文献名1歌集・日記
文献名2よみ(新仮名遣い)
文献名3花明山よみ(新仮名遣い)
著者出口王仁三郎
概要
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データ最終更新日2025-12-24 13:10:51
ページ247
目次メモ
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本文
詩歌
壱岐の島
出口瑞月(王仁)
玄界灘のあなたに青々と浮ぶ壱岐の島! 新しい塗料のやうに
路傍の干鰯のにほひをかぎながら島へ来たといふ感じである
山には獣が一匹もゐないといふ壱岐の島野菜の鮮かな色彩だ
やまなみのひくい壱岐のしまに空を支へる巨大な松がある
何処へ行つても黒い顔の蜑女ばかりがゐる壱岐の島がさみしくなる
巨大なくぢらが捕れたと郷の浦の人気がわきたつてゐた、朝
つきくさ
霧
唐崎霞松(王仁)
車井の釣瓶のおとの聞えつつひとのかげ見えぬきりふかき朝
あき更けて愛宕のみねはあさゆふにしづかなりけり深霧包み
愛宕山に夕陽けぶらひうちわたす橋の川の面時雨ふるなり
壱岐にて
加良香美の丘にのぼれば古への貝塚ありて土器出でしとふ
東洋のあらゆる草木生ふるてふ壱岐の島根のさやかなるかな
つゆくさや須飛羅に神輿草の花いまを盛りと野路をわが行く
壱岐神楽つづみのおともさやさやに鈴の音もろとも響く浜風
短歌月刊
尾上の雪
出口王仁三郎
春立つ朝
しら梅のはなの香にほふさ庭べにさしそめにけり春の光は
高山の尾上にゆきはありながらわがさ庭べに春は来にけり
朝なさな凍りて堅き釣瓶縄のやはらぎ見えて春立ちにけり
天地にわれ生くるてふさちはひをひたにおもひぬ春立ち朝に
玻璃窓に鈍き陽さすや間もあらず雲をかへして降る霞かな
野の村の夕べの灯かげ見えぬまで粉雪しんしんとわがまへをへだつ
灯篭のここだ立ち並ぶ古宮にふさはしからねこれの電灯は
大杉の木立のひまに苔むせる石灯篭の並みたりふるみや
あけび
対馬の旅
堅田落雁(王仁)
木草ふく風の音さへさやさやにこころすがしき玉出島かな
千引岩家毎にたたみこのしまは人のこころも雄々しかりけり
枇杷の枝の茂りゆ透けて玻璃窓にさし入る朝日清しかりけり
千草匂ふやまぢをひたに磯づたひ車はしらせて鶏知村に入る
磯のいへは家毎かどごとうみのもの鯣干したり秋の日なたに
おもしろや若人八人おのもおのも鎌持ちをどる稲刈り踊
葛の葉をうらがへす風に斧あげて蟷螂一つをどり出でにけり
心の花
台湾日月潭
井出玉川(王仁)
水面にあまたうかべるあひるをば小舟に追ひて女帰りぬ
うきじまは湖面に二十余島あり一々杭打ちつなぎとめあり
めづらしき内地の鴉二羽三羽島かげひくう隠れけるかな
創作
対馬島
粟津晴嵐(王仁)
狩生崎多原のうらなみしづかにて大海に浮くいさり火あまた
鹿見湾ほんのりとしてしののめの波にかがやく薄明りかな
小松崎ちかく見えつつひんがしのやまに紅雲たなびき初むる
牛島や馬把島などなみの間に朝日を浴びてひかり出でつつ
天狗岩真柱岩のくしびなるかげを見つつも浅海湾に入る
奴加嶽に朝日映えつつ湾内のさざ波かがやう心地よさかな
石鳥居参道森の神さびてかみよのみやのあとしのばしむ
火々出見の尊豊玉姫神のこひものがたりかしこきろかも
白嶽の尾上にさゆる天津日の雄々しきながめ仰ぎ見しかな
海津見の神のみやしろふり返りふりかへりつつ拝がむ波の上
井口嶽夜目にもたかく海岸にそびえて沖吹くかぜ静なり
大空に七日の月かげぼんやりと夕日にぼけて薄くかかれり
都市と芸術
十二月号都市と芸術の口絵を見て
出口王仁三郎
堂本印象氏の草稿
木の実手に樹下に静たつ乙女子の画筆の風味に吾が咽は鳴る
竹内栖鳳氏の秋
大沼のなみに孤舟をうかべたる秋のながめはにしきなりけり
木島桜谷氏の望郷
羊飼ふ翁も荒野にひさかたのそらをながめてしのぶ故郷
たくづぬのましろの羊髯なびけ空見るおきなの筆のあかるさ
土田麦僊氏の草稿
傾国の笑をたたへし舞妓姿のもの云ひさうにみゆる草稿
梥本一洋氏の草稿
綵舡の草稿の絵の気高さにわが眼もたまもすはれて見入る
森守明氏の草稿
守明氏の弘法大師の草稿はそのまま慈悲のすがたなりけり
清水六兵衛氏の磁製柘榴花瓶
柘榴の花瓶の妙作神に入り好評たかしはじきれるまで
沢田宗山氏の北極美白雪磁花瓶
白雪のすがしさそゆるこの花瓶月のみ国のものとしおもふ
水甕
神無月
石山秋月(王仁)
しぐれつつはれつつ寒きあけくれを虫の音たえぬ冬きたるらし
そまやまに立つ白烟くもと見えて風もつめたき神無月かな
山里の伏屋の軒にたきぎ積みてこもらふ冬となりにけるかも
蒼穹
台湾にて
十和田勝景(王仁)
大仙巌おくの院なる碧雲寺ほとけのまへに轎おろしけり
枕頭山あふぎ見る目に仙岩のいただきしろきかげのうごけり
岩根木根ふみさくみ来し十二人碧雲寺にてひる餉喫せり
湯に入りて浴衣一枚着けながらなほ汗出づる嘉義の冬かな
吾妹
台湾にて
三井晩鐘(王仁)
牧童に見まもられつつ清川に水牛あまたあそぶしづけさ
火炎山九十九峰の高山はとほく北方の天にそびえつ
河なかのはたをつくれる頭訴抗長橋のした牛群れあそぶ
ときじくに長嗚鶏のこゑ冴えて吹くかぜきよき台中街かな
香蘭
台湾にて
三国一峰(王仁)
大安渓ながき鉄橋わたりつつ河なか見れば水牛群れ居り
三叉渓ながれもきよきみづの面に牧童水牛曳きて遊べり
相思樹の並ぶ野の路轎舁きてかよふ土人の面やつれせり
水きよく澄みわたりたる後竜渓の鉄橋のしたを白鷺飛ぶも
海の面眼に入り初めてこの汽車のにはかに迅くなりし心地す
アララギ
菊
玉川清風(王仁)
菊陽会出品間ちかく菊の花しろじろにほふあした楽しも
来年は土ことごとく入れかへてあらたに菊の苗をささなむ
潮音
台湾にて
嵐山桜楓(王仁)
濁水渓わたれば芭蕉檳榔樹のはたけながながと連なりてあり
笋仔山たかくそびえて濁水の河にうつろふすがた雄々しき
生蕃のやま焼くけむり炎々とおほぞらを焼くいきほひを見す
現代文芸
新興短歌
保津渓流(王仁)
贈賄!
収賄!
何をいつてやがるんだ。
その金からして一体どこから持つて来たんだ!
ハツピはきれても
靴はぼろでも
この胸に
この胸に燃える心は強いぞ!
御形
社頭の雪
比良暮雪(王仁)
しろじろと雪降る宮のあさにはに千代ことほぎて啼くむら雀
神風の伊勢の宮居に降る雪のきよきは神のこころなるらむ
千年の苔むす宮の大杉のこずゑおもげに降れるしらゆき
雪つもる宮居の庭のすがしさにふみなづみつつ朝詣ですも
千早振神のみ苑に積む雪をふみ惜しみつつ詣でたりけり
自然
冬
出口王仁三郎
やまざとは軒端に薪積み重ねけむりのどこかに冬ごもるかな
同じ梢に吹く風なれど霜おける今朝は身にしみて風の強きも
はつふゆのあしたの庭の柿の枝にこゑふるはせて鵲の啼く
かへり路をいそぐ山路の程とほし冬の夕べの淋しさに居り
久方のみ空の月は冴えにつつこの夜をさむみ霜はふるらし
風さゆるみ空を月の渡るかげ心さえざえと見のあかぬかも
夕嵐ふきつよむ空をたわたわに片寄りて鴉飛びてゆくなり
しもやふる夜半を砧のおときこゆ月かげしろき小野の村里
軒近の筧も今日はこほりけむこのさ夜更けをみづの音絶ゆ
橄欖
台湾にて
室戸岬月(王仁)
丘の上の樫のこずゑは吹く風に揉まれてしら波咲ける如見ゆ
棹の音すがしくひびく湖の上を旗ふりかざしかへり来にけり
八合
蒙古行
矢走帰帆(王仁)
北京軍奉天軍とロシヤ軍三方敵をうけし吾が軍
六月の廿日のゆふべ全軍の弾薬つきしこころさびしさ
漢朝璽に談判せんと通訳を一人ひき連れ通遼県に入る
たちまちに参謀長等に捕縛され通遼軍の兵営につながる
談判の結果武装を解除して和睦の宴会営庭にひらく
鴻賓館今は支那人の手に入りて日本人らしき人一人なし
真夜中に数百の兵士おし寄せて吾等一行を縛り上げたる
しばられて荷物一切掠取され銃殺場へと引きずられ行く
銃剣でたたかれ押され突かれつつ通遼県の刑場に入る
あはやいまとおもふ瞬間日本の領事館員駆けつけきたる
独立軍総司令の罪十五日われ牢獄につながれにけり
新
新らしくうまれ出でたる八合のうたぶみみればこころはるめく
空
あをあをとはてしも知らぬ大空の海渡りゆく月の舟かな
ポトナム
台湾にて
宮城野萩(王仁)
みづきよき台中公園せまけれど見の心地よく風光るなり
天津日は西海に落ちてにはの面に幾百千のすずめさへづる
群雀こゑさわがしくさへづりて宿の庭の面白み初めたり
配り来し台湾新聞読みゆけば吾と記者との問答記事あり
見わたせば台中平野あをあをと甘蔗のはたけつらなりてあり
たいわんの一等米のみのるてふ豊原えきに夾竹桃咲く
常春
琵琶湖月(王仁)
ほどちかき友の軒端もふかぎりの隔つる秋はもの淋しけれ
霧こむるあきの丹波のやまやまはしらなみの上に尾上のみうく
あきふかし陽もはや西に入相の鐘にたなびくやまがひの霧
丹波路はくまなく霧につつまれて大枝のやまに旭のぼり来
野の奥の見る目いぶせき一つ家の軒立ちまよひ烟る霧かな
科戸辺の風の絶間をまちかねて立ちのぼるらむ山もとの霧
山峡の霧は隈なく晴れにけりおきその風のふきのまにまに
高天
霜の初花
愛宕山樵(王仁)
あきふかき野辺の千草のかれぐきにめづらしきかな霜の初花
子等は皆活動写真見に行きて一人寂しくあきの夜うた詠む
十三夜月やまの端にかたむきて夜風さむけく膝冷ゆるかな
貧しかる家に生れし幸ひは世のさまつぶさに悟り得しかな
くさむらの穴太のさとの百姓が血脈を継ぐわれぞ嬉しき
プロレタリヤ水呑百姓親に持ちて世間のこころ悟りたる吾
幼少より世のさまざまの憂き事に逢ひし吾が身の幸多きかな
応挙の血筋を継げるわれながら運ばぬ絵筆もどかしく思ふ
ひこばえ
円山応響(王仁)
松伐りて門にかざせばはつはるの年あらたなる心地こそすれ
磯輪垣の秀妻の国の初日の出わけてとほとく思ほゆるかな
おほぞら
出口王仁三郎
虫の音も稀になりつつ枯れそめし小茅が野辺に降る時雨かな
しなびしなび裏がへりたる葛の葉の上にも散れる朝のもみぢ葉
霜おきしわが小庭辺にあちこちと散れる紅葉の寂しき秋かな
虫の音も涸れてあとなきもぐら生に寂しくのこる菊の一本
大空の月さへこほるふゆの夜のさむさ身にしむ独り寝の庵
夏されど消ゆる時なき富士の嶺の雪は神代ゆ伝りにけむ
吹きおろす木枯さむし破れしまどに愛宕のやまの夕暮の雪
稲木かる敏鎌に似たる朝月夜くまなす雲はしぐれなりけり
鳥人
大島にて
玉出島守(王仁)
碧瑠璃の空と浪とに包まれし大島山のひに映ゆる見ゆ
窓硝子透して海面ながむれば雲の間わけて浪に陽の照る
島かげも大きくなりてうなばらの浪いや高く荒れ出しけり
真玉なす喜界ケ島の薯喰へばあぢはひたへに薯と思へず
十二夜の月はみ空にかがやきて於神の山の尾上あかるし
夜具敷きて安く寝ながら吾が身体荒浪わたるごとく揺るるも
あたたかき所と聞けどなんとなくはだの寒けき冬の大島
いにしへの大和の民の裔なれやこの島人のことたま美はし
支那くさき琉球の島にくらぶれば日本心地のただよふ大島
とんの畑のみ多くして稲の田のいとも尠なき童郷のむら
若松の峠にかかれば眼のしたの入江に鴨のかずおほく浮く
梵貝
赤茄子
出口王仁三郎
四つ五つはいやいや食ひしトマトーの味を覚えて好きになりたい
大切に思うてゐたるトマトーも一度にみのりいやになりたり
麦藁の上にころころ長西瓜ころがりてをり蔓枯れむとして
葉がくれの冷えたる爪をむしりとり水に洗つて皮ごとかじる
瓜畑のひでりにあひて胡瓜みなあかしなびつつ首くくりをり
のぎく
山家猿公(王仁)
秋されば丹波の野辺は霧のうみかぜのまにまに浪立ち騒ぐ
あきふかみ霧の中なるわが家はとなりも見えず天地せまし
丹波路の霧の上ゆくかりがねは海と紛ひて越ゆるなるらむ
小夜更けて山路帰れば天津霧ふところ寒く降り初めにけり
向つ山浮き立つ霧のすきまもる紅葉の色の美はしきかな
山の尾を一つのこして一文字にたなびきわたる秋の夕暮
不二
大島にて
閑居富善(王仁)
半時は太陽かがやき半時は時雨るるふゆのおほしまの空
竜神の永久にまもれるこの島はあさゆふとなく雨の降るなり
あたたかき天恩郷の温室は猩々木などさかりてあらむ
街の児が錻力のたらひ打ち鳴らしゑらぎ遊べる状の愛しさ
為朝のわたりし島根と思ほへばここなつかしき大島の月
名瀬に来て見ればなつかし蒙古にて銀鞍照せし十二夜の月
太平洋のおほうなばらをわたりきて今日大島の名瀬に安居す
青山に日はかくろひて名瀬のやど庭のしげみに海風わたる
地上
沖縄にて
寿翁無塵(王仁)
久方のあまつみ空もうなばらも澄ましてのぼる初日の出かな
天は冴え国土はきよく海原は澄みきりながら初日かがやく
竜神のあぎとの玉のはつ日の出球の島根に拝みけるかな
あしびきのやまの常盤木蒼々と初日に映ゆる美し琉球
琉球のくにのしづめの波の上神のみまへに弊たてまつる
うち寄する磯辺のなみの音冴えてひかり長閑けき初日の出かな
そらまめの花のさかりの琉球に蚊帳をつりて寝ねにけるかな
ガジマルの梢ゆすりておとたかく吹きすさぶかな島の旋風
ガジマルに風吹きつけてかけどりの声高々と鳴き渡る大島
頸草
出雲八重垣(王仁)
一入にたのしくなりぬ菊のはな君とあひ見むよき日思へば
菊の花咲かずば相見むしほのなきはかなき恋を淋しむ秋の夕
鶴山の尾上をわたる夜半のかぜおとたかだかと寝耳に響く
二荒
台湾にて
仙史万公(王仁)
新道のあたりに植ゑし木瓜の実いとも美事に彼方此方実れり
めづらしき台湾かへでもみぢしてかぜ冷えわたり秋心地せり
熱帯圏内にありてふ関子嶺も袷衣着にてはさむさおぼゆる
関子嶺ホテルの名称ありながら電灯も無くぼんぼり点火す
湯に入ればにはかに腹のすき出し夕飯数杯たひらげにけり
夜に入ればあはせのうへに綿入を着けねばさむき熱帯温泉
紅竹の葉末に茶色の胡蝶来て舞ひ遊ぶさまのしをらしきかな
にはさきの筧のみづの落つる音はあめの降るかとあやしまれける
吾が居間の天井裏に二つ三つ守宮の這へる気味わるきかな
たそがれて山の中腹ピカピカと火坑火を吐き闇を照せり
吐血鳥かし鳥のこゑ早朝よりまくらにひびく温泉やどかな
極月の中旬すぎてしらうめの花は葉ながら咲き匂ひけり
あさのそら片雲もなく晴れわたり渓をへだててほととぎす啼く
みちの辺にオンフルカウの花咲けり薄むらさきのつつじによく似て
葉のながき山万竜のあかあかとみのれるさまの床しかりけり
ホロホロとホイビクのこゑ渓々の樹のしげみより聞えて床し
めづらしき芙蓉の花を轎にさしたのしみながら坂のぼりゆく
大仙巌火坑に轎をおろさせてしばしのあひだ休息せしかな
現代生活
亀山万寿(王仁)
胡羅蔔や牛蒡大根蒟蒻はいなかの唯一の馳走なるらし
あしかび
雑詠
富善灯火(王仁)
岸ぞひの桐のはたけの葉は落ちてゆふべ吹きくる川風寒し
南庭の葉蘭のゆきはとけそめて下駄の歯あとに水溜りをり
小夜ふけて冷ゆると思へば窓の外雪おともなくふり積みて居り
竹の雪ゆすればおもき音のしてわが竹笠にかたまり落つる
鶏頭のはなの鶏冠にしも降りて色くろずみぬ冬立ちにけり
木の葉みな散りたる庭にすがしくもふゆを匂へる水仙の花
菁藻
福禄寿翁(王仁)
かぜそよぐ尾上は晴れてあきの日の山下くらく包むふか霧
愛宕山いただき見えて保津川の渓間渓間に霧たちのぼる
山の端に霧たちのぼり黄昏るる旅の夕べはうら寂しけれ
やまの端に霧たち迷ふゆふぐれの空をかすめて雁渡る見ゆ
藻汐焼くけむりにまがふ夕暮の海辺の霧の淋しくもあるか
妹背山吉野の川に霧立ちてへだたる峰のふかくもあるかな
朝日刺す愛宕のみ雪冴えわたり保津の川霧立ちのぼるなり
杣人が焚火の小柴しめじめと燃やしなやめるふかぎりの朝
霧のうみゆふべの空は波ひくみ絵に似たるかな丹波連山
短歌
真冬
灯下相親(王仁)
病む人の床を見舞ひて冷えわたるガラス障子に襖たて見し
吹雪する今日の日曜は妹と二人炬燵を中に花合せ遊びぬ
伊都能売の聖観音に手をあはす襟に落ち来る枯松葉かな
あかがねの樋より落ち来る雪どけの雫きく夜半淋しかりけり
木枯のすさびてさむき亀岡の駅に汽車待つひまの長しも
蕗の葉の表にとまる青蛙鷹の目くらます雨の日の保護色
枯草の野路をたどればわが裾にうるさくつきぬ草虱の実
蕗の葉にあかき苺の実をつつみ山よりかへる夕べの賤の女
朝霧の庭にしたしむ折もあれ児の生れたるうぶ声きこゆ
天地も一度にひらく心地かな児のうぶ声を聞きし朝明け
歌と評論
花咲爺山(王仁)
よみがへる春のあしたの金竜の池みなぎりてうす濁りつつ
霧深みあたりも見えぬ南桑の野を行く汽車の音のみ聞ゆる
菊のはなただの一輪ふくよかに温室内にかをり初めたり
竜灯
南苑二葉(王仁)
立春も間近くなりて寒行僧の胸の袋のうすよごれ居り
吾が友の家おとなへばあさ庭に粥の香ただよふ病人あるらし
にはの面の梅に来て鳴くうぐひすを老の身ながら耳傾けし
時雨降る庭の片隅の泥のうへに落ちたる椿の汚れたるかな
ゆきの降るにはの面に寒竹の筍はほそぼそ角目立ちたり
庭の面のつづじのつぼみ咲き初めぬ子はささやけり夕月の光
真人
出口山風(王仁)
立ちこめし天ぎりあひを漏れて来る秋の日光の静なるかな
今日も亦午後は晴れなん雨のごとあしたの空に深霧のふる
朝霧のふかきに庭の海棠のしをるる見れば秋はさびしき
よべの霧地に降りしきて朝じめり素足の裏の心地よきかな
朝日かげ霧立ちのぼる山の上をうすくぼかして昇りたまへり
帚木
秋祭り
大江山風(王仁)
一年に一度のうぶすな祭なり降る雨の色の重くもあるかな
孔雀神輿走せゆく後より間をおきて坊主神輿がいそぎて渡る
しとしとと雨にくらせる秋祭り人の往来のまれなる町かな
糸の音も唄もしめりて聞ゆなり雨降りしきる秋祭りの日
秋雨のふるさとの家に帰りみればコスモスの花もしをれてありぬ
コスモスも萩も淋しくうなだれてありうちつづき降る秋雨の庭に
降りつづく雨の秋山松茸のやまはだをわる賑はしさかな
夜もすがら秋の雨降る庭の面に鳴くこほろぎの声の淋しき
青垣
出口王仁三郎
萩の花あとなく散りて昨夜の風のあとにコスモス咲き残りをり
畦豆の香をなつかしみ稲番の小屋に藁焚きあぶりて食ふも
大島にて
珍らしき甘藷のお粥をよばれけり赤木名金久の里の宿りに
雨の島名瀬立ち出でて今日の日は空晴れ日光清くかがやく
満洲短歌
敷島八雲(王仁)
かぜ吹けどゆきはつつめど大空に光を変へぬ月のすがしさ
毒蛇の棲む大島もふゆされば夜の道安くなりにけるかな
久木
鷲谷芝蘭(王仁)
秋雨の降りしく夕べみ空ゆく雁の啼く音も湿りてきこゆ
日日なべて降る秋雨に吾が庭のコスモスの花乱れ伏したり
夜もすがら雨ふりそそぐ庭の面に鳴くこほろぎの声の淋しも
豌豆のたねを蒔かむと今日もまた竹藪のあと火にて燻らす
冬晴れの庭に青年よりつどひ野球あそびに余念なきかな
ゆふべ吹く風冷えびえと肌にしみて袷一枚また重ねたり
おほぎみは中国の野に大演習統監ましますふゆの日清し
ひのくに
望月萩庭(王仁)
風きよきあしたの空になみ和ぎて家鶏啼きわたる沖縄の島
シグナルの玉の光を窓開けて月の照るかと怪しみ見しかな
丘の上に群り立ちて島の子がわが名頻りに呼びて遊べり
ささがに
対馬にて
山水清澄(王仁)
千早振神代のむかし火々出見の尊のわたりし玉出の島かな
湯津桂玉の井のそばになけれども生ひ茂りたる八重葎かな
峰の尾にましろきいはほたちならぶ白嶽山の夕日すがしき
樽の浦ふねのりゆけば風光のいともたへなる竹敷要港
あさゆふに荒潮風を浴びながら肌ふくよかな井口嶽かな
対馬山あしたの空にくものみね赤くはえつつ秋日のぼれり
ゆふなぎの海の岸辺にたたずめば蓆帆あげてかへる烏賊船
烏賊釣りの人の面は日に焼けて渋紙のごと夕陽に照れり
厳原の城趾にゆふぐれたたずめば椎の梢につくつく法師鳴く
青虹
大島にて
丹波太郎(王仁)
甲板にたちてつめたき海風にかぜ引きにけむ咳のしげきも
雨のふる日の多きとふ大島のあさ晴れきよく澄み渡りたる
ひとしきり時雨れてあとに日の照らふ大島の空の美しきかも
於神山のぼりて見れば眼の下に名瀬の町々の甍かがやく
スバル
天恩郷
出口王仁三郎
つれづれをなぐさめんとて濠端を三人伴ひめぐりみしかな
魚釣りする人の心をあはれみて魚よる場所を教へたりけり
苑内に入るをはばかる釣人の素直な心めぐしとおもひぬ
空の奥限りなきまではれわたり吹く風すがし今日の花明山
十四夜の月はみそらに冴えわたり心すがしき秋の夜の旅
天恩郷高台の灯のかくるまであとを見送る夜汽車の窓かな
十四夜の月かげそらに澄みわたる真下に一筋曳ける白雲
ひとすぢの白雲の橋しづしづとわたるもすがし秋の夜の月
そらたかくふかく澄みたる星まれに青海原をわたる秋月
十四夜の月かげおちて保津川の渓の流れのしぶき光るも
嵐峡館千鳥ケ淵に月落ちてかぜもしづかにさざなみのうつ
ゆきの不二窓に見ながら食堂に朝飯を食ふ朝晴れの汽車
一片の雲なく青き大空のあなたにくつきり浮ける富士ケ嶺
雲高く風さやかなる朝晴れの空にかかれる雪の不二ケ嶺
とねりこ
浦島太郎(王仁)
若き日城趾に立ちし追懐
いとけなき頃は雲間に天守閣白壁映えしをなつかしみけり
亀山の稲荷の祠櫟生のかげにさびしくたてるををがみし
石を割る石工の槌のおとつよく胸にこたふる夕べの城あと
砂止めの広場の草に座を占めてあとよりきたる友を待ちたり
神苑に朝日きよけく冴えわたりもも木の色もさやかなりけり
蓮華台長生殿の敷地にはうづたかきまで土はこばれてあり
甦生の英気ふくらみて神苑をそぞろ歩けば天津日清けし
春の陽を隈なくうけて神苑にさかゆる松の末ながきかな