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文献名1霊界物語 第70巻 山河草木 酉の巻
文献名2第3篇 理想新政よみ(新仮名遣い)りそうしんせい
文献名3第20章 千代の声〔1787〕よみ(新仮名遣い)ちよのこえ
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2018-12-28 16:16:51
あらすじ太子は、レール、マークが千草姫襲撃に失敗して捕らわれたことを知り、自ら彼らを助けに行こうとするが、妹の王女に止められる。そこへ、マーク、レールの妻が、マークとレールが入獄したと聞いて、離縁状を届けにやってくる。妻たちが去っていくと、入れ違いに、釈放されたマークとレール、そして照国別、照公が帰ってくる。一同は、いよいよ教政改革の時がきたと判断し、新内局組織の協議会を開いた。
主な人物 舞台 口述日1925(大正14)年08月25日(旧07月6日) 口述場所丹後由良 秋田別荘 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1925(大正14)年10月16日 愛善世界社版251頁 八幡書店版第12輯 482頁 修補版 校定版258頁 普及版128頁 初版 ページ備考
OBC rm7020
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本文  シグレ町のレール、マークの留守宅にはチウイン太子、チンレイ、テイラ、ハリスの四人が淋しく頭を鳩めて密談をやつてゐる。
テイラ『もし太子様、レールさまやマークさまは、到頭やりそこなつて捕はれたさうぢや御座りませぬか。妾は水汲みに参りました際、そこに落ちてゐた号外を見て吃驚しましたよ』
チウ『ナニ、やりそこなつたかな。ヤアこいつア困つたな。かうしては居られまい。ジヤンクの処へでも行つて二人を救ひ出す工夫でもせなくちやなるまい』
テイ『およしなさいませ、剣呑ですよ。金毛九尾の悪狐の憑依した千草姫ですもの、どんな難題をつけて、又もや太子様を牢獄に投げ込み命をとるか知れませぬから』
チウ『それだと云つて、国家の志士を見殺しにする訳には行かぬぢやないか。余は之から、どうなつても構はぬ。二人の遭難を坐視するには忍びない。一つあらゆる手段を尽して助けて見ようと思ふのだ。どうか君等三人は外に出ぬやうにして待つてゐてくれ』
チンレイ『お兄様、千金の御身を以て軽挙妄動はお止しなさいませ。万一御身の上に危険が迫り、お命でも失ひ遊ばすやうな事があつては、それこそトルマン国は常暗になつて了ひますわ。これ丈け人心騒々しく、豺狼虎竜の跋扈跳梁する世の中、何程太子様の権威だつて、どうする事も出来ますまい。今の重僧共は我利我欲の外に何も念は御座りませぬ。千草姫の化物に誑惑され、金の轡をはまされてゐる悪人許りでありますから、太子様だとて、吾身の栄達の為には容赦は致しませぬよ。教務総監のジヤンクさまでも動かさうとしてゐるのですもの。そんな剣呑な処へ、お越しになつてはいけませぬ。これ許りは思ひ止つて下さい』
と太子の袖に縋りつき涕泣する。
チウ『ヤ、困つたな。そんなら暫くお前の意見に任して待つ事としようかい』
 斯く云ふ所へ二三人の男ドヤドヤと入り来り、ソツと門口を覗き乍ら、
男『ヤア、誰か来てゐるやうだ、オイ誰だい。レール、マークの大将は不幸にして捕まつたやうだが、お前は誰だい』
チウ『ヤア兄弟か、マア這入り給へ。実は俺もなア、親分が捕まつたと聞いて、向上会員と共に、様子を考へに来た所、誰も連中が来てゐないので、留守師団長をやつてゐたのだ。お前は誰だつたいな』
男『俺かい、俺やタールにハール、ケースの三人だ。号外を見てこいつは大変だと思ひ、誰か見舞ひに来てゐるに違ひないと、取るものも取り敢ず駆けつけて来たのだが、お前は一体誰だつたいのう』
チウ『俺かい、俺はレールの兄貴の秘蔵の弟だ。お前等の名は常から聞いてゐたが、俺は特別の任務を預つてゐたから、お前達に隠してゐたのだ。かうなれば黙つて居る訳には行かぬが、何とか運動をやつてるだらうね』
タール『ヤア実は号外を見るより、同志がクルスの森に集まり、親分を何とかして取返さうと相談してる最中に、数百の番僧隊がうせやがつて、十重二十重に取り囲んだものだから、どうする事も出来ず、同志は四方に散乱して了つたのだ。本当に俺等の運動に対しては、親分の入獄は泣き面に蜂だ。痩児に蓮根だ。どうにもかうにも、今の処手のつけやうが無いわい。オイ、兄貴、何かいい考へはなからうかな』
チウ『待て待て、さう慌てた処で仕方がない。今は役僧共の頭が非常に鋭敏になつてゐるから、大きな声で物一つ云ふ事も出来ない。暫く成行に任し、時を得て奪ひ返すより外に方法はなからうぞ。マアゆつくりし給へ』
タ『オイ、ハール、ケース、兄貴があゝ云ふから、兎も角一服しようぢやないか』
『ウン、よからう』
と二人はタールの後について狭い床かばちに腰を下した。
タ『ヤア、然もナイスが三人も居るぢやないか。オイ兄貴、うまい事してやがるな。一人寄つて三人も占領するとは、本当に凄い腕前ぢやないか。吾々の主義から云つても、こんな不道理の事ア出来ない。どうだ婦人国有論の実行をやらうぢやないか』
チウ『馬鹿云ふな。この三人は皆婦人向上会員だ。婦人参政権獲得運動の張本人だよ。レール、マークの両人が遭難を聞いて、親切に尋ねて来てくれたのだ』
タ『成程そらさうだらう。これこれ御婦人、此際しつかり御活動願ひますぜ。然し何時バラスパイが追跡して来るかも知れぬから、永居は恐れだ。兄貴又ゆつくりお目にかからう。左様なら』
と足早に暗の路地に姿を消した。
 その夜は積んだり崩したり、いろいろと小声で話し乍ら眠つて了ひ、翌朝早うから三人の女が炊事をしたり、そこらを掃いたりやつて居ると、乳飲児を背に負うた二人の女が、相当な衣服を身に纏ひ乍ら門口に立ち、
女『もし、一寸お尋ね申しますが、レール、マークの宅は当家ぢや御座りませぬか』
テイラ『ハイ、左様で御座ります。誰方か知りませぬが、先づ御這入り下さいませ』
女『妾はクロイの里のマサ子、カル子と申すもので御座ります。レールさまやマークさまが、小本山の役僧に捕へられ、入獄をなさつたと聞きまして、取るものも取り敢ず遙々と尋ねて参りました。どうで御座りませうかな。早速には帰つて御座るやうな事はありますまいか』
テイ『貴女は、さうすると、マサ子さま、カル子さまと仰有いましたが、レールさま、マークさまの奥さまぢや御座りませぬか』
マサ子『ハイ、妾はレールの女房で御座ります。この方はマークさまの奥さまで御座りますよ。向上運動とか何とか云つて奇妙な事を主人がやるものですから、妾の所まで番僧が張つて居りますの。本当に困つて了ひますわ』
チウ『ヤー奥さまで御座りますか。サア、どうか此方へお掛け下さいませ。別に、さう御心配にも及びますまい。やがて許されて帰つて来られるでせう』
マサ子『ハイ、有難う御座ります。本当に妾二人は不運なもので御座ります。何程意見を致しましても、女の知る事でないと、一言にはねつけ、一言も女房の云ふ事を聞いて呉れないものですから、たうとうこんな災難にあつたので御座ります。親類や兄弟からも喧しく申しまして、縁を切つて帰つて来い帰つて来いと勧めるのですけれど、二人の仲に、切つても切れぬ鎹が出来ましたので、可愛い子供を継母の手に渡すのもいぢらしいと思ひ、泣きの涙で今日迄辛抱して来ましたが、もう堪へ切れませぬ。それでキツパリ縁を絶つて貰ひ度いと思ひまして尋ねて来たので御座ります』
チウ『女房が夫に離縁を請求するとは、如何なる事情があるにもせよ、不貞の甚しきものだ。今時の女性は、どれもこれも、我利しだから、困つたものだな』
マサ子『そりや一応御尤もで御座りますが、こんな夫に添うて居りましては、此世の中で安心して暮すことが出来ませぬわ。貴方は矢張レールのお仲間で御座りますか』
チウ『ハア、さうです。兄貴がかまつたものだから、是非なく嬶と一緒に、この牙城を守つて居ります。随分留守師団長も、いい加減なものですよ』
カル子『綺麗な御婦人が、しかも三人居らつしやいますが、此二人はどうやら、レールさまとマークの愛してゐられる御婦人でせう。本当に妻子に対し、あるにあられぬ心配をかけておき乍ら、何と云ふ酷い人だらう。マサ子さま、もう駄目ですよ。スツパリと断念しようぢや御座りませぬか』
マサ『本当にさうですな。こんな白首があるものですから妻子を顧みず、こんな所に好きすつぽうな暮しをやつてゐるのですよ。エーもう穢しうなつて来ました。サア帰りませう』
と早くも立去らむとする。
チウ『もしもし奥さま、そら違ひますよ。さう、誤解されちやレールさまや、マークさまに気の毒ですわ。之には深い訳があります。さう怒らずに一応私の云ふ事をお聞き下さい』
マサ『エーエー何と仰有つても、私の耳には這入りませぬ。現在白首を見せつけ乍ら百万遍の弁解をなさつても、私の耳へは到底這入りませぬ。こんな事だらうと思ひ、マサカの時の用意にと、カル子さまと相談の上に、親兄弟の承諾を得て、ここに離縁状を持つて参りました。レール、マークの両人は囚はれの身の上ですから、直接に渡すことは出来ませぬから、兄弟分の貴方に確に渡しますから、どうか面会においでになつても、「マサ子やカル子の事はフツツリ思ひ切つて下さい。以後関係はありませぬから、児は貴方の出獄迄預つておきます」と、伝へて下さい。エー残念やな残念やな』
と二通の離縁状を投げつけ地団駄踏み乍ら、路地口を一生懸命雲を霞と帰り行く。
チウ『ハツハヽヽヽ、テイラさま、ハリスさま、お目出度う。到頭レール、マークさまの奥さまにして了はれたぢやないか。満足でせうね』
 二人は顔を真赤に染め、
『太子様、腹の悪い、揶揄もいい加減にして下さいな。ホヽヽヽヽヽ』
チウ『ヤ、此奴は冗談だ。ハヽヽヽヽヽ』
と笑ふ折しも、鈴の音けたたましく仁恵令の行はれ、囚人は全部解放されたと云ふ一葉の号外が舞ひ込んで来た。四人は此号外を見るより思はず知らず手を拍つて、天地の神に感謝した。
 チウインにも三人の女の目にも嬉し涙が滲んでゐた。そこへイソイソとしてレール、マークの二人が帰つて来た。
チウ『ヤア、兄貴、よう帰つて来てくれた。今も今とて大変に心配をしてゐた処だ。随分困つただらうな』
レ『ヤア有難う。おかげで解放されました』
マ『どうも御心配をかけて済みませぬ。ツイやり損じたものですから、あんな失敗をしたのですよ。時に珍らしいお方を連つて帰りました。お目にかけませうか。路地の入口に待つて居られますから』
チウ『珍らしい方とは、オイ君、誰だい』
レ『貴方の神軍を救けられたと云ふ、三五教の宣伝使様ですよ。不思議の縁で同じ牢獄へ打込まれて居つたのです』
チウ『何、宣伝使、ヤアそりや、かうしては居られぬ。ドレ、僕が御挨拶に行かう』
と云ひ乍ら、レール、マークに案内させ、路地口に出て見れば、照国別、照公の二人がニコニコとして立つてゐる。
チウ『ヤア、宣伝使様、誠にお気の毒な事で御座りました。何分継母に曲神が憑依して居りますものですから、清浄潔白な貴方様を、あのやうな穢しい牢獄に投込んだもので御座りませう。どうぞ私に免じ、量見してやつて下さいませ』
照国別『イヤ、貴方はチウイン太子様、国家の為め、尊貴の御身を落し、御尽力の段、実に感謝に堪へませぬ。何事も皆神様の御経綸ですから、そんなお気遣ひは御無用にして下さい』
照公『太子様、愈教政改革の機運が廻つて来たやうで御座りますわ。お喜び下さいませ。最早、斯様な貧民窟にお暮し遊ばす時期は済みました。どうか堂々と名乗りをあげ、教政改革にお当り下さいませ。私は師の君と共に、有らむ限りのお助けを致し度い考へで御座ります』
チウ『ヤ、如何にも、お説の通りいよいよ時節が到来したやうに思ふ。サア、レール、マーク両人、ここで一つ臨時会議でも開いて、仮内局を組織しようぢやないか』
レ『兎も角、ここでは都合が悪う御座りませう。九尺二間の御殿まで参りませう、アハヽヽヽ』
と笑ひ乍ら帰り来り、ここに男女六人は頭を鳩めて、新内局組織の協議会を開いた。雀の声も今日は何となく勇ましく千代々々と聞え来る。
(大正一四・八・二五 旧七・六 於由良秋田別荘 北村隆光録)
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