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文献名1霊界物語 第70巻 山河草木 酉の巻
文献名2第2篇 千種蛮態よみ(新仮名遣い)せんしゅばんたい
文献名3第11章 血臭姫〔1778〕よみ(新仮名遣い)ちぐさひめ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2020-05-28 01:40:24
あらすじ突然宴の間に現れた千草姫は、キューバーの投獄の沙汰について、王、太子、ジャンク、照国別を非難し、皆にさんざん悪態をついて退出する。あまりのことに王は怒り心頭に達し、また照国別に無作法をわびるが、逆に照国別は、慈悲の道に従い、キューバーを釈放するように提案する。明日、ジャンクが牢獄に行ってキューバーを解放する手はずとなって参会するが、太子はひとり心のうちで、悪人キューバー釈放が気に入らない様子である。
主な人物 舞台 口述日1925(大正14)年08月24日(旧07月5日) 口述場所丹後由良 秋田別荘 筆録者松村真澄 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年10月16日 愛善世界社版136頁 八幡書店版第12輯 439頁 修補版 校定版139頁 普及版67頁 初版 ページ備考
OBC rm7011
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本文  千草姫は満座をキヨロキヨロ見まはし乍ら、瞋恚にもゆる胸の火をジツと抑へ、わざと笑顔を造り、特に慇懃に両手をつかへて、首を二つ三つ左右に振り乍ら、屈んだ儘顔を上げ、額と腮とを殆んど平行線にし乍ら、
『これはこれは吾夫ガーデン王様を始め、智謀絶倫の勇士チウイン太子、野武士の蛮勇ジヤンクの爺さま、三五教の宣伝使雲国別オツト違つたピカ国別、又違つたデルクイ別とか云ふ神司、其他のお歴々の方々へ今日の御祝儀、目出たう御祝申しまする。いよいよ之にてトルマン国は天下泰平、万代不易の基礎が定まることと慶賀に堪へませぬ。時にスコブツエン宗の名僧トルマン国の救ひ主、キユーバー殿は如何致されたか。チウイン太子に対し、此母が恐れ乍ら一言訊問に及びまする。何と云つても親と子の仲、決して遠慮は要りませぬ。サ、早く実状を述べさせられよ』
 此言葉にチウイン太子は言句も出でず、ハアハアと云つたきり俯むひて了つた。
千草『ホヽヽヽヽヽ、これ悴チウイン殿、最前もいふ通り、親と子の仲、隔てがあつては家内睦まじう治まりませぬ。其方は此母に対し、必ず必ず不孝の振舞は御座いますまいな』
 チウイン太子は益々言句に詰り、『ハ、ハ』と云つたきり、俯むひて了つた。ガーデン王はキリリと目を釣上げ、
『ヤ、千草姫、倅に問ふ迄もなく余が逐一説明しよう、トクと聞け。彼れキユーバーなる者は不敵の曲者、神聖無比なる大神の祭典に際し、照国別様の大切な御冠に手をかけ、群衆の前にて赤恥をかかさむとしたる乱暴者、余は其場に於いて切つて捨てむかと思ひしか共、何をいつても大神の御前、血を以て聖場を汚すも恐れ多し、時を待つて誅伐せむと控えをる折しも、キユーバーが不敵の行動益々甚だしく、口を極めて宣伝使を罵詈讒謗し、両手を拡げて行列の妨害をなすなど、言語に絶したる其振舞、見るに見かねてチウイン太子はジヤンクに命じ、キユーバーを捕縛し、獄に投じておいたのだ。城内の安寧秩序を保つ為、最も時宜に適した処置と余は心得てゐる』
千草『ホヽヽヽヽヽ、如何にも乱暴者を縛り上げ、獄に投じ玉ふは国法の定むる所、之について千草姫一言も異存は御座いませぬが、彼れキユーバーだつて、もとより悪人でもなく、狂乱者でもなからうと存じます。彼としてかかる暴挙に出でしめたるに就いては、何か深き原因がなければなりませぬ。軽卒に外面的行動のみをみて、一応の取調もなく、所もあらうに大神の御前に於て、不遜極まる罪人を出し玉ふとは千草姫心得ませぬ。刹帝利様、愚鈍なる妾の得心が行く迄御説明を願ひませう』
王『喧しう云ふな、汝の知る所でない。余は余としての考へがある。女の出しやばる幕でない。サ、トツトと汝が居間に立返れよ』
千草『ホヽヽヽヽヽ女の出しやばる場合でないとは刹帝利様、ソラ何といふ暴言で御座います。王様は国民の父、王妃は国民の母で御座いますよ。昔の神代に於ても伊弉諾命伊弉冊命二柱、天の御柱を巡り合ひ、なり余れる所と、なり合はざる所を抱擁帰一遊ばし、天下の神人を生み玉ふたでは御座いませぬか。男子は外を守る者、女子は内を守る者、何と仰有つても此城内の出来事、千草姫の権限に御座いますよ。もし妾を排斥遊ばすならば、トルマンの国家は風前の灯火、何程立派な国王様だとて王妃の内助なくして、一日も国が保たれまするか。能く能く御考へなされませ。それにも拘らず、ウラルの神様の御祭典に当り、ウラルの宣伝使を一人も用ひ玉はず、大神の忌みきらひ玉ふ曲神の教を奉ずる三五教の宣伝使を抜擢して斎主となし玉ふは、実に天地の道理を紊したりといふもの。私かに承はれば彼れ照国別はウラル教の謀叛人、中途に於て三五の邪教に沈溺せし者、益々神の御怒りは甚だしかるべく、何時如何なる災の、神罰に仍つて突発するかも知れますまい。又ウラル教以外の異教徒を以て、斎主となすの已むを得ざる場合ありとせば、何故国難を救ひたる彼れキユーバーを重用し、斎主を御命じなされませぬか。邪臣を賞し、逆臣を戒むるは政治の要訣、霊界さへも天国地獄が御座いまするぞ。今度の戦ひに於ける第一の勲功者を除外し、神の御前に於て彼れに恥を与へしを以て、彼れキユーバーは悲憤の余り、かかる暴挙に出でたものと考へるより外余地はありますまい。否決して決してキユーバーの意志ではなく、ウラル教の大神、盤古神王の彼の体を藉つての御戒めに相違御座いますまい。かかる忠臣義士を牢獄に投ずるとは以ての外、千草姫一向合点が参り申しませぬ。キユーバーを牢獄に投じ玉ふに先立ち、何故照国別一派を投獄なさりませぬか。かかる明白な理由を無視し、一国の王者で依怙の沙汰を遊ばすに於ては、之より賞罰の道乱れ、刑政行はれず、国家は再び混乱の巷となるで御座いませう。照国別は実に微弱なる教派の一宣伝使、キユーバーは大黒主の御覚目出たしといふスコブツエン宗の大教祖で御座いませぬか。万々一吾国運衰へ、再び大黒主、此度の戦争の恥辱を雪がむと、数万の兵を引つれ押よせ来らば何となされます。其時に当つて最も必要なる人物は、キユーバーを措いて外には御座いますまい。それ故妾は飽く迄も彼を懐柔し、まさかの時の用意にと、平素より歓心を買ひおき、国難を救ふべく取計らひをるので御座います。かかる妾が深遠なる神謀鬼策も御存じなく、勢に任せて、照国別の肩をもち、キユーバーを獄に投ずるとは、何といふ拙い遣り方で御座いませうか。妾は仮令キユーバーに少々の欠点ありとて、邪悪分子ありとて、左様な些細な点迄詮索する必要はありますまい。彼さへ薬籠中の者として優待に優待を重ねて城内に止めおかば、大黒主なりとて、さうムザムザと本城へ攻めても来られますまい。仮令不幸にして国難勃発する共、大黒主の御覚めでたきキユーバーを派遣せば、何の苦もなく平和に治まる道理ぢや御座いませぬか。トルマン国永遠平和の為にはキユーバーを獄より引出し、刹帝利を始めチウイン太子、ジヤンク等、九拝百拝して其罪を謝し、照国別を面前に於て縛りあげ、キユーバーの遺恨をはらし玉はねば、吾国家の為に由々しき大事で御座りまするぞ。又ウラル教と三五教の聯合は国策上最も不利益千万で御座います。速に此聯合を破壊し、スコブツエン宗と聯合提携するに於ては、ハルナの都の大黒主の怒りも解け、吾国家は安穏に国民挙つて平和の夢を貪ることを得るで御座いませう。千草姫の言葉に之れでも異存が御座いまするか』
王『だまれ、千草姫、国家の危急を救ひ玉ひし照国別御一行に対し、無礼極まる其雑言、最早聞捨ならぬぞ』
千草『ホヽヽヽヽヽ、青瓢箪や干瓢や西瓜の様な干からびた青い頭を並べて、お歴々の御相談、よくマア国家を亡ぼす為の立派な御行動を、此千草姫遥に眺めて実にカンチン仕りますワイ。刹帝利様は老齢のこととて聊か精神御悩みあり、一々仰せらるることは正鵠を欠き玉ふは無理なけれ共、倅チウインの如きは血気の若者、斯やうな道理が分らずして、どうして此国家を保つことが出来ようぞ。いざ之よりは王様に退隠を願ひ、憚り乍ら千草姫女帝となつてトルマン国を治めるで御座いませう。まだ口のはたに乳の臭がしてゐるチウイン如きは、到底妾の相談相手にはあきたらない、ホヽヽヽヽヽ』
チウ『母上に申し上ます。父ガーデン王があつてこそ貴女は王妃の位置に就いて、国の母として政治に干与遊ばし玉ふことを得るのでは御座いませぬか。父王が退隠されるとならば、母君は政治に干与する権利は御座いませぬぞ。そこをトクと御考へなさいませ』
千草『ホヽヽヽヽヽ小賢しい、コレ悴、何といふ分らぬことを申すのだ。女が政治の主権者となることが出来ぬとは、ソリヤ誰に教はつたのだい。能く考へて御覧なさい。天照大神様は女神でいらつしやるぢやないか。英国の皇帝はエリザベスといふ女帝が太陽の没するを知らぬ迄の大版図の主権者となつてゐられたでないか。子の分際として母に口答へするとは不孝此上もなし。其方も此上一言でも云つてみなさい。母の職権を以て牢獄に投込みますぞ』
といひ乍ら、ツと立上り、畳ざわりも荒々しく吾居間さして帰り行く。
 刹帝利は余りの腹立たしさと、照国別に対する義理から、千草姫を手討にせむとまで覚悟をきめてゐたが、又思ひ直して、グツと胸を抑へ、歯をくひしばり慄ひつつあつた。チウイン太子も父の様子の常ならぬを見てとり、いよいよとならば、父の両腕に取縋つて千草姫を助けむものと、心中に覚悟をきめてゐた。刹帝利は漸く口を開き、
『照国別の宣伝使様、彼れ千草姫は、先日来の戦争に脳漿を絞つた結果、精神に異状を来してをりますれば、何卒神直日大直日に見直し聞直し寛大に御宥しの程願奉りまする。穴でもあらば潜り込みたくなりました』
と気の毒さうにいふ。照国別は平然として、
『刹帝利様、其御心配は御無用で御座います。決して千草姫様の御本心から仰せられたのでは御座いませぬ。之には少し理由が御座いまするが、今日は申し上ぐる訳には行きませぬ。決して私は千草姫様のお言葉に対し、毛頭意に介して居りませぬ。どうか御安心下さいませ』
王『ヤ、それ承はつて安心致しました。何卒々々末永く御指導を願ひ奉ります。時に照国別様、如何で御座いませうか、彼れキユーバーを厳罰に処して、禍根を断たむと存じまするが』
照国『私は人を助くる宣伝使、仮令鬼でも蛇でも悪魔でも赤心を以て臨み、誠の限を尽し、誠の道に帰順させるが神の道、刑罰などは不必要かと存じます。人は何れも神の精霊を宿したもの、人間で人間を審くなどとは僣上至極な行方、一刻も早くキユーバーを御助けなさるが可からうかと存じます。さすれば千草姫様の心も和らぎ、家庭円満の曙光を認むるに至るで御座いませう』
王『成程、一応御尤もかと存じます。チウイン、其方は何う考へるか』
太子『ハイ、私は天にも地にも替へがたい吾母の意志に反き、彼れキユーバーを国民の面前に於て捕縛致しました。之に就いては非常な決心を持つて居ります。彼が再び城内に入り、母と結託して権威を揮ふに於ては、吾王室は風前の灯火も同様で御座いませう。宣伝使の御言葉なれど、之許りは即答する訳には参りませぬ』
ジヤンク『恐れ乍ら、王様を始め太子様に申し上げます。何は兎も有れ、千草姫様の御心を汲取り、彼れキユーバーをお免しなさつたが可からうかと存じます。万々一再び脱線的行動を取るに於ては、容赦なく再び投獄すれば可いぢや御座いませぬか。及ばず乍ら、此ジヤンク、余生を王室に捧げ、一身を賭して国家を守る考へで御座いますから』
王『イヤ、それを聞いて安心致した。左守右守の両柱共に、此度の戦ひに於て他界なし、棟梁の臣なきを心私かに歎いてゐた矢先、智勇絶倫なる汝が、一身を賭して都に止まり、吾国家を守つてくれるとあらば何をか云はむ。キユーバーの処置は汝に一任する。能きに取計らへよ』
ジヤ『早速の御承知、有難う存じまする。太子様、ジヤンクの此処置に就いては、チツと許りお気に入りますまいが、ここは少時此老臣に御任せ下さいませ』
チウ『余は此問題に就ては何も言はない。余は余としての一つの考へを持つてゐる』
 照国別は立上り、音吐朗々として歌ひ出した。
『神が表に現はれて  善悪邪正を立分ける
 此世を造りし神直日  心も広き大直日
 只何事も人の世は  直日に見直せ聞直せ
 世の過ちは宣り直せ  三千世界の梅の花
 一度に開く神の国  開いて散りて実を結ぶ
 月日と土の恩を知れ  此世を救ふ生神は
 高天原に神集ふ  あゝ惟神々々
 御霊幸ひましませよ  旭は照とも曇る共
 月は盈つ共虧くる共  仮令大地は沈む共
 誠の力は世を救ふ  誠の力は世を救ふ
 あゝ惟神々々  御霊幸ひましませよ』
と謡ひ了り、舞ひをさめた。此言霊に一同は勇み立ち、何事も神のまにまに任すこととなり、此宴席を無事閉づることとなつた。
(大正一四・八・二四 旧七・五 於丹後由良秋田別荘 松村真澄録)
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