文献名1大本教開祖御伝記
文献名2よみ(新仮名遣い)
文献名32-7よみ(新仮名遣い)
著者出口王仁三郎
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データ最終更新日2024-11-01 03:15:00
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本文
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我愛児の虐待さるるを面前に眺め給ひ乍らも大慈大悲の権化とも謂ふべき天来の救世主なる出口開祖は毫も恨み玉ふ色無く殊更言語もやさしく大槻に向ひ、アア最もなり、嘸々困難なるべし、今回の汝が焦慮の程、誠に謝すべきの辞なけれども、之れ何かの因縁と断念呉るべし、例之我家は破産の悲境に沈むとも厭はざらん、何卒大槻家の立行く様に取計らふべし、妾の生命あらん限りは出口家は安泰なり、我家の財産全部は汝の所置に一任せん、と裁然曰まひし一言に大槻は我謀計の図に当りしを心中窃に歓びつつ、然らば都合に由りては出口家の財産を処分するも違存なき乎、と入念せしかば開祖は心好く、一旦任せし上は汝の心の儘なり、と鶴の一声、古より武士の言に二言は無しとかや、妾は尊き神の道に仕えんとする者、何条二言あるべきぞ、と丈夫の言に鹿造は仕済したりと背面しては下をへろりと出す厭らしさ、大槻は言も調子能く、然らば早速家も屋敷も売却し、従来喰込たりし負債の償却に充つることと為さむ、其代りとして今日只今より、汝狂人なれど試みに出獄せしめん、と打て変りし其の顔色、鬼は忽ち仏と変る、地獄の沙汰も金次第とは宜も穿ちし言なる哉、茲に開祖は予期の如く十五の月の有明に気も晴々と自由の御身とは成らせ給ひぬ。アア此時の母子の歓喜、如何斗りなりしぞ、仮ふる術も無りしならむ。
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然れども大槻も猪喰た犬の一筋や三筋縄では追ぬ人物。飽まで注意は周到にして後の苦情を慮かり、己れ一人にて出口家を所置なさば世間の風聞も如何やあらむと、奸智に長たる彼は形式上、直ちに王子や八木の親戚に出張なし委細を明かすも針小棒大、今迄多額の入用悉皆この両家より弁償さるれば是に過たる結構は無し。然すれば祖先の祭祀も断ずして出口の家は万々歳、僅か百円足らずの金に出口家の興廃の別るる瀬戸際なり。祖先を思ふ真心あらば此際一つ助力せよ、と皆まで聞ず、武人の娘は夫の家も大事なり生家の為に夫の家に迷惑懸ては申訳なし。義兄宜しき様に取計らひ玉へ、と花も香も実もなき一言に然らば是非に及ばぬ。此場合家も屋敷も売却せん、後日異議は無からむ乎、と念に念押す老猾の言も更に意に留ず放任せしぞ無情なる、流石の大槻も二人の姉妹の薄情を太く怒りて終に出口家を僅か四十余円に松井某の手に渡したりき。
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鳥には寝倉あり、狐狸には穴あり、田螺でさえも家を持て、不便や開祖は一日の休養さえ気楽に為し給ふ家宅を失ひ給へども、素より忍耐強き御性質の借家の身も少しも介意し給はず、鹿造より家の剰金なりとて渡したる三円の金を資本に布教の傍ら、聞くも悼はしき屑物買と成り下り給ひ、細き煙を立つつも二女を養育なし給ふ御心の中、思ひ遣れて無惨なり。時正に明けく治まる御代の二十余り五の年、秋は九月初頃、御年五十七。