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文献名1霊界物語 第65巻 山河草木 辰の巻
文献名2第3篇 虎熊惨状よみ(新仮名遣い)とらくまさんじょう
文献名3第13章 隔世談〔1669〕よみ(新仮名遣い)かくせいだん
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじ
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年07月16日(旧06月3日) 口述場所祥雲閣 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1926(大正15)年4月14日 愛善世界社版151頁 八幡書店版第11輯 664頁 修補版 校定版157頁 普及版71頁 初版 ページ備考
OBC rm6513
本文のヒット件数全 1 件/セルの山辺=1
本文の文字数4679
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本文 伊太彦『神の教の伊太彦は  初稚姫の訓戒に
 恋しき妻に生き別れ  一人トボトボ山道を
 いとど烈しき炎熱と  戦ひ乍ら汗水に
 なりて山野を渉り行く  心淋しき一人旅
 神の恵みを力とし  夜光の玉を杖として
 吾師の君や妻の身を  案じ煩ひハルセイの
 沼の畔に来て見れば  人を掠むる盗人の
 二人の男に巡り合ひ  神の教を説き諭し
 大泥棒の立籠もる  虎熊山の岩窟に
 妻の命やデビス姫  二人の身をば助けむと
 登り行く折傍の  林の中の呻き声
 何者なるか知らねども  見捨てかねたる義侠心
 近付き見れば暴虐の  限りを尽す大泥棒
 ハールが頭に繃帯し  虫の息にて呻きゐる
 伊太彦忽ち三五の  神の御名をば奉称し
 天の数歌声高く  歌へば不思議や忽ちに
 厳の神徳現はれて  ハールはムツクと起き上り
 救命謝恩の宣言に  喜び勇む折もあれ
 エムとタツとの両人は  伊太彦司に打向ひ
 ハールの罪悪一々に  宣り伝ふれば伊太彦は
 誠の道を説き諭し  ハールを岩窟の案内とし
 息もせきせき登り行く  さしも堅固な岩窟の
 その入口に来て見れば  番人一人居らばこそ
 藻抜けの殻の不思議さに  ドンドンドンと隧道を
 ハール、エム、タツに案内させ  牢獄の前に来て見れば
 豈計らむや治道居士  デビスの姫やブラヷーダ
 改心組の一同が  セールの親分真中に
 四五の小頭取囲み  教を垂るる最中と
 悟りし時の嬉しさよ  案じ過ごした吾妻の
 無事なる顔を一目見て  抱きつき度くは思へども
 初稚姫の御教  あたりの人の手前をば
 恥らひ苦しさ相忍び  ハールを連れて只二人
 虎熊山を後にして  セルの山辺に来て見れば
 神の恵みの百の花  処狭き迄咲き匂ひ
 蓮の花は殊更に  白青黄色紫の
 艶を競ひてザワザワと  涼しき風に翻り
 笑を湛へて迎へゐる  あゝ惟神々々
 吾は尊き大神の  御稜威を受けて大野原
 虎伏す山辺も恙なく  神都をさして進み来る
 心の中ぞ楽しけれ  朝日は照るとも曇るとも
 月は盈つとも虧くるとも  月落ち星は消ゆるとも
 印度の海はあするとも  虎熊山は破裂して
 熔岩四方に降らすとも  いかでか恐れむ惟神
 神に任せし吾々は  至る所に青山の
 媚びを呈して待てるあり  思へば思へば有難し
 天国浄土の光景を  今目の辺り眺めつつ
 尊き聖き三五の  教の道に進み行く
 あゝ惟神々々  御霊のふゆを願ぎ奉る』
 二抱へもあらうといふパインが、一方は山、一方は野辺の細道の傍に、月の傘を拡げたやうに只一本聳え立つてゐる。その松の木蔭に、四五人の男が首を鳩めて何事か、ヒソビソ話に耽つてゐた。
甲『オイ、そこら中の民家を漁つて、葡萄酒やいろいろの肴を掠奪して来たが、然し早く帰らないと、今夜の結婚の間に合はないかも知れぬぞ。さうすりや又親分から叱言を頂戴せなならぬからのう』
乙『どれ程急いだ所で、之丈の道程だ。到底今夜の間に合ひさうな事はないわ。一層の事、酒も肴もここにあるから、此松の木の下で、一杯やらうではないか』
甲『そんな事したら、それこそ大変だ。俺等は直破門されて了ふぞ。破門だけならいいが、他へ出て喋べると云つて手足をフン縛られ、噴火口に投げ入れられて見よ。あつたら命が台なしだ。貴様は酒を喰ふとワヤな事を云ふから駄目だ』
乙『何、構ふものかい。かうして五人居れば、一つの村でも団体でも作れるから、あんな高い山に行かずに、一つ新団体でも拵へて自由行動でも採つたらどうだ』
 丙、丁、戊の三人は手を拍つて、
三人『イヤ、賛成、乙の言ふ通りだ。別にセールの大将を、さう恐がるに及ばぬぢやないか。あんな大将を頭に仰いでると、何時どんな目に会はされるか分りはせぬぞ。あの副親分を見い、あれ丈骨を折つて基礎を固めたが、遂に暗打にあつて頭を割つて了つたぢやないか。俺やハールの親分が気の毒で堪らぬわ。その時から岩窟を飛び出さう飛び出さうと思つて居つたのだが、今度大親分が婚礼の材料を集めて来いと出して呉れた時、再び岩窟に帰るまいと覚悟をきめた位だから、マア一杯ここでやつて相談をきめようぢやないか』
甲『トランスの相談をきめると云つても、別に立派な案も出まいぢやないか』
乙『喧しう云ふな。俺の云ふ通りにせい。俺はこう見えても餓鬼会社の社長をやつて居つたものだ。田舎の村ではあるけれど、それでも、ザツと五十軒ばかりの戸主から選まれて村会議員、否村会代議士に一度は当選した男だぞ。何と云つても尋常大学の出身者だからな』
丙『アハヽヽヽ、尋常大学が聞いて呆れるわい。村会代議士なんてまだ聞き初めだ。戸別巡礼をやつて、ヤツとの事で村会議員になつたのだらう』
丁『何、此奴村会議員どころか、此奴の奉公して居つた主人が村会議員になつて居つたのだ。その事を云つてるのだよ』
丙『アハヽヽヽ、大方、そんな事だらうと思つて居つた』
乙『馬鹿云ふない。主人がならうと、俺がならうと、同じ一軒の宅に住居してる以上は同じ事ぢやないか。エー、奥さまは村会代議士夫人と崇められてゐる以上は、俺だつて村会代議士家僕だ、主人の心は僕の心、僕の心は主人の心と云ふ事を知らぬかい。訳の分らぬ奴だな』
丙『どちらが訳が分らぬか、本当に分らぬわい。困つた唐変木だな。オイ村会代議士、そんなら一つ案を出して呉れ。その上で賛否の決を与へねばならぬからのう』
乙『ヨシ、かう云ふ事があらうと思つて、前から腹案を拵へて待つてゐたのだ。
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
まア、こんなものだよ。どうだ賛成だらうな。アハヽヽヽ』
丙『いや、大方賛成だ。然し、宣伝使、比丘に対する条目だけは削除して欲しいものだな』
乙『そら又何故だ。怪しい事を云ふぢやないか』
丙『宣伝使や比丘は神仏に仕へるものだ。あんな者に向へば、忽ち罰が当り、身体が動けぬやうになるからな』
乙『アハヽヽヽ、気の弱いものだな。宣伝使が何が恐い。身に寸鉄を帯びるでなし、まるで箒で蜻蛉を押へるやうなものだ』
甲『そんな事云はずに早く帰らうぢやないか』
乙『矢釜しう云ふない。帰り度い奴はトツトと帰れ。そして親分が二人のナイスをおいて脂下つてゐる所を、ケナリさうな顔して指を喰へて見せて貰へ。それが貴様の性に合うてるわい。ウツフヽヽヽ。これ丈沢山の酒や肴を盗つて来乍ら、又人に取られるのも残念だ。此松の下で鱈腹喰つて、新団体を組織して活躍するのだ。どうだ丙、丁、戊、賛成だらう』
丙丁戊『賛成々々』
乙『これ丈け四人まで大多数の賛成があるのに、只一人異議を唱へるのは、俺等の計画を裏切るものだ。エー面倒臭い。一つバラしてやらうかい。之も泥棒の練習になり肝玉が据つていいぞ』
甲『オイ、コラコラそんな無茶な事を云ふない。俺が一口異見を唱へたと云つて、バラすの何のつて、余りぢやないか』
乙『あんまりも糞もあつたものかい。貴様は常平生から大将のお髯の塵許り払ひやがつて、俺等の悪口許り告げた奴だ。サア三人の兄弟、此奴をヤツつけて了へ』
 ここに四人は甲一人を取りまいて、四辺の棒千切を拾ひ打ちかかつた。甲は矢庭に木片を拾ひ、力限りに防禦に力めてゐる。
 かかる所へ四辺の木精を響かして聞えて来たのは宣伝歌の声であつた。五人は各自傷だらけになつたまま、その場に平太つて了つた。
 ハールは伊太彦に従ひ、ここ迄やつて来て五人の男が倒れてゐるのに不審を起し、わざわざ松の木の根元に寄り道して調べて見ると、今迄使つて居た五人の部下であつた。ハールは大喝一声、目を剥き乍ら、
ハール『こらツ、者共、何を致して居るか』
甲『ハイ、親方、よう来て下さいました。今四人の奴め、貴方や大親分に対し、謀反の相談致しましたので、私が意見しました所、大変に腹を立て、殺してやらうと云つて斯んな目に会はせました。私も力一杯戦ひ、血みどろになつて居ります所へ、恐ろしい宣伝歌が聞えましたので、誰も尻餅をついて身動きが出来ぬやうになつたのです。何卒副親分様、私を助けて下さいませ』
ハール『ア、お前はオスだつたな。そして其処に倒れてゐる奴は、メスにキス、バツタにイナゴだな。こりやこりやメス、キス、バツタにイナゴ、その顔は何だ。ヤツパリ貴様は相変らず泥棒をやらうとするのか。もういい加減に改心したらどうだ。オス貴様も泥棒なんか、悪い事致すでないぞ』
オス『ヘイ、泥棒はもう出来ませぬか』
ハール『ウン、何も彼も新規蒔き直しだ。虎熊山の岩窟は最早亡びて了ふたのだ。それ故俺も館を焼かれ、居る所が無いので俄に改心して宣伝使のお伴をして、誠の道の旅をしてゐるのだ。貴様もいい加減に泥棒商売は止めたがよからうぞ』
メス『もしもし副親分さま、そりや本当ですか。私は今、貴方には済まないが、あまり親分が横暴な事をやるので、実は愛憎をつかし新団体を組織し、今ここで定款まで拵へ、発会式を終つた所で厶います。そした所、オスの奴、反対を称へるものだから、此様な時勢に合はぬ骨董品は片付けた方がよいと思ひ、打ちのめさうとした所で厶います。何卒、貴方、私等の団長となつて一旗挙げて下さいますまいかな』
ハール『馬鹿云ふな。泥棒はスツカリ廃業したのだ。ここに厶る宣伝使は神力無双の生神様だ。懐に夜光の玉を持つて厶るから、貴様等の心の底は手にとる如く御存じだぞ』
メス『ハイ、貴方が本当に廃業なさつたのなら仕方がありませぬ。私等が勝手に小団体を作つて商売繁昌のため大活動を致しますから』
ハール『オイ、やめたらどうだ。そんな事云ふと虎熊山が破裂したらどうする。破裂の前兆として、あの通り噴煙濛々と立上つてるぢやないか。あの鳴動を聞け。俺等仲間が霊山を汚したによつて、山の神様が立腹して厶るのだ。貴様もここで改心せなくちや虎熊山の熔岩に押潰されて了ふぞ』
メス『今更泥棒をやめた所で、之と云ふ商売も無し、仕方がありませぬわ。人間は意志の自由を有してゐますから、何卒私の意志迄は束縛して下さいますな。のう、キス、バツタ、イナゴ、さうぢやないか』
 三人一度に、
『ウン、さうださうだ、泥棒三日したら味が忘れられぬと云ふから、今更やめいと云つても止められるものかい。俺等も初めから泥棒したくはなかつたが、セール、ハールの親方がすすめたから初めたのだ。折角乍らハール親分の提案には賛成する事が出来ませぬわい』
ハール『左様の事を申してゐると今に虎熊山が破裂し、貴様等は滅亡せなくてはならぬぞ』
メス『ハヽヽヽ、虎熊山は昔古来から噴火してゐますよ。唸るのも鳴動するのも今日に初まつた事ぢやありませぬわい。大きにお世話さまです。貴方のやうに泥棒心の俄に無くなるやうな腰抜けには、用はありませぬわ』
と身体が丈夫になつたのでソロソロ強くなり、又もや泥棒至上主義を盛んに述べ立てる。丙、丁、戊三人も川水の流るる如く泥棒の有益なる事をまくし立て、ハールを手古摺らしてゐる。雲にかすんだ虎熊山の鳴動は俄に猛烈となり、大地はビリビリビリと震ひ出して来た。流石の四人も真青になつて草に噛ぶり付いてゐる。轟然たる一発の響と共に、虎熊山は大爆発を来たし、黒煙天に漲り、熔岩は雨の如く、四方に散乱し数里を隔てた此地点迄降つて来た。一同は恐れ戦いて俄に心を翻し、改心の祈願をなし初めた。神の御恵か、雨の如く降り来つた巨大なる熔岩は一人も傷つけずにをさまつて了つた。これより一同は改心の尊き事を悟り、伊太彦の宣伝使に従ひお礼詣りと称して聖地エルサレムへ向ふ事となつた。
(大正一二・七・一六 旧六・三 於祥雲閣 北村隆光録)
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