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文献名1開祖伝
文献名2よみ(新仮名遣い)
文献名311 政五郎さんの帰幽よみ(新仮名遣い)
著者愛善苑宣教部・編
概要
備考
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ページ 目次メモ
OBC B100600c11
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本文  明治二十年の正月元旦が過ぎて一ヶ月ばかり経った頃から、政五郎さんの病状があらたまり、手足に浮きがでてきましたので、今度はとてもお助かりになるまいと考えておられますと、御病人が
「お直や、永う世話をしてくれたが、私はもう助からぬかも知れんで、この世の名残りにもう一杯酒を飲んで死にたい」
と云われました。開祖様は、
「ええともええとも、お酒はいますぐ買ってまいりますが、死ぬなんてそんな縁起の悪いことを云わずしっかりして居て下さい。欲しい物があったら何でも買って来てあげます」
と云って門口までお出かけになりました。ところがこの日はあいにく開祖様のお手もとには、びた一文のお金もなかったのです。開祖様はそこらを見回されましたが、売るような物はすでに売り尽してしまってお金に代えるような物は何一品もなかったのです。
 このときヒョイと開祖様のお目に止まったのは、外ならぬ御商売道具の古秤でした。これを売っては早速明日からの商売にさしつかえるのですが、今はそんなことを考えている場合ではありません。その一本の古秤をたずさえて質屋へお出でになり、これで三銭貸してくれるようにとお頼みになりました。
 ところが「こんなものは質草にはならぬ」と断られました。やむなく開祖様は紙屑買いの友達を訪ねて、ようよう二銭のお金を借り、それでお酒を買って政五郎さんにすすめたところ、
「ああうまい、これでもう何も思い残すことはない」
と云って大変喜ばれました。
永らくわずらわれた政五郎さんも、ついに旧暦二月七日、六十一才を一期として、帰らぬ旅におもむかれました。
 開祖様のお歎きは申すまでもなく、なきがらに取りすがって、同じ道に連れ立ちたいと泣き悲しまれました。そして形ばかりの淋しいお葬式が出されました。
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