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文献名1霊界物語 第23巻 如意宝珠 戌の巻
文献名2第3篇 有耶無耶よみ(新仮名遣い)うやむや
文献名3第13章 捨小舟〔725〕よみ(新仮名遣い)すておぶね
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2021-07-03 18:36:03
あらすじ玉能姫に逃げられた高姫一行は海岸にやってくるが、自分たちが乗ってきた舟もなくなっているのに気が付いた。高姫は東助に当り散らし、玉能姫とぐるになって自分たちを計略にはめたのだろうと責め立てる。東助は覚えのない非難に怒るが、高姫はあくまでも東助を疑い、部下たちに東助を見張らせて自分は山の上に行ってしまった。その間に東助は、高姫の部下たちに自分の弁解をして打ち解ける。また、東助は自分が淡路島の大金持ちということを明かして気を引く。そうしているうちに、東助の持ち舟は波に流されて岸に戻ってきた。それを見た貫州は高姫に知らせに行くが、その間に東助と他の三人は舟に乗って島を出てしまった。海岸から高姫と貫州が呼びかけても、東助は天罰が当たったのだと二人を助ける気はない。鶴公、清公、武公は東助の子分になってしまった。高姫は今度は貫州に当り散らす。しかし貫州も日の出神のくせにまったく神力がないと高姫に非難の応酬をする。高姫は怒って黙って山上に上って行ってしまうが、貫州は境遇を悲観して、松の枝から首を吊ってしまった。しかし足が枝に引っかかってうまくいかなかったのだが、物音に驚いた高姫は、貫州が首を吊って息絶えてしまったと思って嘆き、貫州に詫びを入れ始めた。貫州は高姫の我を折ってやろうと思って、幽霊の振りをして高姫に改心の約束をさせる。しかし高姫は貫州の首が締まっていないことに気づくと、また元のように威張り出した。貫州はまた首を吊ろうと思って適当な松の枝を探していてると、高姫は貫州の横面を張ってやめさせた。二人が磯端に戻ってくると、玉能姫からの贈り物として、舟が一艘横付けになっていた。高姫は、玉能姫が竜神が玉を持っていったと言ったのは、玉が竜宮島に隠してあるに違いないと一人合点し、玉能姫や東助の後は追わず、舟に果物を積むと貫州と共に竜宮島を目指して西へと漕ぎ出した。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年06月12日(旧05月17日) 口述場所 筆録者谷村真友 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年4月19日 愛善世界社版209頁 八幡書店版第4輯 571頁 修補版 校定版212頁 普及版97頁 初版 ページ備考
OBC rm2313
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本文  高姫一行を包みたる濃霧は、暫くにして消散し、四辺は元の如く明るくなつて来た。玉能姫の行衛は如何にと、高姫以下血眼になつて探し廻せど、何の影もなく終には、船着場迄一行ゾロゾロやつて来た。見れば玉能姫の乗つて来た船も高姫の船もない。高姫は地団太踏んで口惜しがり、
高姫『アヽ残念、口惜しやな、お節の奴、濃霧を幸ひに三つの宝を掘出し、船に乗つて逃げ帰つたか。それにしても残念なは船迄どうやら持つて帰つたらしい。まるで島流しに遭はされた様なものだ。……コレコレ東助さま、第一お前が気がきかぬからだ。船頭は船にくつついて居れば好いのに、職責を忘れて宣伝使の様に山に登つて来るものだから、こんな目に逢うたのだ。サアどうして下さる』
東助『どうして下さるもあつたものかい。大切な商売道具を盗られて仕舞つて手も足も出し様が無い。帰る訳にも行かず、第一お前が此んな所へ謀反を起して遣つて来るものだから、神罰が当つたのだ。サア俺の船をどうして呉れる』
高姫『ヨウマアそんな事が言へたものだ、大切なお客を連れて来ながら、船を盗られてどうするのだ。大方お節の奴と腹を合はし、日の出神を斯んな所へ押込める計略をして居つたのだらう。油断も隙もあつたものだ無い』
 東助は大いに怒り、
『女と思ひ柔かく申せば、無体の難題、此東助は貴様の如き悪人ではない。正直一方の名の通つた船頭だ。男の顔に泥を塗り居つたなア。モウ量見致さぬ覚悟をせい』
 高姫頤をシヤクリ乍ら、
『オホヽヽヽ、何程力が強くても、此方は五人、お前は一人、到底駄目だよ。それよりも綺麗薩張白状したらどうだ』
東助『白状せいと云つたつて知らぬ事が白状出来るかい。余り馬鹿にするない』
高姫『オホヽヽヽ、アノ白つぱくれようわいのう。知らぬかと思うてツベコベと其弁解、余人は知らぬが、人の心のドン底迄見透かす御神力の高い、日の出神を誤魔化さうとはチツト虫が好過ぎるぞ。お前は玉能姫にいくら金を貰うた。うまい事をやつたな』
 東助は余りの腹立たしさに、物をも言はず唇をビリビリ振はせ、拳を握り無念の涙に暮れて居る。高姫は、
『さうだらう、言ひ訳があるまい。何程弁解を巧に致しても、神の前では言霊は使へまいがな。お前も大勢の前で化けの皮をむかれ残念であらうが、それが自業自得だ。つまり己があざのうた縄で己が首を絞たも同然、ほんにほんに可愛相なものだ。悪の企みは到底成就せぬといふ事が分つただらう。淡路島で難船した時に時間を見計らひ、ノソノソ遣つて来て此高姫をだまし込み、甘くやらうと考へたのも水の泡、忽ち日の出神の眼力に看破され、其態は何んだ。大きな男の癖に、メソメソと吠面かわき見つともない。何れは玉能姫と同類だから、玉の隠し場所も知つて居る筈だ。どうだお前、玉能姫は玉を持つて帰つたであらうがな』
 東助は口許を痙攣させ乍ら、
東助『シヽ知らぬワイ、バヽ馬鹿にするな』
と漸う奇数的に癇声を出して呶鳴つた。
高姫『シヽ知らぬぢや無からう。シヽしぶといワイ。バヽ馬鹿にするないと言つたが、お前の方から日の出神を馬鹿にしようとかかつて馬鹿を見たのだから仕方があるまい』
貫州『モシモシ高姫さま、肝腎の船が無くては、どうする事も出来ないぢやありませぬか。そんな話は次の次にして、先決問題として船の詮索から掛らなくては、我々安心が出来ないぢやありませぬか』
高姫『オホヽヽヽ、お前は年が若いから心配するのだが、玉能姫の同類東助の居る以上は屹度人を替へて、素知らぬ顔して船を持つて来るに違ひない。其時は手早く東助奴其船に飛び乗り、一目散に逃げ帰る計略、今度船が来たら必ず必ず東助を放してならぬぞ。此奴が乗つたら此方も一緒に帰るのだから、お前等四人は此奴の見張りをして居つて呉れ。そうして船が来たら此中から一人妾を迎ひに来るのだ。それ迄船も船頭も取つ捉まへて放す事ならぬぞや』
と云ひ捨て山上目蒐けて足早に登り行く。後に五人の男は磯端に座を占め、広き海面を眺めて呆気た様な顔をして居る。東助はやうやう心柔いだと見えて、そろそろ喋べり出した。
東助『オイお前達、俺を高姫とやらが言うた様な悪人だと思ふのか。俺は肝腎の商売道具を盗られて仕舞ひ、其上に思はぬ難題を吹き掛られ、こんな引合はぬ事はあつたものぢやない。本当に災難と云ふものは何時来るか分らぬものだワイ』
貫州『俺も別にお前を悪人の様には思はぬが、高姫の大将がアー言ひ出したら全然り気違ひだから、メツタに口答へは出来ないので黙つて辛抱して居たのだが、お前の様子といひ顔色と云ひ、全く玉能姫と腹を合はして居る様な男でないと思ふ』
東助『アヽ好う言うて呉れた。それで俺も一寸安心した。皆さまは如何いふ御感想を持つて居られますか、腹蔵なく言つて下さい』
 三人一度に、
『貫州の云つた通り、どうもお前が悪いとは思はれないよ。本当にエライお災難だ、御同情申し上げる。何分あの大将はあの通りだから困つてしまふ。玉能姫が逃げて帰ぬ際に、船を何処かへ流し居つたのは憎らしいが、併し乍ら今高姫に捨てられては鼻の下は忽ちだからなア』
東助『皆さま、そんな心配は要らないよ。私は淡路島の者だが、お前方の三人や五人は幾日遊んで食つて居つても、滅多に俺の家は潰れはせぬ。斯うして俺は船頭が好きでやつて居るものの、淡路島で第一等の物持の主人公だ。様子あつて船頭はして居るが普通の駄賃取りの船頭とはチツと違ふのだ。お前の身の上は俺が引受けてやるから心配するな』
鶴公『それは有難い、然し本当か』
東助『本当でなうて何とせう。昔から正直者の名を取つた東助とは俺の事だ。男が仮りにも嘘を言へるものかい』
鶴公『さう聞けばさうかも知れぬな』
と話し居る所へ風の吹き廻しにて一旦沖へ流されて居た東助の持船は、ダンダンと此方に向つて近づいて来るのが目に付いた。東助は手を拍つて、
東助『アヽ嬉しい、風のお蔭で流れて居つた船が、ドウヤラ此方へ流れて来さうだ。皆さま、喜びなさい』
 四人は立つて海面を眺めながら、風に吹かれて近より来る船を見て、思はず手を拍ち『ウローウロー』と叫び居る。
東助『最早此方のものだ。俊寛の島流しも、ドウヤラ赦免の船が来た様だ。サア兎も角帰らねばなるまい。此んな処に長居をして居れば、又最前の様に濃霧に包まれ神罰を蒙るか分つたものではない。……これ貫州さま、早く高姫さまを呼んで来て下さい、船の用意をするから』
貫州『オイ鶴公、清公、武公、確り船を捉まへて東助さまを気を付けよ。俺は急いで大将を呼んで来るから』
東助『アハヽヽヽ、滅多に逃げて帰りも致さぬ。安心して此山中を探して来なさい。待つて居るから……併し我家に帰つて……』
と小声にて後を付けた。貫州は一目散に勇んで高姫に報告す可く森林へ上り行く。船は磯端に漸く寄つて来た。東助は拍手しながら、
東助『アヽ、船神様、有り難う御座います。サアサ三人の方々乗つたり乗つたり』
鶴公『高姫さまと貫州はまだ見えませぬから、一寸待つてやつて下さいな』
東助『待つてはやるが家に帰つて待つ事にせう。サア乗つたり乗つたり』
鶴公『ハヽヽヽヽ、矢張両人は島流しだな。アーそれもよからう。何分にも日の出神が憑いて御座るから滅多な事はあるまい。マアとつくりと御修業が出来てよからう』
と云ひ乍ら四人はひらりと船へ飛乗り、艪をギクギクと漕出し始めた。猜疑心深き高姫は最前より、傍の森林に身を潜め、一同の話を窺ひ聞いて居たが、コリヤ大変と貫州を誘ひながら磯端に走り来り、
高姫『コレコレ東助さま、お前は何処へ行くのだ。妾をどうする積りだい』
東助『何処へも行きませぬ。淡路の洲本迄帰るのだ』
高姫『そら約束が違うぢやないか。チヨツと船を此方へ着けて下さい。妾も乗つて帰らねばならぬから、そんなことをなさると今迄の賃銀は払ひませぬぞ』
東助『賃銀を取つて生活して居る東助とはチツと違ふのだ。私はこう見えても淡路島第一の財産家だ。船頭は道楽でやつて居るのだから、賃銀なぞは此方から平にお断り申します。金が欲しけりや幾程でも此方からやるワ。マア緩くりと此島でお二人さま、修業なさいませ』
と又もや艪を漕ぎ出す。高姫は声限り、
高姫『コレコレそんな無茶な事がありますか。天罰が当りますぞ』
東助『天罰の当つたのはお前ら二人だ。余り精神が良くないから、修業の為めに残して置くのぢやから、有難く思ひなさい。……コレコレ鶴公、清公、武公、お前達は私の船に助けてやつたのだから、一挙一動、私の云ふ様にするのだよ』
 三人は声を揃へて、
『承知しました、何分宜敷く御指導を願ひます』
貫州『オーイオーイ東助さま、そりや余りぢや、一遍船を此方へ着けて下さい』
 東助は舌をペロツと出す、三人も顔を見合はして同じく舌をペロツと出す。
東助『折角だが今日は荷物が多いからお断り申しませうかい。此上罪の多い人間が乗ると沈没すると迷惑だからなア』
 三人一度に口を揃へて、東助の言葉其儘を繰返す。東助は何の頓着もなく艪を漕ぎ、声も涼しく船歌を唄ひながら追々島に遠ざかり行く。高姫、貫州の二人は磯端に地団太踏んで『オーイオーイ』と呼んで居る。東助は、
(追分)
『家島立ち出で、神島越えて、向ふに見ゆるは淡路島』
(同上)
『誠明石の、海峡よぎり、洲本の我家へ帰ります』
(同上)
『後に残りしお二人の、高姫さまや貫州は、鬼界ケ島の俊寛か。どうして月日を送るやら』
と唄ふ声、海風に送られて両人の耳に入る。二人は狂気の如く猛び狂ひ騒ぎ廻れども、何んと船影泣く涙、トボトボと力なげに深林の中に薄き影を隠すのであつた。後に残された高姫は捨て鉢気味になり、芝生の上に身を投げる様に横たはりながら、足をピンピン動かし、
高姫『コレコレ貫州、お前は余程イヽ頓馬だな。アレ丈け噛んで呑む様に言うて置いたのに、人の言ふ事を尻で聞き居るから、天罰が当つて、こんな目に逢はされるのだよ。是れから妾の云ふ事を素直に聞くのだよ』
貫州『天罰は御同様だ。貴女も矢張り此んなに置いとけ放りを食はされたのは、何か深い罪があるからでせう。私は貴女の罪の巻添へに逢うたのです。誰を恨める所もない、只高姫さまを恨む計りだ』
高姫『誠水晶の日の出神に罪があつて堪りますか。つまりお前の罪の巻添へに遭うたのだ。それだから神様が何時も水晶の身魂は、汚れた者と一緒に置くと総損ひになると仰有るのだ。これを折にスツパリと改心をなされ。さうして日の出神様に絶体服従をするのだよ』
貫州『此んな人影もない島に捨てられる様な日の出神さまも、頼りない好い加減なものですなア』
高姫『お前は何ぞと云うと、直に日の出神のわざの様に云ひなさる。それが第一慢心といふものだよ』
貫州『貴女の御説教は何時も隔靴掻痒とか言つて徹底せず、恥を掻き、あたまを掻き、人には靴靴笑はれ、痛かゆい様な気がしていけませぬワ』
高姫『動中静あり、静中動あり、千変万化、自由自在の神様の御経綸、虱の放いた糞にわいた虫の様な人間が、苟くも天地の御先祖様の御事に対し、ゴテゴテ小言を云ふ資格がありますか。況んや広大無辺の御神徳の備はり給ふ日の出神の生宮に於てをやだ。モウ是限り日の出神様に対し、不足がましい事は言はぬが宜しいぞや』
と肩を斜めに揺りながら、四辺の雑草を蹴散らす様な足つきで、ピンピン尻振りつつ坂路を上つて行く。貫州も是非なく二三間遅れて不性無精に従いて行く。高姫は怒り心頭に達し、益々肩をくねりくねりと互ひ違ひに揺り乍ら、見向きもせず山上目蒐けて上つて行く。貫州は後より独語、
貫州『アヽ今年は何んとしてこんな年廻りが悪いだらうか。力に思ふ高姫さまは伊勢蝦の様にピンピンとはねなさる、船には見棄てられる。こらマア何うなるのであらうかなア。…アー此処に枝振の好い松の木がニユーツと出て居る。一つ一思ひに徳利結びをやつて、一はねプリンプリンと出掛けやうかな。アヽ何うなり行くも因縁だ』
と帯を解き徳利結を拵へ、松の木の枝よりプリンと下つた。此物音に高姫は後振返り見てびつくりし、周章しく七八間駆戻り、貫州の体躯に取付き、
高姫『コレコレ貫州、何といふ短気な事をして呉れた。此島に放り残され、力と頼むお前に死なれては、どうして此高姫がたまらうか。何といふ情ない事をするのだいなア……』
 貫州はポイと飛んだ拍子に灌木の枝に足がツンと引つ掛かり、首も締らず少しの痛さも感じなかつた。されど心の内に『エー序だ、高姫の我を折つて遣らねばなるまい』と態と細いイヤらしい声を出し、
貫州『アーア恨めしや、私は高姫様の余り我が強いので、度々御意見をするのだけれどもチツトも聞いて下さらぬ。夫故死んで高姫さまに意見をするのだ。改心さへ出来たらばまだ死んで間が無いから、直に生き返り再び御用をするのだけれども、到底改心は出来ない。アヽ高姫様もたつた独で淋しからう。併し乍らたつた今迎ひに来て上げる程に、必ず心配しなさるなヤア』
 高姫は驚いて、
高姫『コレコレ貫幽どの、私が悪かつた。これからもう我を張らぬから、今一遍娑婆に帰つてお呉れ。これこの通りだ』
と手を合せ俯向く途端に、貫州は灌木の枝に両足共チヨンと止り、首筋を見れば徳利結はチツトも締つて居ない。ハテ不思議やと首を傾けて居る其間に、貫州は緩やかな首縄をグイと放し、
貫州『アヽ高姫さまよう改心して下さつた。お蔭で肉体で貴女の御用がさして頂け升』
高姫『アタ阿呆らしい。お前は狂言をしたのだらう。本当かと思つて肝を潰しかけた。イヽ加減なてんごうして置きなされ』
貫州『てんごうでも何んでもありませぬ。本真剣でやつたのだが、折善くか折悪くか知らぬが、足の止まりが出来て遣り損うたのだ。そんなら今度は改めて本真剣にやりませうか』
 高姫は又もやツンとして、
高姫『勝手にしなされ。お前の命をお前が失ふのだから』
貫州『ハイ有難う。お許しが出ましたら即座に決行します。其代り最前の様な泣き言は言うて貰ひませぬぜ、迷ひますと困りますからなア』
と手早く松の枝にくくり付けた帯をほどき、再徳利結を拵へ、適当な枝振を探して居る。高姫は、
高姫『エーしつかりせぬかいな』
と平手で横面を二つ三つピシヤピシヤとやつた。
貫州『アイタヽヽ、高姫さま、そんな無茶をしなさるな。何を腹が立ますか』
高姫『お前は今死神に憑かれて首を吊つて居つたぢやないか。それだから気を付けてやつたのだよ』
貫州『ヘー』
と生返事をしながら顔色をサツと替へ、両方の手で頸の辺りを、嫌らしさうに撫で廻して居る。
高姫『アヽ今日は何となく気分が悪い。ササ貫州、磯辺に行つて、広い海でも眺めて気を換へて来よう。又船の一艘も流れて来るかも知れない。ササしつかりしつかり』
と背を三ツ四ツ叩き、貫州の手を引き山坂を下つて、再元の磯端に帰つて来た。見れば艪櫂の付いた新しい船が一隻磯端に横付けになつて居る。好く好く見れば船の中側に『玉能姫より高姫様に此船進上仕ります』と記して在つた。高姫はこれを見て、
高姫『オホヽヽヽ、さすがの玉能姫も日の出神の御神力に恐れ、寝心地が悪くなつたと見えて、こんな新しい船を何処からか買求め、そつと此処へ置いといて遁げて帰んだのだな。意地くね悪い奴に似合はず、一寸気の利いた事を遣り居るワイ。サア此船さへあれば何日此島に居つたつて心配は無いが、余り長らく置いて置くと俄に心が変りあの船が惜くなつたと云うて、取返しに来られては、それこそ此方が取返しの付かぬ縮尻をやらねばならぬから、今日は兎も角此船に乗つて玉の所在を探して来う。どうも此島には在りさうにない。玉能姫の言葉に、竜神が持つて行き居つたと言うた事がある。大方南洋の竜宮島へでも納まつて居るだらう。此島の果物を沢山に積込み兵糧をドンと用意して、神の随意此船の続く限り、腕力のあらむ限り探しに行く。お前も結構な御用だから、御伴をさして上げるから喜びなさい』
貫州『成る可くなら此お伴ばかりは、除隊にして貰ひ度いものですなア』
高姫『オホヽヽヽ、お前も中々のしれ物だ。除隊のない事を仰有るわい』
と果物を数多積込み、高姫は下手ながらも艪を操り、貫州は櫂を使ひながら家島を後に瀬戸の海を西へ西へと進み行く。
(大正一一・六・一二 旧五・一七 谷村真友録)
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