文献名1霧の海
文献名2よみ(新仮名遣い)
文献名3牧場の夢よみ(新仮名遣い)
著者出口王仁三郎
概要23歳の頃
備考
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データ凡例
データ最終更新日2023-11-01 08:19:38
ページ15
目次メモ
OBC B119800c016
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本文
二十三歳の頃
牧場に一人寝ねたる月の夜をしのび入り来る女ありけり
この女まだ十六の秋ながらいたくませたりつかつかもの言ふ
つかつかともの言ふ女をはづかしみわが面ほてりてうつむきて居り
この女二世を契れと泣きつきて帰らぬ夜半を井上入り来る
井上は女の姿見るよりも此処には置かぬとわれを追ひ出す
負ひ出されのめのめ居るよな男かと啖呵きりつつ彼女の家に行く
若き女に随ひゆけば其の家の老いたる母は吾れをたしなむ
そんなこと知らぬ知らぬと云ひながら寝床の中にもぐりこみたり
手に合はぬやんちや男といひながら彼女の母は夜具をきせたり
靴の音
靴のおと高く井上入りきたり吾を引張り牧場にかへる
勉強をせなくてならぬ年ごろでちと心得と井上が云ふ
これからは心得ますと云ひながら吾うつむきて舌を出したり
ぷんぷんと怒りて井上帰りゆく後より吾は腮をしやくれり
舌を出し腮をしやくりし吾がわざを文助親爺がそつと見て居り
文助は一部始終をまつぶさに告げたるらしき井上の面
井上はそれより言葉あらたまり吾を先生先生と呼ぶ
先生はあなたのことよわしは今書生と云へば井上空向く
舌を出し腮をしやくるは俺よりも先生なりと井上皮肉る
何となく師弟の間折り合はず言葉の端にもかど立つが見ゆ
このやうなやんちや男はたまらぬと井上弟を牧場に入れたり
井上の弟徳はわれよりも一段ましてやんちやなりけり
徳松をともなひ毎夜劇場に乞食芝居を見にかよひたり
徳松を誘惑したと井上が弟のひいきばかりするなり
発狂少女
十六のをんなたちまち発狂し喜楽喜楽とさけびまはれり
母親は娘の病なほすため一度来たれと呼びに来にけり
てれくさい乍らも女に会ひたさにいやさうな顔してついて行きたり
恋しくて会ひたく思へるその矢先母の招きはもつけの幸ひ
ゆきて見れば彼女は高き水枕頭に氷嚢あててさけべり
喜楽さんが来てくれたよと母云へば彼女は忽ち笑ひ出したり
井上が後を追ふかと案じつつこはごは乍らしばし看病つ
喜楽さんこの娘をどうしてくれるかと母親お松の膝づめ談判
いひほどく術も無ければやむを得ず医者になりたら妻にすると答ふ
その言葉間違ひなくば安心とよろこび娘に云ひ聞かす母
その日より娘の病つぎつぎに全快したれど母親会はさず
母親になぜ会はさぬとなじり問へば医者になつたら会はすとくび振る
観音堂
穴太寺観音堂の法会の夜こころ合ひたるをんなとかたる
穴太寺春の法会の無縁経に有縁のをんなと語る楽しさ
観音堂の裏の小暗き庭にたち堅く握りし手は熱かりき
何となく胸をののきて一言も吾が言の葉は出でざりにけり
感激の身をふるはせて彼の女吾と同じくもだし居たりき
手を握り互に目と目をそらしつつ面はほてりぬ息ははづみぬ
漸くに好きと小声に吾いへばにやりと笑ひてすと逃げてゆく
或家の門口あけて彼のをんな伯母と語れる言葉ふるへる
戸の外にそとたたずみてその女伯母と語れる様子聞き居り
どうしてももう一言を語らねば心すまずと去りがてに居し
屋内にパツときえたる洋燈に吾あきらめて家路に帰る
わが家に帰れと眼さえにつつ彼女のことのみ夢に見たりき
をんなの名寝言にいひし翌朝父はほほゑみもらへと語る
ほほゑめる父の面貌のはづかしさ面ほてりつつ知らぬと答へぬ
お互ひの恋の佳境に入りしころ吾は修業のために村去る
小北山南おもては恋ふる人のうからやからの住める里なり
獣医学修業せんとて園部ゆく途中を彼女の家に立ち寄る
風流の士
立寄れば彼女の父はよろこびて風流談などなして夜明す
一と夜さの夢も結ばず小北山越えて園部へ吾は出でゆく
二三日すれば彼女の玉の文盂蘭盆の夜に会はんとしるせり
盂蘭盆会
この文を見るより盂蘭盆待ちかねて牛飼ふ業も手につかぬ思ひ
盂蘭盆の日を待ちかねて故郷に帰れば伯母にさまたげられたり
喜楽さんお前はすまぬ男よと彼女の伯母は吾をたしなむ
伯母の眼の鋭きままに一言もかはす術なく惜しく別れし
その日より叶はぬ恋とあきらめて吾は園部に立帰りけり
解剖研究
園部なる天神町の牧場に村の子あつめて犬を煮て食ふ
赤犬は味よけれども白き犬は山椒入れねば臭くて食へず
トンコツの稽古をするといひながら犬を縛りてなぐり殺せり
斃れたる犬をたちまち皮はぎて解剖せむとメスを突き刺す
往診ゆかへり来たりし井上は犬畜生とわれを呶鳴れり
獣医学研究のため犬うちて解剖すると答へたりけり
この犬は心臓糸状虫だらうと腮をしやくりてののしる井上
それほどに解剖学が上手なら俺にならはず帰れとからかふ
解剖学の研究さへもこばむやうな師匠はのぞみなしと思へり
井上は大先生とあさゆふに腹のたつほどからかひにけり
牛の流感
牛畜の流行性感冒むらむらにありて井上往診いそがし
井上の留守に薬をとりにくる飼主にわれくすりをあたふ
重曹や規那末芒硝酒石酸調合なして十銭に売る
十銭にやつたといへば井上は十五銭よと目をむきいかる
二銭ほどの薬を十銭に売つたのに何が悪いと抗弁をなす
猪古才な世帯知らずといひながら棍棒もちてなぐりにかかる
逃げながら麦畑の土をひつつかみ井上目がけて投げかけにけり
土埃目に入りしにや井上はばたりとたほれ涙して居り
われもまた驚き如何にとたち寄ればこん畜生と怒りてなぐる
真清水をバケツに汲みて目を洗ひふくれ面して家に帰れリ
約五里を隔てし和知より病牛の往診たのみ百姓来れり
井上はいそいそとして金儲けまた出来たりと急ぎ出でゆく
蚕児飼育
井上の母は来たりて一石のかひこを棚に飼養してをり
急電によりてわが伯母郷里なる高屋の里にいそぎ帰れり
井上の母はわがため伯母なりきわが子を褒めてわれのみそしる
わが伯母の高屋に帰りしそのあとで二眠の蚕をもみつぶしたり
真夜中に井上和知より帰り来て棚の蚕をつくづくみてをり
おい喜楽えらい鼠が荒れよつた猫かりてこよとやかましくいふ
わがなせしこのいたづらを井上は鼠といひしにはつと落ちつく
猫の拝借
真夜中に南陽寺の門をうち叩き猫借りたしと和尚に言ひこむ
真夜中に猫をかせとは不思議なりそのわけ話せと和尚は迫る
やむを得ずありしことごと詳細に話せば和尚はふき出し笑ふ
そんなことするよな男に寺の猫は貸してはやらぬと和尚は笑ふ
いたづらを鼠と思てる井上も耄碌してると言ひつつわれ笑ふ
わが声を聞きて寄り来る寺の猫をぐつと抱へて逃げ出しにけり
喜楽さん解剖してはいけないよと和尚は大声あげて云ひけり
解剖もしませぬ炊いて食ひませぬしばらく貸してと言ひつつ走る
猫抱へ家に帰れば井上は何処の猫かとしきりに尋ねる
毛嫌ひ男
南陽寺和尚にかつて来ましたと言へば井上眉さかだてる
南陽寺の嫌ひな和尚にかつて来た猫は去なせと井上目をつる
南陽寺の猫でも鼠はとりますよと云へばこの猫蚕食ふといふ
井上の言葉の如くこの猫は蚕をむしやむしや食ひはじめけり
井上はこん畜生と猫とわれを一度にぴしやりと杖にてなぐる
流行性感冒の牛出来たりとまた真夜中に百姓きたる
洋服に身をかためつつ靴の音たかく井上出でゆきにけり
あくる朝ふたたび猫をつれ来たり蚕の虫をくはせて楽しむ
わが伯母は早朝高屋ゆ帰り来て直はゐぬかとわれに問ひをり
直やんは牛の流行性感冒でどつかへ行たとわれ答へたり
蚕食ふ猫をみつけてわが伯母は気をつけぬかと甲高にいふ
知らぬ間に猫が出て来て知らぬ間に蚕をむしむし食たと答ふる
井上の帰りし靴音ギウギウと聞きつつわれは牧場に走る
留守番がなくては蚕も飼へないと伯母井上に妻帯すすめをり