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文献名1霊界物語 第31巻 海洋万里 午の巻
文献名2第2篇 紅裙隊よみ(新仮名遣い)こうくんたい
文献名3第12章 冷い親切〔878〕よみ(新仮名遣い)つめたいしんせつ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-04-05 19:09:54
あらすじユーズは国依別がやってきたことに恐れをなし、ブールの居間にかけこんで、国依別が来たことを注進し、エスを牢から出してその場を取り繕うようにと進言した。ブールはユーズの案に賛同した。ユーズは早速エスの水牢に行き、エスに呼びかけた。しかしエスは、結構な修行をさせてもらっていると意固地になって牢から出ようとしない。エスは国依別が娘のエリナを連れて洞窟までやってきたことを知っており、ユーズの呼び掛けにはまったく耳を貸さなかった。そうこうするうちに、国依別一行は、助け出したキジとマチを連れて、ブールの居間にやってきていた。ブールは態度を変えて、にこやかに一行を迎え入れる。ブールは、キジとマチにこれまでの仕打ちを責められて震えていた。そこへ、やはり青い顔をしたユーズが帰ってきた。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年08月19日(旧06月27日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年9月15日 愛善世界社版138頁 八幡書店版第6輯 92頁 修補版 校定版141頁 普及版64頁 初版 ページ備考
OBC rm3112
本文のヒット件数全 1 件/瑞の御霊=1
本文の文字数5008
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本文  ユーズは国依別、外二女の茲に現はれしと聞き、驚いてアナンを入口の方に向はしめ、何とか彼とか言つて、其間にブール教主を納得させ、エスを水牢より救ひ出し、何喰はぬ顔をして、甘く国依別の歓心を買ひ、鋭鋒をさけむと苦慮し乍ら、ブールの居間に慌ただしくかけ入り、
『モシ、教主様、タヽ大変な事が突発致しました』
『大変とは何事だ』
『ヘエ一寸申上げて能いやら、上げぬがよいやら、私には見当が付きませぬが、兎も角も申上げて見ませうかな。大変にあなたが御喜びの話と、お驚きの話とが、ごつちや苦茶になつて居りますので、実はどうも、お目出たいやら、お気の毒やらで、実は申上かねてゐます』
『構はないから早く言つて呉れ』
『あなたの数年前から御執心遊ばすヒルの都の紅井姫様が、ブール様に直接お目にかかつて、お願申したい事が御座いまして、ワザワザ御伺ひ致しました……と仰有つたかどうか、其点迄はハツキリと存じませぬが、マアマア美人と云ふものは人気のよいもので御座いますワイ』
『ナニ、ヒルの館の紅井姫が訪ねて来たとは、そりや本当か』
『本当も本当、一文生中の掛値も御座いませぬワイ。付いては喜びあれば悲しみあり……とか申しまして、あなたがお聞きになつたならば、さぞやさぞや、ブールブールと慄ひ上つて、顔の色まで青くなり、家の隅くたに、人に顔をも能う見せず、縮み上りて居らねばならぬぞよと、三五教の御神諭の様な事になるかも知れませぬ。それだから第一に国依別の遣はしたキジ、マチの両人を救ひ出し、彼奴にドツサリ酒でも呑まして口塞ぎをし、又エリナの父のエスをば、今の中に牢獄から引張出し、此奴も十分大切にして御馳走責めに会はし、何も言はない様にするのが上分別だと考へますが、どう取計らひませうかなア』
『そりや大変だ。表口はアナンが、さうして暇取らせて居る間に、早くこちらは準備をせなくてはならぬ。お前御苦労だが、エスを早く引つ張出して来て呉れ』
『これはこれは誠に以て、吾々如きはした者の進言をお聞届け下さいまして、御仁慈深き教主殿の御心、イヤもう吾々が助けて貰つたように有難く存じまする。エスも本当に気の毒なものですワイ。ウラル教の宣伝使であり乍ら、三五教の神司を泊めたとか云つて、世間狭い事を主張し、無理難題をかけて、あの様な所へ放り込みおくと云ふ無慈悲な事で、如何して御道が拡まりませうか、神様の大御心に叶ひませうか、オツト待てよ、エスを放り込みた張本人は矢張ユーズだつた。ヤア是は取消します。教主さま、もし国依別が誰がエスを放り込みたかと尋ねたらあなたは此ブールだと、部下の責任を引受けて言つて下さいや、頼みますから』
『何をグヅグヅ云つてゐるのだ。間髪を入れざる此場合、早く行かないか。ユーズの利かぬ奴だなア』
『教主様のユーズが利かないから、それで先へ御相談をして居るのぢやありませぬか。折角引つ張出して来て、私が一人悪者にせられちや、やり切れませぬからなア』
『どうでもよい、俺が引受けてやるから、早く出して来い』
『ハイ畏まりました。ウントコドツコイ、シテコイナ』
と尻ひつからげ牢獄指して、タツタツタツと暗がり道を走り行き、漸く水牢の外面に走り寄り、
『コレコレエス様、さぞさぞ御難儀で御座りましただらう。何分ここの大将がブールブール言うて怒り散らし、此ユーズが融通を利かして、幾度も救ひ出してあげたいと思ひ、骨を折りましたけれど、何と云つてもお前さまは、一生涯出す事は出来ぬと頑張つて居りましたよ。本当にひどいものですなア。併し乍ら昼も夜も私が、教主の側に附添うて千言万語を尽し、漸くあなたを救ひ出す段取りになりました。サア早く出て下さい』
と云ひ乍ら、錠をガタリと外した。エスは暗い牢の中から、
『何と言つても、吾々は此処を結構な御宮殿だと考へ、天然に湧き出る岩の水を掬つて呑み、始めは少し暗かつたが、目が馴て来て、そこらが少し明かるくなつた。滾々として流れ出づる清泉を眺め、瑞の御霊の大神様の御恵みは此通りと、私は結構な修業をさして貰つた。誰が何と云つてもここを出る事は出来ぬ。酒が呑みたいと思へば此清水は酒と変り、葡萄酒と変り、厚き神の御恵を結構に身に浴びて居るのだから、そンな殺生な事を云はず、そこを締めておいて下さい。何と云つても、吾々はここを出る事は不賛成ですワイ』
『コリヤ又妙な事を仰有りますなア。こンなせせつこましい所へ閉ぢ込められて、苦ンでゐるよりも、広い世界へ飛び出して、自由自在に、ちつと外を眺めて見たらどうですか。天は青くすみ渡り、山川は清くさやけく、田の面には黄金の波が打ち、鳥は歌ひ蝶は舞ひ、果物は稔り、花は咲き、こンな所に蟄居してるのとは比較になりませぬよ。サア早く出て貰はぬと、此館に詰らぬ事が出来るのだ。サア頼みだから、どうぞ出て下さいな、サア早う早う』
『吾々は誰が何と云つても、此処を出る事は出来ない。お前たちは狭い牢獄だと思つてゐるだらうが、神の恵を受けた俺達の目から見れば、此狭い一室も宇宙大に見えるのだから、仕方がないワ。小鳥を籠に永らく飼うておき、戸をあけて広い世界へ放り出してやつても、其鳥は又元の籠が恋しうて帰つて来るものだ。おれも斯うなつては挺子でも棒でも動きませぬぞや。汚らはしい事を言はずに早く立去るが良い』
 ユーズ心の中にて、普通では此奴は動きよらぬと考へ……エリナが此処へ来て腹痛を起してゐると云へば、何程頑固なエスでも、吾子を見たさに、出ると云ふだらう、オウそれがよい……と心にうなづき乍ら、
『実の所はお前さまの独娘、エリナさまが、ここへお迎へにお出で遊ばし、今ブールさまの御居間で腹痛を起し、お父うさまに会ひたい会ひたいと仰有るのだから、お前さまも子の可愛い味は知つてるだらう。
 白銀も黄金も玉も何かせむ 子にます宝世にあらめやも
と云ふ歌があるでせう。其大切な子が来てゐるのぢや。サアサア早く出て、エリナさまに目出たく対面してあげて下さいナ。親が子に対する愛情は、到底門外漢の伺ひ知る所ではないさうだ。
 早乙女や子の泣く方にうゑて行き
 拾はるる親は蔭から手を合せ
と云つて、子位可愛いものはないぢやないか、なあエスさま』
『アハヽヽヽ、国依別の宣伝使が御出になり、ヒルの館の紅井姫様と、吾娘のエリナの三人がやつて来て、キジ公、マチ公両人を救ひ上げ、今ブールの居間に乗込まうとする最中であらうがナ。ブールの大将橡麺棒を喰つて、甘く其場をつくらはうと思ひ、今更俺を大事相にして見せたつて駄目だよ』
『ヤア、何時の間にそれ丈何も彼も能く分る様になつたのかな。大方金毛九尾でも憑きよつたのだな。どうも怪しい。こンな所に居つて何も彼も皆知つて居るぢやないか』
『俺をどなたと心得て居るか。永らく此泉の湧き出づる牢獄内に於て御霊を清め、大悟徹底した御蔭で勿体なくも木の花姫様の御分霊を戴き、何もかも世界中の事が見えすく様になつたのだ。俺の女房もあの地震で亡くなつたであらうがな。あの様な分らぬ奴が残つて居ると、大切な神業の邪魔を致すに依つて、神界から御引上になつたのだ。決して俺は女房位には目をくれてをらぬ。又何程吾子が可愛いと云つても、神様には変へられないから、もしもエリナが親に会ひたいと思ふならば、ここ迄面会に来たがよからう。何と云つても、出ぬと申したら、金輪際、五六七の世迄も此処を出ないのだから、早くブールに向つて、さう云つておくがよからうぞ。あゝ折角気分よく眠つてゐた所を醒まされて、気が利かない。マアゆつくりと此処で一寝入りして、岩屋の中の活劇を透視する事にせうかい』
と云ひ乍ら、ゴロンと横になり、早くも蒲鉾の様に、板を背中に負うて、グウグウと鼾を掻き、寝入らむとする。落つき払つたエスの態度に、ユーズは呆れ果て、すごすごとブールの居間に帰り行く。
 国依別は二男二女を伴ひブールの居間に通れば、ブールは俄に態度を変へ、庭に下り、揉手し乍ら、
『これはこれは、国依別様其外御一同様、よくマア斯様な所へ御来訪下さいました。先達ては三倉山の谷川に於て、失礼を致しました。実にあの時のあなたの理義明白なる御言葉には感じ入りまして、私かに御高徳を慕つて居りましたが、何分にも沢山の部下の手前、其場であなた様の御弟子になる訳にも行かず、今日迄どうぞしてあの宣伝使にお目にかかり、立派な御教を聞かして頂きたいと、朝な夕なに念じて居りました。其功空しからず、今日は又何たる吉日でせう。あなた様のみならず、皆様も賑々しく御来訪下さいまして、何と御礼申してよいやら御礼の言も分りませぬ。ヤア御遠慮なくズツと御入り下さいませ、今に御酒の用意も出来ませうから』
『仮令心は反対でも、さう御叮嚀な言霊を使つて貰ふのは気分の良いものですよ。左様ならば、遠慮なく国依別も、御免を蒙りませう……サア皆さま、私と一所におあがりなさいませ』
『サアどなた様も、むさくるしい所で御座いますが、ブールの私が居間です。御遠慮なく、ズツと奥へお進み下さいませ』
『ハイ有難う』
と五人はブールの居間に半月形に坐り込んだ。ブールは恐る恐る手をつき、国依別の発言を待つて居る。
『どうも永らく、キジ、マチの両人が、深い冷たい御同情に預りまして、おかげで生命丈は取りとめました。是と云ふのも全く尊き神さまの御守り、又あなた様の残酷なる同情に依つて、おかげで両人は魂を研き、立派な人間に仕上りました。更めて国依別、御礼を申します』
『ハイ、誠に行届かぬ事で御座いました。何分災は下からと云つて、私ブールの知らない事を、下の奴等が勝手に致すもので御座いますから、エヽ、キジ、マチ両人さまにも、どんな御扱ひをして居つたか、私はちつとも存じませぬ。定めて御不自由で御座いましたらう。これも前生の因縁だと諦めて、どうぞ御立腹の点は見直し聞直し、お許しあらむ事を御願い致します』
 キジはニコニコし乍ら、
『モシ、ブールさまどうも有難う御座いました……とは申されませぬ。併し修業を致しまして、魂を研いたのは私の信仰の力で御座いますから、あなたの感知さるる所ではありませぬから、お礼は申しませぬワ。なア、マチ公さうだらう』
『さうともさうとも、余り人を虐待しておくと、後が何々ぢやからなア。一本のマチくづがあれば、大都会でも、三千世界でも焼きつくせるのだから、此マチ公だつて馬鹿にはなりませぬワイ。罷りマチがへば、どこやらの人が、ブールブールと蒟蒻のお化のやうに震ひ上る様な悲惨事が突発するかも知れませぬワイ。用心なさいませや。マチも湿つて居る間は至極安全ですが、湿つぽい陥穽から這ひあがつて来てこう燥ぎ出すと、随分険呑ですよ。アハヽヽヽ』
『御立腹は御尤もで御座いますが、どうぞ神直日大直日に見直し、聞直して下さいませ。ブールが御詫致します』
『アハヽヽヽ、コリヤ嘘だ、マチがひだ。吾々は三千世界に敵もなければ味方も持たない。只神様を親とし、世界万物を兄弟と思つてゐるのだから、決して祖神様の御心配をなさる様な兄弟喧嘩は致しませぬから、ブールさま御安心下さいませ。ここに雛さまの様にして並ンで御座るナイスは、ヒルの神館の有名な紅井姫様で御座いますよ。そしてモ一人はお前さまが水牢に入れて苦めて居るエスさまの娘エリナさまですよ』
と言尻に力をこめ、大声に思はず呶鳴つて、目を剥き睨みつける。ブールは驚いてブルブルと身を震はし、
『ハイ、左様で御座いますか、能うマア来て下さいました。お父さまも世間からは如何云つて居るか知りませぬが、十分大切にして居つて貰うて居りますから、今に茲へお出でになりませう。どうぞ御安心下さいませ』
『さうでせう、キジの私さへも陥穽に落し、エス様を真黒けの水牢の中へ大切に漬けておくのだから、呆れますワイ。吾々も同じく、陥穽の底で、大切に梨の腐つたのや、林檎の虫喰ひを、あひさに当てがはれ、随分大切にして頂きました。なアエリナさま、ブールさまに能くお礼を申上げなさいや。丸で鬼の様な蛇の様な残虐なブールさま……ではない……事はない事はない事はないのですから、そこはそれ、御礼にもいろいろ種類がありますからなア』
 斯く話す折しもユーズは真青な顔をし乍ら、のそりのそりと此場に帰り来たりける。
(大正一一・八・一九 旧六・二七 松村真澄録)
(昭和九・一二・一八 王仁校正)
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