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文献名1霊界物語 第49巻 真善美愛 子の巻
文献名2第4篇 鷹魅糞倒よみ(新仮名遣い)ようみふんとう
文献名3第16章 魔法使〔1290〕よみ(新仮名遣い)まほうつかい
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2023-06-30 11:27:45
あらすじ高姫は、お寅、魔我彦、ヨルがイソ館に向かって出立してしまったので、これはたいへんだと心も心ならず、守護神のふがいなさを嘆き、イル、イク、サール、ハル、テルらに悪態をついている。イル、イク、サールは高姫の暴言に反抗して、世界を自在にする義理天上日の出神がなんとかすればいいではないかと揶揄した。高姫は怒ってイクを締め上げる。サールはみかねて高姫の足をさらえて転ばせた。高姫は怒って金切り声を出してわめきたてる。そこへ杢助がやってきて高姫をなだめた。高姫はイク、イル、サールを放逐すると宣言し、ハルとテルを代わりに取り立てた。高姫はハルとテルに、早速お寅、魔我彦、ヨルの三人を引き戻してくるようにと命じた。ハルは、自分にはバラモン教で習い覚えた引っ掛け戻しの魔法があると言って高姫を煙にまいてしまった。ハルは、放逐されたイク、イル、サールに蓑笠をつけさせて旅の装いをさせ、酒を飲ませて道に待機させた。そして太鼓の合図がなったら、お寅・魔我彦・ヨルのふりをして坂を下って戻ってくるようにと言い含めた。ハルとテルは魔法の準備ができたと高姫を呼んできた。そして、魔法を使うためには沢山の魔神の眷属に酒を飲ませる必要があるといってグイグイ飲み始めた。ハルとテルは眷属の声色を使って高姫をしばらくからかった後、文言を唱えて太鼓をたたいた。するとお寅に扮したイルが、受付の前を取って坂の下に戻って行ってしまった。そして順番に魔我彦とヨルに扮したイルとサールを合図で呼び戻した。ハルは魔法の術式だと言って、自分の股ぐらへ突っ込んだ鞭を高姫の鼻に当ててにおいをかがせた。そして鞭で鼻をついたため、高姫は倒れて目まいを起こしてしまった。ハルとテルはまんまと魔法で三人を引き戻したと高姫に思い込ませた。高姫は二人の魔法に感心し、酒と御馳走をふるまうと、安心して杢助との居間に戻って行った。杢助は高姫からハルとテルが魔法で三人を引き戻したと聞くと、感心しながらも、ただ引き戻しただけでは、遠回りをして結局イソ館に行ってしまうと指摘した。それを聞いて不安になった高姫に、杢助は今度は自分が魔法を使って三人をここへ呼び寄せてやると言った。杢助は、高姫を木魚の代わりに長煙管でうち、呪文を唱えた。高姫はまたのぼせてあたりが回りだした。するとお寅の姿が目の前に現れた。杢助は今度は、魔我彦とヨルを引き戻す魔法だと言って高姫に目をつぶらせて、火鉢の灰を口に突っ込んだ。高姫が杢助の合図で目を開くと、魔我彦とヨルが目の前に座っている。高姫は説教を始めるが、魔我彦は地獄の灰を口にねじ込んであげたと高姫を愚弄した。高姫が怒って怒鳴りつけると、お寅・魔我彦・ヨルの三人は怪獣となって高姫に唸りだした。高姫はアッと叫んでその場に正気を失ってしまった。怪獣は玄関口めがけて飛び出した。ハルとテルは頭をかかえて縮こまり、怪獣が帰り去るのを待っていた。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年01月19日(旧12月3日) 口述場所 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1924(大正13)年11月5日 愛善世界社版233頁 八幡書店版第9輯 117頁 修補版 校定版239頁 普及版106頁 初版 ページ備考
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本文のヒット件数全 3 件/三五=3
本文の文字数10738
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本文  高姫はお寅、魔我彦、ヨルの三人が数千言を尽しての、高姫の勧告を一蹴して、強行的に出立したので、コリヤ大変だと、心も心ならず、吾れと吾手に胸をかきむしり乍ら、
高姫『エーエ、義理天上さまも、何をして厶る、こんな時にこそ、なぜ不動の金縛りをかけてとめて下さらぬのだい。コレコレ、イル、イク、サール、ハル、テル、何をしてゐるのだ、なぜ早く後を追つかけて行かぬのかいな。エーエもどかしい、荒男が五人も居つて、これ程気の揉めるのに、なぜ捉まへて来ぬのだい。日出神の命令を聞きなさらぬか』
イル『高姫さま、それより義理天上さまに直接にお聞になつたら何うです、貴女は何時も三千世界を自由に致すと仰有つたぢやありませぬか。それ丈神力のある義理天上の生宮が、引戻せぬといふ事がありますか、かふいふ時にこそ貴女の御神力を見せて頂かねば、吾々は心の底から心服するこた出来ませぬワ』
高姫『コレ、イルや、お前は何といふ分らぬ事をいふのだい。日出神様といへば天の大神様だ、大取締りをして厶るのだよ。つまりいへば総理大臣のやうなものだ、人間を捉へに行くのはポリスの役だぞえ、大臣の位地に在る神様がポリスの役をなさるといふやうな、そんな、道に外れた事がどこにあるものか。それだからお前等五人が、ポリスやスパイになつて、掴まへて来いといふのだよ』
イル『貴女の神様が総理大臣ならば、吾々は知事位なものです。知事がスパイやポリスの役は出来ませぬからな』
高姫『エーエ、気の利かぬ男だな。神様は変幻出没自由自在なるべきものだ。大にしては宇宙一切を統轄し、小にしては微塵の内にも隠れ玉ふが神様の働きだよ。そんな事が出来ぬやうな事で、何うして祠の森の御用が出来ますか』
イル『それ程大神様は大小いろいろに変幻出没なさるのなら、ポリスやスパイになつて掴まへに行つたつて可いぢやありませぬか』
高姫『それは日出神の生宮、一人の時の働きだよ。かうして五人も荒男があるのに、私許りに苦労をかけようといふ、お前は不了見な人だ。そんな事で神さまの道と云へますか。何もかも日出神が一人でするならば、お前達の様な分らずやを五人も置いとく筈がないぢやないか』
イク『コレ高姫さま、お前達のやうな分らずやをおいとくと仰有つたが、ヘン、すみませぬが、私はお前さまに命令を受けてるのぢやありませぬぞや。お前さまこそ勝手に居候に来たのぢやないか、それ程ゴテゴテ云ふのなら帰んで貰ひませう』
 高姫はクワツと怒り、目をつり上げて、矢庭にイクの胸倉をグツと取り、
『コリヤ、イク、女と思ひ侮つての雑言無礼、用捨は致さぬぞや。勿体なくも義理天上日出神の生宮、三五教の立派な立派な宣伝使、生田の森の神司、琉の玉の守護神、夫れさへあるに、三五教の三羽烏、イソ館の総務時置師の神杢助が妻、マ一度無礼な事を言ふなら、言つてみやれ、腮も何も捻ぢ切つて了ふぞや』
と力に任せて、頬をグツとねぢる。イクは、
『アイタヽヽヽ、カヽ堪忍々々』
高姫『余り貴様は頬桁がいいから、此頬桁も下駄の歯も一本もない所迄抜いてやるのだ』
と益々抓る。サールは見るに見かねて、高姫の後から、両足をグツと攫へた、拍子に高姫は筋斗うつて玄関へ飛出し、饅頭迄天覧に供して、慌ただしく起上り、
高姫『サ、イクを此処へ出せ、高姫の足をさらへた奴は何奴ぢや』
と金切声を出して喚き立てる。そこへ飛んで来たのは杢助であつた。
高姫『ヤ、お前はこちの人、女房がこんな目に会ふてるのに、何して厶つたのだえ』
杢助『つい、そこら中を散歩してをつたのだ。何だか義理天上さまの声カ……ギ……リ天上の喚声が聞えたので、スワ一大事と、慌てて来て見れば、何の事はない、斯様な男を掴まへての、ホテテンゴ、イヤハヤ呆れて物が言はれぬ哩、ワツハヽヽヽヽ』
高姫『コレ、こちの人、女房がこんな目に会ふてゐるのに、お前は何ともないのかえ』
杢助『イヤ、何ともない事はない。併し乍ら元を糺せばお前が悪いのだ、イクの頬辺を女だてら、一生懸命に抓つただないか。そんな事をするに仍つて、自然の成行として、サールが足をさらへたのだ。実の所は椿の木の下から様子を見て居つた。これは公平な判断から見れば、どちらが悪いとも言へぬ。高姫、お前もチツと上気してゐるから、気の落着く迄、杢助と一所に奥へ行つて、酒でも呑んだら何うだい』
高姫『お前は一体何処へ行つてゐらしたの。お寅といふ婆アや、魔我彦、それに受付のヨル迄が、義理天上の言葉に反対して、無理無体にイソの館へ参拝しよつたのですよ。お前さまが居つてさへくれたら、食ひ止めるのだつたに、あゝあ残念な事をしたわいな。お前さまと私と此処に腰を卸し、イソの館へ行く奴を一人も残らず食止めて、本山をアフンとさしてやらうと思つてゐたのに、困つた事をしたものだ。五人も荒男が居つても、酒を食ふのと理窟を垂れるのが芸当で、チツとも間しやくに合やせぬワ。あゝあ人を使へば苦を使ふとは能う言ふたものだ。私は何程奥へ行つて一杯やらうと仰有つても気が気ぢやありませぬ哩ナ、コリヤ、イク、イル、サール、お前は今日限り、誰が何と云つても、放逐する、サ、何処なつと行かつしやれ。其代り、ハルを受付にして、テルを内事の取締に任命します』
ハル『エツヘヽヽヽ、これはこれは実に有難う厶ります。いつ迄もヨルが頑張つて居ると、拙者の登竜門を閉塞してゐるやうなものだ、あゝ人の禍は自分の幸ひ、有難くお受け致します。オイ、テル、貴様もイルが失敗つたお蔭で、内事の司になつたのだ。早く御礼申さぬかえ』
テル『これはこれは高姫様、特別の御恩命を蒙りまして、有難う存じます。サ、どうぞ、シツポりと奥へ這入つて、エヘヽヽヽ、一杯あがつて御機嫌を直して下さい。ハル、テル両人扣へある以上は大丈夫で厶います』
高姫『コレ、ハル、テルや、お前はバラモン教でも随分羽振を利かして居つた男と言ふぢやないか。お前には何か見所があると思ふて居つたのだ。どうだい一つ出世をさして貰つた恩返しに、三人の奴を引戻して来て下さるまいかな。まだ十丁許りより行つて居らうまいから、チツと許り急いだら追着けない事もなからうから、……』
ハル『実の所はバラモン教にて習ひ覚えた、引掛戻しの法が厶います。此ハル、テル両人が重い役に御任命下さつた御恩返しとして、今三人を引戻して見せます。これから暫く大自在天様にお祈りをかけねばなりませぬから、引戻す術が整ひましたら、お知らせ致します。どうぞ夫れ迄奥へ行つて御休息下さいませ。仮令一日が二日、十里向ふへ行つてゐましても、引掛戻の法に仍つて、三人共此処へ引寄せて御覧に入れます。それは御安心下さいませ、確にやつて見せますから……』
 高姫はニコニコし乍ら、
『オツホヽヽヽ、お前はどこともなしに気の利いた男だと思つて居つた。神様がチヤンと、それ相応のお役をあてがうて下さるのだ。これだから義理天上様の御神力は偉いといふのだ。コリヤ、イク、イル、サール、何をグヅグヅしてゐるのだい。アタ汚らはしい。トツトと帰んで下さい』
イル『それ程喧しう仰有るのなら帰にますワ。又元のバラモン教へ這入つて大活動をなし、今に祠の森を占領して、アフンとさして上げるから楽んで待つてゐるがいいワ。オイ、イク、サール、ゲンタクソの悪いサア帰なうぢやないか。序にハルとテルのドタマをかち割つて帰らうかい』
ハル『コリヤコリヤ俺の引掛戻しの法を知つてるかい。指一本でもさへやうものなら、忽ちふん伸ばして了ふぞ』
イル『ヤ、恐れ入つた。バラモン教の中でも魔術使の名人だと言ふ事は、予て聞いてゐた。ヤ、もうお前には降参だ。そんなら三人はこれから帰ります』
ハル『ゴテゴテ吐さずに直に帰つたがよからう。四の五の吐すと為にならないぞ』
イル『エツ、仕方がないなア、イク、サール、そんなら浮木の森へ逆転せうかい』
高姫『オホヽヽヽ、小気味のよい事だわい。イヒヽヽヽ』
と腮をしやくり、貧乏町の家並のやうな、脱けさがした歯をむき出し、袖の羽ばたきし乍ら杢助の居間を指して、欣々と進み入る。
 イルはハル、テル両人の前にヌツと首をつき出し、耳に口よせ、
イル『オイ両人、甘くやつたねえ。サ、これから蓑笠を出してくれんかい。丁度、お寅に魔我彦、ヨルの、俺達三人がなつて此処を通るから、其時高姫に見せてやるのだなア、ウツフヽヽヽ』
ハル『大きな声で笑ふない。サヽ、早う早う、受付の溜りに蓑笠が沢山あるから、女のなつと男のなつと、一着づつ持つて、俺が合図するから、ドーン、と太鼓が鳴つたら五分許りしてから、此坂を下つて来るのだ。それ迄あの谷の曲りで、酒でも呑んで待つとつてくれ』
と忽ち協議一決し、イク、イル、サールの三人は旅装束をなし、僅に一丁許りの上手の山の裾の曲角に姿を隠し、酒をグイグイ呑み乍ら太鼓の鳴るのを待つてゐた。
 ハルは三人に用意を命じおき、テルに受付を構はせ乍ら、高姫の居間へ足音高く進んで行つた。受付は沢山の参拝者で、中々雑踏してゐる。テルは今日は神界の都合だと云つて、全部の参拝者を八尋殿に籠るべく命令した。ハルはソツと襖を押あけ、
ハル『エヘヽヽヽ、これはこれは高姫様、お二人、お楽みの所を、御面倒致しました。殆ど準備が整ひましたから、一寸来て下さいませ』
高姫『準備が整つたら、夫れで可いぢやないか』
ハル『貴女に一つ、引掛戻しの芸当を、実地目撃して頂きたいのですから……其代り少し眷族に酒を呑まさななりませんから其積りで居つて下さいや、何と云つてもバラモン教切つての魔法使ですから、……一度私の隠し芸を御覧に入れますから……』
高姫『杢助さま、貴方も御覧になつたら何うですか』
杢助『アハヽヽヽ、それ位なこた、此杢助だつて何でもないワ。併し乍ら少し許り骨が折れるから、ハル、テルにやらしておくがよからう。俺もお前にいぢめられたので眠たいなり、チツと許り、腰が変だから、……アツハヽヽヽ』
高姫『コレ杢助さま、みつともない。ハルが聞いてるぢやありませぬか』
杢助『最早ハルが来てるのだから、鶯も鳴くだらう。お前の声も鼠のやうにもあり、鶯のやうにもあるからな、アハヽヽヽ』
高姫『エー、千騎一騎の場合に、気楽な男だな……女房の心も知らずに……』
と呟き乍らハル公の後に従ひ、受付迄やつて来た。
テル『これはこれは日出神様、今スパイが一つ魔法を使つてお目にかけます。それに付いては沢山の眷族を使つて、三人の奴を引戻して来ねばなりませぬ。沢山の魔神を使ふには、何うしても酒を呑ましてやらねば可けませぬから、ドツサリ酒を此処へ出して下さい』
高姫『勝手にお出しなさい。御馳走が要るなら、まだ夜前の杢助様のお祝のが残つてゐるから、それを取つて来て、肴にして眷族共に呑まして下さい』
 『ヤ有難い』といひ乍ら、ハル、テルは酒肴を中におき、向ひ合ひになつて、グイグイと呑み出した、喉の中から妙な声が出て来る、丁度笛を吹くやうに聞えて来た。ハルは尖つた口を前へつき出し、
『おれは大雲山の狼だ、一杯呑ましてくれ』
と作り声し、又今度は真面目な声で、
『ウン、ヨシヨシ、ハル公の肉体へ這入つて来よつたかな、サ、一杯呑め』
と自分の口へ自分がついで、グーツと呑んだ。腹の中から、
『ウマイ ウマイ、俺は大雲山の狐だ、俺にも一杯呑ましてくれ』
ハル『ウン、よしよし、貴様も一杯呑んで、お寅婆や外二人を喰へて来るのだぞ』
腹の中『ハイ、承知致しました、酒許りでははづみませぬ、肴も一口入れて下さいな』
ハル『ウン、よしよし尤もだ、遠慮はいらぬ、御苦労にならねばならぬのだから、ドツサリ食つたがよからう』
 テルは又作り声、喉から声の出るやうな振をして、
『高姫さま、私は北山村に居つた古狐で厶います、お久しうお目にかかりませぬ、今日は御恩報じに、お寅、魔我彦、ヨルの三人を喰へてイソの館へ行かないやうに致します、どうぞ一杯よんで下さいな』
高姫『御苦労様だ、ドツサリ呑んで働いて下さいや、千騎一騎の場合だからな。お前さまも首尾よく御用が勤まつたら、又ヘグレ神社を建てて祀つて上げるぞや』
 テル公の腹の中から、
『ハイ有難う厶んす、早く一杯呑まして頂戴ね、序に甘い肴もねえ』
テル『ヨシヨシ、貴様も仕合せ者だ、俺の肉体へ宿をかりよつて、……充分活動するんだぞ、サ一杯呑ましてやらう』
と又自分が注いでグツと呑み、鯛の刺身をムシヤムシヤと頬張り、
テル『あゝあ、何ぼ口を使はれても、皆副守先生が食ふのだから、口のだるいこつちや、甘くも何ともありやせぬワ』
 テルの腹の中から『それでも喉三寸越える間は、チツとは甘からうがな』
テル『コリヤ、守護人、偉相に云ふな、喉通る間位甘かつたつて、たまるかい。チツと静にせぬかい、腹の中で騒ぎやがつて……』
 テルの腹の中より『臍下丹田で吾々の同志が集まつて、散財をして居るのだ、モツとドツサリ注入してくれないと、根つからお座が持てぬワイ』
テル『高姫さま、困つたものですな、何うしませう』
高姫『コレ、テル、余り酔はすと、又間に合はぬやうになつちや可けないから天晴御用がすんでから呑ますからと云つて下さいな。御用さへすんだらば何ぼなつと呑まして上げるから……と』
テル『コリヤ腹の中の連中、御用がすんだら幾らでも呑ましてやるから、今それ位で辛抱したら何うだ』
 テルの腹の中から『それだと云つて、まだ一杯づつも渡つてゐないぢやないか、せめて、盃についだのは邪魔臭いから、徳利グチ、一升許り注入してくれ』
テル『エ……チエツ厄介な奴だな、嫌でもない酒を呑ましやがつて……チエツ、コラ守護神、御苦労と申せ』
と云ひ乍ら、徳利の口からラツパ呑みを始めた。ハル公も肴を二膳かたしでつかみては頬張り頬張り、又一升徳利の口からテル公同様にガブガブと呑みほした。
 ハルは額をピシヤツと叩き、
ハル『ゲーエー、あゝ酔ふた酔ふた、オイ、テル、貴様も随分もう酔ふただらう、否貴様の眷族も酔ふただらう、何だか俺の守護神も腹の中でクダまいてけつかるワイ、……コリヤ高姫、昨夜は何うだい、……コレ高姫さま、あんな事いひますワ、仕方のないヤンチヤがをりますわい、併し乍らかういふヤンチヤでないと、お寅婆引戻しの芸当は出来ませぬからな』
高姫『サ早くお寅外三人を引戻して見せて下さい』
 ハルは何だか口の中で文言を称へ、座太鼓をポンポンポンと打つた。さうするとお寅婆に扮したイルが、首をプリンプリン振り、怪しい腰付をし乍ら、何物にか引張られる様な素振をして、受付の前を横切り、坂の下へトツトツトツと去て了つた。
ハル『サア、何うでげす、高姫さま、引掛戻しの魔法はズイ分エライものでげせうがな。お寅の奴、眷族に袖をくわへられて、折角河鹿峠を半分程上つたら、たうとう引ぱりよせられよつた、何うだす、エーエ』
高姫『いかにもアリヤお寅に違ひない、偉いものだな。併しお寅丈ではつまらぬぢやないかい、ヨルと魔我彦が戻つて来なくちや、一人でも向方へやつたら大変だから……』
ハル『エー、今度はテルの番です、オイ、テル公、魔我彦を引張り出すのだよ』
 テルは『ウーン、ヨシツ』と云ひ乍ら、鞭を取り、座太鼓をポンポンポンと三つ打つた。魔我彦に似た蓑笠を被つた男、金剛杖をつき、以前の如く、首や身体を前後左右に振り乍ら、又前を通り過ぎた。
テル『高姫さま、何うです、妙でせうがなア』
高姫『成程、ヤツパリ神様は水も洩らさぬ仕組をして厶るワイ、日出神様の筆先にチヤンと出てますぞよ、キチリキチリと箱さしたやうにゆくぞよと現はれてるのは此事だな。何を云つても日出神さまは偉いわい、夫れ相当の守護神をお使ひ遊ばすのだから……時にテルや、ヨルの奴、まだ後へ帰つて来ぬぢやないか』
テル『其奴ア、ハルが今やる番になつて居ります、守護神もかつために休ましてやらんなりませぬからな』
高姫『成程、サ、ハルや、頼んますぞや』
 ハルは『エヘン』と咳払し乍ら、太鼓の鞭をグツと握り、座太鼓の面を仔細ありげに暫く睨みつめ、空中を鞭で七八へんもかくやうな真似をして、鞭の先を高姫の口へ一寸当てた。
高姫『コレコレ、ハルや、何をテンゴーして厶る、早く引掛戻しをなさらぬかいな』
ハル『高姫さま、之が三べん、蛇の子と申しまして、業の終局ですから一寸六かしいのですよ、之が甘く行けばヨルが後へ戻つて来ます。此奴を失敗つたら大変ですから……日出神様が、要するに、吾々をお使ひなさつてるのです。鞭に仕掛がしてあるのですから、日出神様のお口へ一寸持つて行きまして、此次は一寸お鼻へさわるかも知れませぬ……』
高姫『ヤ、業の作法とあれば、何うも仕方ありませぬ、どうなりと御好きなやうにして下さい』
 ハルは鞭を前後左右に、静に振り、
『東方日出神様、西方夕日の大神様、南方星の大神様、北方月の大神様、北極明星、北斗七星大菩薩守り玉へ幸へ玉へ』
と鞭を、益々急速度に働かせ、自分の股倉へつつ込み、高姫の鼻へピタリと当てた。高姫は之れがバラモン教の魔法使の法だ、臭くても辛抱せなくてはヨルが帰つて来ないと思ひつめ、尻に当てた鞭の先を鼻に当てられ、顔をしかめて、待つてゐる。
高姫『コレ、ハルや、そないキツク当てると息が出来ぬぢやないか、何と臭い鞭だなア』
ハル『ソリヤ、チツと臭うごんせうとも、何せよあなた、向ふへ行く奴を引戻すといふ魔法ですもの、つまり、尻の匂ひを高い所の鼻迄持運ばなくちや、相応の道理に叶ひますまい、尻の所謂外臭を、又鼻から引込んで内臭に充さなくちや業は利きませぬからねえ、エヘヽヽヽ。サ、之から本芸に取りかかりまーす』
と鞭を放しがけに、グツと手を伸ばし、高姫の鼻をついた。高姫は鼻柱をつかれて、ウンと仰向けに倒れて了つた。
 高姫は目がクラクラとして、そこらが廻るやうになつて来た。耳のはたで無暗矢鱈に太鼓を叩き出した。高姫は益々逆上て、目がまひ、遂には家も身体も山もグレリグレリと舞ひ出した。サールはヨルに扮して通つて行く、其姿が上になり、下になりし乍らどつかに隠れて了つた。少時すると、高姫は起上り、
『あゝあ御苦労だつた、お前達は大変な魔法を覚えてるものだな。家を逆様にしたり、山を自由に動かしたり、何と偉いものだよ。ヤツパリお前は、受付丈の値打はあるわい、テルも内司の司丈の値打は十分あるわい。これからお前等二人を魔法使の大将とし、イソの館に行く奴を喰ひとめ、きかぬ奴は今のやうに山まで動かして、往生させるのだ。これから祠の森を大門神社と改名いたすぞや。サ、お前達御苦労だつた、悠くり休んで下さい。私は杢助さまに、お前達の手柄を按配よう報告しておくから……キツと御褒美が出るだらうからなア』
ハル『どうぞ、お酒をドツサリ戴くように願ひますよ』
高姫『アレ、マアあれ丈沢山呑んでおいて、まだ呑みたいのかい、余程よい樽だなア』
ハル『高姫さま、ありや皆魔法使の為に守護神が呑んだのですよ。ハルやテルが呑んだと思はれちやたまりませぬワ』
高姫『あゝさうだつたな、まア一寸待つてゐて下さい、御馳走をして上げるから……』
といそいそと奥に入る。
ハル『アハヽヽ、オイ、テル、甘くやつたぢやないか』
テル『貴様ア、ヒドいぢやないか、エヽン、自分の尻を高姫にかがしたり、鼻をついて高姫の目をまかしたり、怪しからぬことをするね』
ハル『それだつて、一番しまひに回天動地の実況を見せておかなくちや、疑の深い女だから、ああいふ具合にしたんだよ、俺の智慧は偉いものだらうがな』
テル『ウン、感心だ、併し、イル、イク、サールに一杯、改めて呑ましてやらなくちやなるまい、ソツと宿舎へ酒肴を持運び、慰労会でもやつてやらうかな』
ハル『楓さまを、酒注ぎ役として、静に宿舎で呑むやうにしておいてくれ、余り大きな声で歌つたり何かすると分るから大きな声をしない様に注意をしてくれよ』
 かく両人は相談の結果宿舎に三人を忍ばせ、楓姫の酌にてクビリクビリと小酒宴を開いてゐる。高姫は居間へ帰り、ニコニコし乍ら、
『コレ杢助さま、喜んで下さい。腐り縄にも取柄とかいひましてな、日出神の義理天上の目鏡に叶ふた、テル、ハルの両人は、バラモン教で魔法使と名を取つた丈あつて、偉い事をしましたよ。お寅婆を引戻すやら、魔我彦、ヨルまでが引つけられて惨めな様で坂を返つて行く可笑しさ、そしてまた不思議な芸当を持つてゐますよ。家をまいまいこんこをさしたり、山をグラグラ動かしたりするのですもの、義理天上日出神もあんな弟子を持つて居れば、正勝の時にや山も何も引くりかへしますワ、あゝあ有難う厶います日出神様、よい家来を御授け下さいまして、……あゝ惟神霊幸はへませ惟神霊幸はへませ』
杢助『アハヽヽヽ、其奴ア偉い事をやつたね、ウン、感心感心。併し乍ら其三人は今どこに居るのか』
高姫『サ、今頃にやモウ山口の森あたり迄逃げて行つたでせうよ』
杢助『其奴ア、何にもならぬぢやないか、イソの館へ行かうと思へば、ここ許りが道ぢやない、遠廻りをしてゆけば行けるのだから、彼奴等三人を此処へ引つけて十分に説き聞かすか、但はどうしても聞かねば、穴でも掘つて、末代上れぬ事にしておかぬ事にや、お前の謀反は成就しないだないか、賢いやうでも女だなア』
高姫『いかにもそうで厶いましたなア、何う致しませう』
杢助『それ位な事は朝飯前だ、俺が一つここへ呼んで見ようかな』
高姫『杢助さま、貴方にそんな事が出来ますかい』
杢助『アハヽヽヽ、出来えでかい、それ位な事が出来いで、今迄イソの館の総務が勤まらうかい、今此杢助が一つ文言を称へたが最後、望み通の人間をここへよせてみせう、其代り高姫、お前もチツと痛い辛抱をせなくちやならぬぞ』
高姫『お前さまの為なら、少々痛い事しましても辛抱しますワ』
杢助『ヨシヨシ一寸高ちやん、ここへお出で、お前は木魚の代りになるのだよ』
と言ひ乍ら、高姫の長煙管を取り、
『ブビヨウ、マフス、ベナ、マカ、お寅婆サンよ、杢助如来が、魔法の功徳に仍つて、此場へ来れ、早来れ』
 「クワン、グリン グリン グリン グリン」と続け打に、高姫の前頭部を五つ打つた。高姫は又もや少しく逆上たと見え、そこらがクルクル見え出して来た。パツと現はれたのは、お寅ソツクリの姿である。
高姫『ヤ、お前はお寅ぢやないか、どうだ、義理天上の神力には往生致したか』
お寅『ハイ、サツパリ往生致し……ま……せぬワイ』
高姫『アハヽヽ何と負惜みの強い婆だなア、サ、もう斯うなる上はビク共動かさぬのだ。義理天上には、ハル、テルといふ立派な魔法使がついて居りますぞや。お寅さま、もう駄目だから、スツカリ我を折つて、日出神の申すやうになさるが、おのしのお得だぞえ』
お寅『ハイ有難う厶いませぬ。何分宜しく御願ひ致しませぬ』
高姫『それ見なさい、早く改心すればいいものを、いつ迄も我を張つてゐると、此通りだぞえ、ドンあとで首尾悪うすがりて来ねばならぬぞよ……とお筆に現はれて居るぞえ』
お寅『ハイ何分宜しく御願申します。モウこれきり我は出しまする。どうぞ高姫さまの御弟子にして下さいますな』
 高姫は握拳を固め、両腕を力一杯伸し、立あがり、六方をふみ乍ら、雄健びして云ふ。
高姫『三五教に名も高き、高姫さまとは此方の事、若い時から男女と呼ばれたる、変性男子の生宮の腹をかつて、生れ出でたる剛の女、今は祠の森の杢助が妻となり、山のほでらの茅屋住ひ、先を見てゐて下されよ……と○をまくつて、大音声』
と自ら呶鳴り、芝居気取りになつて、伊猛り狂ふた、其勢の凄じさ。杢助は思はず『ワツハツハヽヽ』と吹出し、又もや高姫に向ひ、
杢助『オイ高ちやん、まだ勇む所へはいかぬ。魔我彦ヨルの両人を此処へ引付けなくちや駄目だよ』
 高姫はハツと気がつき、
『なる程杢助さま、魔我彦、ヨルは何うしたらいいでせうかな、モウ頭を叩かれるのはたまりませぬがな』
杢助『さうだらう、モウ頭を叩く必要はない。一寸お前が私の云ふ通り、目をつぶつて舌を出してくれさへすりや、それで呪禁が利くのだ、さうすりやキツと二人は此処へ引付けてみせるよ』
高姫『そんな事なら、頭を叩かれるよりもおやすいことです。サア早く呪禁をして下さい』
と云ひ乍ら、目をシツカと塞ぎ、馬鹿正直に舌をニユツと出した。杢助は火鉢の灰を掴んで、高姫の舌へ、口があかぬ程突込んだ。高姫は灰が喉に引かつたとみえて『クワツ クワツ』と咳をし あたりに灰を飛ばした。そして両眼から涙をポロポロと流してゐる。それでもまだ杢助がよいといはぬので、辛い業だと思ひ乍ら気張つてゐる。杢助は、
杢助『オイ高姫、モウ目をあけたら良いよ』
 高姫はパツと目を開けば、豈計らむや魔我彦、ヨルが自分の前にキチンと坐つてゐる。高姫は、
高姫『ヤ、魔我彦か、ヨルか』
と言はむとして、口につまつた灰に又むせ返り、クワツ クワツと、咳し乍ら、苦んでゐる。其間に杢助は金盥に水を汲んで口をそそがした。鼻も舌も灰だらけになつた高姫は、ヤツとの事で灰を洗ひおとし、口を清め、魔我彦を睨つけて、ソロソロと憎まれ口を叩き出したり。
高姫『コレ魔我彦、お前は一体どこへいつとつたのだ、エヽー。此御神徳には叶ふまいがな。それだから、日出神の申す事を聞なさいと、あれ程言ふのに、何の事だいな、大本の大橋越えてまだ先へ行方分らぬ後もどり、慢心すると其通り……と日出神の真似の筆先に出て居りませうがな』
魔我『アハヽヽヽ、実の所はお前さまにお土産を持つて来たのだよ。余り何だか食ひた相に舌を出してゐらつしやるものだから、地獄の釜の下から死人の灰を持つて来て、口にねぢ込んであげました、イヒヽヽヽ』
高姫『コレ魔我ツ、何といふ失礼な事を致すのだ。サ、もう了見ならぬ。穴でも掘つて放り込んでやりませう。コレ杢助さま、もう斯うなる上は了見なりませぬぞや、魔我とヨルと、穴でも掘つて岩でも被せて末代上れぬやうにして下さいナ』
 魔我彦の口は俄かに尖り出した。そして大きな耳が生えて来た。ヨルはと見れば、これも耳を生やし、牙を出し、キツキツキツト猿のやうに鳴き出した、お寅は獅子神楽のやうな口を開けて、体中斑の虎となり、高姫に向ひ、『ウーウー』と唸り出した。三人一度に怪獣となり、山も砕けむ許りに唸り初めた。高姫はアツと叫んで其場に正気を失つて了つた。怪獣はのそりのそりと四つ足に還元し、玄関口めがけて飛出した。ハル、テルの両人は両手で頭を抱へ、息をこらして縮こまり、怪獣の帰り去るを待つて居た。俄に山は唸り出し、岩石も飛ぶ様な風が吹いて来た。
(大正一二・一・一九 旧一一・一二・三 松村真澄録)
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