文献名1霧の海
文献名2よみ(新仮名遣い)
文献名3小夜の嵐よみ(新仮名遣い)
著者出口王仁三郎
概要28歳の頃
備考
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データ凡例
データ最終更新日2023-05-08 00:00:00
ページ289
目次メモ
OBC B119800c071
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本文
二十八歳の頃
常磐木の松のはやしをゆるがせて岩も飛べよと小夜嵐吹く
めきめきと梢の折れる風の音もの凄きまで高鳴りやまず
月も星も見る見るひかりに包まれて山の峡よりおこる黒雲
かむながら道にある身も小夜更けの嵐の音は凄かりにけり
巌窟に一人端坐し幽斎のふたたび修行にわれいりにけり
寒風の吠えたけるなる荒野原をわれ幽界の旅行して居り
天も地も灰白色につつまれて吾ゆく先のほのぐらき野路
足もとの枯れたる茅のむらたちゆ蚊の鳴く如き淋しき声すも
退きもならず進みもならずしてわれは途方に暮れて居たりき
皺嗄声
後方よりオーイオーイと皺がれし声を張り上げわれを呼びとむ
いやらしき皺がれ声を聞かぬがに吾はとぼとぼ前進をなす
いやらしき声は下司熊西塔の精霊ならんとふと思ひけり
後より下司の精霊前方より欲ぼけ親爺の精霊寄り来る
吹く風も何処とはなしにぼやぼやと糞臭のにほひこもりてありけり
わが頸筋扇の骨にぬれ紙を貼りたる如き手にてつかめり
骨ばかりの冷たき手にてわが頸をつかまれぞぞ毛のたつを覚えし
頸筋をつかみて放さぬ下司熊は熟柿のにほひを吹きかけにけり
欲ぼけの親爺の精霊近よりて千両万両五万両とさけぶ
五万両の金のありかを知らさねば命をとるとゑぐい顔する
五万両のありか知らぬとわれいへば代りに牛をくれるかと云ふ
男子てふものの口から牛やるというた言葉に間違ひなしと応ふ
この言葉聞くより下司の精霊はわが頸つかみし手を放したり
西塔と下司の精霊喜びてかならずたのむと念押すしつこさ
かむながら御霊幸倍ましませと神言宣れば精霊消えたり
不快なる風吹きし野はたちまちに秋の錦の野辺と変りぬ
黄金の野辺
神言の声天地にひびかひて黄金の光あたりにまたたく
陰鬱なる淋しき荒野もたちまちに錦かがよふ野辺となりけり
吾いゆく道の左右に咲き匂ふ野菊の花のいろいろなるも
われ行けば底ひも知れぬ深谷川東ゆ西に音たて流るる
谷川のかたへにたちて滝津瀬の音を楽しく聞きゐたりけり
細谷川と見えしは意外に幅ひろき水流にして薄濁り居り
よく見れば四五町上手に丸木橋いと淋しげにかかりてありけり
丸木橋渡らむとして谷添ひを東にとりてわれ上りけり
丸木橋はにはかに広き鉄橋となりて谷川に高く架れり
わが眼路のとどかぬばかり鉄橋は長くかかりて川幅ひろし
鉄橋を渡りてゆけば向ふより牛ひきつれて下司熊来たる
下司熊の後より続くひげ親爺と一人の女は下司の妻なる
下司熊の一行三人わが姿しり目にかけてうち通りけり
吾もまたものをもいはず三人の橋を渡らふ後姿見て居り
三人の罪の重みと牛のためたちまち鉄橋は谷底に落ちぬ
谷底におちし三人を救はむと思へどわが身びくとも動かず
罪と罰
定まれる罪におちたる三人を救うてやるなといふ声聞ゆる
何神の言葉か知らず三人を見殺しにせよとは腑におちぬとなじる
われこそは治国別の命ぞと声おごそかにそらより聞ゆる
治国別か何か知らねど人の難儀われ見捨てずと言ひかへしけり
定まれる罪の霊をたすくるは却つて無慈悲と命の言挙げ
神界は愛の国なり善の国われすくはむと谷間にくだる
谷底にくだりて見れば三人は牛の背中に股がりて居り
千仞の谷間に落したこの喜楽承知はせぬとまなこ怒らす
言霊のあらん限りを宣りつれどゆがめる霊のなかなかに聞かず
三人はわが長髪を引つつかみ谷の流れに沈めんとせり
この場をば逃げむとすれども手も足も動かず彼が為す儘にせり
覚醒
何処ともなく音楽の聞え来てにはかにパツと明るくなりたり
千仞の谷間も落ちし鉄橋もあとなく花の野辺となり居り
三人のすがたも牛のかげもなく眼路の限りは花の野辺なる
かむながら御霊幸倍ましませと宣るわが声によみがへりたり
松風の音たかだかと耳に入りわれにかへれば高熊の夜更
猪の熊山尾の上に月は舂きて東の空は明け初めにけり
巌窟に修行しながら八衢のわれは旅行を為し居たりけん
向つ尾に山鳩の声どよみつつあかつき近き山のすがしさ
初夏の風そよろそよろと吹くなべに松の梢は神秘を囁く
けんけんと谷間に鳴けるきじの声巌窟に響きて耳さす如し
何心なく谷底に下り見ればきじのからだを蛇まきて居り
全身の力をこめて羽ばたけば蛇は苦もなく寸断されたり