文献名1霧の海
文献名2よみ(新仮名遣い)
文献名3五月の田植よみ(新仮名遣い)
著者出口王仁三郎
概要28歳の頃
備考
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データ凡例
データ最終更新日2023-05-08 00:00:00
ページ303
目次メモ
OBC B119800c072
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本文
二十八歳の頃
五月雨の空雲低うたれこめて山ほととぎす鳴く田舎なり
五月雨は降りしきりつつ山田植うる真昼小暗く時鳥なく
朝まだき神の御前に拝礼ををはりて水田に馬杷をかく
馬杷をかきつつ思ふ神のためこの気楽なる業を捨てむと
五月田に稲を植ゑつつ神の道を忘れたるがによそほひてをり
うからやから神の大道をいみ嫌ひ百姓すすむるうるささ思ひて
熟れ麦を刈りつつあれば雲雀の巣ありて嘴黄なる雛をり
麦刈らば雲雀の雛の死なむかと思ひわづらひしばしためらふ
せはしいに何して居ると弟が麦刈り雲雀の巣を破りたり
悲しげな声をしぼりて雛鳥は命からがら逃げ行く憐れさ
麦の田を牛にすかせて神のこと思ひつつ鋤の先を折りたり
すきの先折れたるを見て弟は兄貴馬鹿よと怒りどなれり
神様を祀つた罰でからすきの先が折れたと弟むちや言ふ
神様にとぼけた兄貴の魂ぬけが要のときに鋤折りしと怒る
亀岡の金物店に走りゆきてやうやく鋤先買ひてかへれり
鋤先は少し大きくから鋤に合はずといひて弟がいかる
とぼけたる兄貴はだめと言ひながら弟またも鋤買ひに行けり
からすきの折れたるを見てわれもまた仕事に力入らぬを悟りぬ
牛の祟り
五月田の植付やうやく済ませつつ早苗振祭に神をいつきぬ
斎きたる神の御前に弟はあぐらをかきて腮しやくり居り
神様の御前よかしこし坐り直せと言へば弟怒り尻まくる
俺に罰を当てない様なやくざ神は吾家に置かぬと弟ほり出す
神前の霊璽無雑作にひつつかみ弟は庭の面に投げんとするも
それだけはよしてくれよと弟に合掌すれば漸くとどまる
早苗振の祭の酒に酔ひしれし弟の処置にわれこまりたり
大切な牛をとられるやうな兄は大馬鹿者とののしり散らす
あの牛があれば気楽に植付が出来たとそろそろくだ巻く弟
早苗振の酒に酔ひたる治郎松が来たりてわが顔いやらしくにらむ
治郎松の顔を見るより弟はいきほひを得てますますせまる
結構な観音様のゐます村に神祀る馬鹿があるかと松いふ
治郎松と弟がたみに口合せ祭壇こはせとくだまきて居り
両人はあぐらをかきて神前に牛飲馬食するぞ礼なき
盲女来訪
両人がわが祭壇をこはさむとする折盲目の女訪ひ来ぬ
両眼をうしなひました盲女ですお救ひあれと泣きつつ頼む
何時頃に盲目になりしとわれ問へば一月前と彼女いらへり
わが夫は一人の子供を残し置き冥土に行きしと云ひつつ泣けり
憐れなる盲目女のすがた見てわれもともども涙にくれたり
貧乏のどん底の家に妻や子を後にのこして逝かれしと泣く
盲女『貧乏な暮しとあなどり村人は妾を乞食の如くあつかへり
わが夫の去りにし時はすでにすでに孕み居たれば仕事も出来ず』
十月目の腹をかかへて背の君に別れしわが身の淋しさといひ泣く
盲女『食ふものもなき貧乏の其の中に孕みたる子は生れ出でたり
産婆をも頼まずひとり子をみとり命からがら数日暮れゆく
無情なる村人等は憐れなるわが一家をば見向きもやらず
出産の後十日目に伍長来たりやつかい者よ村去れといひし
無慈悲なる伍長の言葉に逆上しぴたりと乳はとまりたりけり
乳の無き子は日にち痩せこけて悲しや冥土の旅に立ちたり
家のもの一切売りてわづかなる金をもらひてホツと息つく
買うたからはこつちのものだ一日も置かぬと買ひ主追ひたててやまず
これからはわが身を如何にせむものと思案の涙によもすがら暮れたり
あくる日の夕べ買主又来たり眼をいからせてわれを追ひ出す』
二度吃驚
盲女『大阪の従弟の家に訪ねゆきて身のふり方を頼まむと思ひき
故郷を去るに際して夫と子の夜半の奥都城に詣でたりけり
一人の忰を置いて奥都城の前にあかりをつけてをろがむ
六地蔵の裏より夫の幽霊のあやしきかげの飛び出しにけり
背の子はおどろきこはいああこはいと叫べば妾も驚きにけり
産後まだ間もなき新血のわが身にはにはかに体にこたへて弱る
夫の霊大阪行きを忌むならむかと思ひて泣くなく村に帰れり
わが売りし家の軒近く帰り見れば人の影なく淋しき夜半なり
肥立悪しき吾身はたちまち逆上し眼いたみて明をうしなふ
わが夫の後を追ひつつ一人の忰はあの世のものとなりたり
無慈悲なる村人われの盲目を見て惻隠のこころおこせり
村人の情によりてわが売りし家にしばらく住むをゆるさる
隣家の後家婆さんを僅かなる金にやとひて眼を養へり
人びとの噂は穴太に救ひ主あらはれますと聞きて訪ひ来ぬ』
開眼
盲目女の話いちいちわが胸に釘打つ如くこたへたりけり
吾かつて墓に寝ねたる其夜半に見たる女はこれかとおどろく
責任のわが身にひしひし迫り来る心地しながら居たたまらぬかも
さすがにも弟由松治郎松もをんなのはなし聞きて涙す
いちいちに話をきけば気の毒よ眼医者に行けと治郎松がいふ
わが兄は山子してゐる迷ふなと弟しきりに水をさしをり
やまこでも私はいとはぬ救ひ主お助けあれと掌を合し泣く
治郎松はフフンと鼻であしらひつ弟ペロリと舌を出し居り
世の中は奇妙なものだ極道を救ひ主だといふ奴がある
この喜楽飯綱狐を使うてる眉毛につばつけ帰れと水さす
両人のあざけりさまたげ気にかけず彼女の眼に吾手を当てたり
不思議にも彼女の眼パツと開きみえる見えると泣き叫びたり
神様のお蔭で片眼が見えますと吾を忘れて小踊りなしをり
治郎松はあつけにとられ口あけて只呆然と見つめ居たりき
気のきいた狐が盲目を癒したと治郎松由松不思議な顔する
中傷言
帰るべき家なき妾を師の君に頼むといひつつ合掌して泣く
止むを得ず帰る家なき身なりせばしばし吾家にあれといらへり
厄介な女の世話は出来ませぬ貧乏世帯と弟がことわる
めかんちを嫁にするのもよからうと治郎松腮をあげてからかふ
八百長でめくらにしたて喜楽奴が妻にせむとてたくんだといふ
わたくしは石田こすゑといふ女神様の前に嘘は申さぬ
師の君の迷惑思ひ今よりは帰りますると泣きつつ詑ぶる
あまりにもわからぬ二人の暴言にわれは世上をはかなみて泣く
憐れなる女一人を見殺しに為すをしのびず強いてとまらす
このをんな信仰つよく幽斎の修行すすみて神懸となれり
あちこちの深山の滝に打たれつつ小松林の生宮となれり
百姓のいそがしき夏を神まつりとぼけてゐると弟怒る
治郎松やおまさの後家が朝早く来たりてすべたを去なせとどなる
めかんちを女房にするなら親類の今日からつきあひせぬと迫れり
女房にするのではない吾弟子に使うといへば鼻であしらふ
物ずきの奴もあるもの二目ともみられぬすべたが好きかと松いふ
弟子にしようと女房にしようとおれの事かまつてくれなと吾いひ放てり
治郎松は其夜のうちに部落中を喜楽の嬶が来たとふれ歩く
喜楽奴がめかんち嬶をもらうたと若者集まり来りて嗤ふ
おれだとてこんなすべたは嬶にせぬといへば若人手をうちて嗤ふ
若人の嗤ふを聞きて彼の女あなたに済まぬと泣き出しけり
仁愛のこころを知らぬ凡俗を気にかけるなと吾さとしけり
このをんなわが親切に感じけむ合掌しながら黙して涙す