮に一礼し
 東を指して進み行く。
 松鷹彦は雪路を杖を突き乍ら先頭に立ちて、バラモン教の宣伝使と聞えたる友彦館に案内すべく進み行く。真浦は翁の後に七八尺遅れて、一歩々々深雪の中の足跡を目標に進む折しも、秋彦、駒彦は物をも云はず、真浦を引抱へ、数丈の崖下に突落した。突落された真浦は何の負傷もせず、高く積もれる雪の上にニコニコと安坐して三人の姿を仰ぎ見て居る。
秋彦『モシ真浦さま、どうだ、御気分は宜しいかな。どこもお怪我は御座いませぬか』
真浦『ハイ有難う、無事着陸致しました』
駒彦『サア六十五点に三十五点を加へて百点だ。肉体は高所から落第したが、御霊はいよいよ立派な宣伝使に及第したのだから喜び給へ』
 松鷹彦、目を円くし、
松鷹彦『コレコレお前達は何と云ふ乱暴な事をするのだい。世界の人民を助けて天国へ救ふ役であり乍ら、地獄のやうな断崖から突落すと云ふ事が有るものか、グヅグヅして居ると此老人まで、どんな事をするか分つたものぢやない』
秋彦『お爺さま御心配下さいますな。身魂調べの為に、吾々両人は言依別様の御命令に依りて、あの男の修業をさせに来たのです。ここで腹を立てる様な事では、宣伝使の資格がないのだから、謂はば我々は宣伝使の試験委員だ。是れであの男も立派な宣伝使になりました』
松鷹彦『こんな絶壁から落されては、どうする事も出来ない。何とか工夫をして此処まで救ひ上げて来なさらねばなりますまい』
秋彦『何も御心配は要りませぬよ。獅子は児を産んで三日目に谷底へ棄て、上つて来た奴を又突落し、三遍目に上がつた奴を、始めて自分の子にすると云ふ事だ。こんな所から一遍や二遍突落されて屁古垂れる様な者なら、到底駄目だ。悪魔の栄ゆる世の中の宣伝使にはなれませぬ。上つて来よつたら、又突き落す積りです』
松鷹彦『それだと言つて、それはあまり残酷ぢやないか。早く助けてお上げなさい』
秋彦『そんな宋襄の仁は却つてあの男を憎む様なものだ。可愛いから此断崕から突き落してやつたのです』
松鷹彦『なんと妙な可愛がり様も有つたものだなア。私も此年をして居るが、そんな愛は聞いた事が無い』
と不思議さうに覗き込んで居る。
駒彦『お爺さま、お前も一つ可愛がつてあげようか』
松鷹彦『イヤもう結構々々、お前等に可愛がられようものなら、生命も何も無くなつて了ふ。若い者は兎も角も、此老人がどうなるものか。恐ろしい人達だなア』
と蒼惶として走り去る。
駒彦『アハヽヽヽ、到頭老爺さま肝を潰して逃げて了ひよつた。サア秋彦、モウ用が済んだ。是れから各自手分けをして、命ぜられた方面へ行く事にしよう。…コレコレ真浦さま、マアゆつくりと雪の上でお鎮魂でもなさいませ。これでお暇致します。其代りに百点だよ』
と両手を拡げて見せ、雪路を一生懸命に何処ともなく左右に別れて走り行く。真浦は苦心惨憺の結果、漸く廻り路を見出して、元の所に駆上り、四辺をキヨロキヨロ見廻し乍ら、
真浦『アヽ誰も彼も皆どつかへ埋没して了つた。エヽ仕方がない、足型を便りに後追つかけよう』
と独語しつつ雪に印した草鞋の跡を、犬が鋭利な嗅覚で猪の後を逐ふ様な調子で進んで行く。雪は鵞毛と降り頻り、足跡の窪みは殆ど埋没して了つた。見渡す限りの白雪の野を、一歩々々探る様にして、遂には大川の畔に辿り着いた。河の堤に細い烟の破風口より立昇る小さき茅屋が淋しげに立つて居る。真浦は『御免』と押戸を開けて入り見れば以前の老爺が、婆アと二人茶を啜つて居る。
松鷹彦『ヤアお前は最前の宣伝使だつたなア。能う来て下さつた。随分乱暴な男も有つたものだ。あれは大方バラモンの残党であらう。お前気を付けないと、どんな目に遭はされるか知れませぬぞや』
真浦『ハイ有難う御座います。実は人の尾峠の西麓に於て、盗賊に出会ひました。それから其盗賊さまに武志の宮まで送つて頂いたのです』
松鷹彦『何か盗られましたかなア』
真浦『イエ別に……盗られる処か結構な物を沢山頂戴致しました。盗難品は唯の一点も無く、貰つたものは前後二回で百点ばかりです。実に結構な御神徳を頂きました。最前もアノ絶壁から突き落され、其時にも三十五点呉れましたよ』
松鷹彦『ハテ合点のゆかぬ事を仰有る。その代物はどこに御所持なさるかなア』
真浦『ハイ残らず私の腹の中にしまつてあります。要するに無形の宝ですよ』
 松鷹彦、両手を拍ち、打諾づき乍ら、
松鷹彦『ハヽヽヽ、年を老つて、わしも余程耄碌したと見えるワイ、ホンにそうだ。わしもお前さまから宝を四五十点頂戴した。実に忍耐と云ふ宝は結構なものだ。さうでなくては誠の道は拡まりますまい。バラモン教は随分荒行を致しますが……私も元は三五教を奉じて居りました。それから三五教の宣伝使の行方があまり脱線だらけで、愛想が尽き、同じ事なら大勢の者の信ずるバラモン教の方が処世上の便利だと思ひ、一旦は入信しましたが、これ亦どうしても私の腑に落ちない点が沢山ある。そうかうして居る間にバラモン教の一部を採り、ウラル教の或点を加味し、三五教を加へて、新に起つたウラナイ教と云ふ新しき教が出て来たので、又もやウラナイ教に間男をしました。そうして神様を武志の宮にお祀りした処が、その夕から夫婦の者が俄に病気付き大変な発熱で、幾度も死ぬ様な目に遭ひ……コリヤやつぱり元の神様にすがらねばなるまい……と夫婦の者が三五教の大神に謝罪をした処、不思議にも其時より熱が段々に降り、婆アは二三日の後ケロリと嘘を吐いた様に全快して了つた。私は此れから一里許りある下の村の者から選まれて、武志の宮の神主をして居る者だが、村人にさう幾度も幾度も神様を出したり入れたりすると思はれては、信用がないから、ソツとウラナイ教の高姫さまが祀つて呉れた御神号を河に流し、今では三五教の神様をお祀りしたいのだが、一旦御神号を流して了つたので、戴く訳にもゆかず、空の宮を……今日も今日とて謝罪旁拝みに行きました。今日で此雪路を三七廿一日、毎日通ひましたが、不思議な事には、あなた方に宮様の前でお目にかかつたのは、全く神様の御引き合せで御座いませう。併し詳しい教理は存じませぬが、三五教の宣伝使はみな貴方の様に忍耐が強い方ばかりですか』
真浦『昔の三五教は随分乱暴な宣伝使もあり脱線者も沢山出たさうです。併し此頃は玉照彦、玉照姫と云ふ立派な神様の生れ替はりが、聖地に現はれ玉うてより、誰も彼も、緊張気分になり、忍耐を第一として天下に宣伝を始めて居ります。恥かし乍ら私は大台ケ原山麓の暖かい所に生れ、楽に育つて来た報いで、此雪国へ始めて宣伝に参り、余程苦みました。さうして今日が宣伝の初陣です。僅かの時日、神様の教を聞かして頂き、言依別の教主様から許されて、宣伝に参つた者ですから、詳細しい事はまだ存じませぬ』
松鷹彦『さうすると、あなたは今日が始めてですか。それはそれは本当に結構です。宣伝使は分らぬ間こそ却て神徳もあり、人徳も備はるものだ。少し物が分ると知らず識らずに慢心が出て、終には信仰に苔が生え、又元の邪道に逆転するものだ。私もさう云ふ初心な宣伝使に一度会ひたいと思うて居つた。どうぞ貴方はこれから私の茅屋に逗留し、武志の宮の御神体を斎つて下さい。さうして村の者にも教を伝へ、バラモン教を改めさせたいものです』
真浦『神様を祀ると云つても、私の様なものでは、到底それだけの資格が有りませぬ。時を得て聖地にあなたも参拝し、言依別命様に面会して、御神体を奉迎してお帰りなさいませ。それが何より結構でせう。我々は宣伝をするばかりの役、神様の御神体を扱ふ事は出来ませぬ』
松鷹彦『如何にも、さう聞けばさうです。物品か何かの様に軽々しう扱ふ事は出来ますまい。時機をみて御願ひする事に致しませう。さうして三五教の教の樹て方は、大体どう云ふ事が眼目になつて居りますか』
真浦『あなたは最前も、三五教に入信て居たと仰有つた。私よりは、謂はば古参者、能くお分りでせう』
松鷹彦『唯々世界統一の神様だと信じ、此曇つた世の中を早う安楽な、潔白に世にしたい許りに信仰を続けて居たのみで、言はば徹底せない信仰で有りました。それ故あちら此方と迂路付いて見たのだが、どうしても三五教が斎る神様に御神力がある様だ。何とはなしに恋しくなつて来ました』
真浦『私が知つて居る事の大体だけを簡単に申しますれば、……世界を神の慈愛の教に依りて、道義的に統一し、世の立替立直しを断行する事。能ふ限り神様の道を宣揚し、体主霊従の物質的教に心酔せざる様教ふる事。如何なる事も神様にお任せ申し、自分の我を出さずに能ふ限り道に依りて力を尽す事。天地神明の鴻恩を悟り、造次にも顛沛にも、感謝祈願の道を忘れざる事。常に謙譲の徳を養ふ事。如何なる難儀に遇うとも、誠の道の為ならば少しも恐れず、誠を以て切り抜ける事。社会の為に全力を尽し、天下救済の神業に奉仕する事なぞを以て、吾々は宣伝使の尽すべき職務と確信して居ります。併し乍ら、中々思つた様に行ひが出来ないので、神様に対して何時も恥入つて居る次第で御座います』
松鷹彦『オウ、それで大体の御主意が分りました。今までの三五教の宣伝使は、三五教には退却の二字は無いと云つて、随分乱暴な喧嘩もしたものです。然るに今日あなたの御説の通り、三五教自身に立替が出来た以上は、最早天下何者をか恐れむやである。其実行さへ出来れば、此宇都山の里人も残らず帰順するでせう。どうぞ武志の宮の社務所にお止まり下さつて、不言実行の手本を見せて下さい。それが第一の宣伝です』
真浦『有難う御座います。何分宜しく御願ひ致します。私の初陣として、あなたの御病気の全快を神様に祈らして下さいませぬか』
松鷹彦『それは是非共頼まねばならぬ。併し乍ら不言実行だ。お前さまが私の宅へ来て間もなく、私の病気が知らぬ間に癒る様になさらぬか。願はして呉れ……なぞと仰有るのが間違つて居る。まだお前さまはチツと許り名誉欲の魔が憑いて居ますな』
真浦『ハイ恐れ入りました。それならモウ決して祈りませぬ。あなたの病気には無関係ですから、さう思つて下さい』
松鷹彦『ハイハイ分つた分つた。御互に神様の御子ぢや。右の手より施す物を左の手が、知らぬ様にするのが、誠の不言実行、三五の教だ』
真浦『あなたは何も彼も能く知つて居て、私を実地教育して下さるのだなア。有難う御座います。アヽ神様は人の口を藉つて、イロイロと修業をさして下さるか、思へば思へば有難い、勿体ない』
と涙を袖に拭ふ。
松鷹彦『わしは何にも知らない。唯お前さまと話をして居る際、俄に体が変になつて、あんな失礼な事を言ひました。どうぞ気に止めて下さるな……アヽ有難い、今迄ヅキヅキとウヅいて居つた私の足が、何時の間にかスツカリ癒つて了つた』
と拍手再拝、真浦を神の如くに手を合して拝み立てる。
 雪に閉され四五日真浦は、老夫婦の親切にほだされて、教話を説き乍ら冬の日を消した。
松鷹彦『此処は御存じの通り、山と山とに囲まれて不便の土地、御馳走も一度上げたいと思へども、斯う雪に閉されては、どうする事も出来ぬ。幸ひ此川の淵には、沢山な小魚が居つて、つい其処の淵には、冬の寒さで一所に籠つて居る。これを掬うて来て、お前さまの御馳走にして上げませう』
真浦『ア、それは有難う』
と言ひつつ、後は小声で、
真浦『不言実行が肝腎だなかつたかなア』
と幽かに呟いた。老爺さまは玉網を担げ、雪掻き分けて川縁に行つた。そうして玉網を淵に突つ込み、荐りに骨を折つて居る。此家の座敷から能く見える距離である。婆アさまと真浦は、爺さんの川漁を面白げに眺めて居た。松鷹彦はどうした動機か、誤つてドブンと川に落込み、チツとも浮いて来ない。婆アさまは素知らぬ顔して眺めて居る。真浦は驚いて、
真浦『ヤアお爺さまが川へ落ち込んだ。助けてあげねばなるまい』
と立ちあがる。婆アさまは初めて口を開き、
婆『不言実行だ』
真浦『恐れ入りました。これから私もお前さまに代つてあの青淵目蒐けて、バサンと飛び込み、ヂイさまを救はう』
婆『お手並拝見の後御礼を申しませう。何は兎も有れ不言実行ですからなあ』
 真浦は尻ひつからげ雪の中を倒けつ転びつ飛んで行く。爺イは此時柳の木に取り付き、ムクムクと上つて来た。
真浦『お爺さま、結構でした。能う助かつて下さつた。実は私もビツクリして助けに来たのだ』
松鷹彦『あなたは有言不実行だ、アハヽヽヽ』
 真浦は黙つて老爺さまの着物を搾りかけた。
松鷹彦『自分の着物は自分が絞る。モツと忘れたものがあるだらう』
 真浦は黙つて引返し、矢庭に座敷の中をキヨロキヨロ見乍ら、おやぢさまの着替を見付け、小脇に抱へて飛出した。婆アは、
婆『コレコレお前さま、それはおやぢの着物だ。老爺の陥つたのを幸ひ、大切な着替を不言実行して、どこへ浚へて行くのだ。……ホンにホンに油断のならぬ人だなア、オホヽヽヽ』
真浦『エー夫の危難を前に見乍ら、一言も頼みもせず、不言実行だなんテ、謎をかけやがつて、おまけに俺を盗人扱ひにして洒落て居やがる。此奴ア普通の狐……オツトドツコイ女ぢやあるまい。……早く行かぬと、爺が凍てて了ふ』
と裏口を跨げかける。婆アは、
婆『真浦さま、早く早く、不言実行だ』
 真浦は物をも言はず、爺の所に走り着いた。老爺は赤裸となりて真浦の持つて来た着物を、手早く身に着け『大きに』とも、『御苦労』とも言はず、黙つてスゴスゴと吾家に帰る。真浦は濡れた着物や網を引抱へ、
真浦『アヽ本当に不言実行歩と出よつたな。油断のならぬ化物爺だ。モウこれからは暫時唖の修業だ』
と独ごちつつ、爺の家に帰つて来た。
婆『流石三五教の宣伝使ぢや。能う気が付いた。これでお前も又一点程点数が増えましたデ、ホヽヽヽヽ』
松鷹彦『アイタヽヽ、又しても痛くなつた。此奴ア病気が撥ね返るのではあるまいか。非常な激痛だ』
と顔を顰め、
松鷹彦『不言実行不言実行』
と呶鳴つて居る。婆アは、
『折角御神徳を戴き乍ら……爺さま、お前は二口目には不言実行と仰有るが、取らぬ狸の皮算用をする様に、棚の牡丹餅をおろして喰ふ様に、慢心して、真浦さんに御馳走をしてあげようかなんテ、仰有るものだから、忽ち神様の御戒めを食つて、有言不実行になり、そんな土産を頂戴して苦むのだよ。チツと神様に謝罪をなさらぬか』
松鷹彦『俺は神様に対して不言実行、暗祈黙祷を行つて居るのだ。どつか其辺らに不言実行者が、モウ出さうなものだ。アイタヽヽ』
 真浦は赤裸となり、裏の川にザンブと飛び込み、御禊をなし、一生懸命で何事か祈願し始めた。爺イの足の痛みは不思議にもピタリと止まつた。
松鷹彦『真浦様、有難う。御神徳を頂きました。サアどうぞ此方へ来て下さい。火を焚いてあたらしてあげませう』
 真浦は川より這ひ上り、身体の露を拭ひ乍ら、
真浦『お老爺さま、火を焚くのもヤツパリ不言実行だ、アハヽヽヽ』
(大正一一・五・一二 旧四・一六 松村真澄録)
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