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文献名1霊界物語 第57巻 真善美愛 申の巻
文献名2第3篇 天上天下よみ(新仮名遣い)てんじょうてんか
文献名3第22章 天葬〔1472〕よみ(新仮名遣い)てんそう
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじワックスは腰を抜かして呆けたように中腰に倒れている。この町に習慣にしたがって、遺産を相続せずに主人が亡くなった場合は財産は町民のものとなり、競争的に取らせるのが掟だといって、エルがたくさんの町民を連れてきた。町民一同はめいめいの財産に自分の名札を付け終ると、ワックスの前にやってきて悔やみを上げた。町内の葬式係や比丘がやってきて段取りを始め、ワックスの意向で天葬にふすことになった。これは、遺体を細かく刻んでたくさんのハゲワシに喰わせてしまうという儀式である。比丘の先導で一同は天葬式を済ませ、ふたたびワックスの館に帰ってきていろいろの馳走を食べて暴飲暴食にうつつを抜かした。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年03月26日(旧02月10日) 口述場所皆生温泉 浜屋 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年5月24日 愛善世界社版263頁 八幡書店版第10輯 355頁 修補版 校定版274頁 普及版123頁 初版 ページ備考
OBC rm5722
本文のヒット件数全 1 件/大国彦命=1
本文の文字数3468
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本文  エルは先頭に立ちワックスの家に駆けつけた。オールスチンのコルブスはソファーの上に静かに眠つて居る。其傍にワックスは田螺のやうな目を剥き口あんぐりさせ乍ら、天井の棧を睨みつけたやうなスタイルで、手を畳につき、足を投げ出して中腰に倒れて居る。そして目玉ばかりクリクリと回転さして居た。其の嫌らしさ、到底化物とより見えなかつた。日はソロソロ暮れかかる。何ともなしに嫌らしさが四辺から襲うて来る。数多の欲惚けの連中は直ちに奥の間にドカドカと先を争うて押入り、ソファーの下を見れば一文も残つて居ない……こりや大方倉の中だらう……と鍵を探し出し倉の中に押入つて、其処辺の什器を引繰覆し、金の所在を探して居る。
 エルはワックスの前に丁寧に両手をつき、
エル『もし、ワックス様、存じもよらぬ、お父様にはお気の毒な事が出来まして、嘸御心配で厶いませう。併し乍ら斯うして置く訳にも行きませぬので、此エルは直様町内へ報告致し、此通り大勢の者を連れて参りました。何卒安心下さいませ。それに就いてお父上様が生前に貯へ置かれた金銀のお宝、町民一般に遺物の為、競争的に取らせるのが此町内の習慣で厶いますから、それは御異存厶いますまいな。当家の財産は全部オールスチンの物、其所有主が帰幽された以上は、これは公有物で厶いますから、町民の自由に任せ什器一切を持ち去る事にするでせうから、そのお考へをして居なさるが宜しからう。其代り葬式の費用は諸道具を売払つて其一部で当てませう。お前も一つ働いて財産を残して置くが宜からう。何故お前は生前財産の一部分を譲つて貰つて置かないのです。本当に智慧のない事でしたね』
 ワックスは漸く口を開き、残念さうに白眼勝の目玉から涙を垂らし乍ら、
ワックス『アーア、おい、エル、残念な事をしたワイ。一歩帰るが遅かつたので到頭財産を譲り受ける事が出来なかつた。そこへ化物が出て来やがつたので腰を抜かし身動きのならぬ処に、オークス、ビルマの奴、大トランクに金銀を詰め込みエチエチと逃げ出しよつた。まだ遠くは行くまいから誰か行つて彼奴を取ツ捉まへて分配をし、其中から三千両ばかり俺に返して呉れまいかな』
エル『ソリヤ、もう仕方が無いぢやないか。先取権があるのだからな』
ワックス『エー残念な事をした。此怨みを如何しても晴らさにやおかぬのだ』
エル『男らしくもない。そんな執着心を持つな。それよりも早く腰を上げて神館に参り親の帰幽を報告し、厚く葬る手続きをした上、御養子になつたら如何だ』
ワックス『三五教の魔法使が滅びぬ間は駄目だ。何とかして彼奴を平げる工夫はあるまいかな』
エル『あらいでかい。何も彼も俺がスツカリ呑み込んで居るのだ』
と利口らしく云つて居る。そこへ沢山の爺、婆が水鼻汁を垂らし乍らやつて来て、目を擦り手鼻汁をかみつつ、
一同(泣声)『ワーンワーンワーンワーン、オーンオーンオーンオーン、これワックスさま。確りしなされや。悲しい事ぢやないかいな。ワーンワーンワーン、オーンオーンオーン』
と義理一遍の作り泣きを始め出した。家の外にも内にも目に唾をつけて義理泣きが始まつた。此処の習慣として何程憎らしい敵が死んでも、義理泣きをせなくば町外れをされる規則がある。倉の中の財産に目をつけた連中も各自に自分の名札を記け終り、ヤツト安心してワックスの前に来り、
一同(泣声)『ワーンワーンワーンワーン オーンオーンオーンオーン ワーンワーンワーン ウーンウーンウーンウーン、ワックスさま、誠にお気の毒でござます。もう諦めなさいませ、私も諦めます。沢山な遺物を頂戴して有難涙が出ます。ワーンワーンワーンワーン オーンオーンオーンオーン』
 暫らくすると町内の葬式係がやつて来た。さうして比丘が鈴を恭しく左手に持ち右の手に数珠を巻き乍ら、コルブスの前に端坐し、怪しき経文を唱へ初めた。
比丘『チーン、チンチンチン、諸行無常、是生滅法、生滅々已、寂滅為楽、南無波羅門尊天子、大自在天子、大国彦命、帰妙頂来、霊宝加持。惟るに現世に生存する事、八十有余年、その間に於てテルモン山の神館に仕へ、家令の職となり上り、館の会計は云ふに及ばず、一切の事務を処理し、其功空しからずと雖、元来貪、瞋、痴の罪悪深きを以つて、バラモン天より賜りし一子ワックスは無頼の悪漢となり、且痴愚迷妄の徒と蔑まれ、糟糠の妻には早く別れ、淋しき浮世を送りたるは全く天命の然らしむる所、然り乍ら神は至仁至愛に在ますが故に、今回の帰幽と共に、外部的状態を除去して、八衢に於て凡ての罪悪を削除し清浄無垢の精霊となし、天国に救ひ玉ふ事必定なり。汝オールスチンの精霊、現世に執着心を残さず、速に幽冥界の法則に従つて不老不死の霊界へ旅立ちせよ。必ず迷ふ事勿れ。迷ひは地獄の種なるぞ。帰妙頂礼、南無波羅門尊天、守り玉へ恵ませ玉へ、チーン、チンチンチンチンチン』
比丘『サアサ、これでスツカリ引導を渡して置いた。皆さま土葬に致しますか、水葬にしますか、但は天葬に致すか、どちらが宜しいか。それは御勝手、定めて下さいませ』
ワックス『私は喪主だから私の望み通りにして貰ひませう。何卒天葬に願ひませう。さすれば天国へ参るでせうから』
比丘『皆様、ワックス様の意見に従ひ、これから天葬に致しますから、御苦労乍ら其用意をして下さい』
 一同は『承知致しました』と総ての準備を整へ、オールスチンのコルブスを戸板に載せて、テルモン山の墓地を指して送り行く。
 天葬と云へばコルブス(死骸)を墓地に運び石刀や丸石を以て体を細々にきざみ、骨も残らず粉にして了ひ、麦の煎粉をまぶして団子をつくり、沢山な禿鷲に喰はして了ふ儀式である。又水葬と云へばコルブスを其の儘川へ投げ込んで了ふ儀式である。数多の老若男女は石刀や石片や種々の木刀を以てコルブスを一寸刻み五分試しとなし、潔き歌を唄ひながら汗をタラタラ出して天葬の準備に着手した。禿鷲は中空に羽ばたきしながら幾百ともなく翺翔して待つてゐる。比丘は歌を歌ふ。一同は拍子をとつてコルブスを挫く。
 比丘の歌
『諸行無常、是生滅法  生滅々已、寂滅為楽は世の習ひ
 兎角此世は仮の世だ  鷲の腹へと葬られ
 翼なき身に中空を  翔りて尊き天国に
 難なく上る目出度さよ  チンチンチンチン、チンチンチン
 皆さま確り頼みます  オールスチンのコルブスは
 チツトは骨が折れるぞや  皮と骨とが沢山で
 チツトも肉がない故に  禿鷲どもの喜んで
 喰つて呉れるか知らないが  そこは、それそれ焦し麦
 粉をドツサリ塗りつけて  うまく味をば付けるのだ
 只一片も地の上に  残しちやならぬ天葬式
 禿鷲どのも骨折つて  一つも残らず喰つて呉れ
 チンチンチンチン チンチンチン  諸行無常、是生滅法
 生滅々已、寂滅為楽  仮の浮世を後にして
 執着心を脱却し  身も魂も天国に
 黄金の翼に乗つて行け  こんな芽出度い事あろか
 ワックスさまも幸福だ  土葬水葬火葬とて
 賤しき民の葬式に  比べて見れば最善の
 此法式で天国へ  救はれて行く父上は
 誠に結構な身魂ぞや  喜び祝へ皆さまよ
 チンチンチンチン チンチンチン  天国浄土で永久に
 百味の飲食与へられ  華の台に坐を占めて
 下界を遥かに見下ろしつ  テルモン山は云ふも更
 神の館を始めとし  此町内の人々の
 悩みを払ひ身の幸を  守りて誠の生神と
 ならせ玉へよ、チンチンチン  チンチンチンチン チンチンチン
 皆さま之で有難い  バラモン教の読経が
 目出度く終結致しました  さらばお先へ帰ります
 第一番の天葬式  営みなさつた事ならば
 お布施もドツサリ張り込んで  後から持つて来てお呉れ
 遺産が沢山ある故に  何程お金を使うたとて
 皆さま腹が痛むでも  頭が悩むでもない程に
 同じ風呂屋の湯の水を  汲んで隣のお客さまに
 与へてやるも同じ事  比丘を大切になさいませ
 帰依仏帰依法帰依比丘だ  此大法を謬らば
 皆さま死んで地獄道へ  忽ち堕ちると覚悟して
 お布施を惜しまず出しなされ  アア左様なれば左様なれば
 これからお先へ帰ります  チンチンチンチン チンチンチン』
と鈴を打ち乍ら二人の従者を引率れ自分の庵に帰り行く。
 一同は漸く天葬式を済ませ、再びワックスの館に帰り、種々の馳走を惜気もなく拵へて暴飲暴食にうつつを抜かした。ここに又一場の大活劇が演ぜられた。それはスマートが酒宴の最中に跳び込んで来た事である。
(大正一二・三・二六 旧二・一〇 於皆生温泉浜屋 北村隆光録)
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