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文献名1霊界物語 第69巻 山河草木 申の巻
文献名2第1篇 清風涼雨よみ(新仮名遣い)せいふうりょうう
文献名3第4章 国の光〔1749〕よみ(新仮名遣い)くにのひかり
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ国公(国照別)、愛公(国愛別) データ凡例 データ最終更新日2019-09-11 14:58:25
あらすじ珍の都にも、貧しい人々がかなり出てくるようになり、松若彦以下の施政方針に対して、いたるところに不平不満が勃発してきています。人力車の帳場に、三人の車夫が、政治談義にふけっています。国公:上流階級の出だが、わけあって車夫になっているようです。愛公:社会改造のために地位を捨て、民情を研究し、上下揃え升掛けひきならす活動をしようと目論んでいます。浅公:現在の不公平な施政に不満を持つ車夫。
主な人物 舞台 口述日1924(大正13)年01月19日(旧12月14日) 口述場所伊予 道後ホテル 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1927(昭和2)年10月26日 愛善世界社版71頁 八幡書店版第12輯 297頁 修補版 校定版73頁 普及版66頁 初版 ページ備考
OBC rm6904
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本文  珍の都の大都会にも、世の変遷につれて立チン坊や貧民窟が、場末の方には、可なり沢山に出来た。そして国依別の国司に対しては余り怨嗟の声も放たなかつたが、松若彦以下の施政方針については、至る所に不平の声が勃発し、何時不祥事件が突発するかも分らないやうになつて来た。人力車の帳場に二三人の輓き子があぐら座になつて、配達して来る新聞紙を読み乍ら、捩鉢巻した儘政治談に耽つてゐる。
甲『オイ愛州、つまらぬぢやないか、俺達は朝から晩迄、額に汗をし埃まぶれになつて、ゼントルメンとかいふ奴の馬となり、重たいゴム輪をひいて送つてやつた所で、御苦労とも吐かさず、お札さまを一枚程与へられ、ヘイヘイハイハイと米つきバツタ宜しくといふ体裁で生活を送つてゐるのだが、此世に平等愛の神が厶るとすれば、なぜ何時までも、こんなみじめな生涯に俺達を見すてておくのだらうか、本当に合点がゆかぬ』
愛『オイ浅、今日も亦弱音を吹くのか、チツとしつかりせい。車輓だつて、さう悲観したものだない。珍の都の国司だつて、若い時は、バラモン教の巡礼にもなり、人の門に立つて乞食もなさつたといふ事だ。車夫だつて時が来れば、どんな出世が出来よまいものでもないワ。なア国公、お前何う思ふか』
国『ウン、そらさうだ。余り苦にする必要もあるまい。己がたつた今、アルゼンチンの大統領となつてお前たちを救ふてやるから楽んで待つてゐるが宜いワ。何と云つても国さまは国の代表者……ヲツトドツコイ国の柱だからなア』
浅『ヘン、偉さうに云ふない、蛇は寸にして人を呑む、栴檀は二葉より芳ばしいといふぢやないか、お前のやうな青瓢箪の蒲柳性の肉体を持つてゐて、何うしてそんな大それた事が出来やうかい、法螺を吹くも程があるワイ』
国『マア見ておれ、新政党でも組織して衆生を教導し、捲土重来、タコマ山の風雲をまき起し、一挙にして天教地教の山を踏み砕き、天国浄土を建設してみせる。俺は天下の救世主だからなア。汝の様に与力同心が恐しうて、自転倒島の地震のやうにビリビリ慄つてゐるやうな天ん若は例外だが、俺達は、俺達としての成案が十二分にあるのだ』
浅『ヘン、誰が慄うてゐるか、国、汝こそ陰弁慶の外すぼり、朝寒にボロ一枚で慄ひ通してゐるだないか。余り振つた事をいふと、車夫仲間から除名するぞ、アン』
国『ハヽヽヽ、慄ふのは此頃の流行物だ。不断的の大地の震動は云ふも更なりだが、先づ世の中の人間共の行る事を考へてみよ。皆慄うてるだないか。汝が女房を貰ふた時にも三々九度を行つただらう。其時には手が慄ひ胴体迄慄うたといふだないか。始めての泥棒に、近所の火事、遺書の文句、女房から貰うた三行半をよむ時、始めての大道演説、葱の義太夫に出歯包丁の小包を貰うた時、取締に一喝された時、咬んだ唇、弱虫の夜道、死刑の宣告、まあザツとこんなものだ、皆ふるつてゐるだらう。慄ふのが今日の世態だ。普選即行だと云つて、衆生が一致団結、城下に迫るや否や、元老の自由とか言論の自由とかが、圧迫するとか、圧迫されたとか云つてふるひ落されるだないか。清遊会でさへも分裂して新党を樹て、悪玉をふるひおとしてゐるだないか。まだもふるふてゐるのは、古手親爺の跋扈跳梁だ。車夫だつて、古なりや車もロクに輓けやしないぞ。車夫組合でも作つて、お前達のやうな老齢職にたへざる者は振ひおとす考へだ、イツヒヽヽヽヽ』
浅『オイ愛公、汝も一つ加勢してくれ、国公は其筋の犬かも知れないよ。どうみても乗馬面をしてゐるだないか。松若彦の奴、世の中が怖ろしくなつたものだから、俺等の仲間の様子を考へようと思つて国公をよこしよつたのかも知れぬ。此奴、車夫に似合はぬ銭使ひがあらい。そしていつも帳場に座つて、足が痛いの腰が痛いのと吐かして、一度も客を乗せた事はないぢやないか。うつかりしてると足許から鳥が立つやうな目に合されるかも知れぬぞ。俺達下層社会の秘密を探つてる奴だから、どうだ今の内に殺んで了はふだないか、エヽーー』
愛『オイ浅、汝は国公を今迄普通の車夫と思つてゐたのか、エヽトンマだな。そんなウス野呂では車夫だつて勤まりやしないぞ。今日の世の中の有様を考へてみろ、宣伝使や比丘の連中はいかめしく法衣をまとつて淫事に耽り、神仏を悪用して正直な人間をだまし、武士は銭を愛し暫消の力を悪用して衆生を圧迫し、黄金力を濫用してトラストを作り、利権を獲得し、不時の災害に附込んで暴利を貪る商人が頻出し、懺悔の生活を喰物にする偽君子が現はれた世の中だ。俺等のやうにボロ車を輓いたり、其間には俯向いて土を掘り、汗や脂で取上げた収獲を吸ひとられ本当に地獄道の生活をしてゐるやうなものだ。大きな面をしてゐやがる連中は懐手で握り睾丸で飯をくらひ、白昼大道の真中を自動車の土埃を立て乍ら、売笑婦と共にかけ廻り人の迷惑はそ知らぬ顔、おまけに俺達の子供を引倒しておいて、屁一つ放りかけてゆくといふ不人情な、不合理な、不正義な無人道な世の中を誰だつて歎かないものがあらうか。俺達は之からかふいふ邪道を通る横着者の内面を悉く暴露し、天地の道理を明かにして、純真な人道に返し、此宇宙をして光明世界に捩直さねばならないのだ。実の所を云へば、此国さまも此愛さまも、生れついての車夫だない。一寸様子があつて社会改造の為に、顕要の地位をすて、両親や家来に叛いて、貧民窟の研究にかかつてゐるのだ。実際の事いへばお前達は可愛相なものだ。弥勒菩薩は土から現はれると云ふことだが、今日の乗馬社会には吾々を徹底的に救ふて呉れるやうな聖人君子は現はれないだらう。それだから俺達も身を下して下層社会の仲間に入り、民情を研究してゐるのだ。併し乍ら最早天運循環、上下揃へて桝かけひきならすと云ふ御神勅の実現期が近付いたのだからまア安心し玉へ。やがて普選にもなるだらうから、其時はお前も代議士の名乗を上げて議政壇上に咆哮し、珍の天地を昔の神代に返すのだな、アツハヽヽヽ』
浅『果して普選が即行され俺達でも代議士になつて社会の為に尽す様なことがあるだらうかな。凡て世の中は思ふやうに行かぬものだ。まして現代の如き信用の出来ぬ世の中では、俺達を買うて呉れるものはあるまい。何程普選を即行しても矢張り、ゼントルマンが黄白をまきちらして、益々俺達を泥濘の中へつき落すに違ひなからうと思ふよ。何故に又之程虚偽と罪悪に充ちた世の中だらう。よく考へて見ろ、一つだつて信用されることはないぢやないか。地震博士の予言、天気予報、老茶式部の兄さまと云ひ、媒介者の口から云ふ初婚と品行問題、新聞の攻撃記事俄の中止、如何なる重症も一週間に根治すると云ふ梨田ドラックの広告、新聞雑誌の発行部数、福引の一等当選品の行衛、葬礼の出棺時間、売薬屋の御礼広告、連日連夜満員大入の提灯持、正何時に御来会下され度候、天下無比の大勉強店は弊店のみと、何から何迄嘘で固めた世の中ぢやないか。普選だつて、矢張売薬屋の広告同様で、一時遁れの人気取だらうよ。俺は決してここ二年や三年の間には普選が実行されるものとは思はないね。マア孫の代位になつたら、せうことなしに普選断行と出かけるだらうよ。それよりも俥夫は俥夫としての立場から、一文でも高値を吹きかけて、不当の賃銭を取つてやるのだなア。お前達両人は何だか乗馬出の様な口吻をもらしてゐたが、自分から名乗る奴にロクな奴アありやしないワ。大方稲田大学の落第生位だらうよ。取締にもなれず、教員にもなれず、政治家になるには金が要るし、放蕩の結果俥夫に成り下り見事理窟丈覚えて来て法螺を吹いてるのだらう。俺の霊眼に汝の顔に堕落生だと書いてあるのが見えすいてゐるのだからな、ウツフツフヽ』
と互に不得要領な法螺を云ひかはしてゐる。其処へ靴音忍ばせやつて来たのは交通係の印を腕に巻いた色の青白い営養不良的な面をした取締であつた。三人は思はず、かいてゐた胡坐を元へ直し、キチンとすわり込んだ儘取締の面を見上げた。
(大正一三・一・一九 旧一二・一二・一四 於道後ホテル、松村真澄録)
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