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文献名1霊界物語 第58巻 真善美愛 酉の巻
文献名2第3篇 千波万波よみ(新仮名遣い)せんぱばんぱ
文献名3第14章 猩々島〔1489〕よみ(新仮名遣い)しょうじょうじま
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじ印度の国の北端、テルモン湖水を南に渡ったイヅミの国のスマの里に、バーチルという豪農があった。バーチルは何不自由なき身の上でありながら魚を取ることが好きで、妻のサーベルの諌めも聞かず、財産の整理もせずに舟を出して網を打ち釣り糸を垂れる毎日であった。ある夜、バーチルは妻が寝静まった後に、僕のアンチーを連れて舟を出した。魚がよく釣れるのでそれに心を奪われていると、にわかに黒雲が起こって空には一点の星影も見えなくなり、激しい嵐にさらされた。バーチルは動転して、取った魚を守るためにアンチーを舟から下ろそうとするほどであったが、ようやく我に返ってアンチーと二人で舟を転覆から守るために魚を湖水に抛りこみ始めた。しかし時すでに遅く、大津波に舟は飲まれて主従は湖水に投げ出されてしまった。気が付くとバーチルは孤島に漂着し、たくさんの猩々に囲まれていた。すると一匹の大なる猩々が自分の顔を覗き込んで、同情の涙に暮れている。この大きな猩々は女王であった。猩々の女王はバーチルを棲家に連れて行って介抱した。バーチルは三年の月日をこの猩々ヶ島で過ごした。二年目には猩々とバーチルの間に赤ん坊も生まれていた。バーチルは何とか猩々の目を盗んで故郷へ帰ろうという思いから、猩々たちを連れて浜遊びに出た。たちまち二三丁ばかり沖合を通る船を認め、バーチルは両手を振って船に合図を送った。猩々ヶ島の沖合に現れたのは、玉国別たちの船・初稚丸であった。伊太彦は人間が浜辺で手を振っているのを認めた。ヤッコスは恐ろしい猩々の島に上陸することを反対したが、玉国別は人間がいるなら助けなければならないと、上陸を決めた。
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年03月29日(旧02月13日) 口述場所皆生温泉 浜屋 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年6月15日 愛善世界社版167頁 八幡書店版第10輯 430頁 修補版 校定版178頁 普及版66頁 初版 ページ備考
OBC rm5814
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本文  印度の国の北端、テルモンの湖水を南に渡つたイヅミの国のスマの里にバーチルと云ふ豪農があつた。バーチルは何不自由なき身であり乍ら、暇ある毎に湖水に船を浮べ、魚を漁る事を唯一の楽みとして居た。妻のサーベルは何時も『危険な漁業を止めて家におとなしく居つて財産の整理をせよ』と諫言したが、どうしても聞かうとはせず、女房の寝静まつたのを考へ浜辺に出で例の如く網をうち釣を垂れ、あまり面白いので何時とはなしに沖へ沖へと流れ出で、到底一日で帰る事の出来ない地点迄行つて了つた。舟を出した夜は明け放れ、その日も亦ズツポリ暮れて、日の移るを忘れて一生懸命に一人の僕と共によく釣れるのに心を奪られて居た。
 満天俄に黒雲起り、一点の星影さへも見えなくなり、雨風烈しく波高く沢山な魚を舟に積んで居ては到底危険を免れ難くなつて来た。されど折角骨を折つて釣つた魚をムザムザ湖中へ投げて了ふのは、どうも惜しくて堪らない、だと云つて少しは重みを軽くせなくては到底舟の覆没は免れなくなつて来た。僕のアンチーは慄ひ戦き、泣声を出して、
アンチー『旦那様、どう致しませう。到底此暗がりに大暴風と来ては助かりこはありますまい。貴方が折角お釣りになつた此魚を一つも残らず湖に投じて了ひませう。さうすれば舟が軽くなり、どうなり、こうなり何ツ処の島に着いて命を保つ事が出来ませう。何卒一匹も残らず棄てさして下さいませぬか』
と泣声になつて歎願した。バーチルは僕の言葉に腹を立て、声を尖らして、
バーチル『こりやアンチー、俺がこれ丈け危険を犯して折角釣つた魚を皆流せとは、何と云ふ失礼な事を云ふ。魚が重たくて舟が覆る虞があると云ふのなら、貴様のやうな重量の多い、柄見倒しが湖へ飛び込めば此舟は余程軽くなつて魚が助かるのだ』
と半狂の男とて魚にかけたら目も鼻もない。僕に対して実に無慈悲極まる叱言を云つた。
アンチー『旦那さま、私は幼い時から貴方の邸に養はれた僕ですから、貴方のお命に係はる様の事あれば、お身代りとなる事は覚悟の前で厶います。然し何程僕と云つても、矢張り人間で厶います。魚は幾何でも獲れませうが、此アンチーの体は世界に一つほか有りませぬから、そんな無慈悲な事を仰有らずに早く此魚を棄てさせて下さいませ』
バーチル『その方は主人の危難を救ふと今申しただらう。主人が大切に丹精を凝らして獲つた此魚を助けて、何故其方は重量を減ずるために湖に飛び込まないのか。そんな事で僕の務めが勤まるのか。訳の分らぬ代物だな』
アンチー『旦那様、死んだ魚よりも私の命の方が余程安いので厶いますか。そりや余り没義道ぢや厶いませぬか』
バーチル『馬鹿申せ。魚は宅へ持つて帰れば自分も楽しみ村中の奴にも刺身にしたり、煮〆にしても、焼いて食はさうと儘だ。何程肥太つて居ても貴様の体が刺身にもなるかい。誰だつて一人でも喜んで戴くものはない。俺に忠義を尽さうと思ふなら早く貴様の方から飛び込まぬか。グヅグヅして居ると舟が転覆して了ふぢやないか。貴様一人の命を亡くするか、二人の命を亡くするかと云ふ瀬戸際だ。さア早く気を利かして飛び込め』
アンチー『これは又怪しからぬ事を仰有います。貴方はどうかして居りますな。俄に仰有る事がへんになつたぢやありませぬか』
 バーチルは暫らく俯向いて考へて居たが俄に、驚いた様な声で、
バーチル『やア如何にもさうだ。余り吃驚して魚と人間の軽重を誤つて居つた。やア堪へて呉れ、せうもない事を云つたものだ。余り魚に気をとられ頭に気を揉んだものか、妙な幻覚を起したものだ。さアお前の云ふ通りにする。さアさア魚を放つた放つた』
と、ここに主従は一生懸命に折角釣つた魚を掴んでは海中に投げ、掴んでは投げして、漸く半分許り放し出したと思ふ時分に、虎の咆ゆるが如き音をして襲ふて来た大海嘯にバツサリと呑まれて、舟諸共波に捲き込まれて了つた。二人は暗夜の荒湖に落ち込み、最早や如何ともする事が出来ないので運を天に任して居た。
 イヅミの国のスマの里  首陀の豪農バーチルは
 妻の諫めも聞かばこそ  気色の悪い夜の海
 こんな時には何時よりも  獲物が多いと云ひ乍ら
 僕アンチー伴ひて  スマの浦より舟を出し
 何時もにもなき豊漁に  うつつを抜かし知らぬ間に
 沖合遠く流れ出で  一夜を明かし晨より
 又もや黄昏過ぐる迄  一心不乱に漁りし
 夜中の頃となりし時  一天俄に掻き曇り
 黒白も分かぬ暗となり  忽ち襲ふ暴風雨
 波は高まり白波の  鬣震ひ釣舟に
 噛みつき来る恐ろしさ  虎咆え猛り竜吟じ
 獅子の猛びの物凄く  風と波との唸り声
 撓まず屈せずバサバサと  網打下ろし様々の
 大きな魚を漁りつつ  現になれる折もあれ
 漁船を木の葉の散る如く  上下左右に翻弄し
 身辺危くなりければ  ここに主従二人連れ
 種々雑多と争ひつ  折角捕らへし魚族をば
 スツカリ海に投げやりて  せめて命を拾はむと
 あせる折しも山岳の  様なる波に船体は
 忽ち呑まれて無残にも  水の藻屑となりにけり
 僕男のアンチーは  行衛不明となり果てて
 呼べど帰らぬ死出の旅  聞くも憐れな次第なり
 大海中に衝つ立てる  人の恐れて寄りつかぬ
 猩々ケ島の磯端に  打上げられしバーチルが
 波に体を翻弄され  息絶え絶えになりし時
 猩々の王が現はれて  手早く陸へ救ひ上げ
 真水を口に啣ませて  漸く命を救ひける
 実に面白き物語  畳の波に浮びたる
 長方形の舟に乗り  敷島煙草を燻らせて
 ここ迄述べて北村の  隆光彦の筆の先
 写して千代に伝へむと  万年筆の剣尖を
 原稿用紙につきつけて  あらあらここに記し置く
 ああ惟神々々  御霊幸はひましませよ。
 バーチルはフツと気がつけば夜は已に明け放れ、自分は名も知らぬ孤島の磯端に横臥し、沢山の猩々が集まり来つて『キヤーキヤー』と鳴き立て乍ら自分の周囲を蟻の如く取巻いて居る。傍に優れて大なる一匹の猩々が自分の顔を見てさも同情に堪へざるものの如く首を傾け涙を流して居る。よくよく見れば噂に聞いた猩々の島である。
バーチル『ああ私は恐ろしい斯んな島へ漂着したのか。あまり自我心が強い為に女房の諫めも聞かず隠れて漁に出たのが一生の不覚だつた。さうして僕のアンチーは如何なつたであらう。ああ恐ろしい事になつた。帰らうと思つても舟はなし、猩々の餌になつて了ふのか』
と恐怖心に駆られて怖れ戦いて居た。
 意外にも猩々の王とも覚しき大猿は親切さうにバーチルに背を向け、『吾背に負はれよ』との意を形容に示して居る。バーチルは『もう斯うなつては因果腰を定めるより仕方がない。彼等の為すがままに任さむ』かと猩々の背に怖々乍ら抱きついた。猩々は背に負ふたまま、きつい岩山をいと安々と登り、頂上の屏風を立てた様な岩に穿いてある深い洞穴の中へ、サツサと連れ込んで了つた。バーチルは岩窟の中に導かれ、胸を轟かして居ると、珍らしき果物を小猿にむしらせ来つて皮を剥き等して、之を喰へよと勧めるのである。意外の猩々の態度に、ヤツと胸を撫で下ろし、体が疲れて縄の様にグニヤグニヤになつて居るのを、暫し休養せむとゴロリと横になつた。猩々は木の葉の半乾いたのを厚く敷いて、バーチルを抱へ自分が手枕をして母親が赤ン坊の添乳をする様に、いと親切に体中を撫で擦り、介抱に熱中して居る。かくの如くしてバーチルは三年の月日を此猩々ケ島に送る事となつた。此猩々は牝であつて此島の動物の王である。猩々の外に鹿や兎が棲んで居た。されど兎も鹿も時々猩々王の側にやつて来て睦まじげに遊んで居る。
 二年目に猩々とバーチルの間に半人半獣の妙な赤ン坊が生れた。猩々の王は掌中の玉と慈み、バーチルに自慢さうに抱かせたり、自分が顔を嘗めたり乳を飲まして其子の成人を待つものの如くであつた。バーチルも国へ帰らうと思つても肝腎の舟はなし、又猩々王の目を忍んで帰る訳にも行かなかつた。バーチルは三年の間猩々と同棲し、大抵表情を以て意志を通ずる事が出来る様になつて来た。何となく浜辺へ出たくなつて堪らないので猩々王に身振を以て浜辺に遊びに行かうかと云つた。猩々王も嬉しげに頷いて子を抱き乍ら数多の小猿を従へ、バーチルの身辺を守り乍ら、嶮峻な岩山を下つて磯端に出て蟹を追ひかけたり、砂を掘つたり、色々の慰みをして嬉しさうに夏の磯辺遊びをやつて居た。
 忽ち二三丁ばかり沖合を白帆を上げて通る船がある。此附近は容易に船の通る事の出来ない、暗礁点綴の危険区域である。バーチルは此舟を見るより両手を打振り打振り、人間が此島に漂着して居ると云ふ合図を示した。船頭のイールはフツと此姿を見て驚いた様な声で、
イール『あ、皆様、一寸御覧なさいませ。あの島は猩々ケ島と云つて猩々ばかりが棲んで居ますが、不思議な事には人間らしいものが磯端に立つて、数多の猩々に取囲まれ、手を振つて居ります。随分沢山の猩々ですよ』
伊太『何、猩々の島、そりや面白からう』
と云ふより早く苫屋根の中から舳に這ひ出てよくよく見れば、イールの云つた通り人間らしいものが頻りに腕を振つて居る。
伊太『もし、先生、どうやら、あの島に人間が漂着して居る様子です。一つ何とかして舟を寄せ調べて行かうぢやありませぬか』
ヤッコス『あれは大変な悪い猩々が居るのです。あんな処へ行かうものなら、皆両眼を刳り抜かれ命を取られて了ひます。そんな険呑な処へ行くものぢやありませぬ。決して悪い事は申しませぬ。お止めなさいませ』
伊太『先生、側まで船を寄せて調べて見ようぢやありませぬか。別に上陸さへせなければ危険はありませぬ。兎も角人間か獣か、よく調て、人間ならば助けてやらねばなりますまい。是非とも船を着け度いものですな』
玉国『成程、お前の云ふ通りだ。どうも人間らしい。あんな無人島に獣と同棲してるのだらう。何か面白い話が聞けるかも知れない。兎も角僅か二三丁の処だから、船頭さま、一寸船をつけて呉れまいか』
イール『はい、初稚様と云ふお方に沢山なお金を頂き、又宣伝使の仰有る通りにして呉れとのお頼みで厶いますから仰せに従ひませう』
玉国『や、そりや有難い、そんなら頼む』
 『はい』と答えてイールは舳を転じ水先を考へ乍ら漸くにして磯辺に着いた。
(大正一二・三・二九 旧二・一三 於皆生温泉浜屋 北村隆光録)
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