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文献名1霊界物語 第66巻 山河草木 巳の巻
文献名2第2篇 容怪変化よみ(新仮名遣い)ようかいへんげ
文献名3第7章 女白浪〔1689〕よみ(新仮名遣い)おんなしらなみ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2017-12-05 13:59:15
あらすじ
主な人物【セ】シーゴー坊、玄真坊、ヨリコ姫【場】-【名】大黒主、ヨリコ姫の母(サンヨ)、ヨリコ姫の妹(花香)、中岡艮一、自転倒島の総理大臣(伊藤博文)、釈迦、孔子、キリスト 舞台オーラ山の大杉 口述日1924(大正13)年12月16日(旧11月20日) 口述場所祥雲閣 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1926(大正15)年6月29日 愛善世界社版99頁 八幡書店版第11輯 765頁 修補版 校定版99頁 普及版67頁 初版 ページ備考
OBC rm6607
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本文の文字数6537
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本文  デカタン高原中の、最高地、而も地味最も肥たるトルマン国の西北端に、雲に聳えた大高山がある。樹木密生して昼猶暗く、猛獣毒蛇の棲息するもの最も多しと伝へられてゐる。之がオーラ山である。オーラ山と云ふのは沢山の山が同じ形に並んでゐる意味であつて、数百里に延長し、此区域をオーラ山脈地帯と称してゐる。谷々より流れ出づる水は何れもオーラ河に注ぎ、印度を縦断して印度洋に注ぐ有名な大河である。
 元バラモン教の修験者たりしシーゴー坊は、片腕と頼む玄真坊と共に此山脈の中心地、即ちオーラ山に根拠を構へ、時の到るを待つて、先づバルガン城を占領し、勢を集めてハルナの都に押寄せ、大黒主を征伐し、印度一国の覇権を握らむと、三千の部下を引連れて山寨を造り、オーラ河を利用し、一切の挙兵準備に着手してゐた。先づ第一に必要なのは軍資金である。彼は所在方法手段を講じて金品穀類並に武器を蒐集する事に腐心してゐた。オーラ山の中腹には稍広き平地があつて、数里を隔てた遠方から、幾抱えとも知れぬ大杉のコンモリとした枝が目立つて見えてゐる。シーゴー、玄真坊の二人は首を鳩め、秘密会を開いた。
シーゴー『オイ玄真、計画もおひおひ緒につき、三千の部下は集まつたが、併し乍ら食料の欠乏と云ひ、武器の不足といひ、到底此儘に経過すれば、折角の計画も画餅に帰するより途はない。又豺狼の如き部下を統一せむとすれば、食糧が豊富でなくては、吾々の命令も聞かなくなつて了ふ。何ぞ可い工夫はあるまいかなア』
玄真『左様で厶いますなア。私もいろいろと思案を致して居りますが、何と云つてもバラモンの信仰を以て固まつた此国、一つの奇瑞を現はし、人心を収攬し、信仰の力に仍つて、金銭物品其他の武器を献上させては如何で厶いませう。私は之より外に可い方法はなからうかと存じます』
シーゴー『成程、可い所へ気がついた。俺も永らくバラモンの修験者をやつてゐ乍ら、宗教的信仰を以て人心を収攬し、大望を達せむとする最善の方法手段は気がつかなかつた。併し乍ら斯かる山奥に在つて、人を集むるは容易の事ではあるまい』
玄真『サア其事に付いて、私も頭を悩めて居ります。里近く出づれば人の寄りは宜しいが、秘密の漏洩する虞がある。此山奥に居れば安全ではありますが、人を集める事は容易ではありますまい。余程の離れ業をして見せむ事には、此山奥へ愚夫愚婦をおびきよせる事は難しいでせう』
シーゴー『俺もいろいろ雑多と考へてはみたが、第一食糧の窮乏を告げるやうな事では此大望は成就せない。三千の部下に泥棒許りさせてゐても、結局統一が出来なくなり、終には国民の嫌悪を買ひ怨府となり、大業の妨害を来すであらう。何とか可い方法手段を捻り出せないものかなア』
 両人は首を傾け思案に暮れてゐる。そこへ岩窟の戸を開けて次の岩窟から這入つて来たのは玄真坊の妻ヨリコ姫であつた。
ヨリコ『あゝこれはこれは親方様、旦那様、何か可いお話が出来てゐるやうですなア。どうか私にも御招伴さして下さいませ』
シーゴー『ウーン、イヤ、何でもない。余り大原野の風景が佳いので、玄真殿と眺望を恣にしてゐた所だ』
ヨリコ『ホヽヽヽ妙な事を仰有いますな。岩窟の戸を閉めきつておき乍ら、大原野をみはらすの、眺望が佳いのと、子供を騙すやうな御言葉、何程お隠しなさつても、貴方等の心の奥迄看破して居りますよ』
玄真『ナアニ、本当に見てゐたのだよ。今お前が来る一寸前に戸を閉めた所だ』
ヨリコ『ホヽヽヽ嘘許り、そんな白々しい事が仰有られますわい。貴方等は妾を女と侮りいつもコソコソとよからぬ御相談許りしてゐられますが、小さい悪をするよりも一層男らしう大悪をなさつたら何うですか。大悪は大善に似たり……といふ事があるぢやありませぬか』
玄真『女神のやうな優しいお前にも似ず、今日は又太い事を云ふぢやないか。人間も変れば変るものだなア』
ヨリコ『そらさうです共、朱に交はれば赤くなり、麻につれる蓬、門前の小僧習はずに経を読み、勧学院の雀は蒙求を囀るとやら、日日毎日悪党哲学の実習を受けてゐるのですもの、悪にかけたら、出藍の誉ともいふべき妾ですよ。最早妾はタライの村時代のヨリコ嬢ではありませぬ。比較的大悪党の玄真坊様が宿の妻、ホヽヽヽ随分発達したものでせう』
シーゴー『何とマア感心だなア。オイ玄真、お前も最早安心だよ。こんな有力な後援者が出来たのだから、鬼に鉄棒だ。就いては俺も百万の後楯を得た如うだ。あゝ愉快々々、オツホヽヽヽ』
と肩をゆすつて笑ふ。
玄真『成程、親方の仰の通り、随分悪化したものですわい。オイ、ヨリコ、実の所は親方や自分達の大望をお前に打明けて、後援して貰ひたいと喉元迄出てゐたが、何と云つても名人の画から抜出たやうな、嬋娟窈窕たる其方、霊体一致の関係から見ても、優美な高尚な正直なお前の心、こんな悪党な企らみを、うつかりお前に聞かせて、愛想をつかされ、三年の恋は一度に醒め、俺を振りすてて逃げ帰るか、但は自害でもしてくれちや大変だと、今日の日迄秘密を心に包んでゐたのだが、お前にそれ丈の悪度胸があるとすれば、俺も最早大安心だ。天下は吾意の如く軈てなるだらう。テもさても愉快な事だわい、アツハヽヽヽ』
ヨリコ『夫に連添ふ女房ぢや厶いませぬか。タライの村の吾家へお泊り下さつた時、どつかに一癖のある御目なざし、此方は何れは善か悪かは知らね共、大業を企てる快男子だと直覚しましたので、大恩ある母を捨て、可愛い妹に放れて、貴方に心中立をしたので厶います。ここ迄打明けた以上は決して御心配なく、一切万事私も相談に乗せて下さいませ』
玄真『何とマア、女といふ者は分らぬものだなア。否恐ろしい者だなア、丸切り化物だ。能くマア、こんな極悪美人を抱いて寝て、寝首をかかれなかつた事だワイ、アツハヽヽヽ』
シーゴー『ウツフヽヽヽヽヽ、ますます面白くなつて来た。鬼の夫に蛇の女房……とは能く言つたものだ、エツヘヽヽヽ』
ヨリコ『もし親方様、珍らし相に何で厶いますか、女は魔物と昔からいふぢやありませぬか。私も玄真坊様と三年が間暮してゐる間に、時々気の弱い事を云つたり、世をはかなんだりなさる度毎に、…エーエ腰抜野郎だな、一層の事、寝首をかいてやらうか。イヤ待て待て現代の男といふ奴、何奴も此奴も腰抜許りだ。善を徹底的に行ふでもなければ、悪を徹底的に遂行する快男児もない。世間の男から比べて見れば、此玄真坊様は幾分か偽善と悪辣との手腕が、チツと許り優つてゐるやうに思つたので自分の意には充たないけれど、将来何か使つてやる時もあらうと、今迄辛抱してゐたのですよ、オツホヽヽヽ。玄真様、誠に済みませぬが、決して悪く思つて下さいますな。妾だつて時々愛は注いでゐるでせう。何と云つても人体自然の理に依つて月に一度や二度は、発情期が出て来ますからねえ。ひだるい時のまづい物なし、喉の渇いた時は、泥田の水も呑めば甘露の味がするとやら、本当に貴郎は、妾が唯一の慰安者でしたよ、小なる救世主でしたよ。ホツホヽヽヽ』
玄真『チエツー、馬鹿にしてゐる。さうするとお前は俺の威力に恐れて、心ならずも服従してゐたのだな。そして時々情欲の炎を消すポンプに使つてゐたのだらう』
ヨリコ『貴方のポンプは人並勝れて馬並でしたよ。併し乍ら其お蔭でウツトコの孔口が拡大し、東経百度、北緯二百度といふ大竜門洞が形作られたのですもの、ホツホヽヽヽ』
玄真『エー、お前は男子を嘲弄するのか』
ヨリコ『ホヽヽヽさうです共、聖人の言葉にも、長老を敬へといふぢやありませぬか。所謂、貴方に対して嘲弄するのは結局敬意を表してゐたのですワ。それに時々女の腐つたやうな、チヨロ臭い泣言を仰有るのを聞く度毎に、胸がムカムカ致しましたよ。和尚の屁は長老臭いといひますからね。時々丸で水の中で屁をひつたやうな、掴まへ所のない計画をしては失敗をなさるのだもの、カラツキシ信用がおけないぢやありませぬか』
玄真『あーあ、大変な女帝様を女房に持つたものだなア』
ヨリコ『コリヤ面白い、妾を女帝様と云ひましたね。敬ひ過ぐれば礼を失するとか申まして、貴方は妾に対し、軽侮嘲笑の的として厶るのでせう。併し乍ら愚弄的にもせよ、軽侮的にもせよ、女帝といはれた其言霊は、妾に取つては身魂相応、実に感謝致します、ホツホヽヽヽ』
シーゴー『コレコレ女帝さま、大変な馬力ぢやありませぬか』
ヨリコ『ハイ、馬力所か、象力ですよ。大象も女の黒髪一筋にて曳かれると云ふぢやありませぬか。男子は馬力、之を詳説すれば馬鹿力と云ひ、女は所謂象力です。象は憎に通じ飽く迄男子を憎悪して居つても女子の精神を知らず、俺に惚てゐるに違ないと大変な馬鹿力を出し象憎悪しくも、主人面をさげて納まり返つてゐるのが世間一般の男子の病患ですワ。本当に男子といふ者は憐れな代物ですよ。ホツホヽヽ』
シーゴー『これは怪しからぬ、天下無双の勇士二人を手玉に取つて罵詈嘲弄を擅にし、絶対無限な侮辱を与へるとは言語道断な代物だ。キツト敵を取つて上げますから、其覚悟をなさるが可からう』
ヨリコ『ホヽヽヽヽお気に障ましたら、御免下さいませ。此女帝は世間普通一般のガラクタ男子に対し、万丈の気焔を吐いた迄です。貴方のやうな男の中の男、天晴偉丈夫に対しては例外ですワ。私、実の所はシーゴー様が本当に好きなのよ、ねー、シーゴー様、頭に純白の雪を頂き乍ら、其艶々しいお面、之が世の所謂白髪童顔とでも申しませうか。丸つ切り劫を経た狒々公のやうですワ。ヒヽヽヽ』
シーゴー『これはしたり、怪しからぬ女帝のお言葉、益々以て八尺の男子を、讒誣嘲笑なさるか』
ヨリコ『滅相もない、ここに玄真坊様がゐらつしやるぢやありませぬか』
シーゴー『エヘヽヽヽヽヽ、褒めたり、くさしたり、上げたり下ろしたり、何が何だかチツトも訳が分らない。瞹昧模糊として竜の如く霞の如く、吾々の馬力では到底其首尾を捕捉することは出来ぬワイ、エツヘヽヽヽヽヽ』
ヨリコ『妾は其白髪童顔が大変に気に入つてますのよ。大政党を率つれ、平民大臣として時めきわたり遊ばす大資格が備はつてゐるのですもの。併し乍ら用心なさいませよ。停車場や人ごみの中を、何時中岡艮一が現はれるか知れませぬからね、オツホヽヽヽ』
シーゴー『未来における自転倒島の総理大臣とは縁起が可い。併し乍ら刺客に会ふ事丈は真平だ』
ヨリコ『そらさうです共、古今無双のナイスに惚れられて、其上権力は天下に並びなく、酔ふては眠る窈窕美人の膝、醒めては握る堂々天下の権……と酒の機嫌で唄つてゐると、そこへキツト刺客が現はれやうまいものでもありませぬよ。恋の仇とやらいふ曲神が現はれましてね』
シーゴー『其刺客といふのは、一体どんな奴だ』
ヨリコ『ホヽヽヽヽヽ、此処では一寸差支ますが、ゲのつく色男さまですよ。御用心なさいませ』
玄真『コリヤ、女帝何といふ暴言を吐くのだ。亭主を馬鹿にするのか。モウ今日限り、貴様のやうな気の多い不卓腐れには暇を遣はさぬワイ』
ヨリコ『ホヽヽヽ、あのマア妙な面ワイの、丸つ切り古狸の化け損つたやうだワ』
シーゴー『何時迄も女帝さまに嘲弄れて居つても事務が進捗せない。サア、之は之で切上げて、本問題の討議にかからうぢやないか。なア玄真坊』
玄真『左様で厶います。女帝は女帝として、雲深く祭り上げておき、親分さまと私と肝胆相照らし、唇歯輔車的関係を益々密接にし、空前の大業につき最善の方法を協議致さうぢやありませぬか』
シーゴー『よからう。併しヨリコさまに居つて貰つちや聊か憚るやうだ。失礼ながら御退席を願ひませうか』
ヨリコ『ホヽヽ頓馬野郎許りが首を鳩めて、何程メートルを上げたつて、馬力をかけたつて、到底碌な相談は纒まりますまい。今日迄の貴方等の御手腕は念入りに拝見さして頂いて居りますワ。……女賢しうして牛売り損ふとやら、或は女子と小人は養ひ難しとやら、七人の子はなす共、女に大事をあかすなとやら、女は嫉妬の権化だとか、悪魔の化身だとか、婦女子の言信ず可らず……とか今時の男子は自分の馬鹿を棚に上げて、交際場裡の花ともいふべき婦人に対し冷笑軽侮を以て迎へてをりますが、女だつて、さう捨てたものではありませぬよ。本当の英雄は女にあるのですからなア。よく考へて御覧なさい、釈迦も孔子もキリストも皆女の玉門から吐き出されたものぢやありませぬか。妾がここに居りまして、お邪魔になるとは聞えませぬよ。実の所を云へば、表面貴方等に親方様……とか、御主人様とかいつて面従して居りますが、うしろ向いては舌を出し、……取るに足らない、腑甲斐ない、ケチな野郎だなア……と、何時も子供扱にして居るのですよ。どうですか、貴方等、妾を智慧の宝庫として尊重し、此大望を成就する考へは厶いませぬか。馬鹿野郎や、下司の智慧で到底天下は取れませぬよホヽヽヽ。雑言無礼の段御勘弁を願ひます』
と傍若無人なヨリコ姫の言葉に、さしも兇悪なる二人は呆れ果て、少時言葉も出なかつた。
ヨリコ『ホヽヽヽヽヽ大胆不敵の女と思召すでせうが、此位な事で驚くやうな貴方等なれば最早取るには足らない、目なつと噛んで死んだ方が、余程男らしいですよ』
シーゴー『イヤ、女帝様、今日から貴女の部下にして下さい。キツト御命令に服従致します』
ヨリコ『決して間違はありますまいな』
シーゴー『バラモン男子の一言は岩石の如く動きませぬ』
ヨリコ『宜しい、そんなら今日から女帝の部下ですよ。今迄は親方々々と尊敬してゐましたが、今日からはシーゴーと呼びつけを致しますから、其お覚悟をなさいませ』
シーゴー『ハイ、一切万事、徹頭徹尾、絶対服従を誓ひます』
ヨリコ『ホヽヽヽ、善哉々々。コレコレ玄真さま、お前は何うする考へだい』
玄真『お前が大親分になつて、シーゴーさまを乾児とした以上は、俺はお前の夫だ。お前の地位が高まると共に俺の地位も高まるのが当然の帰結ぢやないか。馬鹿な質問をするものぢやないワ、アツハヽヽヽヽ』
ヨリコ『ホヽヽヽヽ何時迄も虫のよい、唐変木だこと、物が分らぬと云つても、余りぢやないか。最前からの女帝の言葉にチヨコチヨコと現はれてゐるのが、お前さまは気がつかないのかい。最早今日となつては、ヨリコ女帝の部下ですよ』
玄真『コリヤコリヤ女帝、まだ三行半を渡した事もなし、さうお前の方できめて貰つても此方の方に承諾はしてゐないぢやないか』
ヨリコ『三行半も四行半も要りますか、承諾も妾宅もあつたものですか。お前もモチツと勉強して此女帝をへこます丈の実力が具備したならば、再び夫婦になつて上げませう。それ迄は夫婦たる権利は撤回しますよ』
玄真『コレ、シーゴーさま、あんな事を言ひますワ、チツと可い挨拶をして下さいな』
シーゴー『エー、君、断念し玉へ、君の夫婦は提灯に釣鐘だ。到底智慧と云ひ、力といひ、不相応な夫婦の関係は永続は難かしいよ。それよりも一層の事、此女帝を謀師とし、日頃の大望を成就させようぢやないか。女帝の承諾もなしに形式的の夫婦だなんて愛のない夫婦関係は険難だよ。最前も女帝が言つただらう、……幾度も幾度もこの頓馬野郎、寝首をかいてやらうと思つたか知れぬ……との御託宣、あれを聞いた時や、俺も体内地震が勃発したよ。本当に腕の凄い、豪胆な女帝様だ、モウ諦めて了へ。それよりも沢山な乾児に命じ、世界の美人を誘拐して来て、選り取り見取り、不義の快楽に耽つた方が何程男らしいか知れないよ。ヨリコ女帝許りが女ぢやあるまいし、男子はモウ少し心を広く持たないと駄目だよ』
玄真『エー、仕方がない、思ひ切つて、夫の権利を放棄します。どうか女帝様、今日只今よりシーゴーの親分同様に可愛がつて使つて下さい』
ヨリコ『ヨシヨシ、シーゴーは左守、玄真は右守、三位一体となつて、天下の経綸を行ひませう』
 茲に二人はヨリコ姫に絶対的権利を賦与し、いよいよ大陰謀の計画にかかる事となつた。密議の次第は次章に於て明かになるであらう。
 オーラ山の醜の嵐の強くして
  四方の草木は悩み伏しなむ。

 女てふものの強きを今ぞ知る
  醜の曲霊のまつらふみれば。

(大正一三・一二・一六 旧一一・二〇 於祥雲閣 松村真澄録)
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