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文献名1霊界物語 第64巻上 山河草木 卯の巻上
文献名2第1篇 日下開山よみ(新仮名遣い)ひのしたかいさん
文献名3第3章 聖地夜〔1632〕よみ(新仮名遣い)せいちよ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2017-11-25 18:10:05
あらすじ
主な人物ブラバーサ、マグダラのマリヤ 舞台エルサレム市街 口述日1923(大正12)年07月10日(旧05月27日) 口述場所 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年10月16日 愛善世界社版37頁 八幡書店版第11輯 390頁 修補版 校定版36頁 普及版62頁 初版 ページ備考
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本文の文字数4647
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本文  ブラバーサはエルサレムの停車場でバハーウラーに袂別し、プラツトホームを出で、稍広き街道を散歩し初めた。既に黄昏近くなつた近辺の山々の背景を、美しい夕日が五色の雲の線を曳いて色彩つて居る。併し何となく寂し気な印象が刻まれて来る。シオンの城を正面に控へながら、路の両側の畑丘に映えて居る落付いた緑色の葉が、痛々しげに塵埃のために灰白色に化つて居る橄欖の木を懐かしみながら、車馬の往来繁き大通をエルサレムの市街へと進む。
 後の方から『モシモシ』と呼ぶ婦人の声が聞える。ブラバーサは後振り返り、立止まつてその婦人の近づくのを待つとはなしに待つて居た。見れば曼陀羅模様のある厚いブエールで顔全部を覆ふて居るユダヤの婦人で、死の国からでも逃げて来た様な気味の悪い姿であつた。ブラバーサは月光の下に、初めて此市中に於て声を掛られたユダヤの婦人の姿を見て、ギヨツとしながら例の丸い眼を嫌らしく光らした。
『見ず知らずの賤しき婦女の身として、尊き聖師様を御呼び止め致しまして済まないことで御座いますが、妾はアメリカンコロニーの婦女で、マグダラのマリヤと申す基督信者で御座います。神様の御摂理に由つて貴師の爰に御降り遊ばす事を前知し、急いで聖地の御案内を兼ね、尊き御教を承はり度く罷出でました者で御座います。決して決して怪しき婦女では御座いませぬから、何うぞ妾に聖地の案内を命せて下さいませぬか』
と真心を面に現はして頼む様に云ふ。
 ブラバーサは土地不案内のこの市中で、思はぬ親切な婦人の言葉を聞いて打喜びながら、
『ハイ有難う御座います。私は高砂島より遥々と神命に由つて、聖地へ参向のために来たものですが、何分初めての事ですから土地も一向不案内の処へ、貴婦が案内をして遣らふと仰有るのは、全く神様の御引合はせで御座いませう。併し最早今日は夜分になりましたから、何処かのホテルへ一泊致し、明朝緩くりと橄欖登山致し度きもので御座いますが、適当なホテルを御示し下さいますまいか』
『貴師も定めて御疲労で御座いませうから、今晩はホテルに御一泊なさるが宜しいでせう。聖地巡礼者のために設けられた大仕掛なホスビース・ノートルダム・ド・フランスと云ふ加持力の僧院が御座いまして、其設備は一切ホテルと少しも変りなく、且つ大変親切で宿料も一宿が一ポンド内外ですから、それへ御案内致しませうか』
『カトリックの僧院ですか。夫れは願ふても無き結構な所、どうか其処へ案内を願ひませう』
『ハア左様なさいませ。妾も貴師と今晩は同宿して、種々の珍らしい高砂島の御話を承はりたう御座います』
と先導に立ち、カトリックの僧院ホテルへと案内され、今宵は爰に一宿する事となつた。両人は二階の一室に案内され、夕餉を済ませ、窓外を遠く見やると、折しも十六夜の満月が皎々として下界を隈なく照らして居る。大きな僧院にも似ず宿泊者は僅かに四五人で、何れも各宗の僧侶であつた。マリヤはブラバーサに向かひ、
『聖師様、今晩の月は亦格別美はしき空に澄み切つて聖師の御来着を祝して居るやうですなア。斯様な良い月の夜を室内に明かす事は、少し計り勿体ないぢや有りませぬか。何うでせう、一つ月明かりに散歩でもして御寝みになりましたら、妾もこの月を見ては室内計りに蟄居する気になりませぬわ』
『成る程良い月です。高砂島で見た月も今この聖地で見る月も、余り変りはありませぬが、何だか月が懐かしくなつて参りました。無為に一夜を明かすのも神界へ対して済まない様な心地がします。何うか案内を願ひませうかなア』
『ハイ宜しう御座います』
と早くもマリヤは二階の階段を下りかけた。ブラバーサもマリヤの後からホテルを忍ぶ様にして門外に出た。両人は市街の外側を西の城壁に添ふてダマスカスの門を目当に歩を運ぶ。上部が凹凸になつた厳めしいこの城壁や門は、皆中世に造られたものだが、何となく古い市街には応はしい感覚を与へる。この門からダマスカスへの道路が通じて居る。両人は月光を浴びながら、門を潜つて市街の北部を横断し、聖ステフアンの門へと出た。荒い敷石の道路は、所々に低いトンネル様のアルカードで覆はれて居て、月光の輝く下では内部の深い深い暗黒面が殊更寂しく物すごく感じられた。道路の両側の所々に、赤いトルコ帽を被つたアラブが小さい茶碗で濃いコーヒーを呑んだり、フラスコ様の大仕掛な装置で水を通過させて長いゴム管で吸入する強い煙草をのん気さうに呑み乍ら、両人の方へ迂散な奴が来よつたなアと云つた様な顔付きで睨んで居た。
『彼の男は吾々の姿を見て、異様の眼を光らして居ましたが、何かの信仰を以て来て居るのですか』
『彼の人等は極端なアセイズムを主唱する人々で、妾が聖地を巡拝するのを見て、ボリセイズムだと云つて嘲つて居るのですよ。物質文明にかぶれてアセイズム者と成つて居るのですから、容易に信仰に導くことは出来難い人達ですわ』
『斯る聖地にも依然アセイズム者が入込んで居るのですか』
『アセイズム者は愚か、ソシアリストもコンミユニストもアナーキストもニヒリストも沢山に入込んで来て居ります。そして此聖地に詣で来る信徒に対して種々の嘲罵を浴びせます。妾も何とかして神様の尊き御道に救ひたいと思つて、毎日毎夜エルサレムの市街に立つて、声をからして演説をいたしましたが、彼等は神の力の声を聞いても立腹いたします。そして大変な強迫的態度に出で、遂には鉄拳の雨を降らすのです。印度の釈尊も縁なき衆生は度し難しと仰有つた相ですが、現界から既に已に身魂の籍を地獄に置いて居る人達には、如何なる神の福音も到底耳には入りませぬ。夫れ故妾の団体アメリカンコロニーの人々は、迷信者扱ひを受け、人間らしく附合つて呉れないのです。モウ此上は聖メシヤの再臨を待つより仕方がありませぬわ』
『高砂島でも、依然今の貴女の御話と同様に、吾々の信奉するルートバハーの教やその信者を迷信者扱ひをなし、あらゆる圧迫と妨害を加へ、大聖主までも邪神扱ひに致して、上下の民衆が挙つて反抗的態度に出ると云ふ有様です。然し是も時節の力で解決が付くものと私は堅く信じて居ります。メシヤが聖地へ雲に乗つて御降りになる暁は、如何なる智者学者も悪人も太陽の前の星の如く影を隠し、屹度メシヤの膝下に跪付くやうになるでせう。今暫らくの辛抱ですよ』
『一時も早くメシヤの降臨を仰ぎ度きもので御座います。真正のメシヤは何時の頃になつたら出現されるでせうか』
『既に已にメシヤは、或る聖地に降誕されて諸種の準備を整へて居られますから余り長い間でもありますまい。併しメシヤは只今の処では十字架の責苦に逢つて、万民の為めに苦しみて居られますが、軈て電の東天より西天に閃く如く現はれたまふでせう。私はメシヤ再臨の先駆として参つたものです』
『それは何より耳寄りの御話し緩りと橄欖山上に於て承り度いものですなア』
『是非聞いて戴かねばなりませぬ』
『聖師様、是が有名な聖ステフアンの門で御座いますよ』
『聖者が曳き出され石で打ち殺されたといふ、伝説のある聖ステフアンの門ですか。ヘエー』
と首を傾けて少時憂愁に沈む。
『妾は此門を通過する毎に、聖者の熱烈なる信仰力を追想して、益々信仰の熱度を加へたので御座います』
と稍傾首て涙ぐむ。
『アヽ惟神霊幸倍坐世。信仰力弱きこのブラバーサをして、無限の力を御与へ下さいませ。一イ二ウ三イ四、五ツ六ユ七八九十百千万』
と天の数歌を奏上し、暫し感歎止まなかつた。
    ○
 聖ステフアンの門を潜ると、少しく下り坂になつて居る。マリヤの後に従いてゲツセマネの有名な園に近づいた。橄欖山は呼べば答ふる様に近くなつて来た。分の厚い丈けの高い、石造の垣で厳重に囲まれて居るのがゲツセマネの園である。処々にサイブレスの木が頭を出して居るのが見えるばかりで、一見して外側からは墓地のやうな感じを与へる。夜の事とて門扉が固く鎖され、内部は見ることが出来ない。そこから団子石のゴロ付いて居る峻しい坂路を攀て、目的の橄欖山へ登るのである。反対側の山の頂に王座して居る月光に由つて装れたエルサレムの市街、美しい気高いシオンの娘の姿は眼前に横たはつて居る。その美しさは現実に存在して居るのか、夫れともキリストに伴ふ聯想が幻影を造り出したのかと、ブラバーサの想像は瞬間に世界歴史の全体を通つて走る。丁度、高砂島の聖地桶伏山の蓮華台上の廃墟の前に立つた時と同様に、然しその二つの感想は、ブラバーサに取つては名状しがたきコントラストであつた。キリスト教とヘレニズムの葛藤、夫れは過去二千年間の人類の歴史を解くための悲哀なる鍵となるのであつた。
 そして此マリア婦人を始め、コロニーの人達や、純真なる数多の奉道者が今に至るまで神を求め、真善を極め美に焦がるる純な心を痛めて来た事を思ひ浮かべては、そぞろに涙の溢るるのも覚えなくなつて了つた。アヽこの悲哀なる不調和は一時も早く取り除きたいものだ。キリスト教は何処までも現世界を灰色に染なければ止まないであらうか。アクロポリスに踵を向ける事なしにエルサレムに巡礼する事には成らぬのであらうか。何故神様は、此の世をモウ少し調和的に造り玉はなかつたのであらうかと、今更の如く愚痴と歎息を漏らさざるを得なかつた。
 ブラバーサは黙然として追懐久うして居る。
『聖師様、何か頻りに考へ込んで居らつしやる様ですが、妾の行動に就いて御気に召さない事が御座いますか。遠慮なく仰有つて下さいませ。如何様にも悪き点は改めますから』
『イエイエ、決して決して貴女に対して気に合はない道理が御座いませうか。只々私はこの聖地の状況を見るに付け、古の歴史が胸に浮かびて参りまして、感慨無量の涙に暮れて居たのです』
 マリヤは軽く、
『そりやさうでせう共、妾だつて幾度聖地に来てから、古の歴史を追懐して泣いたか分りませぬわ。然し今晩は夜も更けましたから、ホテルへ一先づ引返し、又明日はゆるゆる案内さして頂きませう』
と先に立つていそいそと歩み出した。爰にブラバーサ、マリヤの二人は月光の下をキドロンの谷をエルサレムの側へ渡り、市街の東南隅の城壁に添ふて、ダング・ゲート(汚物の門)へ進んで来た。
 ダング・ゲートは昔此門から汚物を運び去つた所と伝へられて居る。シロアムの村が眼下に展開して居る。その門を這入つてユダヤ人街とマホメツト教徒街との間を通過し、ジヤツフアの門へと出た。
 現今のエルサレムの市街はアラブ、ユダヤ人、アルメニヤ人の住みて居る三ツの区域によつて仕切られて居る。
 神殿の跡に近い暗いアルカードの傍に、二三人のアラブが立つて居て、手真似で訳の分らない言葉で両人を呼び止めた。両人は気味悪る相に聞かぬ風を装ひスタスタと足を早めた。
 ダマスカス、聖ステフアン、ゲツセマネと斯う云ふ名は熱烈な信仰者の胸に深刻な感動を与へるものである。ブラバーサは傾首きながら一足一足指の尖に力を入れ、ウンウンと独り心に囁きながら、マリヤの後について行く。
 然し現代の多数の基督教徒、それ等に対して宗教は無意味な形式、死し去つた伝統に過ぎない。呑気な基督教徒中に真にダマスカスの道にある使徒パウロの心を自身に体験し、キリストのゲツセマネの園における救世主の御悩みの一端だに汲み得る信徒が幾人あるであらうか、と慨歎の涙に暮れて知らず識らずにマリヤに半町ばかりも遅れてしまつた。
(大正一二・七・一〇 旧五・二七 北村隆光録)
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