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文献名1霊界物語 第72巻 山河草木 亥の巻
文献名2第2篇 杢迂拙婦よみ(新仮名遣い)もくうせっぷ
文献名3第13章 捨台演〔1822〕よみ(新仮名遣い)すてたいえん
著者出口王仁三郎
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
あらすじしかし結局キューバーは、ダリヤへの思いに負けて、ダリヤに自分の恋人になれと、強談判してしまう。ダリヤは騒ぎ出し、花香とヨリコ姫がやってきて、キューバーを責める。キューバーはやぶれかぶれに、ヨリコの昔の悪行をお上に訴えると脅すが、逆にヨリコに証拠はどこにある、と詰め寄られてしまう。キューバーは捨台詞をはいて、その場を立ち去った。キューバーはダリヤの兄、イルクの屋敷に向かい、イルクや門番に当り散らして、どこかへ消えてしまった。
主な人物 舞台 口述日1926(大正15)年06月30日(旧05月21日) 口述場所天之橋立なかや別館 筆録者北村隆光 校正日 校正場所 初版発行日1929(昭和4)年4月3日 愛善世界社版153頁 八幡書店版第12輯 658頁 修補版 校定版159頁 普及版59頁 初版 ページ備考
OBC rm7213
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本文  雪隠掃除を引受けた  偽改心のキユーバーは
 玉清別の神司  ダリヤの姫と相並び
 祝詞をあげる姿見て  心猿意馬が狂ひ出し
 睦じさうな様子見て  やけて堪らず地団太を
 踏んでは見たが今少時  館の様子を考へて
 その上何とかせむものと  いろいろ雑多とすみずみに
 心を配り居たるこそ  スガの宮居の館には
 剣呑至極の代物ぞ  五日六日と経つ中に
 キユーバーは恋の焔をば  胸に燃やしてダリヤ姫
 何とか物にせむものと  考へすます折もあれ
 便所掃除の其際に  厠に入りしダリヤ姫
 これ幸ひ屈強の場合ぞと  手洗鉢の前に立ち
 柄杓に水を汲み乍ら  ダリヤの両手に注ぎつつ
 隙を覗ひ白魚の  繊手をグツト握りしめ
 『これこれもうしダリヤさま  私は貴女に真剣だ
 私の願を今一度  聞いて貰はにや死にまする
 睾丸さげた大丈夫  繊弱き女に手を合し
 頼むは畢竟恋故ぞ  恋に上下の隔てない
 主人僕といろいろに  名は変れども人間は
 何れも天帝の分霊  尊い卑しい等と云ふ
 そんな区別があるものか  雪隠掃除と侮つて
 私の言ふ事聞かぬなら  此方も一つ思案する
 後日に臍をかまぬやう  性念をすゑて御返答
 天晴なされよキユーバーが  乗るか反るかの境目だ
 一人の男を生かさうと  殺さうとお前の胸次第
 醜い男と云つたとて  虎や熊ではあるまいし
 目鼻口耳眉毛まで  立派について居る男
 手足の指も五本ある  お前も美人と云つたとて
 道具に変りはあらうまい  早く思案を定めて呉れ
 私も男の意地だもの  云ひ出した事ア後に引かぬ
 サアサア返答』と、詰寄れば  ダリヤの姫は打笑ひ
 『これこれキユーバーのお爺さま  お前は本気で云ふのかい
 お酒に酔うて云ふのだろ  道理で顔がチト赤い
 そんな下らぬ囈言を  云ふ間があつたら逸早く
 屋敷の掃除をするがよい  ヨリコの姫さまが聞いたなら
 甚いお目玉喰ふだらう  決して悪い事言ひませぬ
 その手を放して下さんせ』  云へばキユーバーは目を剥いて
 『どうしてどうして放さうか  この手を放した事ならば
 お前は直様ヨリコ姫  女帝の前に飛び出して
 俺のした事告げるだらう  さうなりや俺もこの館に
 お尻を据ゑて居られない  一旦弓を放れたる
 征矢は元へは帰らない  善き返答』と詰寄れば
 ダリヤ金切声を出し
 『あれあれ怖い助けて』と  息を限りに呼はれば
 花香は驚き馳せ来り  此有様を打眺め
 『誰かと思へばキユーバーどん  ふざけた事をするでない
 此処は尊き神館  心得なさるが宜しからう
 渋紙見たやうな面をして  天下の美人の手を握り
 恋の鮒のと何のこと  お前の面と御相談
 した上その手を放さんせ  本当に呆れた売僧だな
 改心すると詐つて  少時館に忍び込み
 まめまめしくも見せかけて  恋の欲望を達せむと
 企らみ居たる猫かぶり  お前のやうな悪党は
 一時も早く去犬がよい  しつこうその手を放さねば
 ヨリコの女帝に告げるぞや』  云へばキユーバーは胴を据ゑ
 大口開けて高笑ひ
 『アツハヽヽヽハツヽヽヽ  こらこら小女章魚バイタ
 俺を何方と心得る  大黒主の御信任
 最も厚き救世主  スコブッツエン宗の大教祖
 キユーバーの君で御座るぞや  高が知れたる薬屋の
 一人娘や杢兵衛の  はした娘の身を以て
 頬げたたたくおとましや  ヨリコの姫が何怖い
 オーラの山に立籠り  山賊稼いだ兇状持ち
 バラモン署に出頭して  恐れ乍らと出かけたら
 一網打尽貴様等も  同類仲間と見做されて
 暗い牢獄に打込まれ  日の目も見ずに呻吟し
 喞ち嘆けど是非もなく  忽ち日陰の罪人と
 なつて行くのは目のあたり  それでもキユーバーの要求を
 拒絶するのか花香姫  ダリヤの姫のあまつちよよ
 俺も斯うなりや自暴自棄だ  スガの御殿を根底から
 でんぐり返し宮司  玉清別のデレ親爺
 吠面かわかし見せてやらう』  等と傍若無人なる
 キユーバーの言葉に呆れ果て  花香は直ちに奥の間に
 駆け込みヨリコの前に出で  キユーバーの暴状逐一に
 話せばヨリコは打笑ひ  衣紋繕ひ悠々と
 便所の近くに寄り来り
 『ホツホヽヽキユーバーさま  誠に親切有難う
 お尻の掃除をした上に  お手迄握つて洗うとは
 ようマア念の入つた事  御親切感じ入りました
 これこれそこなダリヤさま  キユーバーさまの云ふ事を
 心よく聞いて上げなされ』  云へばダリヤは涙声
 『何程私がスベタでも  卑しい身分であらうとも
 便所掃除をするやうな  爺さまに言葉をかけるさへ
 汚れるやうな気がします  況して妾を女房に
 なつて呉れとはあんまりだ  腹立ち涙が乾き果て
 呆れて物が言へませぬ  何卒許して下さんせ』
 ワツと許りに泣き入れば  流石のキユーバーも手を放し
 ヨリコの方に打向ひ
 『これこれヨリコの女帝さま  猫を被つて居た私
 かく現はれし上からは  破れかぶれだお前さまの
 首玉一つを貰はうか  それが嫌なら直様に
 バラモン署へと駆け込んで  お前の素性を素破抜き
 縄目の恥をかかさうか  如何で御座る』と洟すすり
 肩肱怒らし詰寄れば  ヨリコの姫は打笑ひ
 『妾が今迄悪行を  稼いだ証拠が何処にある
 分らぬ事を仰有ると  正反対に此方から
 お前をバラモンのお役所へ  訴へませうかキユーバーさま
 如何に如何に』と、反対に  逆捻喰はせばキユーバーは
 少時躊躇ひ息こらし  黙然として打沈む
 あゝ惟神々々  この顛末は如何にして
 落着するか此先の  成行こそは面白き。
 キユーバーは恋の情火に包まれ耐へきれずなり、ダリヤ姫の手を握つて、威しつ瞞しつ口説いて見たが、挺子でも棒でも動かないダリヤの強情にヤケを起し、バラモン署に訴へる等と脅喝を試みた。然れどもキユーバーの如き売僧、而も念入りに出来た醜男には横丁の牝犬にケシかけても飛びつかない面構へ、況して絶世の美人が秋波を送る道理なく、三人の美人に寄つて集つて恥しめられ、無念骨髄に徹し、……もう此上は破れかぶれだ、ヨリコの素性を素破抜き、バラモン署に訴へ、此怨を晴らさにやおかぬ……と言ひ乍ら問答所の看板を睨めつけ、それに啖唾をはきかけ、後足で砂をひつかけ夜叉の如き相好を現はし、ダリヤ姫の兄イルクに会つて目的を達せむものと、一言の挨拶もなく、厭らしい捨台詞を残して此場を立去つた。
 キユーバーは直に薬屋の表門を潜り玄関に立塞り銅羅声を出して、
『七千余国の月の国を御支配遊ばす大黒主の神司のお見出しに預つたるスコブッツエン宗の教祖キユーバーの君で御座る、是非主人に面会な致し度い』
と呼ばはる声に番頭のアルは慇懃に出で迎へ、
『ヤア何方かと思へばお前さまは、お館の掃除番ぢやないか、ナーンぢや吃驚した。大黒主だの、スコブッツエン宗の教祖だ等と大変な大法螺を吹くものだから、如何なる貴顕紳士がお出でかと思つたのに、何の事だ、よい加減に御冗談をしておかつしやい、サア早くお館へ帰つたり帰つたり』
キユ『黙れ番頭、此方は大黒主の片腕天然坊のキユーバーと云ふ大救世主だぞ、スガの館の様子を覗ふべく掃除番となつて入込んで居つたのだ。今に見ておれ、貴様の主人も老耄も貴様も共にフン縛つて、暗い暗い牢獄へブチ込んでやるぞ。早く此方を立派な座敷へ導け、老耄や主人へ云ひ聞かす事がある』
アル『嘘か本真か知りませぬが、一寸此由を主人に伝へて来ますから、待つて居て下さい』
キユ『グヅグヅして居ると承知ならぬぞ、早く奥に行け』
と叱りつける。アルは舌打ちし乍ら、
『チエツ、売僧坊主奴が』
と小言呟きつつ主人の居間に駆け込んだ。少時するとイルクはスタスタ入り来り、
『ヤア誰かと思へば掃除番のキユーバーだな、何の用だ。俺も忙しいから長つたらしい話は面倒だ、手取早く云つて呉れ』
キユ『こりやイルク、勿体なくも大黒主様の寵臣キユーバーの君に向つて、立ちはだかつて物申すと云ふ失礼な事があるか、控へ居らうぞ』
イル『何の事ぢやテント訳が分らぬ。オイ アル、横町の精神病院へ行つて院長さまを頼んで来い』
キユ『馬鹿を申せ、グヅグヅ致すと当家は断絶の憂目に会ふぞ、今迄大黒主の命によつて三五教の内幕を探るべく忍び込んで居たのだ。探れば探る程愈怪しからぬ事を致して居る。大黒主様に対して少しも敬意を払つて居ない、此方が此次第を詳さに言上しようものなら、大変なことになるぞよ』
イ『ハイ、如何なる悪い事があるかも知れませぬが、信仰はもとより自由で御座います。キユーバーさまでも大黒主さまでも、悪い事さへなけりやチツトも恐れませぬ、何卒お構ひ下さいますな』
キユ『よし、構うて呉れなと申したな、後で吠面かわくな』
と云ひ乍ら足の運びも荒々しく、其処辺り金剛杖にて打壊し乍ら、大手を振つて表門をくぐり何処ともなく姿を隠した。
(大正一五・六・三〇 旧五・二一 於天之橋立なかや旅館 北村隆光録)
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