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文献名1霊界物語 第31巻 海洋万里 午の巻
文献名2第4篇 言霊将軍よみ(新仮名遣い)ことたましょうぐん
文献名3第24章 魔違〔890〕よみ(新仮名遣い)まちがい
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-04-20 17:46:59
あらすじ秋山別は樹下に一夜を明かした。すると下の方から宣伝歌の声が聞こえてきた。見ればモリスが登ってくる。秋山別は小躍りして喜び、モリスが来るのを待っていた。しかしこれは、昨晩の怪物がモリスの姿に化けていたものであった。秋山別はモリスと思い込んで再会の喜びを表したが、モリスに化けた怪物は持っていた幣のようなものを打ち振った。すると、小さな玉のようなものが幾百ともなく落下して爆発し、中から小さな紅井姫が何百も現れて秋山別に取り付き、一斉に恨み言を浴びせながら秋山別を引き倒し、乱暴した。秋山別は苦しさに昏倒してしまった。怪物はそのさまを見てあざ笑うと、昨晩の言霊のお返しだと言ってどこかへ消えてしまった。秋山別は気がついて、あたりを見回している。そこへ宣伝歌の声が聞こえてきた。今度は本物のモリスであった。モリスは秋山別を見つけて声をかけ、無事を祝すと、自分が試練にあったことを話し始めた。しかし秋山別は先ほどモリスに化けた怪物になぶられたので、警戒して言霊を発射し続けている。秋山別があまりモリスを怪物ではないかと疑ってかかるので、モリスは刺激してはいけないとそのまま二人で山頂まで登ることとした。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年08月20日(旧06月28日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1923(大正12)年9月15日 愛善世界社版272頁 八幡書店版第6輯 143頁 修補版 校定版281頁 普及版128頁 初版 ページ備考
OBC rm3124
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本文  秋山別は此樹下に一夜を明かす折しも、遥の方より宣伝歌の声が聞え来るにぞ、秋山別は雀躍し、後ふり返り能く見れば、モリスは只一人何か手に采配様の者を握り、之を打ふり打ふり此方に向つて進み来る。秋山別は地獄で神に会ひし心地にて、雀躍しつつ待ちゐたりしが、近寄つて来るを、能く能く見ればモリスにあらで、夜前の化爺、体を少し小さくして、モリスの声色を使ひながら来れるなりけり。されど秋山別はモリスとのみ深く信じて少しも疑はず、飛びつく様に、
『ヤア、モリスどこへ往つて居つたのだい、随分待ち詫びたよ。夜前も夜前とて、此木の下に寝て居れば、それはそれは厭らしい化爺が出て来よつてナ、流石の俺も荒肝を潰したよ。併し俺の取つときの言霊を発射したのに驚き、小さくなつて逃げよつた時の愉快さと云つたら、有つたものぢやないワ、アハヽヽヽ』
 モリスに見えた男、
『そうか、ソリヤ愉快だつたネイ。イヤ気味が悪かつただらうネ。併し今日はお前の一番怖い者をドツサリ持つて来てやつたから、マア昨夜の返礼だ。ゆつくり楽むがよからうよ』
と云ひ乍ら、麻の様な物を左右左にプツプツプツと振りまはす。小さい玉の様な物が、幾百ともなく落つる途端に、何れも一時に爆発し、中から桃太郎が生れた様に、何百とも知れぬ紅井姫が現はれて、秋山別の前後左右に取りつき、
『コレコレまうし秋山別さまお前は情ない人だよ。能うマア私を見捨ててこンな所迄逃げて来やしやつたは本当に憎らしいワ』
と云つて頬辺たをピシヤツと叩き、耳を引かき、そこら中をひねりまはす。又同じ姿の女、秋山別の足にしがみつき、
『お前は本当に罪な人、私が国依別さまに、あれ丈恋して居るのに、好かぬたらしい、横恋慕をして、一も取らず二も取らずにして了つたぢやないか。エヽ恋の敵ぢや、秋山別さま!』
と云ひ乍ら、拳を一口クワツとかぶり取る。又一人の女は武者振りつき、
『エヽ残念々々、お前故に、私はシーズン河へ身を投げたのだよ。敵を討たずにおくものか!』
と髻を掴み、無性矢鱈に引まはす其痛さ。秋山別は声を限りに悲鳴をあげ、
『痛い痛い、怺へてくれ。モウ是丈女攻めに会うてはやりきれないワ。命がなくなる、どうぞ助けてくれ!』
と泣き声になつて呼ばはつて居る。数多の女は又もや武者ぶりつき、
『女にかけたら、命も何にも要らぬと云つたぢやないか。お前の心が生ンだ紅井姫、サア命を貰はう。妾の手にかかつて死ンだら得心でせう。コレ秋山別さま、黒い色男には生れて来ぬものぢやなア。ホヽヽヽヽ痛いか痛いか、チト痛いとても辛抱なされ。可愛い女につつかれたり、囓ぶりつかれたり、体一面抓られるのは、男として天下第一の光栄でせう。……コレコレ甲乙丙丁戊己の紅井姫さま、寄つて集つて此男を苛めてやらうぢやありませぬか。あゝ面白い面白い』
と云ひ乍ら何百人とも知れぬ女が、交る交る頭を叩き、髪をひつたくり、鼻を抓まみ、耳を引つかき、手足にかぢりつく其苦しさ。遂に秋山別は堪りかねて、其場に昏倒したりける。モリスに見えた男、大口あけて、
『アハヽヽヽ、偉相に昨夜は俺に言霊を発射し、苦めよつた其返報がやしぢや。此奴は何にも世の中に恐いものはないが、女が一番恐いと吐しよつたので、女で仇敵討をしてやつたのだ。モウ斯うなれば、命もあろまい。ハヽヽヽヽ、好い気味だナ。サア帰らう』
と云ふや否や、再び采配を打ふれば、数多の女は夢の如くに消え失せ、怪物も亦何時とはなしに煙の如く消えにける。秋山別はホツと息をつぎ、馬鹿面をさらして、そこらをキヨロキヨロ見まはし居たりしが、又もや宣伝歌の声聞え来たるにぞ、秋山別は再び驚き立上り、よくよく見ればモリスである。『又出よつたなア』と目を怒らし、臍下丹田に息をつめ、双手を組みモリスに向つて身構へなし居たりしが、樹下に近寄り来りしモリスは此態を見て、
『ヤア此処に居つたのかい。俺やモウ貴様が何処かへ散つて了つたのだと思ひ、心配して居たよ。マア無事で結構だつた。併し俺は途中に於て紅井姫の御化に出会ひ、大変に試めされて来たよ』
と聞くに、秋山別は、
『オツトドツコイ化物奴其手は喰はぬぞ』
と言ひ乍ら、身構をなし、両手を組み、モリスに向ひ、『ウーンウーン』と力限りに唸り立て、『一二三四』を一生懸命繰返す。モリスは何の事だか合点行かず、
『オイ秋山別、そら何だイ、いい加減に言霊をやめたら如何だい。チツとお前に話したい事があるのだから』
『吐かすな吐かすな。言霊をいい加減に止めと吐すが、之を止めて堪るかい。益々猛烈に発射志てやるぞよ』
といひ乍ら、又もや『一二三四』を繰返した。
『オイ、お前は気が違うたのぢやないか。俺が分らぬか、俺はモリスだよ』
『馬鹿にするない。又女を振り出して、俺を責ようと思つたつて、其手にや乗らないぞ。惟神霊幸倍坐世、一二三四……』
と切りに汗をたらたら流し、数歌を唱へてゐる。モリスは、
『此奴烈風にあほられて、肝をつぶし発狂してゐるのに違ひない、一つ水でも頭から、ぶつ掛けてやれば気がつくだろう』
と小声に囁き乍ら、秋山別の手をグツト握り、無理矢理に谷川の流れの傍へ引張行き、片一方の手にて、頭部面部の嫌ひなく、切りに谷水をブツ掛るを、秋山別は、
『コリヤ畜生、何をしよるのだ。沢山な女責めに会はして置いて、又水責めに会す積りか。ヨシ、俺にも了見がある。今に返報がやしをしてやるぞよ。俺の兄弟分のモリスがやがて此処へやつて来るから、待つて居れ、仇を討つてやるワ』
『オイ秋山別、確りせぬかい。俺はモリスだよ。トツクリと顔を見てくれ、モリスに間違ないのだから……』
秋山別の前に黒い顔をニユツと突出して見せるを、秋山別はモリスの顔を熟視して、
『アハヽヽヽ能く化けよつたな。丸でモリスそつくりだ。夫丈化ける技両があれば、どうだ一つ改心して、俺の弟子になる気はないか』
『今更めてそんな事を云はなくても良いぢやないか。兄弟同様にしてゐる仲だもの。お前が強つて弟子になれと云ふのなら、お前の気が付く迄なつてやらぬ事はない』
『モウ昨夜の様に、白髪の老爺には化てくれなよ。それから、あれ丈沢山に紅井姫を出されると、俺もお門が広すぎて、処置に困るからなア』
 モリスは合点の往かぬ事を言ふ奴だと思ひ乍ら……チト逆上して居るのだらう、余り逆らつては能くなからう……と心の中に思ひ乍ら、よい加減にあしらひつつ、帽子ケ岳を目当てに登り行く事とはなりける。
(大正一一・八・二〇 旧六・二八 松村真澄録)
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