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文献名1霊界物語 第53巻 真善美愛 辰の巻
文献名2第2篇 貞烈亀鑑よみ(新仮名遣い)ていれつきかん
文献名3第15章 白熱化〔1378〕よみ(新仮名遣い)はくねつか
著者出口王仁三郎
概要
備考
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あらすじ鬼春別は、ヒルナ姫と上機嫌でくつろぎながら葡萄酒を傾けている。鬼春別は、ヒルナ姫が久米彦に秋波を送ったことを責めてからかった。ヒルナ姫は、自分が捨てられてはたまらないので、そうやって予防線を張っているのだと答えた。ヒルナ姫は、鬼春別が自分にのろけきっているのを幸い、自分が鬼春別に非常に執着しているようなふりをして、つねったりたたいたりした。そして、至善至愛のバラモン軍の将軍であれば、ビク国を破壊したり人々を苦しめるようなことはしないはずだと釘を刺し、そのような乱暴な所業は久米彦の指示だろうと吹き込んだ。そしてビク国の王や重臣たちを解放して実地を示すよう促した。そこへ久米彦とカルナ姫がやってきた。鬼春別は、ヒルナ姫の手前、久米彦をいきなり怒鳴りつけてビク国侵略の乱暴を、彼のせいにしようとした。久米彦はけげんな顔で、放火や捕囚はすべて鬼春別の命令でしたことだと答えて口論になった。ヒルナ姫は間に入り、カルナ姫は、久米彦がやってきたのは捕虜の解放についてだと話題を変えた。鬼春別は言い遅れてはならないと、自分も同意見だと言って、副官たちとともに捕虜を解放するよう久米彦に命令した。久米彦はあきれながらも満足の意を表した。ヒルナ姫とカルナ姫は、すかさず二人を仁慈あふれる将軍だと持ち上げた。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年02月13日(旧12月28日) 口述場所竜宮館 筆録者外山豊二 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年3月8日 愛善世界社版170頁 八幡書店版第9輯 566頁 修補版 校定版176頁 普及版85頁 初版 ページ備考
OBC rm5315
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本文  鬼春別将軍はヒルナ姫と共に、頗る上機嫌で喋々喃々と雲雀のやうに囀り乍ら、葡萄酒を傾け、舌鼓を打つてゐる。
鬼春別『アイヤ、ヒルナ姫殿、其方は拙者を嫌ひだと申し、非常に恥をかかし、久米彦将軍に非常な秋波を送つたぢやないか。さう秋の空の様にクレクレと心が変る女は、心を許して信用する事が出来ないぢやないか。本当に飛切り上等のお侠だね』
ヒルナ姫『そらさうですとも さうですとも、貴方の御心が御心ですもの、何時何方へ尻を向けらるるか、険難でたまりませぬから、恥をかかされない内に一寸予防線を張つて見たのですよ。妙齢のナイスがこんな処へ出て来て男に恥をかかされては、両親の名折ですからね』
鬼春別『アハハハハ、お前は中々隅にはおけない代物だ。男女の道にかけては徹底的に抜目のない姫様ぢやなア。千変万化秘術を尽して戦陣に臨む、流石の鬼春別将軍も、お前の辣腕には舌を巻いたよ。本当に偉いものだなア』
ヒルナ姫『ホホホホホ、一進一退秘術を尽すのが恋愛戦の奥義で厶いますからね』
鬼春別『何だか知らないが、お前の天稟の美貌と云ひ、その優しい声と云ひ、雨後の棠か、露を帯びた白梅の花か、咲き誇つたダリヤか、牡丹か芍薬か、形容し難いそのスタイルには、三軍を叱咤する勇将も、旗を巻き矛を逆しまにして降伏せなくちやならなくなつて来るわ、ハハハハハ』
ヒルナ姫『ようマア、ソンナ事を云つて人のわるい……若い女を揶揄遊ばすのですか。ほんに憎らしい人だわねー』
と横目を使ひ乍ら、将軍の手の甲を血の出る程抓つた。将軍は優しい手で血の出る所まで抓られ、益々相好を崩し、声の調子迄変へて、
鬼春別『オイ、ヒルナ、馬鹿にすない。これでも一人前の男だぞ』
 ヒルナ姫は、
ヒルナ姫『エー憎らしいお方、ヨウそんな事を仰有いますワイ。貴方は三千人前の立派な男さまぢやありませぬか。三千人の軍隊を引率れ、その総指揮官となつて厶るのでせう。さうすれば貴方一人の心で三千人の軍が、廻れ右、左へオイ、と三寸の舌に依つて、自由自在にゼンマイ仕掛の人形の様に動くのぢや厶いませぬか。本当に憎らしい将軍様だなア』
と云ひ乍ら、優しい手で頬辺を痺れる程三つ四つ続け打ちに打つた。
 鬼春別は惚気切つてゐるので、……ヒルナが仮令撲つても抓つてもかまはぬ、一遍でも身体に触つてくれたら、それで満足だ……と云ふ気持になつてゐる。其間の消息を見ぬいてゐるヒルナ姫は、一口云つては頬を叩き、一口云つては腕を抓り、しまひには髭をひつぱり、鼻を撮み、両手に顔をかかへて唾を吐きかけたり、玩弄物にしてゐる。鬼春別はただ、
鬼春別『エヘヘヘヘ、無茶すない。誰が見てゐるか知れないぞ。俺の面がそれ程面白いか』
なぞと、笑壺に入つてゐる。
ヒルナ姫『古今独歩珍無類奇妙奇天烈、世界に類の無い、何処ともなしに惚々する男らしい面だね。妾こんな面を百年も千年も覗いてゐたいわ』
鬼春別『エヘヘヘヘ、覗かしてやりたいのは山々なれど、苟くも身軍籍にあるもの、何時馬腹に鞭を加へ、砲煙弾雨の中を疾駆せなければならないかも知れない職掌だからのー。マア今の内に穴のあく程楽しんで見て置くがよいわ』
ヒルナ姫『オホホホホ、本当に縦から見ても横から見ても申分のない好い男だわ。丸で神さまの様な御面付、あんまり可愛くて此ふつくらとした頬辺の肉を一口食べたい様だわ』
鬼春別『エヘヘヘヘ、何程可愛うても頬辺に噛みつかれちや困るよ』
ヒルナ姫『それでも貴方、よう考へて御覧なさいませ。愛熱の極点に達した時には屹度噛ぶり付くものですよ。猫が子を生んで直様其子を嘗めてやつて居りますが、余り可愛くなつて終には皆喰つて了ひませうがなア。妾貴方の身体を頭の先から爪の先まで、スツカリ食つて見たい様な気がいたしますわ』
鬼春別『可愛がつてくれるのも程度があるからなア、鬼娘かなんぞのやうに食はれて耐るものか。さうでなくても既に既に精神的にはお前に肉体も魂もスツカリ食はれて居るぢやないか。何と猛烈な恋だなア』
ヒルナ姫『さうですとも、あの蟷螂や螽斯を御覧なさいませ。雌雄が交尾した後で、その雌は夫が可愛くなつて皆頭から食つて了ふぢやありませぬか。妾貴方が食つて見たいと云ふのは、押へ切れない情熱が燃えさかつて居るからですよ』
鬼春別『アハハハハ、エヘヘヘヘ、ここ迄女にラブされるのは男としては余り悪い気持ぢやないが、一面から考へると恐ろしい様な気分になつて来たワイ。イヒヒヒヒ』
ヒルナ姫『コレ将軍様、貴方は妾の恋愛の程度が何処迄深いか分りましただらうね』
鬼春別『ウーン、オコツクの底よりも未だ深い様だなア。到底測定は出来ないわ』
ヒルナ姫『さうでせう。妾の恋は真剣ですよ。オコツクの底は未だ愚か、竜宮のドン底迄届いてゐますよ。貴方の恋は汀の恋で、満潮の時には浅い水が漂うてゐますが、干潮になつた時には本当に殺風景な砂原の様なものですわ。本当にそんな事思うと貴方が憎らしうなつて来ました』
と云ひ乍ら、グツト鼻を捻る。鬼春別は鼻声になり、
鬼春別『コラコラ放せ放せ、そう無暗に鼻をいぢつてもらつちや、やりきれぬぢやないか。可愛がるのも好い加減にして止めて置いてくれ、有難迷惑だから。お前の猛烈なラブには鬼春別将軍も本当に三舎を避けざるを得ないわ』
ヒルナ姫『さうでせう。それ見なさい、白状なさいました。妾がうるさくなつて御逃げ遊ばす考へでせう。ソンならそれで宜しう厶います。妾をこんな辛い思ひをさせて焦すよりも、態よう貴方の軍刀で一思ひに殺して下さいませ。それが妾の無上の望みで厶います』
鬼春別『コレハ怪しからぬ。そこ迄深はまりをしちや駄目だよ。コレ、ヒルナ、お前は俺の美貌に恋着の余り、眼が眩んでゐるのぢやないか。頭脳がどうかなつて居るのぢやあるまいかなア』
ヒルナ姫『ソラさうですとも、些とは頭が変にもなりませう。摂氏の百度以上にも逆上せあがつてゐるのですもの』
鬼春別『ヤー、それも結構だが、俺もさう両方の手で頬を抱へられてゐると首も廻らないから、マア一寸一服さしてくれ、肩が凝るからなア』
ヒルナ姫『エー憎らしい此人、髯むしつて上げませうか。肩が凝るなんて、そら、さうでせう。カルナさまだつたら御気に入るのでせうけれど、妾の様な土堤南瓜の七お多福では御気には召しますまい』
と頤の髯をグツと握つてチヨイチヨイとしやくつた。
鬼春別『アイツタタタタ、マア待つてくれ、さう熱愛されては、イツカナ好色男子も往生だ。何とマア猛烈な恋慕者が出来たものだなア。ヘヘヘヘヘ』
 ヒルナ姫は鬼春別の息が臭くて堪らなかつたけれども、態と惚た様な面をして一秒時間も早く離れたいのを辛抱し、わざと鬼春別が困る所迄根比べをしてゐたのである。
鬼春別『オイ、ヒルナ姫、男が手を合して頼むからチツト許り放れて居つてくれ。斯う云つたつて決してお前を嫌ふのぢやないから、悪うは思はぬやうにして呉れ』
 ヒルナはわざと不足相な面をして、
ヒルナ姫『ハイ、お気に入りませぬからねー』
と云ひ乍ら、左の手で目と目の間を平手でグツト突いた。
鬼春別『アーアー、山の神さまのエライ御剣幕、イヤもう、恐れ入谷の鬼子母神だ。俺は又どうしてこんな女に好かれる男に生れて来たのだらう。何故モツト俺の両親は不細工に生みつけなかつただらう。今となつては却て恨めしいわ。女に嫌はれるのも余り気の好いものぢやないが、斯う好かれるのも余り有難迷惑ではない、嬉しいわ』
ヒルナ姫『ソラさうでせうとも、迷惑でせうとも、カルナさまの様な気の利いたお方だとねー、お気に召すんですけれどねー、何と云つても頓馬ですから、将軍の御気には入りますまい。さうだと云つて、何だか知らぬが妾は此人が可愛くて堪らないのだもの。何程嫌はれたつて、仮令仮情約にもせよ、結んだ仲だもの、モツト モツト耳を抓つたり、髭を引いたり、鼻を撮まして貰ひますわ』
鬼春別『オイ、ヒルナ、さう御面、御小手、御胴、御突と来られちや将軍だつて怺へ切れないわ。何程三千人の代表者だと云つても軍服を脱いで裸になれば、只の人間だからなア』
ヒルナ姫『妾今の御言葉が大変気に入つてよ。正直な告白ですわ。男は裸百貫と云ひましてね、軍服だの位階だの、爵位だのと云ふ人工的の保護色に包まれてゐる人は、本当の人間味の分らない人ですわ。貴方はこれ丈け立派な地位に身を置き乍ら、平民主義だから、本当に好きですわ。平民主義の人は些も女房にだつて又世間の人にだつて圧迫を加へたり、苦しめたりしませぬからね』
鬼春別『ウン、そらさうだ。俺は平民主義だよ。人間の作為したレツテルなんか、抑末だからね。人間は神様の御子だから、何処迄も博愛と仁義とを以て世に立たねばならぬ。殺伐な利己主義の悪行は人間の為す可き事ぢやない。俺はさう云ふ人間を見ると忽ち嘔吐を催す様な気になるのだ』
ヒルナ姫『本当に賢明な仁慈の深い将軍様ですな、妾それが大好きですよ。久米彦さまは一寸見た所では男前は貴方さまより、少し立派なやうですが、何と云つても殺伐な御方だから、妾御存じの通り思想が合ひませぬので肘鉄をかまして辱しめてやつたのですよ。貴方は仁慈の将軍様だから決してビクトリヤ王を攻めたり、城を破つたり数多の従臣を捕虜にしたり、民家を焼いたり、そんな惨酷な事はしませぬわねえ。道行く人の話を聞いても、兵隊さんの話を聞いても鬼春別将軍様は本当に聖人君子のやうな将軍様だ。それに引かへ久米彦将軍は気の荒い情知らずだから、ビクの国のビクトリヤ城を攻めたり、刹帝利様を捕虜にしたり、城内の従臣を酷い目に合すのだ。これは決して鬼春別将軍様の御心ではあるまい、久米彦将軍の軍が頑張つて、アンナ事をするのだらう。鬼春別将軍様が之を御聞きになつたならば、屹度久米彦将軍を叱りとばし、性来の御仁慈を以てビクトリヤ王を救ひ出し、其他の従臣をお助け遊ばすに違ひないと、十人が十人迄噂をしてゐましたよ。貴方の人望は本当に大変なものですから、将軍様の後姿なりと一目拝まして頂き度いと思ひ、一年前から神様に願つてゐたのですよ。本当に貴方の御心は神様見たやうですね』
 鬼春別は最愛のヒルナに斯う云はれては言葉を返す勇気もなかつた。俄に顔色を和らげて、
鬼春別『ウーン、お前の云ふ通りだ。あの久米彦と云ふ奴、獣性を帯びてるから仁慈も道徳も何も弁へてゐないのだ。併し乍ら大黒主様の御命令に依つて将軍になつたのだから、俺が何程総司令官だと云つて無暗に免職さす訳には行かず、困つたものだ。俺は一歩も外へ出ないのだから、久米彦の奴、何をして居るかわかつたものぢやない。抑も兵を動かすのは内乱を鎮定したり、又外敵を防いだりする時用ゆるもので、無名の戦を起すのは軍人として最も恥づべき所だからなア』
ヒルナ姫『承はれば承はる程、将軍様は何とした至仁、至愛、至善、至美、至真な御方で厶いませう。斯様な勇将に仮令半時なりとも可愛がられる妾は、世界第一の幸福者で厶いますわ。どうぞ将軍様、何処迄も可愛がつて下さいませねえ』
鬼春別『ウーン、お前の事なら何でも聞いてやる』
ヒルナ姫『妾それ聞いて益々貴方が好きになりますわ。将軍様の御名誉の為、久米彦の向ふを張つて一つ刹帝利以下の従臣を御救けなさつたらどうで厶いませう。さうすれば天下は翕然として将軍に信用が集まり、大黒主様以上の大将軍と仰がれます様に御成り遊ばすでせう。将軍が御出世をして下さらば女房の妾も出世をさして頂くのですからね。謂はば将軍の御出世は妾の出世、貴方の身体は妾の身体、貴方の悲みは妾の悲み、貴方の喜びは妾の喜び、密着不離の切つても切れぬ関係が結ばれてゐるのですからね。此処で一つ男を売つて下さる気はありますまいか』
鬼春別『成程、素より仁慈の某、お前が云はなくても刹帝利様に対し左様な事を致したとすれば、聞捨てにはならぬ。左様な不都合な事を致せば、一日も早く部下に命じ助けてやるであらう』
ヒルナ姫『さうなさいませ。将軍様の御名誉の為ですから、従つて妾の名誉ですからね』
 斯く話す処へ、久米彦将軍はカルナと共にほろ酔機嫌になつてやつて来た。
久米彦『これはこれは鬼春別の将軍殿、エライ御機嫌で厶るなア。拙者は一つ貴殿に御相談があつて参りましたが、拙者の申す事を、何と聞いては下さいますまいかなア』
鬼春別『何事か知らねども、其方事、上官の命令もきかず、無性矢鱈に民家を焼き、敵人を傷つけ、畏くもビクトリヤ王を辱しめ、左守右守の重臣を始め其他の役人共を縛り、或は傷つけ、乱暴狼藉を致したな。左様な命令を一体誰が下した』
 ヒルナ姫の手前わざと呶鳴りつけた。久米彦将軍は怪訝な面をして、
久米彦『将軍は狂気召されたか。但しは御酒の機嫌か、心得ぬ貴殿の御言葉、拙者は今回の戦争は一切閣下の指揮命令の通り、遺憾なく致したので厶る。民家を焼き城内に侵入したのも、刹帝利以下を捕虜と致し獄内に打ち込んだのも、皆閣下の御命令に依つて致したので、実に将軍は仁慈を弁へぬ虎狼にひとしき御性格だから、部下は大に其惨酷さを嫌忌して居ります』
とカルナ姫の手前、自分の聖人たる事を示さむと横車を頻に押してゐる。鬼春別は、
鬼春別『以の外の其方の雑言無礼、拙者に限つて左様な事を命令いたす筈がないぢやないか。一例を挙ぐれば其方は斎苑の館へ軍隊を引率れ、片彦将軍と共に神の館に攻寄せむといたし、河鹿峠に於て屁古垂れ、逃げ帰つたであらうがなア。某はランチ将軍と共に浮木の陣営に碁を囲み、殺伐な戦争に与らなかつたのを見ても、拙者が如何に仁慈の武士たる事は証明さるるであらう』
久米彦『ナント理窟は無茶で通せば通るものですなア。ヘヘヘヘヘ、余りの事で開いた口が閉りませぬわ』
 ヒルナ姫は二人の仲に割つて入り、
ヒルナ姫『仁慈深き両将軍様、どうか左様な内輪喧嘩は止して下さいませ。妾悲しう厶いますわ』
カルナ姫『ヒルナ様、久米彦将軍様は本当にお情深いお方で厶いますよ。あの刹帝利様以下の捕らはれ人を御助け申したいが、上官の御意見を伺はねばならないと云つて、今此処へお越しになつた所ですよ』
 鬼春別は云ひ遅れては一大事と気を焦ち、わざと空惚け、
鬼春別『ヤア久米彦、貴殿も其処迄改心致したか、天晴々々、然らば拙者の意見に御同意と見えるな。ヤア満足々々、サ一時も早くスパール、エミシ、シヤム、マルタの属僚に命じ、刹帝利以下を救ふ可く厳命をなさるがよからう』
久米彦『ナント、マア将軍様、貴方は霊界へ行つた夢を見たと見えますね。何は兎もあれお互に満足で厶る。然らば一時も早く其運びにかかるで厶いませう』
鬼春別『早速の承知、鬼春別満足に思ふぞや。サ早く其準備におかかりめされ』
ヒルナ姫『流石は妾の夫、鬼春別将軍様、何と見上げた御人格だなア』
カルナ姫『妾の夫、久米彦将軍様は、何故マア斯んなにお情深い武士だらう』
と云ひ乍ら、ヒルナの面を一寸覗き、『願望成就御目出度し』と目にもの言はせ乍ら、久米彦に従ひ、其室にかへつた。
 夫より久米彦は、スパール、エミシ、シヤム、マルタの属僚に命じ、ビクトリヤ王始め左守司のキユービツト、右守司のベルツ、及びハルナ、カント、エム、ヱクス、シエール、タルマン、其外一兵卒に到る迄悉く捕縄を解き放免した。而してビクトリヤ王は、無事に城内に、左守、右守を従へて立帰り、大神の祭壇の前に端坐し、涙と共に神恩を感謝した。鬼春別、久米彦両将軍は、和睦の祝宴に刹帝利より招かれて、ヒルナ姫、カルナ姫を伴ひ、意気揚々として城内に進み入り、刹帝利より手厚き饗応を受くる事となつた。
 アア今後の成行は如何に展開するであらうか。
(大正一二・二・一三 旧一一・一二・二八 於竜宮館 外山豊二録)
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