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文献名1霧の海
文献名2よみ(新仮名遣い)
文献名3初夏の嵐よみ(新仮名遣い)
著者出口王仁三郎
概要28歳の頃
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日2023-05-08 00:00:00
ページ249 目次メモ
OBC B119800c062
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本文の文字数1995
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本文 二十八歳の頃
滝津瀬の音を圧して吹きまくる初夏の嵐のすさまじき夕べ
草も木も根こそげ飛べよと吹く風に裾まくられてうづくまりつつ
夏草のもゆる谷道にかがみをれば大いなる蝦蟇這ひ出でにけり
蛙とはいへどまことの動物と思へば何か慕はしき夕べ
わが前に蹲まりつつ大いなる口を開きて蝦蟇の蚊を吸ふ
山あらし和ぎ渡りつつ木の茂み透かして見ゆる十二夜の月
鬱蒼と渓間うづめて繁りたる老樹の枝より漏るる月かげ
   精州の滝
青嵐あとなくやみし小夜更けを再び精州の滝にかかりぬ
比較的滝壺ふかく肩までも没するばかり水たまりをり
滝水のあまりつめたさがたがたと歯の根も合はずわが身震へり
タオルもて身を擦りつつ白き衣着替へて静かに太祝詞宣る
うつらうつら睡気催し滝の辺の広き岩の上に横たはりけり
人声の寝耳に入りてふと眼覚ませば滝にうたるる人あり
何人の荒行なるかとうかがへば案に相違の人の声なる
一人は下司熊一人は西塔の欲惚け親爺の祈願と知れたり
一心不乱二人が祈る言霊のいづくともなく濁らひてをり
   偽神懸
滝水に身をうたしつつ下司熊は神憑なし西塔はうかがふ
下司熊は両手を頭上にさし上げて吾は久吉大明神と口きる
われこそは正一位久吉大明神何なりと聞けと威丈高に云ふ
西塔は水中に坐し拍手して埋みし金の在処うかがへり
喜楽奴が金のありかを知りながら胡麻化しよつたと西塔いひをり
下司熊の久吉稲荷大明神はウンウン呻りて返事にこまれり
五万円の金のありかを直接に私に知らせといらだつ西塔
西塔の歓心を買ひ妹を妻にせむとの下司熊のたくみ
何一つ憑つてゐない偽神術金のありかの如何でわからむ
西塔はどうぞどうぞと手を合せ金のありかの託宣をせまる
肉体がかう寒くては持ちきらぬわれ引取ると下司熊の口
この場合引取られては堪らぬと西塔金のありかをせまる
奥山の屏風ケ岩の下かげにかくしてあると出鱈目をいふ
嬉しさに欲惚け親爺飛びあがりお有難うの連発をなす
両人の問答ひそかに聞きをれば噴出すまでにをかしくなれり
ちぎれちぎれ聞ゆる下司の銅羅声滝津瀬の音風にまぎるる
   欲と得
下司熊の肉体貸して下されと欲惚け親爺しきりに頼めり
下司熊の肉体貸して何とする神のつかへるこの肉体を
奥山の屏風ケ岩のふもとまで肉体貸してたまへと爺いふ
下司熊は声を荒らげて神示には二言無しとぞきめつけてをり
神の宮を使といたすか無礼者と贋神憑呶鳴りをるかも
西塔は利欲にまよひ偽神術の審神者の力うしなひてをり
西塔は谷のながれにひざまづき執念ぶかく同行たのめり
肉体を暫くお貸し下さらば義妹を女房にたてまつるといふ
からからといやらしき声張上げてさも得意気に下司熊笑ふ
岩の上に白衣をつけて寝ころべるわれに二人は気づかぬと見ゆ
白衣つけしわれは月漏る岩の上に忽然として立ちあがりたり
両人の問答容易に埒あかず無心の滝はとうとう落ちゐる
突つ立ちしまま大声に唸りみれば両人驚き此場を逃げ去る
天狗様何卒許して下さいと親爺谷道逃げつつあやまる
下司熊の贋神がかり西塔の欲惚け親爺いかがなせしか
   深夜の月光
十二夜の月は尾上にかたむきて暗闇の幕谷間をつつむ
しんしんと夜は更け渡り一陣のいやらしき風わが袖を吹く
谷底に祝詞の声の聞えつつ提灯の光ほのかにまたたく
夏草のしげる谷道提灯の見えつかくれつ灯は近づけり
提灯のあかりにすかせば見覚えのあるおもてなり聞き覚えの声
のぼり来し人のおもてにその声にはつとわが胸轟きにけり
木下暗をさいはひ巌上にひそみをれば滝壺の前に女近よる
提灯を滝のかたへの木の枝にかけ置き女は裸体となりぬ
二十貫の女の巨体しろじろと谷間の闇に浮き出でてをり
毛髪を肩に垂らして滝浴びる夜の女のものすごきかな
神言の奏上をはり拍手してわが師に逢はせ給へと祈れり
執念深き女の心に怖気たちてわれひそかにも山かき登る
闇に眼のなれたりにけむ松桧しげれる山路を尾の上に登る
松繁る尾の上の林にたたずめば西塔下司熊あげつらひをり
うるさしとまたも一声唸りみれば雲を霞と二人逃げゆく
逃げゆきし二人のあとをしづしづと馬の背越えて帰り路につく
打越の坂の上に立ちながむれば蜘蛛の如くに逃げゆく二人よ
東の空ほのあかり両人が逃げゆく山路のわづかに見ゆるも
   宝座帰還
猪の熊の尾の上伝ひてわれはまた高熊山の巌窟に帰れり
村人のわれを訪ひ来しあととめて飯のつきたる竹の皮あり
わがあとを再びたづね来たるまじと心落つき巌窟に安坐す
堂建の山に朝日のかがやきて若葉の色の目にさやかなり
渇きたる咽喉しめさんと琴滝の麓に草をわけて下るも
滝水に咽喉うるほして露草をわけつつ再び宝座にのぼる
峰を吹く晨の風の涼しさにわれ天国にあるここちせり
堂建の山のうしろゆ雲の峰巨人の姿なせるがのぼる
雲人の鼻は次第にのびのびて天狗の面となりて崩れつ
峰の上に湧き立つ雲の次ぎつぎに砕くる見つつ人の世思ふ
蒼空の澄みきる面を黒雲の包める見つつ世のさま思ふ
大空は高くひろけし地の上に吾は小さき身をもて祈る
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