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文献名1霊界物語 第41巻 舎身活躍 辰の巻
文献名2第4篇 神出鬼没よみ(新仮名遣い)しんしゅつきぼつ
文献名3第17章 宵企み〔1121〕よみ(新仮名遣い)よいだくみ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2022-12-16 13:12:40
あらすじ右守の館では、カールチンとテーナ姫がユーフテスとヤスダラ姫の行方について話し合っている。ユーフテスは、ヤスダラ姫が高照山の岩窟に逃れる手引きの一端を担いながら、カールチン夫妻には姫の行方をごまかしていた。カールチンは、ユーフテスの恋女がヤスダラ姫の妹セーリス姫であることに懸念を示した。ユーフテスは、セーリス姫は自分との恋を優先していると答えてカールチンを安心させた。そこへマンモスがやってきて、セーラン王がにわかに病気となり、二三人の男女を側において、それ以外の者の面会を謝絶していると報告した。怪しんだカールチンは、ユーフテスに城内の偵察を命じた。ユーフテスが行ってしまうと、マンモスはユーフテスへの懸念をカールチンに示した。カールチンは、念のために密かに二重調査を行うようマンモスに命じた。ユーフテスはセーリス姫の居間に行き、大黒主の軍隊が来るのが一か月ほど遅れるという情報をもたらした。セーリス姫は黄金姫と清照姫にこれからの策を相談するべく、ユーフテスと共に二人を訪ねた。セーリス姫は、ユーフテスが右守の重臣でありながら、自分と恋に落ちて協力者となっていると黄金・清照姫に紹介した。ユーフテスはあくまでカールチンの悪行を糺すためだと言い訳をした。セーリス姫は、清照姫に変装してもらい、ヤスダラ姫のふりをして右守相手に一芝居を打ったらどうかと提案した。黄金姫、清照姫もそれは面白かろうと賛成した。
主な人物 舞台 口述日1922(大正11)年11月12日(旧09月24日) 口述場所 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年6月15日 愛善世界社版239頁 八幡書店版第7輯 618頁 修補版 校定版251頁 普及版113頁 初版 ページ備考
OBC rm4117
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本文  イルナの都の右守の館にはカールチン、テーナ姫、ユーフテスの三人が、何事か首を鳩めて話し合つて居る。
カールチン『ユーフテス、テルマン国のシヤールの妻ヤスダラ姫は、まだ行方が分らないか、エーン』
ユーフテス『ハイ、未だハツキリ分りませぬ。セーリス姫をして様子を窺はしめし所、テーナ姫様がテルマン国へお出になり、毘舎のシヤールをしてヤスダラ姫様を監禁せしめられた後、十日ほどした所で暴風雨の暗夜を窺ひ、姫様に仕へてゐた僕のリーダーと云ふ男が牢獄を叩き破り、何処ともなく逃げ失せたと云ふ事です。大方姫様と其僕との間に何か深い関係があつたのではなからうかとの噂も聞きました。セーリス姫様も大変に姉の不始末を悔んで居られます。昨夜旦那様の御命令によつて照山峠の頂まで参りました処、テルマン国よりシヤールの家の者共馬に跨り、五人連にてやつて参り「ヤスダラ姫、リーダーに会はなかつたか」と尋ねました。が併し、ヒヨツとしたらセーラン王の廻し者ではないかと空惚けて取り合はなかつた所、五人の騎士は照山峠を北へ北へと下つて行きます。私はセーリス姫の意見を聞き、屹度ヤスダラ姫は、左守の司の父の館へ帰るものと存じまして、よくよく調べて見ましたが女らしいものは一人も来ませず、五人の騎士に追ひつき、共々に馬に乗つて都に帰り、騎士を一夜さ宿泊させ、心当りを捜索せよと命じ返しまして御座ります』
『折角遠国からやつて来た者を、吾に相談もなくぼつ返すとはチツと僣越ぢやないか。なぜ一目会はしてくれなかつたのか、エーン』
『それは済まない事で御座りますが、併し私は左守に知れてはならないと気をいらち、態とおつ返したので御座ります。屹度ヤスダラ姫は照山峠を越えて帰つて来るに間違は御座りませぬ。愚図々々して左守の部下等にヤスダラ姫を捕られようものなら大変で御座りますからな。左守に於てもヤスダラ姫の此方へ帰つて来ると云ふ事は略承知をしてゐるさうですから、決して油断はしてなりませぬ。又昨夜参つた五人の騎士はヤスダラ姫のスタイルをよく知つてゐる者ばかりですから、丁度都合が好いと存じまして照山峠の麓まで差出しまして御座ります』
『それは真にいい考へだつた。併し乍ら、お前の恋女セーリス姫はヤスダラ姫の妹だから滅多な事はあるまいな。ウツカリした事は云はれないぞや』
『何を仰有います。同じ姉妹でも心は黒白の違ひ、セーリス姫は決して姉の贔屓をしたり、親の贔屓をして自分の恋を犠牲にするやうな悪人では御座りませぬ。極めて私のためには大善人で御座りますから』
『大黒主神様の御命令により旦那様が刹帝利の位に上られ、セーラン王を退隠させて安楽に暮させよとの思召し、それも全く吾娘のサマリー姫が妃になつてゐる余徳によつて、セーラン王様の身が安全なのだ。サマリー姫も王様に対しては非常に恋慕してゐるやうだから、如何しても末永く添はしてやらねばなるまい。そこへヤスダラ姫が帰つて来ようものなら、又もや王の心が変りサマリー姫は恋に破れた結果どんな無分別な事をするか分らず、実に気の揉める事だよ。一事も早くヤスダラの入城を遮り、之を捉へて人の知らぬ所に監禁し、王との接近を妨げねばなりませぬぞや。ユーフテス、合点かな』
『ハイ、万事万端私の胸に御座ります。御安心なさいませ』
 かかる所へ息せき切つて駆込んだのはマンモスである。
テーナ『ヤア、そなたはマンモス、城内の様子は如何だつた』
『ハイ、王様は俄の御病気でお引籠りと云ふこと、一切面会を禁じられてゐますから、詳しい事は存じませぬ。併し夜前何でも女が二人ばかり、男が二三人大奥へ忍び込んだと云ふことを聞きました』
 テーナ姫は首をかしげて、
『はてな、王様の御病気、そして二人の女に三人の男、大方ヤスダラ姫が参つたのではあるまいかな』
カールチン『おい、ユーフテス、其方の考へは如何だ』
『ハイ、セーリス姫に聞きましたら、俄に王様が御不快なので、バラモン教の修験者を二三人ばかり、お招きになつたと云ふことで御座ります。別に大したものぢや御座りますまい』
 テーナ姫は、
『アヽ、それだと云つて警戒厳しき城下を、誰の目にもあまり触れないやうにやつて来ると云ふのが怪しいぢやないか。ユーフテス、そなたは一応城内の様子を調べて来ては呉れまいかな』
『ハイ、畏まりました。左様ならば之から一足、何知らぬ顔して登城致し、内部の様子を考へて来ませう。マンモス、其方も来て下さるまいかな』
『いや、私は少しく右守様に申上げたきことあれば、何卒御苦労ながら貴方お一人お出でを願ひます。さうして変つた事があれば、直様お知らせ下さいませ。右守様のお供をして、直様登城致しますから』
『然らば旦那様、一応様子を考へて参ります』
と云ひながら一生懸命に足を早めてイルナ城の王が館へ進み行く。
 ユーフテスの姿が隠れるのを見すまし、マンモスは声を潜めて、
『旦那様、貴方はユーフテスを何処までも御信用なさいますか。私が斯様なことを申上げますのは、何か野心があつて彼を陥穽する様に思召すかも知れませぬが、如何も此頃の彼の挙動、怪しき点が沢山御座ります。御両人様、どうお考へ遊ばしますか』
カールチン『彼に限つてそんな二心があらう筈がない。そりやマンモス、お前の僻目ではないか。人の噂や表面の活動を見て直に善悪の批評を下すものではない。ユーフテスはセーリス姫を薬籠中のものとし、左守の味方と見せかけて、所在神算鬼謀を廻らし内外の様子を隈なく探り、吾々に報告する探偵の任に当つてゐる男だから、お前の目から見れば怪しく見えるだらう。決してそんな心配は要らないよ』
『それでも貴方、どうも怪しう御座ります。決して気を許してはなりませぬ』
 テーナ姫は大口を開いて、
『ホヽヽヽヽ、気を許されぬのはユーフテスだつてマンモスだつて同じことぢやないか。尊き誠の神様を措いて、人間の中に一人だつて気を許して使へるものがあるか。皆利己主義の集団ばかりだからな』
『さう図星をさされては、返す辞も御座りませぬが、併し私は、決して敵に欸を通ずる様な悪人では御座りませぬ。併し旦那様は誠に立派なお方ですから、屹度天眼通も開けて居るでせう。よもや裏返り者を信用してお使ひ遊ばす筈もありませぬから、私も少しばかり安心して居ますが、何だかチツトばかり気にかかつてなりませぬ。第一、昨日迄ピチピチして居られたセーラン王様が急病ぢやと云つたり、或は修験者が夜中に招かれてお館へ参るなどとは、如何しても合点の行かぬ節が御座ります。ここは篤と調べなさらねばなりますまい』
カールチン『それなら其方は是から登城してユーフテスに内証で様子を調べて来てくれ』
『ヤア有難う、待つてゐました……そのお言葉を待つて居ました』
とマンモスは、いそいそとして館を立出で城内さして進み行く。
 イルナの城内セーリス姫の居間を慌しく訪うたのは例のユーフテスであつた。ユーフテスは四辺をキヨロキヨロ見廻しながら人影なきに安心の胸を撫で下し、足音を忍ばせながら姫の居間に進み入り、耳許に口を寄せて、
『姫様、御安心なさいませ。ハルナの国から大黒主の援軍が沢山に来る所で御座りましたが、近国に一騒動が起つたと云ふので軍隊の派遣が暫時遅れる事になりました。此分ならば一ケ月やそこらは大丈夫です。併しながら右守は大変に力を落して居ります。それに又ヤスダラ姫様がテルマン国を遁走遊ばしたので、やがて都へお帰りになるだらう、さうなれば大変だと非常に気を揉んでゐますが、そこも私がうまくチヨロまかして置きましたから之も御安心なさいませ。併し乍ら王様の急病と云ひ、女の修験者が入りこんだと云ふ事は何かの秘密が潜んで居るに違ひないから、一寸調べて来いとカールチンが申しましたので様子を調べると申してやつて来たのです。何と云つて返答をしたら宜しいでせうかな』
『何と面白い事になつて来ましたな。一月ばかり軍隊が攻め寄せて来るのが遅れるとならば、其間に、どんな準備も出来ます。これから一つ黄金姫様、清照姫様に御相談申上げ、何とか考へをつけませう』
と云ひながらユーフテスを伴ひ黄金姫、清照姫の居間に進み行く。
 セーリス姫は襖の外より細き声にて、
『私はセーリスで御座ります。黄金姫様、清照姫様、お邪魔に参りましたが差支は厶りませぬか』
 黄金姫は、
『いえいえ、チツとも差支は御座りませぬ。サア何卒お這入り下さいませ。今朝からお目にかからないので、如何かとお案じ申して居りました』
と座蒲団を手づから二枚敷いて、
『サアお坐りなさいませ』
とすすめる。セーリス姫は、
『御免下さいませ』
と云ひながら黄金姫と向ひ合せに座を占め、
『時に黄金姫様、面白い事になりました。大黒主の軍隊が攻めて来るのは近国に騒擾が起つたため一月ほど遅れると云ふ確報が御座りました。さうして此ユーフテスは右守の股肱の重臣で厶りますが、妾と割りなき恋に落ち、其為め今は妾の申す事ならば、どんな事でも聞いて下さる善人で御座りますから御安心下さいませ。何をお話し下さつても大丈夫ですから』
黄金『オホヽヽヽ、セーリス姫様、随分貴女もお転婆ですな。やあ、ユーフテス様とやら、天下一の色男さま、オホヽヽヽ、此黄金姫も感心致しました』
とポンと背中を二つ三つ叩いた。ユーフテスは得意になり鼻をピコつかせながら、
『ハイ、カールチンは私の主人では厶いますれど、神様のお道に反した悪ばかりを企む奴で厶りますから、已むを得ず誠の方について居るので厶ります。別にセーリス姫様の容色に心魂を蘯かして主人に背き反対をする様な野呂馬では厶りませぬ。只正義のため至誠をささげて活動を続けて居るので厶ります』
とうまく心の生地を隠さうとつとめてゐる。
『城内一般に姉のヤスダラ姫が逃げ帰つて、城内に潜んで居るとの噂が立ちましたので、右守のカールチン夫婦が気を揉み、サマリー姫の迷惑になると云つて非常に騒いで居ります。又ヤスダラ姫が帰つて来たならば、屹度王様に智慧をつけて左守と共に何をするか知れない。さうすれば折角の企みも水泡に帰すると云つて騒いでゐるさうですから、一つ清照姫様にお世話になつて、姉のヤスダラ姫と化けて貰つては如何でせう。うまいお芝居が出来るでせう。軍隊が攻めて来るには一ケ月も間があるのですから、右守をうまく引き寄せて膏をとり、誠の道へ改心をさせたら面白からうと存じまして、実は御相談に参りました』
『オホヽヽヽヽ随分貴女も悪戯が好きですな。こんな上下騒がしい時に、そんな気楽な事をよく思ひついたものですな。いや感心々々、綽々として余裕の存する其態度、それでなくては大事は遂げられますまい。清照姫、お前暫くヤスダラ姫様に早変りして見たら如何だらうな』
『ホヽヽヽヽ、至極妙案ですな。妾はなりませう。一つ辣腕を揮うて右守の肝玉を抜いてやりませう』
『早速の御承知、有難う厶います。これこれユーフテスさま、早く右守の館へ帰つてヤスダラ姫様がお帰りだと報告して下さい。面白い事が出来ますから』
『それでもヤスダラ姫様は長面、清照姫様は少し円顔ぢや厶いませぬか。右守に贋ものだと看破される様な事は厶りますまいかな』
『何御心配は要りますものか。女は化物と申しまして作り次第で如何にも化けられますよ。これから一つ化粧でもして化けてやりませう。明日早朝右守を連れてお出で下さいませ。妾の腕前を一つ見せて上げますから、オホヽヽヽヽ』
『面白からう』
と黄金姫はうなづく。セーリス姫は得意気に、
『オホヽヽヽヽ』
と笑ふ。ユーフテスは、
『エヘヽヽヽ、此奴あ、チツトばかり面白くなつておいでたわい』
(大正一一・一一・一二 旧九・二四 北村隆光録)
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