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文献名1霊界物語 第21巻 如意宝珠 申の巻
文献名2第4篇 反復無常よみ(新仮名遣い)はんぷくむじょう
文献名3第18章 解決〔692〕よみ(新仮名遣い)かいけつ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2021-05-02 02:37:19
あらすじ高姫と黒姫を閉じ込めた岩窟の前にやってきたテーリスタンは、二人に外へ出るように言って錠を開ける。高姫は鷹依姫を言向け和すのだから案内しろ、とテーリスタンに命じる。道々、高姫はなぜテーリスタンが三五教に味方するようになったかと問いかけた。テーリスタンは、子供ながら二人を岩窟から救い出すためにやってきたお初に降参したのだ、と語る。高姫は感心しながら鷹依姫の居間にやってきた。高姫は、自分たちを岩窟に閉じ込めて飢えさせた鷹依姫を非難する。鷹依姫は、食事を与えなかったのはテーリスタンとカーリンスだと責任を転嫁し、二人と言い争う。テーリスタンとカーリンスは、お初に仲裁を頼むが、お初は鷹依姫も、テーリスタンもカーリンスも善人ではないから改心するように、と言い聞かせる。テーリスタンとカーリンスは赤面して反省する。そこへ杢助、玉治別、竜国別、国依別の四人がやってきた。お初は鷹依姫に向かって底力のある声で改心を迫ると、鷹依姫ははらはらと涙を流して、遂には声を放ってその場に泣き伏した。次にお初は高姫に向かって、改心して呑み込んだ二つの玉を返すように、と言い渡した。高姫は観念し、お初が腰を打つと、紫の玉と如意宝珠の玉を吐き出した。お初は紫の玉を鷹依姫に返そうとするが、鷹依姫は改心した以上、玉は三五教へ献上すると答えた。そして、自分は行方をくらました極道息子との再会を願ってバラモン教に入信したが、遂には一派を立ててアルプス教を開くまでになってしまったのだ、と身の上を明かした。鷹依姫の息子の特徴は、竜国別と一致した。お初は、竜国別は確かに鷹依姫の息子に違いないと明らかにし、高春山の途上の社で竜国別に試練を与えた女は、自分の化身であったことを明かした。鷹依姫と竜国別は、親子の対面を果たした。お初は竜国別は額の傷によって身魂の罪は取り払われて水晶の魂となったことを宣言した。そして天津祝詞を捧げて聖地に帰るようにと一行を促した。一同はこの言葉にはっと頭を下げ、口をすすいで天津祝詞を奏上した。そして宣伝歌を玉治別の音頭により高唱した。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年05月21日(旧04月25日) 口述場所 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年4月5日 愛善世界社版286頁 八幡書店版第4輯 369頁 修補版 校定版295頁 普及版130頁 初版 ページ備考
OBC rm2118
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本文  テーリスタンは密室前に現はれて、
『モシモシ私はテーリスタンで御座います。高姫様、黒姫様、御機嫌は如何で御座いますか』
『お前はテーリスタンだな。いつも我々を軽蔑して置きながら、今日に限つて其丁寧な物云ひは何事だい。大方三五教の宣伝使がやつて来たものだから、そんなお追従を云ふのだらう。なア黒姫さま、抜目のない男ぢやありませぬか』
『イエ決してさうぢや御座いませぬが、どうも貴方の御神徳に心の底から感動しました。何卒早く出て下さいませ』
『出いと云つたつて、神様のやうに海老錠をかけて置いたぢやないか。お前は妾等二人を石室に入れた積りか知らぬが、高姫大明神、黒姫大明神の結構な御扉ぢやぞエ、何と心得て居る。大幣でも持つて来て十分に祓ひ清め、お供へ物を沢山と奉つて冠装束で天津祝詞を奏上し、岩戸開きの舞を舞はぬ事には、此女神さまは滅多に出はせぬぞエ』
 テーリスタンは鍵を以て、ガタガタ云はせながら石の戸をパツと開き、
『サア何卒お出まし下さいませ』
『アヽ有り難う、サア、高姫さま出ませうか』
『黒姫さま、何を云ひなさる、お前さまは呆けて居るのか。コレヤコレヤ、テーリスタン、貴様は人の住家の戸を勝手に開けよつて、誰の許可を受けたのだ。家宅侵入罪で訴へてやるがどうだい』
『高姫さま、さういちやつかずに、御頼みぢや、出て下さいな』
『出て呉れいと頼むなら聞いてやらぬ事もない。今日はお供へ物も、祝詞も免除してやらう。実は妾も一刻も早く、こんな暗い所へ居りたい事は無い事は無い事は無いのだ。サアサア黒姫さま、お前さまから先に出なさい。大分此間から出たさうだつたから』
『先生からお先へ出て下さいませ。あまり失礼ですから』
『そんならお先へ御免蒙りませう。長らく御厄介になりました。サアもう此処まで出た以上は、神変不思議の紫の玉に、如意宝珠の夜光の玉を呑み込んだ此高姫、仮令何万人の豪傑攻め来るとも、フンと一つ鼻息をしたら飛び散つて仕舞ふ位なものだ。これから鷹依姫を一つ言向け和してやらうかなア』
『貴女はお腹は空きませぬか。大分にお瘠せになりましたな。テーは心配ですワ』
『百日や二百日食はいでも瘠るやうな高姫とは些と違います。イヤ瘠たのぢやない。体を細くして置いたのだよ。サアサア テーリスタン、案内をしなさい、婆アの傍へ』
『イヤ、もう最前からカーリンスと二人酔つて管をまいてまいて、まき潰した所です。もはや我々は三五教の信者ですから安心して下さい』
『お前のやうな者が信者になれば、安心所か、益々気をつけねばなるまい。誰に許されて三五教の信者になつたのだい』
『私はお初さまに頼みました』
『お初さまて誰の事だえ』
『五つ六つのちつぽけな娘の子です。貴女を岩窟から救ひ出さねばならぬと云つて唯一人子供だてらやつて来たのですよ』
『さうしてお前達は其子供に降参したのかい』
『ハイハイ何処ともなしに御神力が備はつて居るので、止むを得ず降参をして貴女をお救ひ申したのです』
『何と偉い子供もあればあるものぢやなア。子供に大人が助けられるなんて昔から聞いた事がない。時節と云ふものは結構なものだな』
『高姫様、それで世が逆さまになつて居ると、神様がお筆にお示しになつて居るぢやありませぬか』
『黒姫さまは暫く沈黙して居なさい。言葉尻を捉まへられちや却て不利益ですよ。女と云ふものは成る可く喋舌らぬ方が高尚に見えて宜敷い、併し妾は例外だ。何うしても率先して云はねばならぬ役廻りだから……これこれアルプス教の教主どの、長らく結構な岩窟ホテルに逗留さして頂きまして、日々御馳走を根つから頂戴致しませず、御親切の段有りがたくお礼申上げませぬワイ』
『別に山中の事とて御馳走も御座りませず、テーリスタンやカーリンスに申付けて、三度々々、相当の食物をお上げ申すやう命令して置きましたが、何うせお気に召すやうなものは上げられませぬでしたらう』
『コレ婆アさん、自分の責任を我々に転嫁するのかい。私がそつと隠して高姫さまや黒姫さまに進上しようと思へば、隼のやうな目でジロジロと私を睨みつけ、さうして水一滴、飯一粒やつてはならない。斯うして置けば、高姫がカンピンタンになるだらう。都合よく干からびた時に、腹に呑んだ紫の玉も如意宝珠も刳り抜いて取ると云つたのでは無かつたのではないか。今となつて、そんな卑怯な二枚舌を使ふものぢや無いワ。なア、カーリンス、俺の云ふ事は間違ひはあるまい』
『オヽ、さうとも さうとも、俺達にさへけちけち云つて酒も碌に呑まさない事は無い、悪党婆アだから、どうしてあれだけ憎んで居た高姫さまや黒姫さまに、飲食物を差上げる筈があらうかい』
『お前達は何と云ふ嘘を云ふのだ。私を八方攻撃喰はして困らす積りだな』
『定つた事だ。大勢の人を困らせて置くと其罪障が出て来て、自分も又困らねばならぬ事が出来致すぞよ、と三五教の神様が仰有つた。神が表に現はれて善と悪とを立て別けると云ふのは此事だ。現にお初さまはまだ年は六つだが、尊い神様のお生れ代りだ。此神様に聞いて見れば善悪正邪が一遍に分るのだ……私が悪いですか婆が悪いですか判断して下さいな』
『お婆アさまもあんまり良い事はない。テーリスタンもカーリンスもあまり善人でもありませぬよ。早う改心をしなさい。改心さへすれば皆元の善人になれますよ』
 テー、カーの二人は顔を真赤に頭を掻いて俯むく。斯かる所へ表口より、宣伝歌を歌ひながら、竜国別、玉治別、国依別を先頭に、力強の杢助、其他六人のアルプス教の信者を従へ、どやどやと這入つて来る。
玉治別『ヨー、貴女は高姫さま、黒姫さま、ヨウ、マア無事で居て下さつた。我々は言依別命様の内命を受けて、漸く三方より当山に攻め登り、言霊戦に向つたのです。あゝこれで結構だ。此方は湯谷ケ谷の杢助さまと云つて、実は時置師神様の御変名、大変なお世話になつたのですワ』
『それはそれは皆さま御苦労でした。よう来て下さつた。杢助様とやら、玉治別さまがいかいお世話になられたさうです。私から厚くお礼申上げます』
『皆様よくこそお越し下さいました。時にこの婆アさまはまだ改心せないのかな』
『サアお婆アさま、モウ斯うなつては我を張つても駄目ですよ。何も彼もすつかり懺悔して誠の心に立ち帰り、結構な神様の生宮として、此世を清く麗しくお暮しなさい』
とお初の小さき唇より、何となく底力のある声にて極めつけられ、さしもに頑固な鷹依姫も涙をハラハラと流し、遂には声を放つて其場に泣き伏しにける。
お初『サア、これからは高姫さまだ。お前さまはウラナイ教を樹てて素盞嗚尊様に反対をして居つた時、秋山彦の館に立ち入り、冠島の宝庫の鍵を盗み出し、如意宝珠の玉を奪ひ取つて呑み込んだその罪で、こんな岩窟へ長らく閉じ籠められ、苦しんだのですよ。何程負けぬ気になつて空元気を出しても矢張辛かつたでせう。今妾の前にその玉を吐き出しなさい。さうして又、昔竹熊と云ふ悪神が居つて、八尋殿へ竜宮城の使神を招待し、芳彦の持つて居つた紫の玉を取つたが、竹熊の終焉と共に死海へ落ち込んだ十個の玉の中で、この玉ばかりは汚されず、中空に飛んで自転倒島へ落ちて来た玉ですよ。それをこの鷹依姫が手に入れて、それを御神体としてアルプス教を樹てて居つたのだが、其玉をお前さまは又呑み込んで仕舞つたぢやないか。腹の中に何程玉があると云つても、さう云ふ悪い心で呑み込んだのだから、少しも光が出ない。サア私が此所で出して上げよう。如意宝珠の玉は素盞嗚神様に御返し申し、紫の玉は鷹依姫さまに返してお上げなさいませ』
『ハイ仕方が御座いませぬ、如何したら呑み込んだ玉が出ませうかなア』
『心配は要りませぬ。私が今楽に出してあげませう』
と云ひつつ、高姫の腰を一つエヽと声かけ打つた機に、ポイと口から飛んで出たのは紫の玉である。もう一つ左の手で腰を打つた機に飛んで出たのが如意宝珠の玉であつた。高姫はグタリと疲れて其場に倒れる。
『高姫さまは斯う見えても心配は要りませぬ、暫く休息なされば元気は元の通りになります。サア竜国別さま、貴方は如意宝珠を大切に預つて聖地へお帰りなさい。鷹依姫さま、紫の玉は貴方の持つて居たものだ、何うか受取つて下さい』
『私も最早改心致しました以上は玉の必要は御座いませぬ。何卒これを聖地へ献上致したう御座います。私も白状を致しまするが、私には唯一人の伜が御座いました。その伜が極道者で近所の人に迷惑をかけたり、喧嘩をする、賭博はうつ、女にずぼる、妾が意見をすれば「何、親顔をしてゴテゴテ云ふな」と撲りつける、終の果には親をふり捨てて、何処ともなく姿を隠して仕舞ひました。極道の子は尚可愛とか申しまして、況して一人の天にも地にもかけ替へのない伜、も一度会ひたい事だと一生懸命に神様にお願ひ致し、とうとうバラモン教に入信し、遂にアルプス教を樹てる事になつたので御座います。妾のやうな不運なものは世界に御座いませぬ』
『さうしてその伜の名は何と云ふ方でしたか』
と玉治別の問ひに、
『ハイ、今は如何なつたか行方は分りませぬが、顔の特徴と云へば一割人より鼻の高いもので御座いました。そして名は竜若と申します。偉いまあ極道で親に心配をかけよつたが、今頃はどうして居る事か、アーア』
と袖を絞る。玉治別は不審さうに、
『コレコレ竜国別、お前も竜若と云つたぢやないか。そして一人の母があると話した事があるなア。何処やら此婆アさまに目許、鼻の高い具合がよく似て居るやうだ。もしや此婆アさまぢやあるまいかな』
 竜国別は両手を組み、ウンと吐息しながら涙をホロホロと流して居る。
お初『鷹依姫の伜は三五教の宣伝使竜国別に間違ひはない。親子の対面させるために、神が仕組んで当山へ差し向けられたのです。竜国別の改心に免じ、鷹依姫の罪を赦して上げよう。竜国別の宣伝使、昨夜古き社の前にて汝の逢うた女は妾の化身であつたぞや』
 竜国別は無言の儘両手を合せ、嬉し涙にかき暮れる。鷹依姫は涙を払ひ、
『アヽ、其方は伜の竜若であつたか。ヨウ、マア改心して下さつた。立派な宣伝使になつたものだ。もう是限り母も改心するから、何卒妾の罪をお詫して下さい』
『母様で御座いましたか、お懐かしう存じます』
『お前、額の疵は如何なさつた。矢張人に憎まれて怪我をしたのぢやないかな』
『エヽ』
『竜国別は此額の疵によつて、身魂の罪をすつかり取払はれ、水晶の身魂と生れ変れり。其徳に依り親子の対面を許したのである。決して争ひなどを致したのではないから、鷹依姫御安心なさるがよからう。何時まで云うても果しがなければ、サア皆さま、一緒に天津祝詞を奏上し、感謝祈願の詞を捧げて、聖地へ一同うち揃うて参りませう』
との言葉に一同ハツと頭を下げ、口を嗽ぎ、手を洗つて天津祝詞を奏上し、宣伝歌を玉治別の音頭に連れて高唱する。
(大正一一・五・二一 旧四・二五 加藤明子録)
(昭和一〇・六・五 王仁校正)
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