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文献名1霊界物語 第65巻 山河草木 辰の巻
文献名2第5篇 讃歌応山よみ(新仮名遣い)さんかおうさん
文献名3第24章 危母玉〔1680〕よみ(新仮名遣い)きもだま
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグシヤーガラ竜王(サーガラ竜王) データ凡例 データ最終更新日2019-05-05 10:58:36
あらすじ
主な人物 舞台 口述日1923(大正12)年07月18日(旧06月5日) 口述場所祥雲閣 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1926(大正15)年4月14日 愛善世界社版269頁 八幡書店版第11輯 706頁 修補版 校定版281頁 普及版122頁 初版 ページ備考
OBC rm6524
本文のヒット件数全 1 件/天教山=1
本文の文字数5731
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本文  玉国別、真純彦の二人はスーラヤの湖の西岸に着いた時、初稚姫の厳粛なる訓戒に仍りて、伴ひ来りし三千彦、伊太彦、治道居士其他と別れて、逸早く聖地に進まむと夜を日に継いで旅の疲れも苦にせず、足を早めて漸くエルサレムに程近き、サンカオの里に着いた。此処にはシオン山より流れ来る、ヨルダン河が轟々と水音を立てて流れてゐる。其北岸の細道をスタスタとやつて来ると、俄に一天墨を流した如く黒雲塞がり、えも云はれぬ陰欝の空気が漂うて来た。そしてあたりは森閑として微風一つ吹かず、何ともなしに蒸し暑く身体の各部からねばつた汗が滲んで来る。毒ガスにでもあてられた様に息苦しくなり、川べりの木蔭に二人は倒れる様にして腰を卸し、草の根に顔を当てて地中から湧き出づる生気を吸ひ、健康の回復を計つてゐる。これは数十里を隔てた東方の虎熊山が爆発し、折柄の東風に煽られて、毒を含んだ灰煙が谷間の低地へ向つて集まつて来たからである。
 二人は息も絶え絶えになり、小声になつて天の数歌を奏上してゐる。
真純『モシ先生、モウ一息で聖地エルサレムへ到着するといふ間際になつて、俄に天地が暗くなり、斯様に息が苦しく最早堪へ切れない様になつたのは、何か神様のお気障りがあるのでは厶いますまいか。茲迄来て不幸にして斃れる様な事があれば、千載の恨で厶います。何うあなたはお考へですか』
玉国『ウーン、どうも変だなア、私にも合点がゆかぬ。併し今日の昼頃に遥東の空に当つて、不思議な響がしたと思へば、それから天が暗くなり、地の上迄がこんな空気に包まれて了つたのだ。大方どこかの火山が爆発したのではあるまいか……とも思はれる。何分此空気は、微細な灰の様な物が交つてゐる。少時ここでお土に親しみ神様を祈つて体の回復を待つより仕方がない。私も何だか苦しくて、四肢五体がガタガタになつたやうだ。あゝ惟神霊幸倍坐世』
と合掌してゐる。
 斯かる所へ、ワンワンワンワンと幽かに遠く犬の鳴声が聞えて来た。此声を聞くと共に両人は夢から醒めたやうに、何となく心持がさえざえして来た。
真純『あ、あの声はスマートぢや厶いますまいか、どうも聞覚えがある様ですな。そしてあの声が耳に入ると共に私は俄に気分が冴えて参り、血の循環がよくなつたやうで厶いますワ』
玉国『ウン成程、私もあの声を聞くと共に元気が回復して来たやうだ。スマートに間違ひない。さうすれば初稚姫さまも近くへお出になつてるとみえる。ハテ嬉しい事だな。併し吾々二人がかやうな所にへこたれてゐる所を姫様に見つけられたら、大変な恥だから、一つ元気を出して宣伝歌を謡ひ、ボツボツ歩む事にせうか』
真純『左様なれば行けるか行けぬか知りませぬが、ソロソロ歩いてみませう』
と両人は杖を力に立上り、歩まうとすれ共、膝の関節がだるく、且笑ふ様で、何うしても足を運ぶ事が出来なかつた。
 斯かる所へ矢を射る如く、東の方より走つて来たのはスマートであつた。スマートは頻に、頭と尾を振つて嬉し相な表情を示し、力一杯大きな声でワンワンと吠立てる。
 玉国別は、
玉国『あゝあなたはスマートさま、能う来て下さつた。定めて初稚姫様も御一所で厶いませうなア』
と人間に云ふ如く挨拶すると、スマートは玉国別の裾を喰はへて、切りに引張る。
玉国『ハテナ、何か吾々の身に災がかからむとしてゐるのだらう。スマートさまは神のお使だから、サア真純彦、後に従つてどこなつと行かうぢやないか』
真純『ハイさう致しませう』
と云へばスマートは喰はへた裾をはなし、尾を振り乍らヨルダン河の北岸なるサンカオの小高き峰を指して登り行く。七八丁も登つたと思ふ所に、目立つて巨大なる橄欖の樹や其他の雑木が山の二合目あたりに、一つの森をなしてゐる。行つて見れば小さい古ぼけた祠が建つてゐる。
玉国『ハテなア、スマートさまが茲へ参拝して行けといふ事だらう。これも何か訳があるに違ひない』
と両人は自然に跪き、天津祝詞を苦しき息の下より、千切れ千切れに奏上した。祠の遥か後方より優しき女の声。
初稚姫『三五教の宣伝使  初稚姫は茲に在り
 スーラヤ湖辺に汝が命  其他の神の御使と
 袂を分ちスマートに  助けられつつ来て見れば
 天に冲する黒煙  ハテ訝かしやと大空を
 眺め居たりし時もあれ  幽かに聞ゆる爆発の
 声諸共に地の上は  不快の邪気に包まれぬ
 これぞ全く虎熊の  山の尾の上の崩壊と
 神の御告げに悟り得て  汝等が身の上案じつつ
 暫し様子を伺へば  天教山の太柱
 木花姫の御詫宣  八大竜王の其一つ
 いよいよ古巣を立出でて  カンラン山を奪はむと
 三千年の蟄伏を  破りて来る怖ろしさ
 意外の教にスマートと  此処に難をば避け乍ら
 汝が来るを待ちゐたり  三千彦司 治道居士
 伊太彦 デビス、ブラヷーダ  其他の神の御子達は
 何れも無事にましませど  汝等二人の身の上は
 神の御告に悟り得て  危くなりしと聞きしより
 スマートさまを遣はして  ここにお招き申したり
 やがて竜王ヨルダンの  河遡り日向なる
 シオンの山に居を転じ  又も悪逆無道なる
 行為をなして神界の  大経綸を妨害し
 此世を悪魔の世となして  跳梁跋扈なさむとす
 暫くすればマナスイン  ナーガラシヤーが出で来り
 汝等二人の命をば  奪ひて去らむは目のあたり
 九死一生の危難をば  のがれし汝こそ目出たけれ
 あゝ惟神々々  御霊幸ひましませよ』
と歌ひ終り、二人の前に姿を現はし玉ふた。此時初稚姫は此社より二三丁も奥の森の中にマナスイン竜王の帰順を祈つてゐたが、容易に効験の現はれ難きを知り、兎も角二人の命を救はむと、神力をこめ、赤裸となつて、サンカオの滝に打たれてゐた。そしてスマートの声を聞いて、二人が無事に此祠迄着いた事を知り、滝の麓より衣服を着替へて、歌をうたひ乍ら茲へ現はれたのである。
 玉国別は何となく自然におつる涙を拭ひ乍ら、声をかすめて、
玉国『初稚姫様、吾々両人、神徳未だ足らず、殆んど聖地に間もなき地点迄近付きまして、此川べりを通る折しも俄に気分が悪くなり、手足の自由を失ひ、腑甲斐なくも倒れて居りました。何か神様に御無礼をしたので、お叱りを蒙つたのではあるまいかと、両人が私かに案じ煩ひ、お詫を致して居りますと、あなたのお遣し下さいました此スマートさまの声が聞えて、俄に元気回復し此処迄誘はれて参りました。貴女のお姿を拝するにつけ、嬉しさと、懐かしさとで、自然に涙がこぼれます。私達をお招き下さつたのは、何か変つた御用では厶いますまいか』
初稚『玉国別さま、真純彦さま、よく無事で此処まで来て下さいました。今も私が歌つた通り、マナスイン竜王がゲッセマネの苑を占領し、エデンの花園や黄金山を蹂躙せむと致します故、スマートさまに先へ行つて貰ひ、竜王が占領せない様にいろいろと守護を致し、あなた方が此街道を御通りと悟りました故、危難の身に及ばぬ事を虞てお助け申さむと、ここに待つてゐたので厶います。やがてマナスイン竜王は、虎熊山を立出で、いよいよ時節の到来とゲッセマネの苑を占領すべく、山河草木を震憾させ乍ら、進んで来るのですが、ゲッセマネの苑には、到底身を置く所が無いので、此河を遡り、シオン山へ参るでせう。さうすれば巨大な竜体で厶いますから、あなた方の姿を見れば尾の先の剣にて、一打に致しますは分り切つた事と、此処迄御避難をなさるべく取計つたのです。息のつまるやうな空気が、低地にさまようて居るのは、やがて竜王が登つて来る証拠で厶います。竜王の頭の向ふ所は、十里位先まで邪気がただよひますから……間もなく大きな音を立て、竜体が上つて来るでせう』
 玉国別は打驚き乍ら、
『姫様の御恵は到底言にも尽されませぬ。実に感謝の至りで厶います。若しも貴女が居られなかつたならば、吾々は御神業を完全に勤める事が出来なかつたかも知れませぬ』
と又涙を拭ふ。真純彦は感極まつて一言も発し得ず、俯いて忍び音に泣いてゐる。
 折柄西方より囂々と地響きさせ乍ら、中空に黒雲の旗を立てた様にピカピカ鱗を光らせ、山の如き怪物が東を指して登り来る。玉国別、真純彦は此姿を見て、俄に体すくみ其場に跪坐んで了つた。
初稚『お二人様、モウ安心です。竜王が通過致しました。やがて邪気も追々に晴れるでせう』
玉国『ハイ、何うも恐ろしい事で厶いました。斯様な者が此聖地の近辺へやつて来るとすれば、埴安彦、埴安姫様の御神業も、並大抵では厶いますまいな』
初稚『中々並大抵の御神業ぢや厶いませぬ。それ故ウバナンダ竜王の玉や、シヤーガラ竜王の玉、並に水晶の三個の玉があなた方のお弟子に神様から渡されてゐるのです。これさへ聖地へ納まらば、いかにマナスイン竜王が聖地を窺へばとて、何うする事も出来ませぬ。此三個の玉には、不思議な神力があります。あなた方のお手にあれば別に不思議も現はれませぬが、之を神様のお手にお渡しになれば、天地を自由自在に動かす事が出来ます。それ故、いかにマナスイン竜王が暴威を振ふとも、如何ともする事が出来ませぬ。真純彦さまは玉を持つてお出ででせうなア』
真純『ハイ、力限り保護致しまして、一個丈は此処迄送つて参りました』
初稚『それは誠に結構で厶います。定めて神さまも御喜び遊ばす事で厶いませう。マナスイン竜王があなたの姿を認めずに過去つたのは、先づ神界の為何程結構だか分りませぬ』
真純『同じ玉でも、神さまがお持ちになるのと、吾々が持つのとは働きが違ふので厶いますか』
初稚『それは違ひます。霊相応の力より出ぬもので厶います。何程宣伝使が神力があると云つても、大神様の御化身には及びませぬからなア』
真純『私が玉を持つてゐた為に、さうするとあの川べりに於て、あんな苦しい、息のつまるやうな目に会うたのですか。つまり玉の威徳に負たやうなものですな。小人玉を抱いて罪あり……とはこんな時の事を云つたのでせう』
初稚『猫に小判、豚に真珠だとか云ふ譬が厶いましたなア。ホヽヽヽヽ』
と笑ふ。真純彦は頭をかき乍ら、
真純『さうすると、三千彦や伊太彦が所持してる玉も、ヤツパリ私と同様で厶いますかな』
初稚『伊太彦さまだつて、三千彦さまだつて同じ事ですワ。結構な玉を懐に持つたと云ふ誇りがありますので、途中に於ていろいろの苦しい目に会つたり、妨害に出会つたりしてゐられますが、やがてゲッセマネの苑まで参る時には、道は変つてゐますが、一度に会ふ事に神様が仕組んでゐられますから、ゲッセマネの苑迄行けば、スーラヤの湖辺で別れた御連中と無事に面会が出来るでせう』
真純『そんなら姫様、私の懐に預かつて居つて、大切な宝玉を汚してはすみませぬから、何卒ここで貴女に預かつて戴く訳には参りますまいかな』
初稚『それは御免を蒙りたう厶います。あなたのお役目ですから、役目以外の事は到底神界から許されませぬ。すべて神さまは順序ですから、順序を誤つては天地の経綸が破れます。そして女が玉を抱けば、玉照姫さまのお母様の様に、お腹がふくれますから困りますよ。世の中の分らぬ人間から、初稚姫は堕落したとみえて、男が出来たなどと言はれては迷惑ですからなア、ホヽヽヽ』
真純『お玉さまだつて、夫なしに結構なお子さまをお生みになつた例も厶います。あなたにお子さまが出来たつて、誰がそんな事思ひませうか。あなたのお肉体は吾々の如き粗製濫造品とは違ひますから、そんな事仰有らずに御預かり下さいませな。何だか恐ろしうなつて参りました』
初稚『其玉を持つて居りますと、マナスイン竜王がつけ狙ひますから、私は恐ろしう厶いますワ。玉さへ持つてゐなければ竜王だつて相手にしませぬ。其玉ある故に悪魔が欲しがつて覗ふのですからなア』
真純『ハテ、困つた事だなア。結構な御用をさして頂いたと思ひ、得意になつて今迄やつて来たのに、此玉がある為に最前のやうな苦しい目に会はねばならぬとは、何と云ふ因果な役を勤めたのだらう』
初稚『そこが霊の因縁ですから、之は何うしても人間の左右する事は出来ないのです。まだ聖地までは余程間が厶いますから、余程用心なさいませぬと、あなたの懐に玉の光つてるのがマナスイン竜王の目に入らうものなら、それこそ引返して参りますよ。御用心なさいませよ、ホヽヽヽヽ』
真純『モシ先生、何う致しませう。あなた暫く御預かり下さいますまいか。玉国別さまと名迄ついてるのですもの。ここ迄私が奉持して来たのですから、此処から預かつて下さつても宜いでせう』
玉国『ハヽア、さうするとお前は矢張自己愛におちてゐるのだなア、おれに玉を持たして、竜王の犠牲となし、自分は助かるといふ狡猾い考へだらう。イヤそれでお前の心も分つた。ヨシ、犠牲になつてやらう』
真純『メヽ滅相な、どうしてそんな薄情な事を思ひませう。あなたに持つて頂きたいと申したのは、霊相応だと思つたからです。あなたは私から比ぶれば、幾層倍の御神徳のあるお方、それ故玉の光も一層輝きませうし、あなたがお持ちになれば、竜王も決して覗はないと思つたからです。あなたは初稚姫様に次いでの生神様で厶いますからなア』
玉国『玉を持たぬ私が、お前の側に居つてさへ、あれ丈竜王の毒気に中てられたぢやないか。到底私の様な神力の足らぬ者は、玉を預かる資格がないのだ。それだからお前に持つて貰うたぢやないか』
真純『本当に結構な玉の光に位負して、有難迷惑だ。併し乍ら之も御神業だと思へば結構です。それぢや仮令竜王が私を呑まうと構ひませぬ。身命を賭して玉の保護を致し、聖地迄参る事に致しませう』
初稚『サア、何うやら邪気も去つた様です。あの通り日輪様も拝め出しました。ソロソロ参りませう』
玉国『真純空俄に曇り四方八方は
  黒き真墨のさまとなりぬる』

真純『真すみとは清きたたえにあらずして
  黒き身魂の真墨なりけり。

 今迄は力と頼み来りしを
  恐ろしくなりぬこれの真玉は』

初稚『いざさらば貴の聖地に進むべし
  玉国別よ玉守彦よ』

 かく歌ひ了り、三人はスマートに守られて、道々宣伝歌を謡ひ乍ら、ヨルダン河の河辺を伝うて、西へ西へと進み行く。
(大正一二・七・一八 旧六・五 於祥雲閣 松村真澄録)
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