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文献名1霊界物語 第24巻 如意宝珠 亥の巻
文献名2第1篇 流転の涙よみ(新仮名遣い)るてんのなみだ
文献名3第3章 波濤の夢〔733〕よみ(新仮名遣い)はとうのゆめ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2021-07-27 18:56:09
あらすじ小糸姫は二人の島人に舟を漕がせて、友彦から逃げ出した。しかし舟が大海原に来ると、二人の島人は小糸姫に襲いかかろうとする。小糸姫は逃げ回るが、捕まってしまいあわやというところへ、四人の女が乗った一艘の船が疾走して来た。船から一人の女が乗り込んで来て、島人に当て身を食わして小糸姫を助けた。小糸姫を助けてくれた女は、よくよく見れば、顕恩郷の侍女・今子姫であった。今子姫は小糸姫に両親のところへ帰るように諭すが、小糸姫はどうしても竜宮の一つ島に渡るのだ、と言う。今子姫は、小糸姫が出奔した後に顕恩郷は三五教に奪い返され、鬼雲彦や鬼熊別もどこかへ逃げてしまったことを告げた。そして自分は今は素盞嗚尊の娘に仕えており、バラモン教と闘って破れ、この船で流されたところだと経緯を物語った。小糸姫はそれを聞いて、今子姫をバラモン教の裏切り者として身構えるが、四対一で今は敵わないことを悟り、降参の覚悟を決めた。今子姫は二人の島人に活を入れて起こした。小糸姫は二人に対して、自分はこれから三五教の宣伝使になると宣言し、駄賃を上げてセイロン島に返した。小糸姫は今子姫らの船に乗り込んだ。五人は船を漕いでオーストラリヤの一つ島に上陸した。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年06月14日(旧05月19日) 口述場所 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年5月10日 愛善世界社版45頁 八幡書店版第4輯 627頁 修補版 校定版46頁 普及版21頁 初版 ページ備考
OBC rm2403
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本文  野卑下劣なる友彦の態度にぞつ魂愛想をつかし、ぞぞがみを立て蛇蝎の如く忌み恐れたるセイロン島の女王小糸姫は、友彦が大酒に酔ひ潰れ前後不覚になつた隙を窺ひ三行半を後に残し、黄金を腹巻にどつさりと重い程締込み錫蘭の港より、黒ン坊チヤンキー、モンキーの二人に船を操らせ、月照り渡る海原を力限りに辷り往く。
 天上には浄玻璃の鏡厳かに懸り、大地の水陸森羅万象を映して居る。小糸姫が今往く此船も、矢張り月の面にかかつた天然画中のものであらう。小糸姫は漸く虎口を逃れホツと一息つきながら独言………。
『アヽ妾程罪深い者が世に有らうか。山より高き父の恩、海より深き母の恩、恩に甘え、親の心子知らずの譬に漏れず、人も有らうに、万人の見て以て蛇蝎の如く忌み嫌ふ友彦のやうな下劣な男に、何うして妾は迷つたであらうか。我と我身が怪しくなつて来た。執念深き男の常として、嘸今頃は酔も醒め、四辺をキヨロキヨロ見廻し、我残せし手紙を見てアツト腰を抜かし、例のいかい目を剥き出し、嘸や嘸、腹を立てて居るだらう。思へば可憐さうな様でもあり、小気味がよいやうにもある。妾の心は鬼か蛇か神か仏か、我と我が心を解き兼ねる。それにしてもあの友彦と云ふ男、金さへあれば朝から晩まで飲み倒し、体を砕き魂を腐らせ、殆ど人間としての資格は最早ゼロになつて仕舞つた所だから、今度の驚きで些とは性念も直るであらう。真人間にさへなつて呉れたならば、妾とても別に憎みはせぬ。あの男に一片良心の光があれば、キツト心を取り直し、立派な人間になるであらう。さすれば今見捨てて逃げ出す妾の非常手段も、あの男の為には却つて幸福の種、腐つた魂は清まり、酒に砕けた肉体は又元の如く健かになり、神界の為、社会のために、活動するだけの神力が備はるであらう………友彦殿、妾が書置を見て嘸憤慨して居るであらう。併し乍ら之も妾が御身に対する恵の鞭だと思つて、有難く感謝するがよいぞや。必ず必ず迷うてはならないよ。破れ鍋に閉ぢ蓋、それ相当の女を見つけ出して夫婦仲よく暮しやんせ。提灯に釣鐘、釣り合ぬは不縁の基と云ふ事は昔からの金言友彦の守護神殿、肉体、いざさらば之にて万劫末代お別れ致します』
と頤をしやくり、傍に人無き如き横柄なスタイルにて喋り立てて居る。無心の月は浄玻璃の鏡の如く真澄の空に緩やかに懸り、小糸姫が船中のモノログを床しげに見詰めて聞いて居るものの如くに思はれた。チヤンキー、モンキーの二人は大海原の真中に浮び出たのを幸ひ、目と目を見合せ、そろそろ肩を聳やかせながら体迄四角にして、機械人形の様に小糸姫の両脇にチヨコナンと坐り、
『何と今日のお月様は、まんまるい綺麗なお顔ぢやないか。恰で小糸姫女王のやうな、玲瓏たる容色。空を仰げば如意宝珠の如き月光如来、船中を眺むれば雪を欺く純白の光明女来の御出現、俺達も男と生れた上は、一つ此様な美人と握手をしたいものだなア、アハヽヽヽ』
と作つたやうな笑ひ声を出す。
『オイ、チヤン、擽つたいやうな遠廻しにかけて何を云ふのだ。一里や二里ならまだしもだが、大空のお月さま迄引張り出しやがつて、そんな廻り遠い事は今の世には流行せないぞ。何事も簡単敏捷を貴ぶ世の中だ。海底にも此通り立派な月が浪のまにまに漂うて居る。月の上を渡る此船は、天人の乗つた天の鳥船も同様だ。これ見よ………海の底には幾十万とも知れぬ星の影、月と月、星と星とに包まれた此大空仮令俺達の色が黒いと云うても、唇が厚いと云うても、最早此通り天上を翔る様になつたのだから、顕恩郷のお姫様に何遠慮する事があるものかい。僅か十六歳の繊弱き女、此通り頑丈な鉄のやうな固い腕をした我々の自由にならぬ道理があるか。際限も無き此海原、何一つ楽しみなくして何うして之が勤まらう。………これ小糸姫さま、お前の家来だと云うて連れて居つた友彦の鼻曲りや、出歯亀に比ぶれば幾層倍立派だか知れやしまい。色は黒うても浅漬茄子、何うだ一つ妥協をやらうではないか』
『ホヽヽヽヽ、これ二人の黒ン坊さま、冗談を云ふにも程がある。女だと思うて無礼な事をなさると了見はせぬぞエ』
『アハヽヽヽ、見事云ふだけの事は仰有りますワイ。まさかの時になれば言論よりも実力が勝つ世の中だ。もうかうなつちや此方の自由自在、何事も因縁ぢやと諦めて我々の要求を全部容れるがお前さまの身の為だ。可憐さうに、あれ程焦れて居つた友彦を酒を飲まして酔潰し、其間にすつかり路銀を腹に巻き、逃げ出すと云ふ大それた年にも似合はぬ豪胆者、後に残つた友彦は………僅か肩揚の取れた計りの小娘に三十男が馬鹿にされ、どうして世間に顔出しがなるものか、「エヽ残念や口惜や、仮令千尋の海の底迄も小糸の後を探ねて、恨みを云はねば死んでも死ねぬ」………と恨んだ男の魂が結晶して副守護神となり我々両人にすつかり憑依つたのだ、因縁と云ふものは恐ろしいものだらう。かう申す言葉は決して黒ン坊が云ふのではない、友彦の霊魂が口を籍つて云うて居るのだ。さア返答は如何だ』
と形相凄じく肩肱を怒らせ汗臭い体で両方から詰寄せて来る。
『ホヽヽヽヽ、これこれ黒ン坊さま、何ぢやお前は、卑怯千万な、友彦の霊魂だなぞと……なぜ黒ン坊のチヤンキー、モンキーが女王さまに惚れましたと、キツパリ云はぬのだい』
『ヤア割とは開けた女王様だ。それも其筈十五やそこらで大きな男を翻弄し故郷を飛び出すやうな阿婆摺れ女だから、其位な度胸は有りさうなものだ。そんなら小糸姫さま、改めて私等二人は、お前さまに心の底から、スヰートハートをして居るのだ。余り憎うもありますまい』
『ホヽヽヽヽ、あゝさうですかいな。それ程私に御執着ですかな。矢張天下無双のナイスでせう』
『ナイスは云はぬでも分つて居る。何うだ、吾々両人の思召を聞いて下さるのか』
『妾は聾ぢやありませぬよ。最前から一言も残らず聞いて居るぢやありませぬか』
『ソンナ聞きやうとは違ひますワイ。要するに、吾々の要求を容れて下さるかと云ふのだ』
『アタ阿呆らしい、誰が炭団玉のやうな黒い男に秋波を送りますか、烏の芝居だと思つて、最前から、面白可笑しう観覧して居るのだよ』
『コラ阿魔女……かう見えても俺は男だぞ。女の癖に、裸一貫の大男を嘲弄するのか』
『何程胴殻は大きうても、お前の肝は余り小さいから、サツク迄が矢張小さく見えて仕方がないワ』
『何処迄も吾々を馬鹿にするのだな。よしよし、この船を何処へやらうと俺達の勝手だから、往生する所迄苦しめてやるからさう思へ』
『同じ船に乗つた以上は、妾の苦しい時は矢張お前も苦しいのだ。妾はかうしてお客さまだから手を束ねて見て居るが、お前達は労働せなくては一日も暮れない身分だ。常世の国の果迄なりと勝手に漕いで往つたがよからう。妾は此広々とした此海面を天国のやうに思うて、仮令三年でも十年でも漂うて居るのが好きなのだ』
『何と豪胆な女だな。流石は鬼熊別の血の流れを受けた丈あつて、どことはなしに違つた所があるワイ。なア、モンキー、用心せぬと此奴は化物か知れないぞ。何程胆力があると云うても十五や十六で之だけ胴の据わる筈がない。三五教の守護を致して居る高倉か旭の化身かも知れない。………オイ一寸尻をあげて見い。尻尾でも下げて居やがりやせぬか』
と小糸姫の背部を一生懸命見詰めながら、
『矢張此奴は正真正銘の小糸姫だ。………オイ、モンキー愈是から不言実行だ』
『ヨシ合点だ』
とモンキーは前より、チヤンキーは後より小糸姫に武者振りつき、手籠にせむと飛び掛るを小糸姫は右に左にぬるりぬるりと身を躱し、暫し揉み合ひ居たりしが、強力なる二人の男に取り押へられ「キヤツ」と叫ぶ折しも、四人の乗つた一艘の船、此場に浪を切つて疾走し来り、一人の女は二人の男に当身を喰はしたれば、二人は脆くも船の中にウンと云つたきり大の字になり打ち倒れける。
 小糸姫は思はぬ助け船のために危難を救はれ、一人の女に向ひ、
『危い所をお救ひ下さいまして有難う御座います』
と月夜に透かし見て、
『貴女は今子姫様、何うしてまア斯様な所へ御入来遊ばしました』
と聞かれて今子姫は驚き、
『さう云ふ貴女は顕恩郷の副棟梁様のお娘子、小糸姫様では御座いませぬか。去年の春、友彦の宣伝使と手に手を取つて何処へかお越し遊ばし、御両親のお歎きは一通りでは御座いませぬ。傍の見る目もお気の毒で耐りませなんだ。さア貴女は一日も早くお帰り遊ばして、御両親に御安心おさせ遊ばすが宜しからう』
『イエイエ何うあつても妾は竜宮の一つ島へ参らねばなりませぬ。少し様子あつて友彦に別れ、今渡海の途中で御座います。顕恩郷の本山は益々隆盛で御座いますか』
『私は三五教の大神、素盞嗚尊様の御娘子五十子姫様の侍女となり、三五教の信者で御座いましたが、鬼雲彦様や、貴女の御両親に改心して頂かうと、種々心は砕きましたなれど何うしても駄目、とうとう天の太玉命の宣伝使が御入来になり、鬼雲彦初め、御両親は何処へか身を匿され、顕恩郷は今や三五教の霊場となつて居ります。そして妾は五十子姫様、梅子姫様と宣伝の途中、片彦、釘彦等部下の為に促へられ、此船に乗せて流されました途中で御座います』
と聞いて小糸姫は大いに驚き、
『さすれば貴女は三五教に寝返りを打つた謀反人。鬼雲彦様を初め、妾の両親の敵も同様、サア此上は覚悟をなされ』
と懐剣をスラリと抜いて斬り掛らうとする。五十子姫、梅子姫、宇豆姫は、乗り来し船の上より、騒がず焦らず端然として此光景を打ち看守つて居る。今子姫は言葉淑やかに、
『マアマアお鎮まり遊ばせ。何程貴女がお焦慮なさつても、此通り此方は四人の女、貴女は一人、到底駄目ですよ。それより貴女の度胸を活用し、竜宮の一つ島へ渡りお道の宣伝を開始なさつたら何うでせう。妾もお力になりまする』
 小糸姫は勝敗の数既に決せりと覚悟を極め、
『世界は皆神様のお造り遊ばしたもの、謂はば世界の人間は神様の御子で御座います。神の目から御覧になれば妾も貴女も皆姉妹、今迄の事はスツカリと河へ流しイヤ海に流し、相提携して神様に奉仕しようではありませぬか』
『それは真に結構で御座います。……五十子姫様、梅子姫様、宇豆姫様、貴女方の御考へは如何でせう』
 三人一度に頷く。
『アレ彼の通りお三人共、妾と御同感、さア是から御一緒に一つの船で参りませう。併し乍ら二人の男に活を入れ、助けてやらねばなりますまい』
と今子姫は『ウン』と力を籠めて活を入れた。忽ち二人は正気づき涙を流して謝罪つて居る。
『これはこれは二人の黒ン坊さま、長々御苦労であつた。妾は是より三五教の宣伝使となつて、世界の隅々迄巡歴するから、お前達はこれで帰つてお呉れ』
と懐中より小判を取り出し投げやれば、二人は押し頂き、
『誠に御無礼を到しました上に、之程沢山お金を頂戴致しまして有り難う御座います。左様なれば貴女は彼方の船にお乗り下さいませ。私共は此船で錫蘭の港に引返します、万一友彦様に遇うたら何う申して置きませうか』
『アー知らないと云うて置くが無難でよからう』
 二人は『ハイ有難う』と感謝し乍ら手早く櫓を操り、東北さして漕ぎ帰る。茲に五人の女は代る代る櫓を操りながら、浪のまにまに流されて、遂にオーストラリヤの一つ島に無事上陸する事となりける。
(大正一一・六・一四 旧五・一九 加藤明子録)
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