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文献名1霊界物語 第29巻 洋万里 辰の巻
文献名2第4篇 から山へよみ(新仮名遣い)うみからやまへ
文献名3第17章 途上の邂逅〔839〕よみ(新仮名遣い)とじょうのかいこう
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグハンドの滝(天祥山の滝) データ凡例 データ最終更新日2022-01-05 17:20:57
あらすじゼムの港町は相応に人口があるところであったが、高姫ら宣伝使服の一行が降り立ったのを、人々は物珍しそうに見送りながら、噂話をしている。その話には、去年船から中に落ちた鷹依姫という宣伝使の一行が、亀に助けられてこの町に上陸したというものだった。高姫はこれを聞きつけて、話をしていた二人の町人たちに鷹依姫らの消息を尋ねた。鷹依姫たちは天祥山の滝で身を清めた後、アマゾン河を遡って上流に向かったとのことだった。すると町人たちは、宣伝使が高姫であることに気がついた。そして、自分の恩人である鷹依姫を自転倒島から追い出してひどい目にあわせた高姫を敵だと言って、懐から短刀を取り出し、高姫に切りつけた。高姫はさっとよけた。ヨブは町人を押し留めて、高姫はすでに立派な人格になっていることを説き諭した。高姫に切りかかろうとした二人は、ヨブの同郷のマールとボールであった。マールとボールは、島で無頼漢と呼ばれ、ヨブの家に空き巣に入ったところを見つかって逃げ出していたのであった。ゼムに来て二人は罪を悔い、天祥山の滝で禊をしていたところ、モールバンドの怪物がやってきて襲われそうになった。それを助けてくれたのが鷹依姫一行であったという。ヨブは二人に対して、鷹依姫が天祥山で二人を助けることができたのも、元はと言えば、高姫が鷹依姫を自転倒島から追い出したからだと諭した。高姫も自身の行いを懺悔した。マールとボールは高姫に謝罪し、同道することになった。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年08月13日(旧06月21日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年9月3日 愛善世界社版253頁 八幡書店版第5輯 557頁 修補版 校定版261頁 普及版115頁 初版 ページ備考
OBC rm2917
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本文
 高姫一行は、上波も静かに神徳著しく、漸くにしてゼム港に安着した。此地は船着きの事とて相当に人家も稠密であつた。老若男女は高姫一同の宣伝使姿を見て、物珍らしげに目送し乍ら、口々に囁き合うて居る。
甲『去年の恰度此頃だつた。婆アの宣伝使が一人と、男の宣伝使が三人、尾羽打枯らして、淋しさうな恰好で、宣伝歌とやらを唄ひ、ここを通りよつたが、今年も又廻つて来よつただないか。併し乍らあの婆アは少し若うなつてるぢやないか。一生懸命宣伝歌を唄つてると、年寄りでもヤツパリ若くなると見えるなア』
乙『馬鹿言ふな。去年通つた宣伝使は、三五教の鷹依姫と云ふ婆アだ。一人は息子で、後二人はあの婆アの従僕といふ事だつたよ。カーリン丸から中に堕ちて、婆アを始め四人の行方が不明となつて、大捜索をしたものだが、何時の間にか、大きな亀の背中に乗つて四人共ゼムの港に悠々と浮みあがり、大勢をアツと言はした婆アさまに比ぶれば、余程見劣りがするよ。大方彼奴ア、あの婆アの弟子位なものだらう。併し妙な事があるものぢやないか。丁度去年の今日ぢやつた。日と云ひ刻限迄チツとも違はずに、婆ア一人男三人の宣伝使が、此街道を通ると云ふ事は実に不思議なものだなあ』
甲『それが所謂神の因縁と云ふものだらうかい。何でも婆アのお伴をしてゐたテーとか、カーとか云ふ男の話では、可哀相に年が老つてから、自転倒島を追ひ出され、こんな所迄出て来て、艱難苦労をしてると云ふ事だ。其又追出した高姫とか云ふ奴、聞いても憎らしいよな婆アだなア。人の事でも腹が立つ。彼奴は大方其高姫と云ふ奴ぢやなからうかなア』
乙『さうかも知れぬな。何でも高姫は鷹依姫より十歳計り年が若いと聞いてゐたから、ヒヨツとして、的さまかも知れぬぞ』
と聞えよがしに、大きな声で喋つてゐる。高姫はこれを聞くより、二人の男の側に、ツカツカと進み寄り、
高姫『モシモシ今あなたの御話を耳にしますれば、三五教の鷹依姫さまとやらが、ここを御通りになつたと仰有いましたが、本当で御座いますか』
乙『本当だとも、本島には三五教の高姫の様な出鱈目を云つたり、都合が悪ければ嘘をつくと云ふ様な者は一人も御座いませぬワイ』
高姫『あゝ左様で御座いますか。有難う御座います。さうして其鷹依姫さまの一行はどちらへ行かれましたか、御存じなれば、御知らせ下さいませぬか』
乙『噂に聞けば天祥山の瀑布で、暫く荒行をし、それから山越しにチンの港へ出て、何でもアマゾン河を溯つて、モールバンドの沢山に棲ゐしてをる玉の森とかへ行つたとか云ふ話だ』
高姫『あゝ左様で御座いましたか、どうも御邪魔を致しました。……サア皆さま、参りませう』
甲『コレコレ婆アさま、一寸待つた。お前は鷹依姫を追つ放り出した、意地悪婆アの高姫ではあるまいかなア』
乙『オイそんな事を尋ねるに及ばぬぢやないか。意地くねの悪い三五教の高姫とチヤンとあの顔に印が入つてるぢやないか。お前も余程察しの悪い男だなア』
甲『お前の云ふ通りだ。いくら頭脳の悪い俺でも、一見して高姫だと云ふ事は分つてゐるワイ。……コリヤ高姫一寸待て!貴様に申渡すべき仔細があるのだ』
高姫『御察しの通り、妾は高姫に間違ありませぬ。さうして又お前は鷹依姫様の事に付いて、エロウ御詳しい様だが、一体あの方とは、如何云ふ御関係があるのですか』
甲『有るの無いのつて、鷹依姫さまは俺達の生命の親だ。あの御方が去年天祥山の滝へ来て呉れなかつた位なら、俺達二人は今頃は此世の明りを見る所か、白骨になつて居る所だ。其命の恩人を虐待して、無理難題を申し、この様な所まで追放しよつた高姫こそ生命の親の仇敵だ。サア高姫、モウ斯うなつた以上は天運の尽きだ。冥途の旅立をさしてやらう。覚悟せ』
と懐よりピカツと光る物を取出し、両方から突いてかからうとする。高姫はヒラリと体をかはした。ヨブは二人の真ん中に大手を拡げ、
ヨブ『マア待つた待つた。これには深い訳があるのだ。俺も今迄此高姫を見付け次第、生首引抜かにやおかぬと、附け狙うて居つたが、事情を聞いて、今は俺も高姫さまの御弟子となつたのだ。マア待つてくれ。お前はカーリン島のマールにボールぢやないか』
マール『さう云ふお前はヨブさまか、久し振りだつたなア』
ヨブ『チツとお前等両人、改心が出来たかなア』
 マール、ボールの二人は、
『ハイ』
と俄に態度を改め、
両人『先年は誠に済まぬ事を致しました。斯う云ふ所でお目に係るのも、ヤツパリ天罰が循つて来たのでせう』
ヨブ『イヤ過去つた事は云ふに及ばぬ。高姫さま始め二人の方が居られる前だから、俺は何にも言はぬ。其代りに是から俺が高姫さまの因縁を説いて聞かしてやるから、しつかり聞いてくれ。今迄の罪はスツカリと帳消しにしてやるから……』
マール『ハイ有難う御座います』
ボール『改心致しまして、御話を聞かして貰ひませう』
ヨブ『最前お前は鷹依姫さまを命の親だと云つたが、そりや又如う云ふ理由だ。其訳を聞かしてくれ』
マール『実の所はカーリン島では無頼漢と言はれ、悪漢と罵られ、誰一人相手になつてくれる者もなし、余り面白くないのでお前の内へ夜中に忍び込み、三百両の金をボツたくり、首尾克く逃ようとする所、お前が外から帰つて来るのと門口で出会ひ……ヤアお前はマール、ボールの両人だないか……と言はれた時の恐ろしさ。コリヤきつと島の規則にてらして、明日は両人共締め首の刑に遇はねばならぬと、小舟を盗み出し、暗に紛れて夜を日に継いで、どうやら斯うやら、ゼムの港迄風に吹きつけられ……ヤアこれで一安心だ。併し乍らどうも自分の後から追手が来さうで、恐ろしくてたまらないものだから、コリヤ天祥山の滝に打たれて、一つ修行をし、神様に罪を赦して戴かうと、それから毎晩滝にひたつて、修業をやつて居りました。そした所が、何時の間にか、モールバンドがバサリバサリと長い尾をツンと立て乍ら、赤裸で二人が滝に打たれてる前へやつて来て、尻をブリブリ振り立てて尾の先の剣にて吾々を打たうと身構して居る。此奴アたまらぬと一生懸命に天地の神様を念じて見たが、中々容易に退却する所か、益々其尾を振り動かし、今や二人の体は尻尾の剣に切られて、真二つにならむとする所、俄に宣伝歌が聞え出した。其声を聞くと共に、モールバンドの奴そろそろ尾を縮めて短くし出した。宣伝歌の声は段々と高くなつて来る。モールバンドの怪獣は尾を垂れ、首を垂れ、バサリバサリと傍の森林目蒐けて姿を隠して了つた。そこへやつて来られたのは三五教の鷹依姫様を始め、竜国別、テー、カーと云ふ宣伝使の一行であつた。あの時に若しも、鷹依姫様がそこへ来て下さらなかつたならば、吾々は最早此世の人ではないのだ。そこで俺達は鷹依姫さまを命の親と仰ぎ、直に入信してお弟子となつたのだ。テー、カーと云ふ二人の男から高姫と鷹依姫さまとの関係を残らず聞かされ、腹が立つてたまらなくなり、神様のお指図に依つて、今日はキツと高姫がゼムの港へ上陸すると云ふ事を悟つた故、私の命を助けて貰つた今日は記念日だ、命の親の敵を討つのは今日だと、刃物を用意し、研ぎすまして待つてゐたのだ。そした所神のお指図に違はず、高姫一行がここへ見えたのだから、如何しても命の親様の御恩に酬ゆる為、高姫の命をとり、仇敵を討つてお上げ申さねばならない。……どうぞヨブ様、私の目的を立てさせて下さいませ』
ヨブ『お前の命を助けてくれたのはそりや鷹依姫であらう。併し乍ら其鷹依姫を高砂島へ出て来るようにしたのは誰だと思うてゐるか。ここに御座る高姫さまぢやないか、そうすれば直接間接の違こそあれ、高姫さまがお前の命を助けてくれたも同様ぢやないか』
マール『さう聞けばさうですなア』
ボール『如何にもヨブさまの仰有る通り、高姫さまが鷹依姫さまを、無茶を云うて追出さなかつたら、こんな所へお出でになる気遣はなし、又俺達も助けて貰ふ訳にも行かなかつたのだ。さう思へば余り高姫さまを悪く思ふ訳には行かぬワイ』
ヨブ『何事もすべて神様の御心から出来て来るのだから、人間の考へで或一部分を掴まへて、善だの悪だの、敵だの味方だのと云ふのは第一間違ぢや。只何事も、人間は、神様の御意思に任すより仕方がないのだよ。高姫様に御無礼を働かうとした、其罪をお詫するがよからう』
マール『コレハコレハ高姫様、誠にエライ取違を致しまして、どうぞ憎い奴ぢやと思召さずに、神直日大直日に見直し聞直し、お赦し下さいませ。今ヨブさまの御意見によりましてスツカリ改心致しました。貴女こそ鷹依姫様にも優る私等に対しての、生命の御恩人で御座います』
ボール『高姫様、何卒御許しを願ひます。……ヨブさま、どうぞあなた様から、宜しくお執成しを御願致します』
高姫『あゝ皆さま有難う。能うそこ迄鷹依姫様に対し、お心を掛て下さいます。妾は何よりあなた方の其美はしきお心が嬉しう御座います。妾もあなたの御聞の通り随分我情我慢の強い女で御座いました。さうして鷹依姫様其外の方々に対し、実に無残な仕方を致しましたが、今日では最早スツカリと改心を致しまして、真心一つで神様の御用をさして頂いて居りますから、どうぞ今後は宜しく、御互に御世話を願ひます』
マール『有難う御座いました。是にて私もヤツと安心致しました』
ボール『高姫さま、ヨブさま、御一同様、どうぞ私の様な愚者、何卒御見捨てなく、今後の御指導を御願申します』
 常彦、春彦両人は奇妙なる因縁の寄合ひに今更の如く感じ入り、呆けたやうな顔をして、此光景をまんじりともせず眺めて居る。
(大正一一・八・一三 旧六・二一 松村真澄録)
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