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文献名1霊界物語 第57巻 真善美愛 申の巻
文献名2第3篇 天上天下よみ(新仮名遣い)てんじょうてんか
文献名3第23章 薬鑵〔1473〕よみ(新仮名遣い)やかん
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじ町人が数百人集まり、ワックスの館で飲食してメートルを上げていると、そこへいずこともなく飛んできたスマートが座敷に駆け上がり、前後左右に荒れ回った。今回は誰も傷つけられた者はなかった。ワックスは怒って槍を取るとスマートめがけて突いてかかった。エルはワックスの腕を握り、父の命日であるから殺生してはならないと戒めた。するとスマートはいつのまにか鉄瓶に化けてしまった。不思議に思って見ていると、鉄瓶が薬鑵に代わり、たちまち目・鼻・耳・手足が生えて踊り出した。薬鑵はやがてオールスチンの姿となり、薬鑵頭に湯気を立てて演説を始め出した。薬鑵の化け物は、自分はオールスチンの精霊で、犬となって我が家に帰り、鉄瓶から薬鑵に変化してようやく完成したという。薬鑵のオールスチンは、自分の罪業を告白し、ワックスは身魂が汚れているから財産はひとつも残さずに苦労させる必要があると説いた。そして自分は三五教の宣伝使の教訓によって罪から救われて霊界に行くからと町人たちに後事を託した。薬鑵のオールスチンはにわかに麗しい天人の姿となって空中を歩み、テルモン山の山奥に姿を隠した。一同は薬鑵のオールスチンの言を嘘か真実かはかりかねていた。ワックスは、自分に財産を一物も残すな、というのが親父の言であるはずがないと、三五教の魔法使いのせいにした。そして悪酔怪員をたきつけて、弔い合戦をやろうと言いだした。タンクという男が賛同して先導し、酒に酔った群衆を連れて口々に歌を歌いながら攻めて行く。オークスとビルマの両人はトランクに金銀を詰めて坂道を下って行く途中、二人一度に足をすべらせて谷川に転落してしまった。トランクは口を開けて、金銀の小玉をばらまいた。タンクは目ざとくこれをみつけると谷底に飛び下りた。タンクはトランクをひっかかえると、金銀の小玉を掴んで放り込んだ。その他の町人たちも飛び下りてきて折り重なり、宝の取り合いでひと悶着が起こった。タンクは二三千両の金を拾ってトランクにねじ込むと、谷川に沿っていずこともなく逃げて行った。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年03月26日(旧02月10日) 口述場所皆生温泉 浜屋 筆録者加藤明子 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年5月24日 愛善世界社版273頁 八幡書店版第10輯 358頁 修補版 校定版284頁 普及版128頁 初版 ページ備考
OBC rm5723
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本文  オールスチンの天葬式も無事終了し、新主人ワックスの館には町人が数百人集まり来り、家の外に蓆を敷いて坐つたり、草の上に腰をおろして握り飯を噛じつたり、醍醐味をあふつて盛んにメートルを上げてゐる。其処へ何処とも無く飛んで来た一頭の猛犬、矢場に座敷に駆け上り、前後左右に荒れ廻る。されど不思議にも誰一人創つけられたものは無かつた。ワックスは、
ワックス『それスマートの狂犬が来た。此奴が俺の肱を噛り、恋の邪魔をした畜生だ。思ひ知れ』
と立ち上り、長押の槍を取るより早くスマート目蒐けて突いてかかる。スマートは前後左右に身をかはし巧に逃げて居る。老若男女は右往左往に逃げ廻り、石を拾うて投げつけるものあり、ウウウー、ワンワンワンの犬の声と共に、阿鼻叫喚の地獄と忽ち化して仕舞つた。エルは矢場にワックスの腕を握り、
エル『これこれワックスさま、今日はお父さまの御命日なり、仮令畜生なりとて殺生をしてはなりませぬ。マアお鎮まりなされ。お父さまの天国行の邪魔なさつては不孝の上の不孝です』
ワックス『何、あの爺、俺を恨んで居たのだ。臨終の隙まで金銀を床の下に隠し、遺言もせずに死んで仕舞つた。夫故オークス、ビルマの奴に旨くしてやられ、こんな残念な事があらうかい。この犬に腕を咬まれてさへ居なかつたら、滅多に彼奴に取られるのぢやなかつたに、思へば思へば此犬が恨めしい、放つて置いて呉れ』
と無理に振り放さうとする。スマートはいつの間にか鉄瓶に化けて仕舞ひ、チンチンと湯気を立て、厚い鉄蓋を動かして唸つてゐる。
エル『ア、何だ、犬だと思へば忽ち鉄瓶に化けやがつた。これや犬鉄、貴様は何恨みがあつて当館へ乱入致したのだ。返答次第によつて容赦はせぬぞ』
と詰めかける。鉄瓶の口からは熱い湯を何斗となく吐き出す怪しさ。一同は、
『アッツツー』
と叫びつつ逃げ出し、遠目から不思議さうに見て居る。暫くすると鉄瓶は俄薬鑵に変つて仕舞つた。忽ち目が出来、鼻が出来、耳がつき、手足が生へて踊り出した。一同は夢か現か化物かと真青な顔をして見詰めて居る。薬鑵は忽ちオールスチンの姿となり、薬鑵頭に湯気を立てて、ソロソロ演説を始め出した。
薬鑵の化物『皆さま、当家の主人オールスチンの帰幽につきまして、大変な御苦労をかけました。私はオールスチンの精霊で厶います。初めに犬となつて吾家へ帰り漸く鉄瓶から薬鑵に変化し、茲に精霊完成してお暇乞ひの演説を致す事になりました。決して妖怪でも何でも厶いませぬから近よつて下さいませ』
エル『モシ薬鑵さま近よらぬ事はありませぬが熱湯を口から噴き出して、吾々一同を悩ます積りぢや厶いませぬか』
薬鑵の化物『決して左様な事は致しませぬ。私は現世に生れてから八十有余年。その間に人の秘密を探り、犬の役を勤め、たうとう此の神館の御主小国別様に見出され、家令の職にまで抜擢されました。夫より日々館の番犬を勤め、臭い物を嗅出して手柄と致して居りました。その罪障が現はれて吾精霊は犬と変化し、御存じの通りの暴虐をやつて来た罪の映象が現はれたので厶います。それから皆さまに面の皮の厚い奴だ鉄面皮だと罵られ、其名の如く一時は厚顔無恥の鉄瓶となり、皆さまに熱茶を浴びせた悪党で厶います。然し私の尻には彼の鉄瓶の如くあのやうに烈火が燃え立ち、実に苦しうて耐へられなかつたので厶います。漸く罪が取れると共に面の皮が少しく薄くなり、欲の皮は少し削られた為にあの通り薄い薬鑵となり、頭の毛迄が脱けて倅のワックスの奴に薬鑵爺と云はれて居ました。貴方方からも矢張り薬鑵々々と罵られて居りました。其言霊が凝り固まつてこんな薬鑵となり、無念の熱湯を噴いたので厶います。最早私は三五教の宣伝使の教訓によりて罪から救はれ、霊界に参りますから、どうか私の財産は此国の規則通り皆さまで分配して下さい。倅のワックスは私の悪を企んで居た時に出来た者で厶いますから、身魂が汚れて居ますから、一苦労させねばなりませぬから、私の財産は一物も与へないやう願ひます。何卒皆さま御勝手に御処分を願ひます』
と云ひ終り、俄に麗しき若き天人の姿となつて、地上七八尺の空中を歩んでテルモン山の山奥さして姿を隠した。
エル『此奴は怪しからぬ。どてらい化物が現はれたものだな。オイ皆さまあれを本当のオールスチンの精霊だと思ひますか。全く三五教の魔法使が、吾々一同を三五教に引つ張り込まうと思つてあんな事をやつたのに違ひありませぬ。屹度信じてはいけませぬ』
 群衆の中から毛だらけの顔した男がヌツと立ち上り、
男『おい、エルの大将、それや何を云ふのだ。化物があんな事理整然たる事を云ふかい。あれやきつとオールスチンの精霊に間違ひ無いわ。貴様も些と改心したがよいわ。このタンクさまの眼力で睨んだらちつとも間違ひはないわ。本物か間違ひか鑑定がつかないやうでお館の受付が出来るか、馬鹿だなア』
エル『おい、ワックスさま、お前何と思ふか、タンクの云ふ事が本当か、エルの云ふ事が本当か、一つ考へて貰ひ度いものだなア』
ワックス『子の可愛うない親は世間にない筈だ。極道の子程可愛のが親の情だ。それに親一人子一人の俺を残して置いて、財産を一つも遣つて呉れるなと云ふ奴は、テツキリ化物に定つて居るわ。是はきつと三五教の悪魔が化けて来よつたに違ひない。オイ悪酔怪の御一同、親父の弔合戦だと思つて、小国別の館へ押し寄せ、魔法使をふん縛らうではないか。さうしなければ吾々町民が枕を高うして眠む事も出来ない。況て悪酔怪の務めが勤まらぬぢやないか』
エル『それでもスマートと云ふ畜生が門に目を剥いて居やがるから駄目ぢやないか。なあタンク、お前どう思ふ』
タンク『何構うものか、酒のタンクと呼ばれたタンクさまが、酒の勢で表門に立ち向ひ、スマートの腮に両手をかけ、メリメリメリと二つに引き裂いてお目にかけよう。日頃の手練を表はすのは今此時だ。高が畜生の一匹位何でもない。貴様は腰抜だから、一匹の犬に数百人が押し寄せてウスイ目に遇つたぢやないか。こんな引合はぬ事があるか。犬に咬れた位のものだと云ふが、世間に此位引合ぬものは無からう。サアこれからタンクが先頭に立つて征伐に出かけるから、誰奴も此奴も酒の酔ひの醒めない中に跟いて来い』
と云ひ乍ら大手を振つて歩み出した。ワックス、エルの両人は後に従ひ千鳥の行列宜敷く、酒で作つた空元気を発揮しながら、口々に歌を歌つて攻めて行く。
 オークス、ビルマの両人は大トランクに金銀の小玉を詰め込み、坂道を下つて行く途端、二人一度に足を辷らせ谷川に真逆様に転落し、トランクの口は欠伸をして、金銀の小玉は谷川にキラキラと目を剥いて落ちて居る。タンクは早くも此様を見て小躍りし、
タンク『ヤア、此谷底に沢山の小玉が落ちて居る』
と云ひながら、身を躍らして谷底に飛び下りた。続いてエル、ワックス其他数十人折重なつて忽ち谷底に人の山を築いた。オークス、ビルマの両人は頭にひびを入れて苦し気に唸つて居る。二つのトランクをタンクは引抱へ、水の底に光つて居る金銀の小玉を砂ぐち掴んで放り込む欲深さ。次から次へやつて来て、茲に忽ち宝の取合が初まり一悶錯が起つた。
 タンクは手早く二三千両の金を拾ひ、一つのトランクの底に捻込み、肩に引つかけ谷川に沿うて何処ともなく逃げて行く。
(大正一二・三・二六 旧二・一〇 於皆生温泉浜屋 加藤明子録)
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