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文献名1幼ながたり
文献名2幼ながたりよみ(新仮名遣い)
文献名321 霊夢よみ(新仮名遣い)
著者出口澄子
概要
備考
タグ データ凡例 データ最終更新日----
ページ 目次メモ
OBC B124900c23
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本文の文字数3965
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本文  明治二十五年、正月、そのころは旧であります。元旦の夜のこと。
 近所の賑わいもしずまったことでありますから、だいぶんと夜も更けていたのでしょう。
 教祖は茅屋の壁ぎわに端坐して、西町の姉のこと、八木の姉のこと、長男の竹蔵さんのことと、いろいろ考えておられました。そのとき夢とも現ともなく、体が自由自在に、空でも駆けまわれるように、軽やかな気持ちになって部屋の中が美しい色になり薫りのよい香がみちてきて辺りが澄んできました。
 そのうち、まわりのことは、だんだん忘れ、なにか、けだかい神々しい気持ちに包まれて来られました。
 そうすると、教祖さまの眼の前に、美しいご殿が見えてきました。
 立派な宮がいくつも建っていまして、その真ン中ころに正門らしきものがありました。門には、門番もなく、監視の人も居りません。出入りは、来る人のこころに任せてあるらしい感じです。
 教祖は門内の麗しさに思わず心をひかれて、奥へ進んでゆかれますと、一人の神様が坐って居られました。
 白髪を長く垂れ、童顔のなんとも譬えようのない神々しさに、こころを失われて、佇っておられますと、その神はしずかに座を立たれ、教祖の手をとって、さらに奥深く神殿の方へ導かれました。
 奥殿と思われる所まで案内されると、何事か奏上されているようでありました。
 それから艮の方角に廻られると、こんどは初めのご殿より幾層倍もある大きな神殿があって、黄金、瑠璃、真珠をちりばめた楼閣がならんでいました。
 ここには、前よりずっと気高い神さまが居られて、身は金銀、宝石をもって飾られ、衣冠束帯、剱をつけた悠揚として得も言われぬお姿でありました。
 その神は、教祖の眼の前近く歩みを移され、じっと教祖を見つめられ、にっこりとお微笑になりました。
 教祖のご肉体には電流の注がれるように何ものかが伝わって来て、それが満ちみちて、聴こえるものも、視えるものも別のものが開けてきました。崇厳な感情に肉体がはちきれるようにしまってくると思うと、開祖さまの腹に、なにか大きな力が入っていることが、ご自分でもお判りになるようになりました。その力が腹の底から、玉が上がるように昇ってきて、おごそかな調子の声となって現われてきました。声を出すまいと歯を固く食いしばっておられても、それを押しあけて、突然大きな声が突発しました。これが明治二十五年旧正月の十日で、ご帰神の初まりであります。
 しかし一方、教祖さまは内心ご心配でありました。自分の子が二人までも、世にいう狂人になり、いま又、自分がこのような夢ともつかぬ気持ちに犯されては、この先どうなるであろうか、と悩まれ──これはこうして居れぬ──と、ご自分の身構えを正して、体にかかってくるものを振り払おうとし、更に思わず、自分の言葉をもって、神様の正体を問い正そうとされました。
「おん身は何者でありますよな、事細やかに名告って下されよ」
 その時すでに、なんとも言えぬ薫しい霊気が、下腹の底から昇ってきました。
 胸の辺りがふるえ、呼吸が止まるかと思われるほど強い衝動がおこり、唇の辺りが自然に動きだしたと思うておられると、どこからともなく、非常に美妙しい音声で教祖の耳に響いてきました。
「われは艮の金神であるぞよ、元の国常立之命、今より汝の身体を守るぞよ」
 これは思わず、教祖の口から洩れた言葉でありますが、これをご自分で聞かれて、なお不安に耐えかね、さらに畳みかけるように──艮の金神──と申される神さまに、ご自分の肉体からお退きとり願いたいと申されました。
 ここで説明しておきますが、神様のお声も教祖の肉体のお口からでるのでありますが、教祖のお声ではありません。教祖の思ってもおられないことが、圧えても圧えても出てくるのであります。そのお声に対して、開祖さまが平生のお声で質問されますと、また神さまのお声で答えられるのであります。ちょっとそばでみていますと、自問自答のようでありますが、開祖さまの一つの咽喉から、神様と開祖との二つの思いを使われる不思議なことであります。
「そんなことを言って、私をだますのではありませんか」
「わしは神である。神はうそをつかぬ」
 そのように初めは絶えず、神さまとたたこうて来られたようであります。それは、あまり突然なできごとに驚かれたのと、神さまの叫ばれますことが、三千世界の立替え立直しという、とてつもない大きなことがらであったからです。もしこの神の言うことが間違いであったならば、世間に対して相すまぬと、つつしみ深いご性格だけに、こころを痛められましたが、夜となく昼となく、神さまと問答されていますうちに、教祖さまご自身のおこころに、ケンゴとした世の中を救わなければならないカクゴが、だんだんと形づくられたのであります。
 自分がこれまで、人の知らない苦労をしてきたのも、すべて神代からの奇しき因縁であったこと、世界を立直す神柱となるためのお計らいであったことに気づかれて、かたいご決心をされたのであります。
 三千世界一度にひらく梅の花、艮の金神の世になりたぞよ。須弥仙山に腰を掛け、鬼門の金神が守るぞよ。
 昔からこの世の来るのは知れている。絶対絶命の世になりたぞよ。
 この雄大、華麗、崇厳な産ぶ声が大本の経糸を産んだのでありますが、この産ぶ声がでるまでには、教祖がながいご苦労をとおして──世の中のさまざまの悪、人間の不幸──を深く感じられ、この世を改めて、万人の楽しめる世の中にしたい──という願いを強く抱かれていたことが、更に向上して、国祖大神のご理想と合一せらるることになったのであります。
 教祖さまが、神がかりになられますと、たちまち私の家の生活環境も変わってきました。おりょうさんは四方源之助さんところに守りに雇われてゆきました。残った私には神様のご用がありました。夜の夜中に起こされて、お使いをさせられました。
「末子のおすみどの、起きて下され、××の屋敷へ行って塩まいて下され」と言うふうに、夜半に起こされては、どこそこへ行って水撒いて来い、土撒いて来い、と言われ、私は理は分からず、ただ母のいげんのある言葉のままに素直に、お使いをつとめていました。しかし時おりは、私もどうしてこういうことを、と不安な淋しさにおそわれましたが、お使いがすめば優しい母の言葉がきけるという、一条のたのみがあって、また、私の生まれながらの、ものごとをいつまでも悔んでおれない楽天的な性分で、母の言うままにつとめてきました。
 そのうち私の日々のしゅうかんになり、夜はさみしい夜風の町に使いにゆきましたが、昼は梅の蕾のふくらんでゆくのを楽しんだり、榎木の角芽となり若葉へと季のうつってゆくのを楽しみました。
 教祖は私を呼ばれる時、決って「末子のおすみどの、ちょっと来て下され」という言葉で呼ばれました。私が教祖のそばへ参りますと、私の額を揉んでもんでもみおわると親ゆびでグット押されてフウフウと息をかけられました。
 私の額から霊を入れてくれちゃったと思うのです。それが、艮の金神、国祖国常立尊の神がかりになりましての鎮魂ですから、それはエライ勢いでありました。そういうことがあってから、夜半に幾度も起こされて、私は神さまの鎮魂をうけました。
 そのころ、私の不思議に思いましたことは、私が眠っている間も、教祖は起きて居られ、教祖さまのヤスまれたのを見うけたことがなかったことです。
 教祖さまはそのころのことを、
「神さまが七十五日、一日も寝さしてくれず、十三日も食事を摂らして下さらなんだ」と言われています。
 私が夜半にフッと眼をさますといつも教祖さまは神様と話をしておられました。子供の私には難しいことばかりで、聞こうとも思いませんでした。
 日々そういう日が続いているうちに、私は時々、これまでに、どこかで誰かに聞いた神様の名を耳にすると子供ながらにも聞き耳をたてたものです。
 ある時、行者さんがきました。
教祖「役の行者か」
声「はい、暫くだけ話すことをお許し頂きとうございます」
教祖「ならん」
「しばらくだけで結構ですから、お許し頂きとうございます」
教祖「しばらくだけやな」
「はい」
教祖「それならば‥…」といわれ、役の行者の話が初まりました。
「いままでは、もっぱら高山に居て守護の用をつとめさして頂きましたが、時が来ましたので、これからは山を下り、世に出て守護さして頂こうと思いますので……」ということを話されていたのを憶えております。
 それから、その時分、マタタビマサゾウという神さまが来られたことがあります。
マサゾウ「あまりの落ちぶれようでござります」
教祖「マタタビのマサゾウどのか」
 そこでマタタビのマサゾウどのと、もう一人の神さまのワカヒメギミノミコトさまは涙を流されます。
 ワカヒメギミノミコト「天より高く咲く花も、地獄の釜の焦げおこし、これも神ゆえ」と言われると、マサゾウという神さまは泣かれました。このマタタビのマサゾウという、変わった名前の神さまは教祖の筆先にも出てきます。稚姫君の尊とマタタビマサゾウの二人の神さまの話し声を聞いた感じでは、マタタビマサゾウという方は、神代において稚姫君の尊さまのお側のご用をしていた神様であるようです。なお、いろいろ話を聞いたところでは稚姫君の尊はある神によって世に落とされ、それについては大変な秘密があります。落とした神の名は言えませんが、もしその名を言えば血で血を洗うようなことになるから、どうしても言うことはならんと神さまから言われているからであります。
 世を持ちなされて居た神さまが世に落とされ、落とした神が世を持たれたのですが、その当時のことを神さまが泣きながら話しあっておられました。
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